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1097 つくってみた『リモコン』

 皆、どうにか落ち着いてくれた。

 女性陣が呆気にとられたようになった時にはどうしようかと思ったけどな。


 どうしてこうなったレベルまで行かなかったのは幸いである。


「では、説明を始めるぞ」


「「「「「はーい」」」」」


 リラックスした雰囲気を感じ取れる返事に内心で安堵する。


「まずは中身の確認だ」


 部品をひとつずつ確認していく。


 すべての部品があるか。

 部品が壊れていないか。

 同時に各部品にどういう役割があるのかも説明した。


 この時点でドワーフ組がソワソワし始める。

 大方、今の説明を受けて解説書があれば1人で作れると思っているのだろう。


「説明を聞かずに先に進めたいと思うのであれば授業に出る必要はないんじゃないか?」


「「「「「っ!?」」」」」


 釘を刺すとビクッと反応してソワソワがピタッと止まる。


『分かりやすいなぁ』


 くつろいだ感じで胡座をかいて座っていたドワーフ組の何人かが正座した。

 そこまでしなくてもいいんだけど、何を言っても簡単には元に戻らないだろう。


 面倒だし授業に支障を来すわけでもないので放置する。


「じゃあ、術式の記述からな」


 リモコンの心臓部をまず仕上げる。

 てれらじの時と同じだ。


 だが、違うこともあるので注意が必要だった。


「今回は解説書に記載の術式をそのまま転写することはできない」


 てれらじの時は複雑で大量にあったので、やむを得ない部分があった。

 複数のモードがあるし、動作は複雑だからね。


 リモコンは操作に対応した信号を送信する部分が大半を占めるので割と楽なのだ。

 無操作の時間が一定以上続くと、てれらじの待機モードのようになったりはするけど。


 増幅系の術式は割と複雑だ。

 少なくとも今日の面子には手に負えない。

 そのためブラックボックス化して接続するだけで使えるようにしてある。


『こういうのがキットの良い所だよな』


 あと、仕様に基づいたものなので管理がしやすい。

 バラバラに一から作らせていたらリモコンだって今日中には仕上がらなかっただろう。


『てれらじだったら何日かかっていたことか』


 間違いなく最初の放送日に間に合わなかったはず。


 術式の基礎から教えなきゃならないし。

 それを理解し自分で考えて記述できるようになるまでが大変だ。


 リモコンレベルなら操作信号を送信するだけの簡易品をどうにか仕上げられるかどうか。

 そんなところだと思う。


 そういう難解な部分を回避できるようにしたのがキットである。


「操作の術式と送信の術式をあえて切り離してある」


 大半の面子がキョトンとしていた。

 ベルなどは苦笑していたが。


『今の言葉だけで気付くか』


 人生経験が豊富だと違うね。

 ベルの様子を見たナタリーやシャーリーも神妙な表情になっていた。


 神官ちゃんは、ボーッとしている。

 平常運転ということだろう。


 似たような反応をしているのが風と踊るのウィスである。

 ボーッとした感じは薄めだが、あれはどういうことか察している顔だ。


 後はトモさんやフェルトが内緒話をしている。


「リモコンを作るだけなら簡単かと思ったけど」


「そうでもなかったですね」


「ハルさんも、皆の成長を考えているってことだよ」


「さすがは陛下です。

 過保護なだけじゃないですね」


 褒められたかと思ったらディスられた。


『聞こえているんですがね、フェルトさん』


 余程そう言ってやろうかと思ったが、どうにか言葉は飲み込んだ。

 聞いていたのがバレると気まずいしな。


 別に【遠聴】を使っていた訳じゃないんだがね。

 ヒューマンなら無理でもエルダーヒューマンなら、聞こえてしまう距離だったのだ。


 こういう話が広まって皆に畏縮されてしまうのも怖い。

 スキルを使わなくても聞こえてしまう地獄耳なんてシャレにならんぞ。


 故にスルーだ。


「切り離すと何がどう違うんですか?」


 比較的、俺の近くにいた人魚組の1人が聞いてきた。


「記述の際に合成する必要があるのは分かるな?」


「はい」


 返事をしたドルフィーネは小首を傾げていた。

 そんな当たり前のことを聞くのは何故だろうと言いたげだ。


 が、すぐにその表情を驚きのそれへと変えた。


「合成の位置がズレると動作が……」


 質問をしたドルフィーネが呟いた。


「その通りだ」


 俺の肯定に呆然とした面持ちとなる。


 その周囲からざわつきが拡がっていった。

 彼女の呟きが聞こえなかった面々も何かあったことだけは察したようだ。


「間違った合成をすると動作しない」


「「「「「あー……」」」」」


 皆も俺の説明に納得がいったようだ。


「わずかでもズレがあると動作しないから慎重に見極める必要がある」


「「「「「おおーっ」」」」」


 説明するまで気付いていなかった面々が、しきりに頷いていた。


「あるいは異常動作することもあるかもな」


「「「「「っ!?」」」」」


 ほとんどの者たちがビクッと反応して俺を見た。

 何気なく言ったつもりだったのだが……


「どうした?」


「異常動作とは穏やかではないじゃろう」


 元王の爺さんが言ってきた。


「おいおい、異常って言葉に踊らされすぎだ」


 苦笑と同時に溜め息が漏れた。


「別にリモコンが殺傷兵器になる訳じゃないんだぞ」


「そこまでは言っておらんわ」


「じゃあ、爆発するとかか?」


「それも想定外じゃ」


「だったら何も恐れることはないと思うが?」


「うっ、そうかもしれんの」


 爺さんは引き下がったが他の面子は不安そうにしている者も少なくない。


「心配はいらない。

 正常でないから異常と表現しただけだ」


 そう言うと、少しだがホッとした空気に変わった。

 とはいえ完全に不安が払拭されたわけではないようだ。


「考えられるのは操作とは別の動作をする程度のことだぞ」


「それは動画を再生しようとしたら早送りになるとかでしょうか?」


 その質問はドワーフ組の中から出てきたものだった。


「そういうことも考えられるな。

 だが、全然関係ない動作もするかもしれない。

 モードセレクトしようとしたら音量操作だったとか」


「うっ」


 質問してきたドワーフが頬を引きつらせた。

 想定した以上だったようだ。


「最悪の場合、動画の記録情報を消去してしまうなんてこともあるかもしれん」


「「「「「─────っ!」」」」」


 ちょっと脅しすぎてしまったようだ。

 皆、血相を変えている。

 それまで余裕の表情だったトモさんまで慌てていたもんな。


「やだぁ、消さないでぇ。

 ちゃぁんとぉ合成ぃすぅるからぁ」


 渋い低音で独特の巻き舌キャラのネタを入れてきたけどね。

 綿本盛男さんの音読丸だろう。


 もしかするとキャラは違うかもだが、綿本さんの物真似なのは間違いない。


『かなり動揺してるな』


 物真似で精神を安定させようとしているのがトモさんらしいと思う。

 まあ、それだけじゃないんだけどね。


「「「「「ぶほぉっ」」」」」


 何人かが吹き出したのだ。

 元ネタを知っている訳ではないはずなんだが。

 何故かワールドに引きずり込まれてしまうのが綿本さんのキャラなのだ。


 トモさんはそれを計算に入れてチョイスしたのだと思う。

 皆の動揺を静めるために。


 気を遣ってくれたってことだ。

 それを言っても自分が落ち着くためだからと認めないと思うけどね。


『動揺しながらも気を遣うとか、なかなかできるもんじゃないって』


 元はといえば俺が皆を動揺させてしまったのが原因だ。

 ありがたさだけではなく申し訳なさまで積み上げられてしまった。


 とはいえ俺まで動揺するわけにはいかない。

 故にトモさんが空気を変えてくれたことを利用させてもらって先に進める。


「丁寧にやれば大丈夫だから、ちゃんと説明を聞くように」


 皆の目の色が変わった。

 とにかく必死である。


『そんなにビビらなくても』


 とは思ったが、ビビらせてしまった俺が何か言うとややこしくなりかねない。

 そのまま授業を進めることにした。


「じゃあ、まず操作系の術式からな」


 説明を進めて切りのいいところで区切りながら皆に作業させる。


 ここは皆には内緒で全員分のもう1人の俺に【天眼・遠見】を使ってもらった。

 大事な部分なので過保護と言われても徹底する。


 とはいえ合成前の術式の転写なので特に問題なく終わった。


 操作系の術式が終われば送信系との合成だ。

 問題があるとすれば、ここからである。


「大事なのは操作系から送信系への信号の流れを把握できているかどうかだ」


 ここでミスると、さっき言ったことも起こり得る。

 伝達される信号が別物になってしまうからな。


 そこで記述済みの操作系術式へ部分的に魔力を流しながら説明していく。

 部分的とはいえ、術式を把握すれば合成をしくじることはないと分からせる。


 分からせただけではなく皆にも実践させた。

 合成はまだしないということで、変に緊張する者はいない。


 ただ、これには相応の魔力制御が要求される。

 細かな作業になるからな。


 それでも、ミスした者はいなかった。

 もう1人の俺たちが全員をカバーして見守っているので、間違いない。


『魔法だと緻密な作業でも平気なんだな』


 内心で思わず苦笑した。

 工作で細かな作業をするのと何ら違いはないのだが。


 集中して見極めるのは同じ。

 魔法を使うか手先を使うかの差でしかない。


『魔力制御も指を使うのも大きく違うようで思ったほどの差はないんだよな』


 だからこそ苦笑を禁じ得ないのだ。


 いや、今日の授業で伸びたのかもしれない。

 だとしたら嬉しい誤算ってことになるだろう。


『ならば、あとは皆を更に伸ばすことに集中するとしよう』


 合成のポイントを丁寧に説明しながら作業を進めていく。

 慣れた者なら1分とかからず終わらせる合成に1時間以上かけた。


 ひとつずつ説明し実践するのを繰り返した結果だ。


「「「「「できたーっ!」」」」」


 合成が完了しただけで、すべてを仕上げたような喜びようである。

 少し休憩を挟んでから授業を再開したが、後はすぐに終わった。


 チェックも含めて1時間とかかっていない。

 あまりの呆気なさに皆が目を丸くしていたけどな。


読んでくれてありがとう。

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