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1096 吸って吐いて何をしているのか

「リモコンはてれらじのチェックが終わった後で作るからな」


「「「「「はいっ」」」」」


 しっかりした返事だった。

 午前中で実習の雰囲気を掴んだからだろう。

 そうそう難しいことはないと踏んだようである。


「他に気になるところはあるか?」


 ベルに問うが──


「いいえ、ありません」


 と頭を振りながら返事をされた。

 周囲を見渡してみる。


「……………」


 他の面々からも特に疑問や意見は出てこない。


「では、動画再生モードのチェックは終了だ」


 いよいよ最後のチェック項目である。


「それでは待機モードに切り替えてくれ」


 ほぼ同時のタイミングでカチッという切り替えの音が聞こえてきた。

 そこからは無音が続く。

 待機モードだから明確な動作はしないので当然だと言えるのだが。


 しかし、目に見える動作をしていないというだけで実際には仕事をしている。

 トモさんやフェルトはそれに気付いたようで互いに頷き合っていた。


 声に出して言わないのは授業の進行を邪魔すると考えたからだと思われる。

 目礼で感謝の意を伝えた。


[サンキュー]


 向こうもアイコンタクトで返してくる。


[いいって]


[お気遣いなく]


 言葉でも念話でもないから、トモさん夫婦が本当にそう言っているかは不明だ。

 顔にそう書かれている気がしたとしか言い様がない。

 俺の方は確かに[サンキュー]だったけどね。


「てれらじ周辺の魔力の流れを感じ取ってみてくれ」


 気付いていない皆に指示を出す。


「……………」


 しばし待つと、あちこちから「あっ」とか「おおっ」みたいな声が聞こえてきた。


「これはどういうことなのでしょう?」


 そんな声が聞こえてきた。

 ただし、かなり声を潜ませた感じだ。

 声のした方を見ると、ナタリーが内緒話をするような格好でベルに話し掛けていた。


「どうもこうも感じた通りだと思うわよ」


「そんなことがあり得るのでしょうか?」


「あるのでしょうね。

 試しに他のモードに切り替えて観察してみれば?」


「あっ」


 ベルに促されてナタリーが動く。

 ただし、コソコソした感じで。


 ゆっくりゆっくりモードセレクターを動かす。

 どうやらカチッという音をなるたけ小さくしようとしているようだ。


『そんなことをしても音の大きさは同じだぞ』


 苦笑が漏れそうになったさ。

 別に悪いことをしている訳じゃないのに振る舞いがそれっぽいもんな。


『他の面々と違うことをしようとしているのが不安なのかも?』


 見ていて面白そうなので【多重思考】と【天眼・遠見】の組み合わせで観察を続ける。


 その間に他の面子の様子も見ていった。

 しきりに首を捻る者が多い。


「なあ、これどういうことだ?」


 ドワーフ組の1人が同じ班の仲間に話し掛けていた。


「俺に聞くなよ。

 分かれば苦労はしないって」


「これ、意味があるのか?

 俺にはとてもそうは思えないんだが」


「でも、陛下は魔力の流れを感じ取れと仰ってたぞ」


「てれらじに流れ込んでるよな」


「「「「「ああ」」」」」


 同じ班の一同が返事をした。


「でも、排出もしてるよな」


「「「「「ああ」」」」」


「量的には同じくらいに感じるんだが……」


 訳が分からないとばかりに首を傾げている。


「いや、外に出る方が多めだと思う」


「だったら尚更のこと訳が分からんぞ」


「中の魔力の流れは分からんが、まるで呼吸しているみたいだ」


「だから、それに何の意味があるんだ?」


「そこまでは分からんよ」


「きっと、それが答えなんだろうな」


「おそらくな」


「だが、それが分からん」


「「「「「うーん……」」」」」


 困惑しながら考え込んでしまった。

 他の班の面々も似たようなものだ。


 が、ウィスは違った様子を見せていた。

 風と踊るの面々が首を捻る中で何も言わずにボーッとしている。


『もしかすると自分なりの答えを見つけたのかもな』


 自分から意見を言わないのは、奥まった部分の術式を解読できないからだろう。

 そのため、どうしても推測の域を出ない訳だ。

 確信を持てないからパーティメンバーの意見を聞くだけに留めているものと思われる。


 そして神官ちゃんもボーッとしているように見えた。

 同じ班のナタリーの方を見ながらなので、観察くらいはしているのかもしれないけど。


 シャーリーなどは、てれらじと睨めっこでウンウン唸っている。


『お?』


 ナタリーがてれらじのセレクターを待機モードに戻した。

 戻す時はコソコソしてないのが、また可笑しい。


 笑いは何とか堪えたけどさ。

 本人は大真面目だし。


「何か発見があったようだな」


 俺の方から声を掛けてみた。


「ふぁっ!?」


 素っ頓狂な声を出してナタリーがビクッと痙攣した。


「ああ、すまん。

 驚かせたようだな」


 謝るとブルブルと勢いよく頭を振った。


「大丈夫ふぇす」


『噛んでる、噛んでる』


 とても大丈夫には見えない。

 その慌てぶりを見たベルにはクスクスと笑われている始末。


「で、何か分かったか?」


 俺が問うと、周囲の視線がナタリーに集まった。

 ますますテンパるかと思ったが──


「確定的なことは言えませんが、待機モードは何をしているのかの想像はつきました」


 しっかりと噛むことなく答えた。


「で、何をしているんだ?」


「環境魔力を吸入して増幅し、蓄積と吸入分の排出を行っているのではないでしょうか?」


 疑問形で答えたのは推理したからだろう。

 明確に証明する手段はないってことだな。


「ほぼ正解だ。

 95点ってとこかな」


「「「「「─────っ!?」」」」」


 ドワーフ組が驚愕に顔を引きつらせていた。


「それは考えなかったぞ!」


「増幅とはな!」


「だが、合理的な発想だ!」


「使わない時は待機モードにしておけば動作用の魔力をチャージしてくれるからな」


「使用者の負担を確実に減らしてくれるぞ」


「それだけじゃない。

 環境魔力にまで配慮している」


 興奮気味に話し合っていた。

 そして元王たちに拳骨を落とされる。


「「「「「ぎゃっ!」」」」」


 悲鳴を上げて、ようやく静かになった。


「あの、何処が間違っていたのでしょうか?」


 ナタリーは5点の減点が気になるようだ。


「魔力の吸入と排出では、排出の方が1割ほど多いのに気付かなかったか?」


「あっ」


 驚きの声を上げ目を見開いたかと思うとナタリーはショボーンと落ち込んだ。


「そう落ち込むな。

 見事な推理だったぞ」


「ありがとうございます……」


 フォローしたつもりだが、あまり効果はなかったようだ。

 ナタリーにかまけてられないので授業を進める。


「魔力の感知は、全員できたな。

 待機モードなのに吸入や排出ができていないという者はいるか?」


「……………」


 不具合を訴える者はいないようだ。

 てれらじのチェックはこれで終了。


 だが、ここからが午後の授業の本番だ。


「それじゃあ、リモコンを作っていくぞ」


 転送魔法でリモコンのキットを全員に配布した。


 各班にひとつではないことに戸惑いを見せる者たちが何人も出てくる。

 午前中と同じ方法で実習を進めると思い込んでいたようだ。


「手本は見せるさ」


 思わず苦笑が漏れた。

 まだまだ不安な者が多いようだ。


「工程ごとに区切って説明するから安心しろ」


 そう言うと、落ち着いてくれたけどね。


「形は違うがリモコンも基本は同じだ」


 反応はまちまちだった。


 女性陣は「同じとは思えないんですけど」的な空気を発している者たちが多い。

 工作に対して苦手意識を持っている証拠だ。

 そう簡単に、払拭できるものでもないだろう。


 深く考えずに頷いている者は若いドワーフに多い。

 元王の爺さんたちは少し考え込んでから頷いていた。


 後はとりあえず無反応っぽい面々とか。

 ウィスや神官ちゃんはこのパターンである。


「もちろん、組み方は違う。

 部品の形状もサイズも違う。

 それでも基本は同じなんだ」


 苦手意識から緊張している女性陣に向けて語り掛ける。


「魔道具で大事なのは術式を記述すること。

 これさえ確実にできれば、後はどうとでもなる」


 元王の爺さんたちがウムウムと頷いていた。

 残りのドワーフ組はちょっと驚いている。

 目から鱗が落ちたといったところだろうか。


 女子組の反応はあまり芳しくない。

 工作の得手不得手の差が出てしまっているようだ。


「極端なことを言えば」


 ここであえて言葉を句切った。


 皆を見回してみる。

 ちゃんと興味が引けているようだ。


「部品などいくら壊しても構わない」


 ほとんどの者がギョッとした目を向けてきた。


「壊したことが分かっているんだ。

 ならば錬成魔法で直せばいいだけだろう?」


 俺はニヤリと笑って、そう問いかける。

 皆はポカーンとした表情に変わってしまった。

 百面相のようにクルクル表情が変わって面白い。


「術式のミスよりは楽だと思うぞ。

 気付きにくいし、間違えても動作させるまで分からんからな」


読んでくれてありがとう。

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