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1085 教室を替えることになりました

 当初の予定としては大きな教室で実習を行うつもりだった。


「これだけいると教室がパンクするな」


「だろうね」


 トモさんが苦笑した。


「主よ、どうするのじゃ」


 シヅカが聞いてきた。


「体育館を使うしかないだろう」


 スマホで利用状況を確認していく。

 体育館は複数ある上に、常にひとつは空きができるようにさせている。


 今回のような事態に対応するためだ。

 そんなことをしなくても、ギリギリまで埋まることはまず考えられないけどな。


「この時間帯だと──」


 思った通り複数の空きがあるようだ。

 そんな訳で全員で実習ができるスペースが確保できる体育館に使用申請を出す。

 即座に──


[使用を許可します]


 とのレスが返ってきた。


「これで、良しっと」


 空いている体育館を確保できて一安心だ。


 教室の変更はスマホを使って全員に一括でメッセージを送った。

 口頭だと聞き漏らすこともあるが文書にしておけば間違いはない。


 授業を始める前から、はぐれた生徒を探す羽目になるのは嫌すぎるもんな。

 初っ端から時間を無駄にするとか脱力ものである。


「それじゃあ、移動するぞー!」


 集合した皆に聞こえるように声を張って告げた。

 あちこちから、まちまちに了承の返事が聞こえてくる。


 全員分の返事だったかどうかまでは確認しない。

 移動時にはぐれたり遅れたりしないように斥候型自動人形でチェックするからだ。


 歩き始めると、今日の生徒たちがざわつき始めた。

 今から楽しみだ的な会話が多い。


「楽しみだね」


「ワクワクしてなかなか眠れなかったよ」


「あ、私もよ」


「眠れないは大袈裟だけど、楽しみなのは確かね」


「えー、大袈裟なことないよー。

 それじゃあ、私が子供みたいじゃない」


「誰もそこまでは言ってないわよ。

 こんなに集まるんだから程度の差はあるけど、皆も同じ気持ちでしょう」


「ぶー」


 とか何とか。


 和気藹々とした雰囲気で話しているのは女子が多い。

 ものづくりに対する興味が薄そうな面子である。


 けれども彼女らの話題は、今日の授業のことで持ちきりだ。

 どのくらいで仕上げられるかとか。

 出来上がったら放送の予定日まで待ち切れそうにないとか。


 技術的な話は聞こえてこないのはしょうがない。

 それでも作るという意志を持っていると感じさせてくれたのは嬉しい。


 笑いながら話しているのが大きいね。

 俺が抱いた印象は──


『レジャー感覚なんだろうか?』


 ということだった。


 ふと、思い出したのは戌亥市の公民館が主催していた夏休みの工作教室だ。

 小学生を対象にしたものだったから今日の面子とは共通点が少なそうだけど。


 それでも雰囲気が似てる気がしたんだよね。


 え? 日本人だった頃は未婚で子供もいなかっただろって?

 そうだけど、保護者として参加した訳じゃなくて主催側だったからね。

 ボランティアで手伝っただけだ。


 とにかく、あの時は賑やかで楽しそうだった。

 こんな風に楽しんで授業を受けられるってことは良いことだと思う。


 問題があるとするなら脱線してしまう恐れがあることか。

 羽目を外してしまって本来の目的を忘れてしまうのはダメだよな。


 だからといって締め付けた感じの授業をするつもりはない。

 そんなことをしても、生徒のやる気は引き出せないからね。


 今日の授業なんて技術的な話ばかりになるし。

 興味が薄い相手には楽しい雰囲気づくりも重要である。

 スパルタな感じで授業をしようものなら、そっぽを向かれてしまいそうだ。


 ビシビシと厳しくしても大丈夫そうなのはドワーフくらいじゃないかな。

 現に彼らは授業に関連することを話題にしている。


「これだけ人数が多いと師匠に教わる時とは違うんだろうな」


「ああ、まったくだ。

 そこは凄く気になる」


「見て覚えろのやり方は無理だろうなぁ」


「それ以前に、その方法では今日中に終わらせられないだろう」


「言えてる」


「もっと少ない人数でも無理じゃないか?」


「だろうな。

 マンツーマンでも終わる気がしないって」


「でも、今日中に終わるんだろう」


「予定ではそうみたいだな」


「ますます授業内容が気になる」


「今後は陛下のやり方が主流になるのかね?」


「たぶんなー」


「爺様たちが本気で学びたがってたから間違いないだろ」


「ということは、今までのやり方が無くなるか?」


「どうだろう?」


「あれはあれで悪い訳じゃないんだが」


「そうそう。

 一度、身につくと忘れないもんな」


「その身につくまでが大変だろうが」


「違いない」


「それにしても、陛下の教え方は今までとはまるで違うんだろうな」


「想像もつかんよ」


「そもそも術式の記述なんて親方の仕事だっただろ」


「それな」


「初めて術式の講義を受けた時なんて、ぶっ飛んだよ」


「だよなー」


「基礎中の基礎だったとはいえ、あんなに簡単だとは夢にも思わなかったからな」


「俺なんて、講義を受けた日の晩は眠れなかったぞ」


 ここでも眠れないと語る者がいる。


『流行ってるのか?』


 そんな訳はない。


「気持ちは分かるぜ。

 俺らがそこに手を出していいのかって思ったもんな」


「それそれ!」


「俺もそう思った」


「あるよなー、そういうこと」


「やっぱり親方たちの仕事だって思い込んでたのが大きいんじゃないか?」


「それはあるかもしれん」


「絶対、そうだって」


「変に緊張するんだよな」


「特に今日のは複数の機能を持たせるんだろう?」


「恐れ多いっていうかさ」


「手を出すのに躊躇いはあったよ」


 うんうんと頷く会話に参加していた一同。


『そんなこと考えていたのか』


 単なるサボりより問題があるかもしれない。

 よくぞ今日の授業を受ける気になったものだと思う。

 興味がない訳じゃないのは分かるが、腰が引けているのも事実。


 こっちの方が興味の薄い面子より問題がありそうな気がする。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 体育館に到着して最初に行ったのは班分けだ。

 上限を8人として各自に任せたので、人数はまちまちである。


 俺はその間に大型スクリーンを用意した。

 それと風魔法で音声が全員に届くように調整。


「それじゃあ授業を始めるぞー」


 大型スクリーンに俺の姿が映し出された。

 これくらいでは誰も驚いたりはしない。

 秋祭りで新規国民組の面々も色々と見てきているからね。


『何が役立つか分からないものだ』


 それよりも授業である。

 毎度のようにオレ流なんだけどね。


「製作キットは各班にひとつだが、届いていない班はあるか?」


 すべての班を見渡すが、どこからも届いていないとの返事は来なかった。


「じゃあ、進めるぞー」


「「「「「はーい」」」」」


 元気な返事だが、それは主に女性陣からだった。


 例外は俺の近くで聞こえた低音のイケボだ。

 誰かは言うまでもないだろう。


 大半の野郎どもは何故か正座してガチガチに緊張している。

 その中で挙手する年若いドワーフがいた。


「どうした?」


「製作キットというのが班ごとにひとつなのは何故でしょうか?」


「皆で協力しながら作ってもらうためだ。

 実際に作業するのは1人になるが、それを皆で確認しながら進めてほしい。

 その上で分からない部分やあやふやな部分があったら、迷わず聞いてくれ」


 ドワーフたちから、どよめきが起こった。

 こんなやり方があるのかと妙に感心しているが、そんなに画期的な方法でもないだろう。


 日本人だった頃に義務教育で理科の実験をした時のことを参考にしているにすぎない。

 皆で教えあいながら実験を成功させるなんてのは、ありふれた手法だと思う。


 我々の場合はキットの完成を目指す訳だが。

 目的を達成するための手段として考えれば似たようなものだ。

 皆で協力するからこそ効率化したり細かなことに気付いたりする点は同じ。


 そういう発想がドワーフたちには目から鱗だったみたい。


「まずはキットをひとつ仕上げてもらう。

 魔道具の構造と作業手順を理解するためだと思ってくれればいい」


 特別なことを言った訳でもないのに、ドワーフたちがオロオロし始めた。


『ウソだろぉ─────っ!?』


 まったく馴染みのない手法に動揺しているらしい。


 こっちが動揺させられるっての。

 まあ、そんなことをぼやく訳にもいかない。


「今までとやり方が違って戸惑うかもしれないが、とりあえず試してみてほしい」


 そう言うと、どうにか納得してくれたけど。


「ひとつ目が仕上がったら各自にキットを配布する」


 この段階で全員が作ることになる訳だ。

 それを皆も察したのだろう。


「「「「「おお─────っ」」」」」


 ドワーフ以外の面々も含む一同が感嘆の声を漏らした。


「最初に作業した者は皆のフォローを頼む。

 そうすることで自分が作業した時の復習にもなるはずだ」


 ドワーフたちが、またしてもどよめいた。


「作業して、そこで終わりじゃないんだな」


「繰り返すなんて予想外もいいところだ」


「これは覚えやすいかもしれん」


「覚えやすいどころか嫌でも頭に焼き付いてしまうって」


「だな! 画期的すぎるだろう」


 言っていることが大袈裟だ。


 けど、モチベーションを高めてくれるのはありがたい。

 腰が引けていた面子も大丈夫かもしれんな。


読んでくれてありがとう。

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