1084 面子を確認するのも楽じゃない
作れなかったと作らなかったでは大きな差がある。
しかしながら結果は同じ。
どちらもラジオとテレビは用意できていないことに違いはない。
そして今日の特別授業の受講資格は昨日までにラジオとテレビが用意できなかった者。
俺としては救済策として今日の実習をセッティングしたつもりだったのだ。
『まさか、受講するために作るのをサボるとはなぁ』
確かに用意できていないから受講資格はあるのだが……
どうにも納得しがたい。
ルールの隙を突かれた格好だからな。
とはいえ、そういうことも考慮しておくべきだったのだろう。
今になって無効だと言っても向こうサイドの面子が納得すまい。
『向こうだけに無効とか』
……ギャグまで寒い。
一足先に極寒の冬に突入したかのようだ。
まあ、そんな下らないことを考えでもしないと、やってられない気分である。
察してくれとは言わないさ。
迂闊と言われても仕方のない致命的なミスなんだからな。
だが、それでも愚痴のひとつも叫んでみたいところだ。
皆を威嚇してはいけないので声に出したのは「ズルいぞ」の一言だけだったし。
怒鳴ってさえいなかったのでフラストレーションが溜まっている。
『普通はそこまでするって思わないだろお─────っ!』
故に心の中で吠えてみた。
「ズルいと言われてものう」
「ワシらはルール違反をした訳じゃないぞい」
「むしろルールに従っておる」
「そうじゃな」
「右に同じ」
「左も同じじゃ」
対して元小国群の王だった者たちは開き直ってしまっている。
言ってることは事実だ。
伊達に年は食ってないから抜け目のなさは一級品。
若造の俺では到底及ばぬところだろう。
それは認める。
認めるが、あの口振りはムカつく。
反撃せずにはいられない。
「あまり図々しいと受講資格を取り消すぞ」
「「「「「それは困る!」」」」」
一瞬で土下座モードに移行した。
「「「「「後生ですじゃ─────っ!!」」」」」
やたら必死で懇願してくる。
「……………」
変わり身の早さに唖然とするほかない。
『どんだけ受講したかったんだよ』
そして、この状況はよろしくない。
はた目には俺が無慈悲なことをしているようにしか見えないからだ。
『煮ても焼いても食えないとは、このことか』
厄介なジジイたちである。
この調子では受講させると、どうなることやら。
少し灸を据えておく必要があるだろう。
「腹黒いことを考えて、この状況を押し切ろうとしているならガンフォールを呼ぶが?」
そうそう向こうの掌の上で踊らされる訳にはいかない。
ジジイにはジジイで対抗するまでだ。
しかもガンフォールはこの爺さんたちから一目置かれている。
というより兄貴分的な存在として見ている節があるのだ。
つまり、この爺さんたちにも頭の上がらない相手はいるってことだな。
「「「「「………………………………………」」」」」
それを証明するように土下座状態のままで爺さんたちは何も言わなくなった。
周りの面子も固唾をのんで見守るような状況なのでシーンと静まりかえっている。
『やはり読み通りだったようだな』
ガンフォールに[サンキュー]とショートメッセージを送りたくなったさ。
いや、いきなり送信しても訳が分からんだろうから送ったりはしないけどな。
そんなことより沙汰を言い渡す必要がある。
静かになったとはいえ土下座状態のままだからね。
「次は一発退場だぞ」
とりあえず今回はイエローカードということにしておく。
この状態で切り捨てるのは、本当に無慈悲だろうしな。
「「「「「神様ーっ!」」」」」
平伏したままで、とんでもないことを言い出すものだ。
「誰が神様だ」
俺は歴とした人間だ。
『亜神ですらないっての』
普通ではないかもしれんが、そこをとやかく言うのは野暮ってものだ。
なんにせよ土下座はやめさせた。
「大変ですなぁ」
ようやく爺さんたちを静かにさせたと思ったらトモさんが声を掛けてきた。
「助けてくれても良かったと思うんだがね」
「そこは王様としてのハルさんの成長を願ってだね」
「ウソつけー」
「ハハハハハ」
笑って誤魔化されてしまった。
爺さんたちのように問題を起こす訳じゃないので俺も深くは追及しない。
「それで、トモさんたちも受講希望かい?」
「本格的に教わったことがないのでね。
この機会にハルさん直々に教えてもらうのもいいかなと思って」
「申し訳ありません」
フェルトが謝ってくる。
「別に謝る必要はないさ。
トモさんの言った目的も真面目なものじゃないか。
殊勝な心がけをしているなら目くじらを立てたりはしないぞ」
後ろで「ぐはっ」とか言って何故か悶絶している爺さんたちがいる。
『随分と殊勝になったものだな』
一時的なものだとは思うがね。
とにかくスルーだ。
他の面子も確認しないといけないし。
元小国群のドワーフが多いようだけど。
元王たちと違って俺が目を向けると申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。
彼らも土下座しそうな雰囲気だったが、爺さんたちを見て自重してくれたらしい。
「本当に、すまないね」
トモさんも謝ってくる。
「こんなに集まるとは思わなかったよ」
「それは俺もだよ」
「でも、集まってみれば納得だね」
「そうかな?」
「ハルさんの作る魔道具はどれも一級品じゃないか。
その技術を直に教わりたいと思うのは当然だろう?」
集まった面子の中でドワーフ勢が一様に頷いている。
「そう言ってくれるのは嬉しいがね。
そこまで言われるほどの腕前でもないよ」
「いやいやいやいやいや」
トモさんがしきりに頭を振る。
「そんなこと言い出したら職人が卒倒するよ」
「そうですよ。
陛下は何も分かっていません」
トモさんだけでなくフェルトまで参戦してくる始末だ。
「えー……」
どうにも納得しがたいが、押し問答はしたくない。
故に、とやかく言わないことにした。
名付けて犯人じゃないけど黙秘作戦。
それでもトモさんとフェルトの両名から延々と説教を受けることになってしまった。
ドワーフの職人を唸らせるんだから云々かんぬん。
「分かった、分かったから」
そう言って止めなければ、何時まで続いたことやら……
「とにかく授業を受けたいなら正直にそう言えばいいんだよ」
トモさんたちみたいにね。
「策を弄して相手の機嫌を損ねることになったら逆効果だろ?」
「確かに、そうだよね」
「そう思います」
トモさん夫婦が苦笑いしている。
ドワーフたちが俺の言葉で一気にショボーンと萎れてしまったからだろう。
『別に爺さんたち以外は余計なことを口走った訳でもないだろうに』
どうやら、発想が似たような感じで姑息だったと反省しているようだ。
それは爺さんたちも同じようで、先程までと違って借りてきた猫のように大人しい。
不思議と改心した悪ガキを連想してしまった。
随分と老けた悪ガキだけどな。
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引き続き、受講者の確認を行う。
ドワーフたち以外にも面子はまだまだいる。
「「陛下、おはようございます」」
ドワーフ勢から離れた直後に挨拶してきたのは、風と踊るのポニテコンビだ。
『相変わらずのヒョロッとさん1号2号ぶりだな』
身体的特徴なので相変わらずなのは当然なのだが。
「「「おはようございますっす」」」
3人娘も続く。
「ん」
思いっ切り省略して頷くだけのウィスには苦笑を禁じ得ない。
「おはよう」
そこから残りの面子による挨拶攻勢が始まった。
風と踊るの面々がいるということは、女子組も一緒だ。
まだまだ国民となって日が浅いからな。
レベル上げで戦闘面はそこそこ鍛えているけど、他はまだまだである。
ものづくりで苦戦しているからこそ今日の受講となった訳だし。
他にも苦手なものはあるようだ。
植生魔法による農業とかは、その典型例だと言えるだろう。
「おはようございます、陛下」
「今日は御世話になります」
そしてベルとナタリーの婆孫コンビ。
「ん」
そこに一緒にいた神官ちゃん。
ウィスにそっくりな挨拶の仕方だ。
ここまでなら旧ゲールウエザー王城勤め組といったところか。
ただ、シャーリーや食堂3姉妹も一緒である。
「「「「おはようございます」」」」
王城勤め組とひとくくりにするには無理がありそうだ。
「はいよ、おはよう」
挨拶を返すそばから、おはよう攻撃があちこちから飛んで来る。
人竜組の8人とか。
中でも目立つのはクレールだ。
朝っぱらから、ナマケモノの縫いぐるみを抱きしめて恍惚としているのはねぇ……
「あ、これは気にしないでください」
「低血圧で寝ぼけているだけですから」
ネージュやリュンヌが苦笑しながらフォローしていた。
他の面子も「困ったものだ」と言わんばかりの表情で頷いている。
まあ、そういうことなのだろう。
深く追求するとクレールが延々とナマケモノ愛を語りそうな気がするのでスルーだ。
「「「「おはようございます」」」」
次に挨拶してきたのは人魚組だった。
人魚組からも大勢参加している。
というか、ほぼ全員参加じゃなかろうか。
ヤエナミたちはいないようだけど。
半分くらいになるだろうという予想は完全に外れた格好となった。
『みんな、意外に工作系が苦手なんだな』
レベル上げを意識しすぎなのだろう。
学校の通常授業でもテコ入れする必要があるのかもしれない。
読んでくれてありがとう。




