1083 約束のテコ入れに集まったのは
接待パワーレベリングの翌日。
俺は学校に向かっていた。
テレビの工作期限は昨日までだったからな。
1週間で完成させられなければテコ入れすると予告した約束の日である。
集合場所である学校の正門前に向かってテクテク歩いていた。
面子は俺と守護者組。
この中で工作の授業を担当できるのは俺だけである。
シーザーのシーダは紅の獅子と言うべき姿だから工作そのものができない。
理力魔法を覚えれば不可能ではないとは思うけどね。
そこまでして工作したいと本人が思うかは知らないが。
ローズは元から、ものづくりに興味が薄いしな。
ものづくりを始めた頃は眺めたりくらいはしていたけど。
最近は見物するのも飽きてしまったようだ。
だから──
「くぅくーくっくうくぅ」
魔道具は門外漢なのに、とかローズがぼやくのも予想通りではあった。
シヅカやマリカも似たようなものだけど、お口はチャックしてくれている。
無遠慮にぼやいたりはしない。
「まあ、そう言うなよ。
見学でいいからさぁ」
「くーくくっくぅーくぅ?」
何を企んでいるのかな? とは、なかなか鋭いことを言ってくる。
「試したいことがあるんだよ」
正直に言っておく。
相手は夢属性の神霊獣様だ。
誤魔化せる訳は……
俺なら可能かもしれないが、面倒くさいからしない。
「くーくぅくう?」
試したいこと? と言いながら、コテンと首を傾げるローズ。
「ローズのそばにいるだけで【教導】スキルが効果を発揮するかだ」
「くぅー」
えーっ、などと言いつつ疑わしそうな目で見られてしまった。
「昨日までシャーリーやシーニュを指導していて気付いたんだけどな。
直接的に教えてない時もスキルが何割かは影響していそうな感じだったんだよ」
「くっくぅくー」
ホントかねーって言われてもね。
「そこを今日の特別授業で確かめるんじゃないか」
「くーくー」
なるほど、とローズがようやく納得した。
「では、妾はローズと比較するために呼ばれた訳じゃな」
今度はシヅカが面白くなさそうな顔でぼやく。
俺とは別グループになることが分かったからだろう。
一緒のグループにいると、ローズとの比較ができなくなるからな。
「すまんな」
ここは言い訳せずに謝っておく。
「仕方あるまい。
これも守護者としての務めじゃ」
「そこは妻としてと言っておこうぜ」
「言いよるわ」
フンと鼻を鳴らしつつも頬が緩んでいる。
目尻も下がりつつあるな。
ツンデレさんだ。
「終わったら一緒に御飯を食べに行こう」
ズザッと一瞬で正面に回り込まれた。
「絶対じゃぞ、絶対じゃからなっ!」
目が本気というかギラついている。
『殺気立ってもないのに怖いわ』
大事なことだから2回言いましたとか言って、からかうこともできそうにない。
「2人きりって訳でもないのに必死だな」
「こんな機会でもなければ主の隣の席はなかなか回って来ぬではないか」
まあ、確かに。
普段の夕食などはローテーションである。
何人か欠けた状態のイレギュラーな状況の時はクジ引きかジャンケンだし。
「分かった、分かった。
危ないから前を向いて歩け」
「うむ」
シヅカが上機嫌で正面から隣に戻る。
御飯時に隣の席を確約できたのが大きいのだろうな。
些細なこととは言うまい。
それだけ俺が好かれている証拠だからな。
「ねー、あるじー」
今度はマリカだ。
ただし、不服そうな様子は見られない。
「どうした?」
「マリカも今日の特別授業、受けていいー?」
「珍しいこともあるものだな」
軽くだが驚かされてしまった。
「待ってるの退屈そうー」
理由は暇つぶしみたいでガクッときた。
もちろん【千両役者】で落胆したところを見せないようにはしたけどさ。
実は興味を持ってくれたのかと期待したりしたのでショックは小さくない。
『これも取らぬ狸の皮算用か?』
早とちりして自爆しただけと言った方が正しいかもね。
ぬか喜びとは言わないさ。
たとえ暇つぶしでもマリカが作る気になったのは嬉しいからね。
そんなこんなで歩くことしばし。
学校の正門が見えてきた。
「ん?」
何かがおかしいと違和感を感じた。
ローズが手をかざして遠くを見る。
まあ、そういうポーズをしているだけだ。
特に眩しくもないし、逆光になっている訳でもない。
そんな真似をしなくても普通に見ることができる状況だ。
『おどけてるなぁ』
「くう、くくっ」
大漁、大漁~、とか大袈裟なジェスチャー付きで言ってるし。
「これは妙じゃな」
ローズのはしゃぎっぷりはスルーして真面目にコメントしてくるシヅカ。
「妙なのぉ?」
「ゴロゴロ?」
シヅカの発言に首を傾げるマリカとシーダ。
「お主らは特別授業の推定人数を確認しておらんからのう」
苦笑するシヅカも自分で調べた訳ではない。
俺に聞いたから知っているに過ぎない。
『まあ、ウソは言ってないけどさ』
人数を確認するために自分で調べたとは言ってないし。
「もしかして多いの?」
今度は俺に聞いてくるマリカ。
シーダも俺の方を見る。
「離れた場所から見ても分かるくらいにな」
「そうなんだー。
倍くらいかなぁ?」
「門の外にいる面子だけで、それくらいかな」
「やはり、門の内側にもおるかよ?」
呆れの色を少し見せながらシヅカが問うてきた。
それに答えたのは俺ではなく──
「一杯いるよー」
マリカであった。
「んん? お主は【遠見】スキルを持っておらぬであろう」
怪訝な表情をするシヅカ。
「匂いで分かるよー」
マリカは不思議そうにしながらも返事をした。
「ゴロゴロ」
それに同意するシーダ。
「そうじゃったな」
納得がいったシヅカが苦笑している。
「匂いでなくても分かるぞ。
もちろん【遠見】は使わない」
「なんじゃと?」
ギョッとした顔をしてシヅカが俺を見てくる。
「そんなに驚くことじゃないよ。
ここまで近くに来れば気配でも分かるだろう?」
俺がそう言うと、更に目を見開いて驚きを露わにするシヅカ。
そして一瞬で頬を真っ赤に染めた。
「ううっ、そんな簡単なことにも気付かぬとは恥ずかしいのじゃ」
普段なら気付くのだろうが、今日は仕方あるまい。
御飯時に俺の隣席を確保できて浮かれていたようだし。
恥ずかしがるシヅカもちょっとレアな感じがして可愛いものだ。
「それより問題は集まっている面子だろう」
近づくほど違和感が際立つ。
俺たちが正門に到着するなり周りを取り囲まれた。
「王よ、この日を待ちわびたぞ」
「ワシもじゃ」
「そうじゃ、そうじゃ」
「ワシなど昨晩は眠れなんだわ」
「今日という日が楽しみでのう」
「左様、こういうのを一日千秋と言うのであったか」
向こうは嬉しくてしょうがないみたいだけど。
俺は髭面のジジイたちに囲まれて喜ぶ趣味は持ち合わせちゃいないんですがね。
まあ、面子は元小国群の王だった者たちだ。
「アンタらものを作る専門家だろうが」
全員がそっぽを向いた。
「とにかく、アンタらは解散だ。
テレビとラジオが作れなかった者しか受講資格がないからな」
ジジイたちが俺に視線を戻して不敵に笑う。
「何だよ?」
「解散などせんよ。
ワシらには受講資格があるんじゃからな」
1人がそう言うと、残りのジジイたちがそろって頷いた。
「なにぃ!?」
そこへ──
「ぬわにぃ」
トモさんが言葉を割り込ませてきた。
隙あらば岩塚群青さんの物真似を入れてくるのは相変わらずだが。
『いつの間に?』
この場にいるとは思わなかった。
つまり、トモさんも受講希望なんだろう。
「受講資格があるってどういうことだよ」
まずはジジイたちに聞く。
「テレビもラジオも作っとらんもーん」
どこかの髭爺を彷彿とさせる口振りにイラッとさせられた。
他の面子も見るが、みんな宣言通りの状態らしい。
「俺もだ」
「すみません、私もです」
トモさんだけでなくフェルトも言ってきた。
『ワザとかっ!?』
開いた口がふさがらないとは、このこと。
まさかという思いで一杯だ。
受講資格を得るためにルールを逆手に取るような真似をされるとは思わなかったさ。
今更、帰れとは言えないだろう。
それを言っててしまえば俺の方がルール違反になってしまう。
ぐぬぬ、の心境だ。
「ズルいぞ」
俺は、そう言うので精一杯だった。
読んでくれてありがとう。




