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1082 説得する方が大変である

「とにかく無理だっ」


 これ以上ないというほどに接待パワーレベリングを拒否するビル。

 実に頑固である。


「無理なものかよ。

 為せば成る、なさねばならぬ何事もと言うだろう」


 言ってからミズホ国でしか通用しない言葉だと気が付いた。

 我ながら間抜けである。


「難しいことを言われても分からんぞ」


 ブスッとした表情で答えるビル。

 知らなくて当然なんだが、こういう答え方をしてくれるなら助かる。

 下手に興味を持たれると根掘り葉掘り聞かれかねないからな。


 急に切り上げると変なので簡単に意味だけ告げておくことにした。


「やればできるって意味だ」


「やれば死んじまうだろうがっ」


 ビルが吠える。


『なんで嫌がるかねぇ』


 いや、理由は想像がつくんだけどさ。

 自分の命が掛かっていると思い込んでいるからだろう。


 堀の中にいる魔物は今のビルがタイマン勝負でも負けそうなのばかりだからな。

 必死になるのも頷ける。

 ここ一番でギャンブルはしないタイプのようだ。


『堅実なのは好ましいがね』


 だからこそソロでもやっていけるのだろう。

 誰であれ臆病なくらいが長生きできるものだ。


 今日のビルは、そういう意味において既に寿命を縮める行動を取っているがね。

 世話焼きな性格が災いして俺たちに同行したからな。

 メンタル的に考えても寿命は充分に縮まっているだろう。


 その上、得体の知れない真似をさせられそうになっている訳で。


『何か保証があれば少しは違うか?』


「心配しなくても危険なことは何もないぞ」


「……………」


 返事はない。

 恨みがましい目で見られるばかりだ。

 何故そこまでするのかと言いたげである。


「今日は無理して付き合ってくれたじゃないか」


「それは俺が言い出したことだからな」


 仏頂面で返事をしてそっぽを向くビル。


『照れ隠しかよ』


 世話焼きの上にツンデレ属性まで持っているようだ。

 ただしビルは男である。


『誰得だっての』


 腐女子なんかは喜びそうだけどな。


 まあ、こういうタイプは男女を問わず評価されて然るべきだとは思う。

 それなりに損もしてきているはずなのに世話焼きはやめようとしないし。


 ならば不器用な生き方をする者が馬鹿を見ないようにしたいところだ。

 自力が上がれば、つまらないトラブルに巻き込まれても切り抜けやすくなるだろう。


「そうは言うが無理をさせたことに代わりはない。

 これで無報酬などとケチくさい真似を弟子の前でする訳にはいかん」


 絶対に引く気がないという意思を瞳の奥に込めたつもりだ。


「ぐぬぬ」


 しばし睨み合いが続く。


 が、ビルの方が分が悪い。

 俺の説得がジワジワ効いていたとかだったら良かったんだけど。

 実際には睨み合いが3対1だったことが影響していると思う。


「ああっ、くそっ!」


 とうとうビルが根負けした。


「本当に安全なんだろうな?」


 念押しして聞いてくる。


「ああ、ここで魔道具を使うだけの簡単なお仕事だぞ」


「マジで!?」


 顎が外れるんじゃないかってくらい大口を開けてしまっているビル。


「もちろんマジだ」


 返事をすると現物も見せていないのに石像のように固まってしまった。

 魔道具なんて西方の人間には滅多に使う機会がないからだろう。


 冒険者ギルドの窓口で使われている確認用のものは触れるだけだし。

 本当の意味で使っているのはギルド職員だ。


「動作に使用者の魔力を使うから疲れを感じることはあるかもな」


「おいおい、大丈夫なんだろうな?」


 魔力を吸い上げられることに気付いたビルが及び腰で聞いてくる。

 馴染みがない分、得体の知れないもののように感じているようだ。


「心配しなくても変な術式の記述はないぞ」


 俺の言葉を耳にして、しばし呆気にとられるビル。


「……まさかとは思うが」


 ようやく声を絞り出すように喋り出した。

 何が言いたいかは想像がつく。


「俺の作ったものだ」


 だから先手を打った。

 そしたら百面相を見ることになったけど。

 最後は疲れ切った表情で締め括っていた。


「聞かなかったことにする……」


「お互いにとって、その方がいいだろうな」


 ペラペラ喋ればロクなことにはならないだろう。

 話は逸れたが都合がいい。

 これにて魔道具の使用を了承させたことにしておく。


「ほら、これを持て」


「へ?」


 ボケた返事をしながらも、ビルは俺が放り投げたものを受け取った。

 見る者が見れば銃身のない銃という印象を抱くであろう代物だ。

 撃鉄の部分がボタンだったり、下から皮膜付きのワイヤーが伸びていたりするが。


 ワイヤーがつながる先はもちろん堀である。

 先端は水中で皮膜も被っていない。


「引き金を引いてみな」


 不思議そうに見ているビルに声を掛ける。


「引き金?」


 怪訝な顔をして俺の方を見てきた。


「人差し指のところにある細く反った部分だ」


「これか」


 言いながら引き金を引く。


「そのまま赤いボタンを親指で押せ」


「ボタン?」


「赤くて出っ張っている部分があるだろう」


「おお、これか」


 そう言いながらビルがボタンを押した。


「……押しているが?」


 何が起こるのかと首を傾げるビル。

 だが、ひとつミスをしていることに気付いていない。


『初めて魔道具を扱う時はこんなもんか』


 セーフティなんて概念もないだろうしな。


「引き金を引いた状態でだ」


「おおっ、そうかそうか」


 言いながら引き金を引こうとするが、今度はビクともしない。


「おい、これでいいのか?

 何も起きないようだがな」


「そりゃそうだ。

 何も起きてないからな」


「おいっ」


「魔道具は正しい用法で使わないとな」


「うえっ!? ヤバくねえんだろうな?」


 途端に不安そうな顔をするビル。

 危険な物でも扱うかのようにオロオロし始めた。

 今更のように魔道具を扱っていることを思い出したようだ。


「心配しなくても大丈夫だから安心しろ」


 そう言うと、すぐにホッとした表情になるのは俺が作ったことを理解しているからか。


『信用されているな』


「間違った使い方をした時は動作しないようにしてる」


「言われた通りにしたぞ?」


 怪訝な表情で聞いてくるビル。

 自分は間違えていないと言いたいのだろう。

 間違えているから動作しないのだが。


「順番があるんだよ」


 そう指摘すると──


「へ?」


 ビルはキョトンとした顔をする。


「もしかして順番など大したことではないと思っているか?」


「えっと、そんなに大事なことなのか?」


 まさかと思ったら、そのまさかだった。


『やれやれ……』


 やたらと神経質なところがあるのに妙なところで大雑把になるものだ。

 思わず溜め息をつきたくなったが辛抱して話を続ける。


「例えば、だ」


 強調するように、ここで言葉を句切った。

 ビルの目を覗き込むように見る。


「お、おう……」


 ビルが気圧されたように仰け反った。

 殺気は微塵も込めていなかったんだがな。


「閉まっているドアを開けずに部屋に入ろうとするバカがいるか?」


 この問いにビルは呆気にとられたような顔になる。

 その直後──


「ハハハ、そんな奴いねえだろぉ」


 笑いながら否定した。


「気付けよ」


「え? 俺ぇっ!?」


 ツッコミを入れればさすがに気付いたようだが。


 俺は今度こそ溜め息をついた。

 いや、俺だけじゃない。

 シャーリーや神官ちゃんも呆れたと言わんばかりに嘆息して頭を振っている。


「とにかく言う通りにやってみろ」


「お、おお……」


 今度は指示通りに動いているか確認しつつ事細かに説明していく。

 そして最後に赤いボタンを押させた。


 カチリと音がして沈み込むボタン。

 最後まで沈みきると同時に堀の方でバリバリと音がした。


「うえっ?」


 魔道具を握り込んだまま下を覗き込むビル。


「うわぉっ!」


 電気ビリビリ状態の堀を見て腰から後ろへ倒れ込んだ。

 その反動で手にしていたグリップを手放す。

 それをキャッチし、回収するついでに死骸と化した魔物どもも倉庫へ放り込んだ。


「なんて物を使わせるんだ」


 腰を抜かしたままビルはブリブリ文句を言ってくる。


「ちょっとした魔法使いの気分が味わえただろ?」


「何処がちょっとしただっ」


 更に文句を言ってくる。

 最後に残った魔物はこの階層の平均よりも強いのばかりだったけどね。

 そういう意味では本格的な魔法使い気分と言うべきだったかもしれない。


 一方的な展開の上、魔道具まで用意された状態のため経験値効率は良くなかったが。

 それでも、この1回だけでビルはレベル68になっていた。


『運がいいよなぁ』


 思わず感心させられた。

 シャーリーと神官ちゃんは1回の攻撃ではそこまで稼げていない。

 自前で雷撃を何回も放っていた労力は何なのだろうと思う。


 ビルこそパワーレベリングじゃないのかと思うが程度の問題だろう。

 2人も充分に経験値は稼いだからな。

 そんな訳で現在の2人はこんな具合になっている。


[シャーリー/人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/32才/レベル86]

[シーニュ /人間種・ヒューマン+/魔法戦士/女/17才/レベル88]


 目標は達成した。


読んでくれてありがとう。

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