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1081 簡単なレベリングです

「ここで止まれ」


 足を止めて指示を出した。


「どうなさいますか?」


「次の指示を求む」


 シャーリーも神官ちゃんも周囲を警戒しながら俺の指示待ちをしている。


「しばし待て。

 ここでパワーレベリングする」


 そのまま待機させた。


「「了解」」


 2人は返事をしたが、ビルは呆然と俺を見るばかりだ。


『言いたいことは分からんでもないがな』


 開けた草原のような見晴らしの良い場所だし。

 何もこんな場所で陣取らなくてもいいだろうと思っているはず。


 少し離れた場所は岩場だったり森だったり。

 こちらからの視線は通りにくいのに向こうからは見放題。


 そんな訳で手早く下準備を終わらせないと魔物が押し寄せて来かねない。

 シャーリーや神官ちゃんに準備をさせない理由はふたつ。


 俺の方が早くて確実なのがひとつ。

 敵の襲撃を受ける前に終わらせたい。


 もうひとつは準備で消耗する魔力がバカにならないこと。

 こんなので大幅に消費するなら魔物を倒して消費してくれって訳だ。


「んじゃ、サクッとな」


 ビルもいるので予告してから光の魔方陣の演出付きで魔法を使う。


「うおっ、なんだっ!?」


 やたら派手な演出なのでビルが焦っている。

 幾重にも展開した魔方陣が光りつつ回転しているからな。

 周辺にいる魔物たちにも確実に気付かれただろう。


『まあ、接近を許す前に作業は終わるがね』


 展開した魔方陣の最外周部からもっとも内側の魔方陣の外周までの地面がボコッと凹む。

 凹凸は逆だけど5円玉の形に即席の空堀を形成した訳だ。


 真ん中の魔方陣から水が湧出して掘に水が張られる。

 そして最後に内側の魔方陣の部分がドーンと盛り上がった。


 円柱型の塔だ。

 壁面は魔物が上ってこられないように表面をツルツルに処理してある。


 その上でガチガチに硬くしておいた。

 壊しながら上ってくるような魔物もいないとは限らんしな。


 念のために攻撃されたら反射するようにしておく。

 ペナルティーがあれば連続で攻撃してきたりはしないだろう。

 狂戦士みたいな理性の欠片も無いような相手は知らんが。


 塔の高さは周辺から目撃される程度に留めた。

 あんまり高くし過ぎると攻撃するこちらの魔力コストも上がってしまうからね。

 壁面をピカピカ光らせておけば、近隣の魔物は寄ってくるだろう。


「──────────っ!?」


 パクパクと忙しなく動くビルの口。

 だが、そこから言葉が紡ぎ出されることはなかった。


『これでやり過ぎなんだな……』


 控えめにしたつもりなのだが。

 またしてもミズホの常識は西方の非常識な感じでやらかしてしまったらしい。

 俺としては大袈裟だとは思うのだが。


 それとも感覚が麻痺しているのだろうか。

 国民となって日が浅いシャーリーと神官ちゃんもそんなに驚いていないしな。


『まあ、驚いているのは此奴1人だから構わんか』


 そのうち復活するだろうから放置プレイ決定。


「2人ともメタルワイヤーは使えるな?」


 俺の確認の問いに2人は頷きで答える。


「ワイヤーは手元から堀の水に垂らせ」


「なるほど、そういうことですか」


「さすが。

 微塵も容赦がない」


 細かく説明しなくても何をさせるつもりだったのか察したようだ。

 神官ちゃんの評価には、そっくり言葉を返すと言いたいところだがね。


 なんにせよ2人ともメタルワイヤーを垂らして準備完了。

 そのタイミングで地響きが聞こえてきた。


「魔物です」


 シャーリーが淡々と報告してきた。


「カモが網にかかりに来た」


 神官ちゃんは魔物の末路を予言するかのようなことを言う。


「うわわっ、大挙して来やがったっ!」


 急に再起動するビル。

 その言葉通り、砂糖に群がるアリのように魔物が押し寄せてきた。

 言った本人はアタフタと大慌ての大騒ぎである。


『手すりをつくっておいて正解だったな』


 ただ、こちらから攻撃する必要があるので手すりはさほど高くない。

 勢いよく突っ込めばバランスを崩して落下なんてこともあり得る訳で。


「暴れて落ちるなよ」


 念のために忠告しておく。

 それを理解したのだろう。

 ビルは手すりにしがみつきながらガクガクと必死な様子で頷いていた。


「見ろよ」


 下を指差す。

 次々に掘の中へと落ちていく魔物たち。

 落ちたが最後、這い上がれないようにしてあるために溜まっていく一方だ。


 魔物が掘の中を埋め尽くせば、他の魔物を足場にする奴も出てくるだろう。


『埋め尽くせればな』


 そうなる前に俺が理力魔法で入場制限をかける。

 そしてメタルワイヤーを介して魔法で電撃ショックだ。


 この方法で一気に殲滅すれば各個撃破する必要がないので手間が大幅に省ける。

 死んだ魔物は俺がまとめて回収。

 ちょっと裏技を使っているので負担はほぼない。


 塔や堀は俺が即席で作ったものだが、これもれっきとした魔道具。

 空間魔法を展開する術式を記述してある。

 俺が魔力を流せば魔物の死骸は倉庫に格納されるのだ。


「うおっ、なんだぁ!?」


 魔物が瞬時に消えたことにビルが引っ繰り返りそうになっていた。


「空間魔法で格納しただけだ」


「格納しただけって……」


 愕然とするビル。


「お前さんだから信用して見せているんだ」


「そりゃどうも……」


 既に色々と見せているから、空間魔法を見せてもさほど変わるまい。

 というより気にしている暇がないのだ。


 とにかく忙しい。

 入れ食い状態より酷いと思う。


「……………」


 現にビルは言葉を失ったままだ。

 次に堀へと落ちてきた魔物どもが死滅するのを唖然とした様子で見入っていた。


 仕方あるまい。

 魔物の攻撃が届かないであろう高い場所からまとめて倒すだけの簡単なお仕事状態だし。

 しかも易々と回収して次の魔物を呼び込むからな。


 慣れれば受け入れるだろう。

 落ちないように気を配っておくだけでいいと思う。

 あとは時間が解決するはずだ。


『そんなことより……』


 攻撃に専念している2人より俺が忙しいのは何なのか。


 まあ、2人を攻撃に専念させているからなんだが。

 入場制限をかけているのは俺だし。

 その間に攻撃が終わる。


 そしたら死骸の回収だけど、これも俺。

 同時に入場制限の解除を行わなければならない。

 もちろん俺の仕事だ。


 入場制限を解除すれば魔物が堀へ落下して埋まっていく。

 再び入場制限をかけるところからの繰り返しだ。

 そんな訳で俺は休む暇がほとんどないに等しい。


 ならばシャーリーや神官ちゃんはどうなのか?

 実は俺ほどは忙しくない。


 攻撃手段はワイヤーに電気ビリビリするだけだからな。

 本気を出す必要はあるが簡単なお仕事です状態。

 しかも威力さえ出せているなら1人で充分だし。


 そんな訳で実は1回ずつ交代している。

 休憩時間まである訳だ。

 魔力の消耗が抑えられる上に固形ポーションを用意して食べる余裕まである。


 フル回転の俺とは大違い。


『ドウシテコウナッタ』


 付き添いとして高みの見物しているはずだったのにね。

 魔物に対しては確かに高見から見下ろしてはいるけどさ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 パワーレベリングが始まって、どれほど時間が経過しただろうか。

 実際には1時間少々といったところのようだ。


 その何倍も経っている気がするのは休む間もなく作業し続けているからだな。

 なのに倉の中で魔道具を作ったりしてる俺はワーカホリックの気があるのだろうか?

 そうではないと思いたい。


 下らないことを考えている間に魔物の押し寄せるペースが徐々に落ちてきていた。

 思ったより早く終わりそうだ。

 堀に落としてからの電撃ショック死コンボは想定以上に凶悪だったようだ。


 こちらが一方的に攻撃するという状況が続くと、ビルも落ち着きを取り戻し──


「スゲえ……」


 などと感嘆の吐息と共に言葉を漏らすようになっていた。

 空間魔法を使った回収も感覚が麻痺しているのか、とやかく言ってこない。


 やがて堀に落ちる魔物を理力魔法で制限しなくても良くなっていく。


「魔物が減ってきたのか?」


 ビルも気付いたようだ。


「そりゃあ無限に湧き出す訳じゃないからな」


 魔物という資源も有限である。

 無限に湧き出してくるなら脱出手段を考えないといけなかったがね。

 入場制限が不要になるまで、そう時間はかからなかった。


「マジか……」


 現在の堀は夏休み中のプール施設といった感じだ。

 そこそこ混雑はしているがラッシュ時の電車のようにギュウギュウ詰めではない。


 こうなると脱出は不可能だ。

 鮨詰めなら他の魔物を踏み台にする奴も出てきたんだろうが。


 あと堀も塔と同じく頑丈でツルツルだから這い上がることもできない。

 水深は二足歩行の魔物でも足がつかない程の深さがあるのでジャンプも無理。


「どうしますか?」


 シャーリーが聞いてきた。

 今までは堀が魔物で満杯になるあたりで魔法を使っていたからな。

 現状は過疎とは言えないが電撃ショックを叩き込むほど詰まってもいない。


「しばらく待つ?」


 神官ちゃんも聞いてきた。


「いや、ここは接待パワーレベリングといこう」


「接待ですか?」


「接待パワーレベリング……」


 2人がビルを見た。


「ええっ、俺ぇっ!?」


 ビルが泡を食っている。

 注目を浴びたからではなく接待パワーレベリングの意味を理解したからだろう。


「むむむ無理だって!」


 必死の形相で首を振る。


「俺は魔法が使えないんだぞ。

 飛び道具の用意だってしてない。

 まさか堀に飛び込めとか言わないよな?」


「そんなこと客人にさせるか、バカ」


 客人にバカと言うのもどうかとは思うがね。


読んでくれてありがとう。

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