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1077 講義の後は実践あるのみ

 神官ちゃんのしつこいくらいの頷きが止まった。


「目的と手段を履き違えないのは分かった」


『ん?』


 その口振りからすると、何かありそうだ。

 おそらく細かな部分についてだろうが……


「それとは関係なく気になったことがある」


 どうやら思った通りのようだ。


「血が飛んでこないのは何故?」


『ああ、それね』


「魔法で止めてる」


「風壁?」


 ではなく理力魔法だ。

 より確実だからな。


「違うが風壁でも代用はできる」


「分かった」


 それ以上の追及はしてこないようだ。

 答えるくらいはしてもいいが、今の神官ちゃんに理力魔法の制御は難しい。


 まずは制御力を向上させないことには始まらない。

 千里の道も一歩からと言うしな。


 それはそれとして、いつまでもグロ注意なものを放置しておくのはよろしくない。

 精神衛生上の問題はもちろんあるが、それは二の次である。


 血が流れているのが大きい。

 匂いに魔物が引き付けられかねない。

 トレイン状態で呼び寄せる結果になるのは考え物だからな。


「とりあえず例は示せたから消すぞ」


 予告してからの分解魔法。

 ワイヤー諸共に鬼面狼は消滅した。


「「っ!?」」


 一瞬のことだが、分解されるように消えていく感じは独特の雰囲気がある。

 倉庫に収納するのとは明らかに違うと分かるのだ。


 シャーリーも神官ちゃんも、それは同じ。

 消え去る光景が目に焼き付いているのか愕然としたまま動けずにいた。


「大袈裟だな。

 闇属性の分解を使っただけだぞ」


「これが……」


「分解……」


「近いうちに、これくらいは楽にできるようになってもらうからな」


「「─────っ!?」」


 2人とも見開いた目で射貫くように俺を見てくる。

 殺気がこもっていたらブルっていたかもしれない。


『『マジで!?』』


 声は聞こえなかったが、そんな風に聞かれたような錯覚に陥ってしまった。


「今日中なんて言わないよ。

 あくまで当面の目標ってことだ」


「当面ですか……」


 シャーリーが呆れていた。

 最終目標ぐらいに思っていたのかもしれない。


『これなら理力魔法の説明をした方が良かったかもしれんな』


 まあ、今更ではある。


「ミズホ国じゃ、これくらいが常識なんだよ」


 別に強弁した訳でもないのに、ちょっとドキドキした。


「「……………」」


 シャーリーだけでなく神官ちゃんまで呆気にとられていたしな。

 まだまだ西方の常識に囚われているようだ。


『そのくらいは今日中に破壊し尽くしたいところだが……』


 こればかりは、どうなるか読めない。

 それでも先に進むしかないがね。


「驚いている暇はないぞ。

 次の場所に跳ぶからな」


 返事を聞かずに転送魔法で跳ぶ。


 え? マッピングはどうするのかって?

 そんなものはしない。

 今日はとにかく戦闘だ。


 2人のレベルからすると、このダンジョンでのレベルアップは期待できないが。

 それでも戦闘経験を積むのがメインの目的である。

 慣らし運転のようなものだ。


 本番は西方のダンジョンに潜ってからになるだろう。

 その際にはマッピングも覚えさせる予定である。


 今日はとにかく戦闘に専念することで対応力を鍛えるつもりだ。

 他のことを考えずに済むので負担は少ないはず。


 問題があるとすれば初めて複数を相手にすることだろう。

 それでも不安は感じないし嫌な予感もしない。

 2人の動きに無駄がないせいか危なげなく見ていられる。


「敵、それなりに数がいる」


 神官ちゃんがボソリと呟きながら通路の奥を指差した。

 反対側を警戒していたシャーリーが──


「背後はなし」


 やはり呟きながら神官ちゃんの横に並んだ。


「了解」


 2人が小声でボソボソと喋っている。

 もちろん前方を警戒したままでだ。


「向こうは気付いていない。

 無警戒に歩いてきている」


「虫系や獣系の魔物ではなさそうですね」


 神官ちゃんの言葉を受けてシャーリーが推測したことを述べる。


「ほぼ間違いなくゴブリン」


 神官ちゃんは確信している様子。


『ほう、正解だ』


 俺のように【天眼・遠見】を使わずに見極めたことに内心で感心していた。

 判断材料は未だ向こうに察知されていないことだろう。


 このダンジョンで想定される魔物の中で音や匂いで感知する能力が最も低いからな。

 おまけに気配を感知する能力もない。

 雑魚中の雑魚だ。


 群れることが多いから今の2人では油断していい相手ではないが。

 懐に入られれば不用意な一撃をもらったりすることも無いとは言えない。

 それで深手を負うことはないだろうが、そう考える時点で減点だ。


 しばらく様子を見る。


『……………』


 が、露骨に警戒を解いたりはしない。

 まずは合格である。


「向こうに視認されてからが本番ですか」


 シャーリーがそう主張する。

 確かに緩く弧を描く通路の向こうから姿を見せた瞬間にゴブリンは走ってくるだろう。


「それまでに方針を決める」


「ゴブリンでは突進力を逆手に取った戦法は使えませんね」


 鬼面狼よりも足が遅いからだ。

 壁系の魔法を使っても横に回り込んで来るだろう。


 時間稼ぎくらいしかできないってことだな。


「一気に殲滅でいいと思う」


「いけますか?

 多そうですよ」


「ライトリングソーでまず脚を潰す」


 これでゴブリンどもが横に拡がっていたなら、それで全滅が確定したも同然となる。

 生きてはいても動けなくなるからな。

 後はトドメを刺すだけの簡単なお仕事になる訳だ。


 さすがに横並びで突撃はないだろうから何匹かは残るだろう。

 まあ、ゴブリンはこちらの数の方が少ない間は退かないはずだ。

 彼我の戦力差を推し量る頭も満足にないからな。


 下手をすれば鬼面狼の方が賢いかもしれない。


「数を減らしたら残りをライトダガーでまとめて始末する」


「では、私がライトリングソーで先手を打ちます」


 シャーリーがその提案をすると、わずかな沈黙の間ができた。

 背中越しでは表情が読み取れないが【天眼・遠見】を使うまでもない。

 シャーリーの発言の真意を読み解こうとしているのは明らかだ。


 さほど難しいことではない。

 互いに得意な魔法を入れ替えようというだけのことである。


 目的は──


「雑魚の相手をしている間に使える技を増やす?」


 神官ちゃんが確認していた。


「そういうことです。

 ですので、シーニュさんは……」


「残っているゴブリンを同時に攻撃する」


「どうですか?」


「短期的に見ればリスクのある手。

 でも、先のことを考えれば価値はある」


 神官ちゃんの言う通りだ。

 2人とも貪欲に考えている。

 これなら油断することもないだろう。


「失敗したときのフォローが大事ですね」


「スイッチすればいい。

 あまり細かく決めると想定外だった時に対処しづらくなる」


 そしてゴブリンどもが出現した。

 数は8匹。


 聞くに堪えない耳障りな咆哮を一斉に上げた。

 我先にといった感じで走ってくる。


『指揮する奴はなし、と』


 隊列など考えてもいない烏合の衆そのものの動きだ。


「「……………」」


 2人は微動だにしない。

 慌てず騒がず魔法の準備を始めている。


 そして距離を見極めた上でシャーリーがライトリングソーを放った。

 ジャンプして躱されないよう股の付け根付近を狙っているあたりが心憎い。


 その狙い通りにゴブリンどもの脚を切り裂いて5匹が脱落。

 それでも残りのゴブリンたちは突撃をやめない。


 が、次の瞬間にはライトダガーがそれぞれの胸に突き立っていた。

 正確にゴブリンの心臓を貫いている。


『3本なら神官ちゃんも正確に制御できるみたいだな』


 これはシャーリーの魔法を見てコツを掴んだのかもしれない。

 それともノエルが下地となる部分を教えていたか。


 いずれにせよ、神官ちゃんの現在のレベルを考えれば上出来だ。

 3匹はほぼ即死状態。

 残るは脚を付け根から失った5匹のゴブリンたち。


 まあ、こちらも出血多量でトドメを刺すまでもない状態だったけど。

 そんなことは関係ないとばかりに2人は息の根を止めにかかる。


 それが終われば索敵で周囲の警戒。


「クリア」


「クリア」


 魔物が周囲にいないことを確認すると、2人は軽く拳を打ち合わせた。


『どこで、そんな仕草を覚えたんだ?』


 神官ちゃんは動画かノエルたち月影の面々からだろう。

 シャーリーは神官ちゃんか、もしかすると食堂3姉妹かもね。


 何にせよ2戦目にして余裕が出てくるとは思わなかった。


 これで油断しているなら灸を据える必要があったのだが。

 特に油断している風にも見えない。


「ゴブリンの死骸は回収しますか?」


 シャーリーが聞いてきた。

 西方では二束三文のため放置されることが多いゴブリンの死骸。


 だが、ミズホ国では歴とした資源である。

 舗装路の材料にしかならないので現状は余り気味だけど。


「いや、俺が回収する。

 今日は魔物を倒すことに専念してくれ」


「了解しました」


「了解」


読んでくれてありがとう。

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