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1076 実習中だけど講義もあります

 シャーリーと神官ちゃんのアイコンタクトはすぐに終了した。

 互いに頷き合う。


 この様子だと同時に答える合意がなされたようだ。

 答えはこれしかないと言わんばかりである。


 次の瞬間には──


「「石壁」」


 ハモるように答えていた。


『よく一致したな』


 それだけオーソドックスな答えだったということなんだろう。


 石壁、別名ストーンウォールだ。

 滅多に使わない魔法である。


『使い勝手が悪いからなぁ』


 そこに気付かなかった2人は俺のヒントに素直すぎた。


「それも50点だな」


「「っ!?」」


 驚きと疑問符がない交ぜになった目を向けられた。

 正面衝突させるなら、これ以上の魔法があるのかと言わんばかりだ。


「石壁には致命的な問題があるぞ」


 シャーリーと神官ちゃんが顔を見合わせる。

 目と目で語り合っていた。


『問題って……』


『陛下が言うならあると思う』


『分かる?』


『分からない』


 などという会話がされていそうだ。

 あくまで俺の想像ではあるが。


 おそらくは似たような感じでアイコンタクトを交わしていたと思う。

 それが終わるとそれぞれで考え込み始めた。


 が、時間が経過するばかり。

 2人とも答えを見つけられずにいた。


 少なくとも数分以上は考えていただろうか。

 俯き加減だったシャーリーが顔を上げて小さく溜め息をついた。

 そして神官ちゃんを見る。


 それに気付いた神官ちゃんも顔を上げ視線を交わす。

 シャーリーが小さく頭を振った。

 神官ちゃんは応じるように頷く。


 2人とも無言のままだが何やら会話が成立している様子である。


『凄いな』


 思考を挟んだ分、先程よりもアイコンタクト会話の難易度は上がっているはずなのだが。

 まるで長年の親友であるかのようだ。


 俺が感心している間も目線と首の動きだけで会話していた。

 やがて2人が頷くと、おもむろにこちらを見た。


「分かりません」


「同じく」


 ギブアップ宣言である。

 石壁の問題点を見つけられなかったようだ。

 それに変わる代案もね。


『実際に石壁を出せば違ったんだろうがな』


「向こうが見通せないだろ」


「でも、それは相手も同じです」


 確かに視界が妨げられるのは同じ条件だ。


 だが、こちらには思惑があり敵にはない。

 思惑を外された場合に思い至れないのは減点である。


「石壁の出すタイミングによれば回避されることだってあるんじゃないか?」


 まだまだ魔法の制御が甘い2人だ。

 壁系の魔法は発動開始から構築させ終わるまでのタイムラグが大きい。

 その時によって数秒以上の差が出たりとムラもある。


 つまり壁系の魔法に突っ込ませたいなら余裕を見ておかねばならない訳だ。

 必然的に距離を取る必要が出てくる。

 そうなれば回避されるリスクもできてしまう。


「「ああっ!」」


 2人も気付いたようだ。

 では、具体的な解説といこうか。


「強度は石壁の方があるだろうが、使い勝手がいいのは氷壁だぞ」


「向こうが見通せるからですね?」


 シャーリーが確認するように聞いてきた。


「そゆこと」


「氷壁だと強度が心配」


 神官ちゃんがツッコミを入れてくる。


「突破されると破片が飛んできて危険」


「そのあたりは工夫だろ。

 突破されないよう分厚くするか。

 水壁とのサンドイッチにするか」


 いずれにしても消費魔力が増えるけどね。

 あと制御力も必要になるだろう。


 暗に鍛えろと言っている訳だ。

 それだけでは当面の問題解決には使えないので不親切だとは思う。

 故にモアベターな方法も提示することにした。


「あるいは最初から割れ目を入れておくか」


「「え?」」


「厚みを持たせるのは分かりますが……」


 困惑するシャーリー。


「割れ目を入れるのは何故?」


 神官ちゃんが不思議そうに聞いてくる。


「割れやすくするためだ」


 2人が大きく目を見開く。


「先に割れ方を指定しておくんだよ。

 そうすりゃ危険な割れ方はしづらいだろ」


「それだと威力が落ちる」


「だろうな。

 だからこれも満点の答えじゃない」


 神官ちゃんの目が「ズルい」と訴えるようにジト目になった。


「だが、石壁よりも対応しやすいのは確かだろ?」


 返事はない。


「あの突進スピードなら手桶サイズの氷でも充分にダメージが入る」


 ジト目は変わらずだ。

 なんだか言い訳をしている気分になってきた。


「どうやったって満点の答えなんてないんだぞ」


 ここで初めて怪訝な表情になる神官ちゃん。


「現実の戦闘は筆記試験のように答えが決まっていないんだ」


 常に状況が変わるからな。


「その場の環境によっては魔力消費が極端に多くなったりすることもある」


 やたらと暑い場所では氷壁も発動しづらくなる。

 今はそうではないがな。


「魔法を使う者がどれほど熟達しているかによっても状況は変わるからな」


 故に人によって正解が違ってくる。

 敵に突破されない強度の氷壁を構築できるなら切れ目など必要ないだろう。


 あるいは易々と突破されるものしか構築できないなら氷壁より水壁を使うのも手だ。

 ダメージは入らないとしても突進の勢いを削ぐことだけはできる。


「……………」


 神官ちゃんが考え込んでいる。

 考えが進むにつれ、その表情から不満が抜けていった。

 もちろんジト目ではなくなっている。


 しばらくして納得したような面持ちになると──


「最善手は常に違う」


 そう呟きながら頷いた。


「あまり神経質に考える必要はないぞ。

 定石の通じない相手がいる程度に意識しておけばいい。

 パターンが通じない時に慌てず対応できればいいんだ」


 コクリと神官ちゃんが頷いた。

 シャーリーも神妙な面持ちで聞いている。


 それどころか食い気味に俺を見てくるんですがね。

 どうあっても話を聞かせていただきますよって体勢だ。


 俺としては話はここまでで次の戦いを求めて移動しましょうな心づもりだったのだが。


『この様子じゃ例のひとつも話さんことにはダメっぽいな』


 面倒だとは思わない。

 勉強熱心な身内を邪険にするなど論外だ。

 安全にも関わってくるだろうしな。


「例えば相性の悪い場所なんかで氷壁の消費魔力が跳ね上がる場合なんかはどうする?」


「とても暑い場所ということでしょうか?」


 条件を確認してくるシャーリー。


「そうだな」


「水壁でも魔力は多めに減ったりしますか?」


「そういう条件だ。

 火の海だったり溶岩が近くで流れていたりってところか」


 2人が考え込む。

 そのうちシャーリーがブツブツ呟きだした。


「防壁に火属性は問題だし……」


 下手をすれば敵が火だるまになって突っ込んで来るからな。


「風壁は激しく燃えている場所ではどうなるか……」


 制御が甘いと火勢を強くする恐れはあるだろう。

 あるいは熱気を呼び込むことも考えられる。


 熱気と侮ることなかれだ。

 火そのものでなくても火傷を負うことがあるからな。


『シャーリーは煮詰まってるな』


 神官ちゃんを見る。

 静かに頭を振られた。


「ちょっと思いつかない」


 正直なことだ。


「そういう場合は、こういう手もある」


 メタルワイヤーの魔法を使って網を等間隔で3枚ほど構築した。

 理力魔法を使って鬼面狼を浮かせて通路の奥へ移動させる。

 そこから先程の突進と同じ速度で突っ込ませた。


 1枚目の極細ワイヤーの網に突っ込むと鬼面狼の顔面にワイヤーがサクッと入った。

 そして数センチ食い込んだところでブツリとワイヤーが切れる。

 ここではあまり減速されない。


 2枚目のワイヤーで止める。

 ダンジョンの壁面に食い込ませてピンと張っているので壁に等しい。


 しかも細いワイヤーだ。

 極細ほどではないが鬼面狼の体に食い込んでダメージを与えた。


「うわぁ……」


 シャーリーが引くほど顔面がスプラッタな鬼面狼が出来上がった。

 まあ、俺も引いている。


 なるたけ顔面を見ないようにした。

 やるんじゃなかったと後悔するぐらいにはグロ注意な状態だからな。


「3枚目は必要?」


 神官ちゃんは眉ひとつ動かさずに聞いてきた。

 強者である。


「保険だな」


 フンフンと頷く神官ちゃん。


「素材としては微妙」


 保険には納得したようだが評価は低い。

 頭部は使い物にならんからな。


「点数をつけるなら20点だろう」


「氷壁が使えない時の代案にしても微妙」


「そうだな。

 これでなきゃならん理由もない」


「では、何故?」


「何がなんでも止めなきゃならん時は後の状態など考えるなってこと」


 神官ちゃんが首を傾げた。


「目的と手段を履き違えるなってことだ」


 俺の言葉に目を丸くする神官ちゃん。

 しきりに頷いていている。


「確かに手段にばかり囚われすぎていた」


読んでくれてありがとう。

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