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1069 頑張れシャーリー

「驚いている暇はないぞ。

 2個の次は4個だからな」


「うえっ!?」


「ほらっ、2個だ」


 目を白黒させるシャーリーに促す。


「はひ」


 何故か噛みながらの返事だったが、それでも表情は真剣だ。


 やや気負った感じになってしまっているが、それは仕方あるまい。

 本人からすれば難易度が跳ね上がっているのだから。


 そして先程と同じように両手を前に突き出す。

 だが、目は閉じなかった。


 そこに焦りを感じたもののイメージできるなら問題ない。

 むしろ後々のことを考えれば手間が省けるくらいだ。

 とはいえイメージできればの話である。


『どうだ?』


 見守り続けた結果、シャーリーの選択は吉と出た。

 少し手間取りながらも同時に2個のライトを発動させることに成功したのだ。


「おめでとう。

 では、4個にチャレンジと行こうか」


「はい」


 2個を成功させたことで肩の力が抜けたらしい。

 表情にも余裕が戻ってきた。


 そして難なく成功させる。

 ライトが横1列で整然と並んでいた。


「次、8個な」


「8個ですか!?」


 更に倍を指定されるとは思わなかったようだ。


「なに、大したことじゃない。

 4個を2段にすれば8個だろ」


「もしかして、その次は16個とか」


「当然だな。

 その調子で64個は軽くクリアしてほしいね」


「……………」


 絶句するシャーリー。

 己の予想の4倍を軽く超えろと言われては、そうなるかもな。


『ここで萎えるなら遠回りになるが……』


 そうはならないと半ば予感していた。


 シャーリーの表情が変わる。

 瞳を輝かせて燃えていた。


「やります!」


「うん、頑張れ」


 普通に激励したつもりが随分と冷めた感じに聞こえてしまう。

 シャーリーのやる気との差がそれだけ大きかった訳だ。


 失敗したと思ったが向こうは気にもしていない。

 というより、俺の激励など耳に届いていなかった。


 その前に8個のライトを同時発動させるべく集中し始めていたからだ。


 これはそう苦労せずクリアできた。

 事前に俺がヒントになるような発言をしたからだろう。


『最初は我流で押し通そうとしていたのにな』


 なかなか素直になったものである。


「じゃあ、次は──」


「16個ですね!」


 俺が次のオーダーを出し切る前に上から言葉を被せてきた。


「お、おう……」


 気圧されて怯んだ感じの返答になってしまったさ。

 まあ、シャーリーは返事の前に魔法に取り掛かっていたけど。


『気負いすぎになってきたな』


 集中を乱すほどではないのだが問題がない訳ではない。

 今すぐ影響することではないから本人は気付かないだろうけど。


 でも、じきに分かる。

 身をもって知ると言うべきかな。

 要するにしくじる訳だ。


 だが、口は出さない。


『失敗すれば教訓になるからな』


 今度のはちょっとしたペナルティありだ。

 最初に魔法が発動できなかったのとは訳が違う。


 譲渡した魔法知識の中にも含まれているので気付く可能性も皆無とは言わないが。


『さて、お手並み拝見』


 16個の同時発動は少し苦戦していた。

 8個を倍にする感覚でやろうとしているのは分かった。

 魔法は発動するものの同時じゃないからだ。


 まず8個出て、わずかに遅れて追加で8個が発動する感じ。

 タイムラグがあるってことだな。

 それを何度か繰り返している。


 だが、諦めずに根気よく続けている。


「手こずるなら発想の転換が必要だぞ」


 少し集中が切れてきたところで声を掛けるとシャーリーが振り向いた。


「発想の転換、ですか?」


 キョトンとして聞き返してくる。


「ああ、そうだ」


「どういうことでしょう?」


 具体性に欠けるせいで見当がつかないらしい。


 シャーリーの現状は目の前に壁が立ちふさがっているような状態だ。

 本人はさぞかし巨大な壁だと思っていることだろう。

 何度トライしてもライトの魔法を16個同時に発動させることができないからな。


『もっと足元をちゃんと見ないとな』


 そのためにアドバイスをしてみたつもりなのだが、いまいちピンと来ないらしい。


『発想の転換をしろ、だけじゃ無理か』


「倍にする発想に固執するからタイムラグがあると思わないか?」


 具体的なヒントを言ってみる。

 固執している壁は今のシャーリーには高いかもしれない。

 だが、探せば低い壁もあるのだ。


「……確かにそうですね」


 そう返事はしたものの困惑しているのはありありと分かった。

 俺の言ったことは理解できたはず。


 しかしながら具体案を思いつかないのだろう。

 ここでモタモタしていても仕方がないので次のヒントを出す。


「16個は既に未知のものではないぞ」


 答えそのままだとも言えるがね。

 それでも倍の意識を強く残していると難問になってしまうんだけど。


『シャーリーはどうかな?』


 俺の言葉を受けて固まっていた。

 遠くを見ているようで視点が定まっていない。

 かなり深く考え込んでいることがうかがえる。


 倍にしていく方法がすんなり成功したことで、かなり固執していたみたいだな。

 それでも時間をかけて考えれば、固執していたことへの意識が薄れる瞬間が来る。


 やがてシャーリーはハッとした表情を浮かべた。


「あ……」


 短く声を漏らし目を見開いたかと思うと強く目を閉じた。

 してやられたと言わんばかりである。


「ヒント、ありがとうございます」


 礼を言ったシャーリーは中断していた魔法の発動へと復帰する。

 その姿からは特に気負った様子は感じられない。

 集中し始めたと思ったら、すぐに魔法を発動させた。


 16個の小さなライトが整然と並んでいる。

 ただし、タイムラグありのままだったが。


 シャーリーは真剣な表情でその16個のライトに見入っている。

 先程までならタイムラグの失敗を確認した時点でさっさと消していたのだが。

 今までと違って消さずにジッと見続けていた。


『気付いたな』


 先に存在するものを見ておけば具体的にイメージしやすくなる。

 見たものをイメージするなら、さほど難しくないはず。

 名付けて、脳裏に焼き付け作戦だ。


 不意にシャーリーが顔を上げた。

 それと同時にライトも消える。


 目を閉じて深呼吸。

 息を吐ききったところで目を見開いた。


「行きます」


 決意の表情でリトライ。

 今度はすぐに成功した。

 それまでの失敗は何だったのかと思うほどスンナリと。


『やるな』


 リトライ1回目で成功するとは大したものだ。

 見ているだけの俺が思わずニヤリと笑いかけていた。


 が、笑みを向けられたはずの本人はニコリともしない。

 それどころか気付いた様子も見られない。

 16個のライトを消さずに見入っていた。


『いや、違う』


 シャーリーの焦点はライトからズレている。

 魔法は発動したが集中を維持したままなのだ。


 ライトを維持するためでないのは、見ていないことからも明らか。

 それにライトはすぐには消えたりしない。

 込めた魔力が切れるか意図的に消そうとしない限りはね。


 シャーリーには別の目的があるのは明白だ。

 やがて16個のライトが追加された。


『なるほど、そのまま32個に挑戦するつもりか』


 再び脳裏に焼き付け作戦を実行した訳だ。


 先程と同じように、じっくり見てから合計32個のライトを消した。

 チラリと俺を見るシャーリー。


「32個、行きます」


 そうやって宣言したのは自分を追い込むためか。

 成功させる自信が微妙なライン上で揺れているのかもしれない。


 16個に挑戦した時にそれなりにキツかったのだろう。

 自らを追い込んで集中力を高め、余計なことを考えないようにする。


『間違ってはいないが……』


 あまり推奨できる方法ではない。

 まだ、ここぞというタイミングではないからな。


 指摘はしない。

 そのあたりも含めて後で反省の材料になるだろうし。


「おうよ」


 返事はしたが、やはり聞いてはいない。

 すでに集中に入っている。


 これもさほど待たずに成功した。

 本人が懸念したほど難しくはなかったってことだな。


 ここで休憩を挟むかと思ったが、そういうことはなかった。

 そのまま続けて32個を追加する。


 数は倍に増えたが先程と同じ要領だ。

 観察してから消すのも変わらない。


 ただし、そのまますぐ64個にチャレンジとはいかなかった。


「すぅ─────っ。

 ふう─────っ」


 シャーリーはあまり体を動かさずに深呼吸した。

 表情に疲れが滲み出てきている。


 それはそうだ。

 集中力を高めれば高めるほど疲労は加速度的に増していく。

 難易度が上がるからね。


 そして魔力も同じように消耗していくのだ。


 生活魔法で消費する魔力などたかがしれていると思うかもしれない。

 単発でならばともかく複数で何度も繰り返せば話は別。


 失敗でロスした分もかなりある。

 その上、成功させれば消費魔力も増える訓練方法だ。


『塵も積もれば山となるってな』


 ましてシャーリーはレベル35。

 総MP値はさほど多くない訳で。


『魔力の残量を気にしているかどうかが鍵だな』


読んでくれてありがとう。

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