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1063 マリアの意外な……

 エリスが廊下から戻ってきた。


「準備完了です」


 ニッコリ微笑まれるとドキッとする。

 後ろに控えるマリアが少しやつれ気味に見えたせいで更にドキッとした。


 それぞれ別の意味でだが。

 クリスはニコニコしているのでスパルタな感じではなかったようだが。


「あんまり無理するなよ」


 念のために声掛けしてみた。


「オマカセクダサイ。

 カナラズヤ、セイカヲアゲテミセマウ」


「おいおい……」


 口から出てきた言葉がカチカチだ。

 オマケに最後は噛んでいる。


『みせまうって何だよ』


 カチカチの喋りでなければ笑って終了だったと思うのだが。

 ちょっと噛んだ程度で済ませられそうにない。

 事情を知っているであろうエリスに視線を向けると苦笑されてしまった。


「最初は調子よかったんですけど」


 じゃあ、どうしてこうなったと問いたい。


「あと20分ほどで始まると言ったあたりから、こんな具合なんです」


『もしかして、あがり症か?』


 今まで気付かなかったから考えにくいのだが。

 念のためにエリスとクリスを見た。


「マリアって、あがり症なのか?」


 本人はスルーして2人に聞く。


「この様子ではそうだと判断するのが妥当なようですね」


 返答から察するにエリスは知らないようだ。


「ここまで酷いとは思いませんでしたが……」


 クリスは何か知っているようだ。

 付き合いの長さで言えばクリスの方が上だったか。

 エリスは出奔してからの期間が長かったし。


「大勢の前に出ると口数が少なくなるのは確かです」


 聞いて正解だったようだ。


「今みたいな返事じゃなくて、ハイかイイエしか言いませんでしたから」


 それくらいじゃボロは出なかっただろう。


「さっきの返事は長い方ってことか」


「はい、こんな風になるとは思ってもいませんでした」


 付き合いが長いはずのクリスでさえ誤魔化されてきた訳だ。

 そういう状況になることが多くなかったりもしたのだろうけど。


「何人くらいなら緊張しないか分かるか?」


 対応する必要があるからこその質問だ。


「そうですねえ」


 クリスが顎に手を当て小首を傾げつつ考え込み始めた。

 記憶をサルベージしていると言った方が正しいか。


 とにかく最少人数を検索するのは瞬時という訳にはいかないらしい。

 つまり、さほど多くはないということだ。


『場合によっては、やり方を変えなきゃならんな』


 最初は、大人数を手早く捌けるようにと考えていた。

 待機場所から数十人ずつ広めの部屋に呼び出して数名ずつ前に出てもらって審査する。

 流れ作業的な感じだ。


 色々と弊害はあるだろう。

 見落としなんかも、そのうちのひとつだ。


 が、1次選考としてふるいに掛ける段階なので割り切った。

 当初は2人だけでやろうと考えていたしな。

 時間的な負担もあるので仕方ない。


 それは選考する側とされる側の両方に同じことが言える。

 される側の負担を減らすために集合時間は何組かに分けてずらしてある。

 今集まっているだけで2百はいるんだけど。


 午後にも2百で、それは明日も同じ。

 今にして思うと無茶な割り振りだったと思う。


『せめて4日ぐらいにしておけば良かったか』


 それでも無理があるとは思うが助っ人がいる今なら少しマシだと思う。


「注目を集める状況下でしたら数十名でもダメだと思います」


「それは誰か信頼の置ける相手がそばに居ても?」


 誰かのアシスタントとして動いてもらえばと考えての質問だ。

 ノエルに付けたシーニュのようにね。


 メインは自分でなくなるので負担は少なくなる。

 元より助っ人を集める前から2人1組の前提だったのだ。


 今は8人でちょうど4組に分けられる。

 50人ずつを受け持てばいい。


 問題はこの人数だとマリアが変に緊張してしまうことだ。

 故に負担を軽くする方法を考えねばならない。


 克服するのが一番だが、それには時間がかかる。

 期待を込めて聞いてみたのだけれど……

 クリスは頭を振った。


「その相手の影に隠れることができる状況でなければ差はありません」


「要するに注目されたと感じたらダメなんだな」


 厳密に言えば、注目されていると感じてしまう状況になった場合だろうか。


「そうなりますね」


『しくじったな』


 御褒美なんて言うんじゃなかった。

 今更、マリアを外す訳にはいかない。

 御褒美が遠のいたことで大きく失望することだけは確かだからね。


 どう動くかまで読めないのも怖い。


 もし、マリアの中で御褒美が高い位置にあれば暴走しかねないだろう。

 やぶ蛇になるのは真っ平ゴメンである。

 ならば残して座らせておくだけの方がよほどマシである。


「身内とか知り合いでもダメ?」


 ふと、気になって聞いてみた。


「親しい相手は除外されますが……

 顔見知り程度では意味がありませんね」


『親しい相手限定なら微妙なとこだな』


 幻影魔法で見た目を変えようと思ったが、この手は使えそうにない。

 何処までが顔見知りの範疇かという話もある。


 親しそうに思えてもマリアの中で顔見知りに留まることだってあるだろう。

 厳選した結果、同じ顔ぶれが何人も並ぶなんて違和感が出てしまうしな。

 仮に頭数が揃えられても気配も声も違う。


『やはりボツか』


 根本的に方法を変えなければならないだろう。

 衝立を用意して隙間から覗き見る形にするとか。


『……………』


 普通に考えて却下だろうな。

 オーディションを受ける側が不安感を抱きかねない。


 向こうからは、こちらの顔が見えない訳だからな。

 同じ理由でカメラの前でオーディションを受けてもらうのもダメだ。


 マリアは楽になると思うけどね。

 一方の都合だけでどちらかを振り回していい訳がない。


「では確実に大丈夫と言える人数は?」


「どうでしょうか。

 相手によると思います。

 今回でしたら十数人でも大丈夫かもしれません」


 国民かそうでないかでも差が出るのかもしれない。

 ローズ先生のお墨付きがあるとないとでは大違いってね。


「なら別室に呼び出す方法に切り替えるか」


「どうするんだい?」


 トモさんが聞いてきた。


「俺たちが4組に分かれて別の部屋に入る」


「そこで少人数を呼び出しながらってことかな?」


「そゆこと」


「でも、それだと他の3組が受け持つ審査の内容が確認できませんよね?」


 フェルトが聞いてきた。


「助っ人を頼んだ時点で分割はするつもりだったからね。

 審査のブレが生じる恐れがあることを気にしているんだろ?」


「はい……」


「その点に関してはしょうがないと割り切ってる。

 でも、トモさんと俺だけの時は駆け足でササッとやるつもりだったからね」


 程度問題かもしれないが、今の方がマシなんじゃないかと思う。


「余裕を持って審査できると?」


「ほんの少しだけだよ」


 2人で1分少々の予定が、1人で2分程度になったくらいだし。

 5人ずつ呼び出せば10分は確保できるけど。


「でも、最初のドライブスルー的なのよりはいいんじゃないかな」


 トモさんがちょっと安堵したような感じで言った。

 ドライブスルーとは言い得て妙だと思うが、そんな生易しいものではないと思う。


 ノンストップで2百人だ。

 予定通りにできて約2時間。


 気疲れもするはずである。

 俺やトモさんがではなくオーディションを受けに来た面々がね。


『学校卒業前の面子もいるからな』


 きっと3時間くらいはかかるだろう。

 アバウトな予定など思い通りに進められるはずもないしな。


 それでも助っ人なしよりは遥かに余裕がある。

 ただし、分散させなければならないが。


「他に方法がないようですね」


 なんにせよフェルトも今の方がマシだと納得してくれたようだ。

 そんな訳で部屋を用意する。


 放送局の会議室フロアはこういう時に便利だ。

 パーティションを組み替え部屋を好きなようにレイアウトできるようにしてあるからな。

 廊下も好きな位置にセットできるので自由度はかなり高い。


 さっそく2百人全員を呼び出そうと思って広くしていたものを仕切り直しにかかる。

 50人を待機させる部屋。


 そして廊下を挟んで審査する小部屋。

 これらを平行に並ぶよう4組。


 そして自動人形を廊下に配置させる。

 呼び出しと案内のためだ。


 後はペアを決めて待機すれば準備完了。

 既に2組は決まっているようなものなので、そう時間はかかるまい。


 シーニュはノエルが連れて来たし。

 トモさんとフェルトは、まあ当然の組み合わせだろう。


『残る3姉妹をどう割るかだな』


 マリアを誰に付けるか。

 付き合いの長いクリスならマリアも少しは落ち着く気がする。

 エリスならグイグイ引っ張ってくれるだろうから気が付いたら終わっているかもね。


 俺は、どうなんだろう?

 不安そうな様子も見せていたからな。

 主催者である俺と組めば、そのあたりも少しはマシになるかもしれない。

 そんな風に考えるのは自惚れすぎだろうか。


 ただ、マリアは御褒美のために頑張る姿勢を見せていた。

 そう考えると奮闘してくれそうな気はするけれど……


『気合いの入りすぎで暴走する恐れもあるってことだよな』


 そうなると面倒なことになりそうだ。

 回避推奨なのは間違いないだろう。


 かといって明確に避けるようなことをするのも気が引ける。

 それはそれで変に誤解されそうだしな。

 実に悩ましい。


 どの選択が正解なのか。

 こういう時は悩めば悩むほど後で「あの時、ああしとけば良かった」なんてことになる。


『どうせならマリア本人に決めさせるか』


 そう思ったのだが、それはできなかった。

 立ったまま気を失っていたからである。


読んでくれてありがとう。

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