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1045 夜のイベントと謎?

 幻影魔法が消えていく。

 完全に消えるまでの間に字幕を流したのでひな壇から降りようとする者はいない。


[お待たせしました。

 これより次のイベントが始まります。

 席に座ったまま、しばらくお待ちください]


 こんな感じの字幕だった。

 ザワザワした感じはあるが、それは期待感の表れだろう。


「何が始まるのかなぁ」


「楽しみー」


 妖精組の反応が素直で可愛い。


「ワクワク、ワクワク」


 口でワクワク言ってるのもいるけど。

 そういや、昔のアニメにそんなキャラがいたような気がする。


「まさかのパレード2周目とか?」


「アハハ、それはないよー」


 確かにそんな真似をするつもりはない。


『一発ギャグにもならんだろ』


 仮にそれを実行した場合のリスクが大きすぎる。

 盛大に滑るのは目に見えているからな。


 しかも滑るとするなら最初の段階だ。

 後は山車の行進が続く間中ずっと白けた空気が漂うことだろう。

 ひたすら寒々しい雰囲気に耐え続けなければならんとか拷問に等しいっての。


 まあ、分かっていて冗談を言っているのだろう。

 何が来るかなど皆も分かっているはずだ。


 そして、ヒュゥルルルルという竹笛の音が聞こえてきた。


「「「「「キタ──────────ッ!!」」」」」


 空気をビリビリと震わせるような歓声が沸き起こった。


『うおっ!?』


 誰もが待ちかねたと言わんばかりに瞳を輝かせている。

 俺は耳が痺れるかと思ったけどな。

 みんな加減というものを知らない。


『困ったものだ』


 苦笑を禁じ得ない。

 ノエルも困ったような顔をして俺を見てきた。


 文句を言いたくても言えないと目で語っている。

 祭り気分に水を差したくないのだろう。


『ひな壇に減音の結界を展開させておくべきだったな』


 そう思いながらも前方の上空を指差す。

 見そびれるぞと目で合図した。

 ノエルは素直に頷いて俺の指差す方を見上げるが表情は曇り気味だ。


 そのタイミングで笛の音が揺らめく光跡と共に天へと駆け上りきっていた。

 そして、一瞬の静寂。


 ドォ───ンという破裂音があたりに響き渡った。

 夜空に光の花が咲き誇る。

 そう、打ち上げ花火だ。


 今回はカウントダウンなしで少しばかり皆の不意を突いてみた。

 先程の叫びっぷりからするとカウントダウンはない方が正解だったと言えそうだ。


 花火はこれで2回目だというのに前よりも熱狂していないだろうか?

 少なくとも初物を見た時の驚きなどは無いはずなのに。


『何故だ?』


 前の花火が好評だったことを考えると期待が膨らむのも分からなくはないが。

 やはり待っている間に前回の記憶を反芻していたのかもしれない。


 要するに無意識のうちに煽ってしまった訳だ。

 狙い通りではあるのだが予想以上でもあった。


『やり過ぎたか』


 人の心理を読むのは難しい。

 白けるよりはマシだと思うしかないだろう。


 そして、俺は肝心なことを忘れていた。


「「「「「ヒガ屋ぁ──────っ!!」」」」」


 花火と言えば掛け声だ。

 元祖のやつじゃなく、うちの国のアレンジバージョンだが。


 気にすべきことはそこではない。

 待ってましたと皆が一斉に叫んだことだ。


 またしても空気が震えていた。

 耳が痺れるかのようだ。


『もうちょっとボリュームを絞れないかね』


 内心で苦言を呈した。

 ノエルも同意見のようだ。

 前を向いたままだが、勘弁してほしいとその表情が語っている。


 するとフワッとした感覚が周囲を包み込んだ。


『なにっ!?』


 俺とノエルは同時に横を向き顔を見合わせた。


「違う」


「俺も違う」


 互いに自分の仕業ではないと告白し合った。


「何がー?」


 膝の上に座るマリカが聞いてきた。

 どうやら減音の結界が展開されたことに気付いていないようだ。

 周囲を見渡せば他の皆も変化には気付いていない。


 光の余韻が消え、次の光の奇跡が天へと昇る。

 竹笛の音は聞こえてこなかった。


 が、これは結界の作用ではない。

 2発目の打ち上げだからだ。

 次に笛の音が聞こえるのは5発目の時である。


 そしてドォ───ンという破裂音が聞こえてきた。

 減音の結界は作用していない。


「「「「「ヒガ屋ぁ──────っ!」」」」」


 皆の掛け声だけが少しトーンダウンしていた。


『これは……』


 誰にも気付かれずにひな壇すべてを結界で覆う時点で誰の仕業か気付くべきだった。

 ルディア様ですら気付いていなかったというのに。

 西方で魔法神と呼ばれるほど魔法に精通しているはずのフェム様も同様だったし。


 この時、俺はてっきりノエルだと思ってしまった。

 ノエルは逆に俺だと思ったようだけど。


 どうやら認識阻害の魔法を使われたようだ。

 確認してみればレジストに失敗したというログが残っている。

 こんなことができるのは1人しかいない。


『ベリルママだ!』


 俺とノエルが同時にそちらを見た。

 どうやらノエルも同じ答えを導き出したようだ。


 ベリルママはチラリと横目で俺たちを見た。

 でも、何も語らない。

 かわりにニッコリと微笑んだ。


 ここで騒ぎ立てるのは無粋だと言いたいのだろう。

 そしてベリルママは笑みを浮かべたまま先程の俺がしたように斜め前方の天を指差した。

 今はイベントに集中しようというメッセージだ。


 それを無碍にすることなどできない。

 ただ、それでも感謝の意を伝えたいと思ったのは自然なことだろう。

 誰にも気付かれないようにすれば問題はあるまい。


[ありがとう、ベリルママ]


 俺は脳内スマホでメッセージを送った。


[どういたしまして]


 すぐに返信があった俺は、今度こそ花火に集中しようと思ったのだが。


『おやおや』


 ノエルがモジモジしたままである。

 YLNTな紳士たちが悶絶しそうな可愛さがあった。


 俺と同じようにベリルママにお礼を言いたいようだ。

 でも、周囲のことを考えると言い出せずにいるといったところだろう。

 今度は普通のスマホを使う。


[お礼のメッセージを送信したら、どういたしましてだって]


 目を見開いて俺の方を見てくるノエル。

 その瞳は「天才?」と言いたげに見えた。


『どこがだよ』


 思わず苦笑が漏れそうになる。

 誰だって思いつきそうなことだからな。

 ノエルが思いつかなかったのは心の中に焦りがあったからだろう。


[私もお礼のメッセージを送る]


[そうするといい]


 その後、すぐにノエルはスッキリした表情になっていた。

 どうやら無事にお礼のメッセージを送信できたようだ。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 その後も邪魔にならないようにチャットアプリを使ってノエルと会話する。


[それにしても、みんなはよく平気だったよな]


[同感]


 ノエルも同じ気持ちのようだ。


[もしかして……]


[何か思い当たる節でもあるのか?]


[耳栓をしてたとか]


 それは想像だにしなかった。

 何故なら、そんな仕草をしているようには見えなかったからだ。


[どうだろう]


 1人や2人なら見逃しもするかもしれない。

 だが、全員となれば考えにくくなってくる。

 俺もノエルも、そこまでの状態を見逃す訳はないのだから。


 そして俺たちだけ除け者にされる理由が分からない。

 何か見落としているのではないだろうか。

 そんな風に考える間にも、ヒュゥルルルルという竹笛の音が聞こえてきた。


『5発目か』


 ドォ───ンという破裂音が聞こえてきた。

 更にパァ──ッという小さめの破裂音が続く。


「「「「「おおーっ!」」」」」


 皆のどよめきが聞こえてきた。

 一度、大きめの光の花が咲いた後に小さいのが幾つも咲くという変則型の花火だ。


 次々に打ち上げて派手にやる花火大会なんかだと使いづらいタイプである。

 単発で打ち上げてじっくり観賞するからこそ変則型も見ていられる訳で。


[やっぱり違うかも]


 今の花火を見て何か違和感を感じたのだろう。

 ノエルが前言を撤回した。


[方向性は悪くないと思う]


[ハル兄?]


[耳栓ではないかもしれないが、それに似た効果の何かをしているとしたら?]


[風魔法で遮断するのは誰もしていない]


 真っ先に思い浮かぶのはそれだ。

 俺も今までよく使ってきた手だからな。


 ふと、クリスと始めて出会った時のことを思い出した。

 盗賊の襲撃を受けている途中で魔物に襲われていたんだよな。

 それを撃退してハマーたちと内密の話をする時に使ったのが初めてだったか。


『まあ、魔法に精通していれば簡単に見破れるけどな』


 という訳で風魔法による遮断ではない。


[他の分かりづらい方法だろう]


[風魔法でないなら治癒魔法で常に回復させているとか?]


 なかなか面白い発想だ。

 が、現実的とは言い難い。

 耳を痛めることを前提にした発想だからな。


 痛めては回復を繰り返すなんてナンセンスだ。

 それに治癒魔法の常時展開は魔力消費だって大きいはず。

 無駄が多いと言わざるを得ない。


 そんなことをするくらいなら身体強化して防御力を上げておいた方がマシである。

 耳を痛めることなく普通にあの大きな歓声を聞くことができるだろうからな。


『あ……』


 それだ、身体強化だ。

 当たり前すぎて気付かなかった。

 自分が情けなくなったよ。


読んでくれてありがとう。

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