1044 予定は未定なんだけど……
第3陣以降の山車も元日本人組には馴染みのあるものだった。
まあ、日本全国の祭りを参考にしたからね。
パクったとも言う。
異世界に著作権はありませんってね。
え? 祭りに著作権なんてないだろって?
細かなことを気にしてはいけないのだよ。
そして最後の山車が通り過ぎていく。
その頃には皆も弁当を食べ終わっていた。
メイド部隊が空になった弁当箱の回収に回ってきている。
「なかなか楽しかったわ」
ベリルママが満足そうに笑っていた。
何だか帰ってしまいそうな雰囲気があるが、まだ祭りは終わっていない。
「クライマックスはこれからですよ」
「そうなの?」
行列の最後尾が通り過ぎると幻影魔法でスクリーンが展開される。
今日の祭り会場内での出来事をダイジェスト映像として流し始めた。
画面には[次のイベントまで、しばらくお楽しみください]と字幕も流れている。
これを流さないとひな壇から降りてしまう面子も出てくるだろうし。
別にダメではないんだがね。
でも、移動したことで次のイベントを楽しめないなんてことも無いとは言えないし。
どうせなら皆で一緒に楽しむのがいいだろう。
「こういう趣向があったのね」
そう言いながら興味深げに見入っているベリルママである。
自分たちが遭遇しなかった面々の様子が見られるのが嬉しいようだ。
「あ、これはクライマックスまでのつなぎです」
「そうなの?」
「山車の移動に時間がかかりますからね」
「そういうことね」
うんうんと頷くベリルママ。
「でも、それだと向こうのひな壇の子たちは動画がほとんど見られないわ」
納得しながらも皆のことを気にしている。
「今日は見られませんね」
「後日に対応する訳ね」
「はい、そろそろ開局してみようかと思っています」
「動画配信じゃなくてテレビ放映するの?」
「まだ計画段階なので未定に等しい予定ですが」
「面白そうね」
「最初から、そんなに番組はないですよ」
建物は俺が建てても製作スタッフは国民だし。
手探り状態で始めるから失敗も多いと思う。
「それもそうね。
放映時間も短めにして始めるのかしら」
「そうですね。
最初は週1回の短時間で始めるつもりです」
「あら、ノンビリさんね」
もう少し多いと思っていたのだろう。
「ラジオもやろうと考えているので」
「そういうことね」
ちょっと意地悪な感じの笑みを浮かべるベリルママ。
「過保護なんだからぁ。
皆の負担を減らすつもりなんでしょう?」
お見通しだと言わんばかりである。
過保護に関しては似たもの同士だと思うのだが。
親子だけに。
まあ、余計なことは言わないに限る。
でないと[過保護王]の称号で弄られかねない。
そんな称号持ってるのは俺くらいだろうし。
少なくともベリルママは持ってないはず。
一方的にからかわれる未来が見える気がする。
「減るとは限りませんけどね」
「あら、そうなの?」
「番組MCの負担は大きいですよ」
俺の返事にベリルママは一瞬だがキョトンとした表情になった。
すぐに納得したと言わんばかりの笑みになったけどね。
「映像がないから表現力が問われるのね」
「そういうことです」
「やっぱり過保護なんじゃな~い」
フフフと笑いながら言われてしまった。
「どうしてですかっ!?」
意味不明である。
俺としては皆を鍛えるために考えたことなのに。
『解せぬ』
「ラジオ番組で皆を鍛えてって考えてるんでしょ」
「はい」
読まれている。
さすがはベリルママだ。
だが、それが過保護だというのは納得しかねる。
獅子は愛情深いが故に我が子を千尋の谷に突き落とす的なことを考えているのだろうか。
だとしても、やはり首を縦に振ることはできない。
「ラジオなら指導者には事欠かないわよね~」
再び意地悪さんな笑みを浮かべるベリルママだ。
「……………」
何もかもお見通しと言われているようで冷や汗が出るばかりだ。
実際、俺の計画は完全に見抜かれているはず。
これでは反論などできない。
そんなことをしようものならカウンターで反論返しされることだろう。
「プロのMCがいるんですもの」
『やっぱり』
思った通り見抜かれていた。
反論しなかったのは正解だったと言える。
「ねっ、トモくん」
俺が安堵している間に依頼予定のトモさんに話を振るベリルママ。
『油断も隙もあったもんじゃないな』
そう思いながらもベリルママの読みが空振ったことを確信する。
「えっと、何でしょう?」
呼びかけられたトモさんが首を捻る。
「あ、まだオファーしてません」
話がややこしくなる前にベリルママをまず止めにかかる。
「あらら」
テヘペロで早とちりを誤魔化すベリルママ。
反則だと言いたくなるくらい若さを感じさせる仕草だった。
『それが似合うから……』
また反則だ。
普段は大人っぽい雰囲気なのに、こういう時はガラッと変わる。
我が母ながら年齢を感じさせない不思議な人だ。
「ハルさん、オファーって?」
トモさんが聞いてきた。
当然の疑問だろう。
ずっと祭りの動画を見ていたトモさんには何のことかサッパリだもんな。
そんな訳で俺の計画を聞かせた。
まあ、詳細ではなく概要だけだがね。
「──という訳だ」
斯く斯く然々で説明すると、ようやく納得がいったように頷いていた。
「それでオファーかぁ」
軽く考え込むような仕草をするトモさん。
即断即決とはいかないようだ。
「もちろん断ってくれても構わない」
指導するようなガラじゃないとか言われることも想定している。
「いや、やってみるよ」
スッキリした表情でトモさんは受けると言ってくれた。
「先輩がいない世界だし」
『なるほど、そういうことか』
これが日本であれば自分より教えることに適した人がいくらでも居ると言いたい訳だ。
トモさんの好きな岩塚群青さんも指導者として活躍しているしな。
日本にいた頃に何かのテレビ番組で指導中の群青さんを見たことがある。
リスペクトしている大先輩が指導しているなら自分の出番はないって考えなんだと思う。
「こちらで経験を積めば日本でも何かの形で役立てられそうだ」
なかなかアグレッシブである。
だからこそ色々な先輩に目をかけてもらえるのだと思う。
もちろん、それ以外の理由もあるけどさ。
「まあ、予定は未定だし今日から始めることじゃないからね」
「オーケー、オーケー、了解だよ」
上機嫌で返事をするトモさん。
『あれはもう既にスイッチが入った状態だな』
幻影魔法で流している動画に視線を戻しはしたものの違うものを見据えている雰囲気だ。
俺が動かなければトモさんが計画を引き継ぎたいとか言ってきそうである。
『それでも構わない気はするな』
ただ、そうなった場合は取り残された感を味わうことになりそうだ。
皆で一緒にやるのがベストだと思う。
「それで年内に始められるの?」
トモさんとの会話が途切れたところでベリルママが聞いてきた。
本当にせっかちさんだ。
『それだけ楽しみにしてくれているんだろうけど』
「事業計画を実行に移せても放映開始は何時になるか断言できませんよ」
「人材育成の問題ね」
「そういうことです」
適性があるかどうかと言うべきか。
その結果、想定よりも早い時期にテレビ放映を開始できるかもしれないしな。
こういう場合はタイムスケジュールより遅れることが普通なんだけど。
「それじゃあ仕方ないわね」
ベリルママは納得したようにそう言った。
だというのに落胆の溜め息が幾つも聞こえてきたのは何なのか。
それらの主は亜神たちである。
エヴェさんとアフさん、そしてリオス様。
委員長気質なルディア様とフェム様はそんな3人をジロリと睨むだけだ。
ちなみに遺影の中のラソル様は声を殺して笑っている。
皆が叱られそうになっているのがツボにはまったらしい。
「どうして、そんなバレバレのドジを踏むかな」
とか言いそうである。
罰としてお喋り厳禁を言い渡されているので何も言えないんだけどね。
こういう時のラソル様は大人しい。
『普段は空気を読まないのに、こういう時だけ読んでくるよな』
イタズラの隙を覗うために敏感に空気を読むことを続けた結果なんだろう。
結果的に修行を積んだ状態になっている訳だ。
問題なのは、その成果をイタズラ以外では使わないことである。
今はイタズラをしていないが、これは次のイタズラのための布石だ。
皆に隙を生じさせるために大人しくしているに過ぎない。
『こういうところでメリハリのある行動をされてもな』
フルタイムでイタズラされるよりはマシだがね。
まあ、その状態になったらさすがにルディア様たちも油断せず捕まえるとは思うが。
いずれにせよ迷惑な話である。
「まあ、遅くても年度内には何かの形になるようにはしたいですね」
「ラジオ番組だけでも先に始めるとかかしら?」
「あるいは収録番組の放送にするかです」
NGを出しても撮り直しができるのが強みだ。
情報番組とかは、そういうのに向いている。
料理の番組も生番組にするとミスった時が怖いし収録向きだ。
「あら、順調なら生番組にするの?」
「はい」
できれば放映第1回は生番組にしたい。
まあ、1回目が失敗したとき用に保険は掛けるけどね。
2回目以降から当面は生番組でなくてもいいようにさ。
「収録番組を撮りためてからですけど」
一度、失敗した後の生番組はかなり怖いと思う。
編集できない無様な映像が皆の記憶に残るのだ。
場合によっては最大級の黒歴史となるだろう。
そこまでトラウマを受け付けられると負のスパイラルに陥りかねない。
たとえそれが数分で終わるニュース番組だとしてもね。
噛みまくって何を言っているのかサッパリ分からないニュースなんて見たくないだろ?
読んでくれてありがとう。