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1043 ひな壇で夕食を楽しみながら?

 各々が「いただきます」を言う声が聞こえてくる。

 そして弁当の蓋が開けられていく。

 皆がパアッと笑顔になった。


『おいおい、先に開けた面子の弁当を見てるだろうに』


 もしかすると無意識に視線を外していたのだろうか。

 見たら食べたくなって我慢できなくなるとかの理由で。


「うわぁー、ふっくらハンバーグだー」


「お弁当用に可愛いサイズだよ~」


「おいしそぉ!」


「鶏の唐揚げもあるぅ」


「こっちはナポリタンだぁ」


「御飯は小さいおにぎりだね」


「カラフルな振り掛けのがあるよ」


「こっちは梅干しとノリだ」


「赤いのはチキンライスかな」


「黄色いのはカレーみたい」


「ねえねえ、野菜が凄いよっ!」


「えー、どこがー?」


「普通だよぉ?」


「ほらっ、見てよ。

 キュウリの上に刺さっている爪楊枝を引っ張ったら」


 そう言いながら実演してみせる妖精組。


「「「「「わぁーっ」」」」」


「バネみたーい」


「ビヨンビヨンだー」


 螺旋状に切っただけだが、魔法でやっているので間隔は極めて薄い。


「それから葉物野菜の下に人参やカボチャの花があるんだよ」


「「「「「ホントだ!」」」」」


 そんな妖精組の歓声が聞こえてきた。

 とにかく大興奮状態である。


『些か精緻に作りすぎたか』


 皆を喜ばせようとし過ぎた。

 興奮のあまり事故とかになるのは本意ではない。


 かといってデバフを使うのも興ざめだ。

 少々のことでは興奮は収まらないだろうし。

 強めにデバフをかけて調整をしくじるとお通夜状態になりかねない。


 実に面倒な状況だ。

 そんな風にどうしようか決めあぐねている時のことであった。


「あ、聞こえた」


 そんな風にポツリと漏らしたのは神官ちゃんであった。

 確かにピーヒャラ、ドンドンという賑やかな笛や太鼓の音が聞こえてくる。


 道の奥の方からスッと陽炎のように山車が現れた。

 このあたりは魔法による演出である。


 ある程度まで近づいてから見えた方が、ヤキモキさせられずに済みそうだし。

 そっちの方がいいという意見もあるだろうけどね。


 ただ、今回の場合は弁当を食べている最中だからこうした訳だ。

 ずっと弁当に手をつけずに見っぱなしなんてこともあり得るからさ。


「風変わりな……馬車?」


「「「「「ブフッ」」」」」


 何も口に入れていない状態だから良かったものの……

 シーニュさんは表現が独特である。

 俺だけじゃなく何人もが吹き出していた。


「ハッハッハ、知らんねやったら無理ないんとちゃいますか」


 エヴェさんがそんなことを言いながらも声を出して笑っている。

 フェム様がエヴェさんを睨みつけると笑うのが止まったけど。


『さすが委員長っぽいなぁ』


 などと感心しながらもシーニュにフォローを入れるべく俺は口を開いた。


「あれは山車というものだ」


「ダシ?」


 不思議そうに首を傾げながら聞いてくる。


「飾り付けをした動く櫓のようなものだな。

 祭りの時に、ああやって音楽を奏でながら練り歩く。

 ぶっちゃけて言うならパレードを豪華にするためのものだ」


「おー」


 妙に感心した様子で俺の説明に聞き入っていたシーニュは山車の方を熱心に見ていた。

 完全に弁当を食べる手が止まっている。

 あれでは食べろと言っても無駄だろう。


『間隔を開けて回らせて正解だったな』


 山車は幾つも引かせているが、俺たちの目の前を通っているのは1台きりだ。

 次から次へと続くと食べる暇がなくなってしまうからな。


 微妙だと言わせないように自動人形を大量投入して一緒に歩かせている。

 第1陣の山車が行き過ぎてからしばし。

 まだ、行列は続いているがシーニュがこちらを向いた。


「お?」


「楽しい」


 わざわざ報告してくれるとは律儀なことである。


「そうか、何よりだ」


 笑みを向けられたので俺も笑みで返す。


「あとな」


 俺が言葉を続けようとすると不思議そうな顔をされた。

 まだ何かあるのだろうかという好奇心に満ちた瞳の輝きがある。


「第2陣が来るぞ。

 今のうちに弁当は食っておけ」


「まだ来る?」


「当然だ、あれで終わってはひな壇を組んだ意味がない」


 なんて偉そうなことを言ってるが、俺だって弁当は手付かずに近い。


「ほれほれ」


 促しながら俺も食べ始めた。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 第2陣の山車は少し趣向を変えている。

 巨大な灯籠をイメージしたものだ。


 ぶっちゃけ東北地方で七夕の頃に見られるアレだったりする。

 光源は言うまでもなくマルチライトの魔法だ。


 やがて音楽が聞こえ始める。

 今度のは三味線などの楽器も増やしたし先程よりも賑やかだ。


「「「初代グランダムのテーマ!」」」


 さすがは元日本人組。

 反応が早い。


『イントロクイズじゃないんですがね』


 とにかく拍手喝采で喜んでいる。

 膝の上に弁当がなかったらスタンディングオベーションになっていただろう。

 俺は元からネタが分かっているので食事を続けながら普通に見ている。


「「「キタ──────────ッ!!」」」


 通りの奥の方から現れた巨大灯籠が歓喜の声で迎えられた。

 ただし、やたら興奮しているのは日本人組だけ。


 他の面子もグランダムのジオラマ風灯籠であるのは理解してはいるみたいだけど。

 まだまだグランダムの魅力を伝えきれていないようだ。


『もっと布教せねば』


 押しつけにならないようにするのが難しいけどな。


「ジェットスラロームアタックのシーンを再現とはっ」


 トモさんが箸を握りしめて喜んでいる。


「ハルさんは分かっているね!」


 箸を握った手でサムズアップしてくるトモさん。


「ゲンブファーの無双シーンの方が良くなかったかい?」


「それも捨てがたいかな。

 でも、シーンの再現ではこちらの方が絵になると思うよ」


 言われてみればそうかもしれない。

 一方的な展開を再現する時は、よほど頑張らないとジオラマとして見栄えしないし。


「なるほど」


 俺が納得して頷いた時には、トモさんはすでに灯籠の方に夢中になっていた。

 返事が空振りした気分だが仕方あるまい。

 それにミズキが話し掛けたそうにしている。


「気に入ったのか?」


 ミズキもグランダムファンだったからな。

 ネガティブな意見がなければ俺の狙いは成功したと言える。

 ただし、不安材料があるので内心ではかなりドキドキしていた。


『審判は如何に?』


「厳選したのがよく分かる渋いチョイスだね、ハルくん」


 これはもうベタ褒めと言って良いのではないだろうか。


「そうか?」


「そうよ」


 ミズキさんは自信満々である。

 作った俺の中では絵面的に微妙なんだが。


『灯籠に黒色系の機体を選択したのはミスったな』


 光り方がどうしても地味な感じになってしまうのだ。

 作ったのは昼間だったために夜間に光らせた時の具合を確認しそびれていたのだ。


 そこまで計算に入れてなかったのは我ながら間抜けである。

 まあ、主役であるグランダムが引き立つとも言えるんだけど。


『敵役あってこその主役だしなぁ』


 とはいえ俺の評価はもうひとつ。

 ミズキたちは逆にテンションが上がっているようだったがね。


 現に気持ちが高ぶったであろうマイカが──


「分かってるじゃない!」


 とか言いながら箸で俺を差してきたくらいだ。


「コラ、箸を人に突き付けるんじゃない」


「へーい」


 不服そうな返事の仕方だったが特に不機嫌になったりはしていないようだ。


「ハル兄」


 ノエルに呼びかけられた。


「どうした?」


「楽器のチョイスが微妙」


「うっ」


 急所を突かれた気分だ。


「やっぱり、そう思うか?」


 恐る恐る聞いてみた。


「ん、このシーンに三味線は違和感がある」


 即答である。

 そしてノエルの指摘は的確だ。

 俺もそう思うしな。


 楽器を変更しなかったのは横着と言わざるを得ない。

 つい自信のあるやつでアレンジしてお茶を濁してしまったのが真相である。


 洋物の楽器はモノはあっても自分で演奏することなど、ほぼなかったからね。

 和楽器に馴染みがあるのは祖父母の趣味が影響している。

 故にこういうことになった訳だ。


 今は反省している。

 多少は後悔もしているくらいだからな。


 面倒くさがると碌なことがないパターンの典型だろう。


『俺も学校に行くか』


 あまり意味はない。

 誰が洋楽器の演奏を教えてくれるのかって話になるからだ。


「まあ、次の機会までには何とかしよう」


 とりあえず【多重思考】でもう1人の俺を何人か呼び出して専任させる。


『すまぬ、俺。

 そういう訳で各ジャンルの楽器をマスターせねばならん』


『『『『『しゃーねーなー』』』』』


 後日、確認すると上級スキルの【楽器演奏】が熟練度MAXになっていた。

 スキルの種は本当に仕事をしてくれる。

 普通はこんな短期間に神業レベルになったりはしないからな。

 ありがたいことだ。


読んでくれてありがとう。

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