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1042 つくってあった『試作型弁当箱』

「「報告しまっす!」」


 手を挙げてそう言ったのはアンネとベリーだ。

 その手にはオペラグラスがあった。


「接近者はメイド部隊。

 繰り返す、接近者はメイド部隊」


 アンネの報告の仕方が普段の喋り方とは異なっていた。

 何らかの動画に影響されたみたいだ。


「箱状のものをバスケットから取り出して座っている人に手渡しています」


 ベリーが続けて何をしているかを報告している。


「「以上、報告終わり」」


 そして敬礼する2人。

 ドヤァな感じで、やり遂げた顔をしている。


『どこで覚えてきたんだか』


 まあ、間違いなく動画なんだけどさ。


「箱状のものは重箱と思われます」


 メイド部隊の方へ手をかざしながらクリスが報告してきた。


「「っ!?」」


 ドヤッていたアンネとベリーが愕然としている。

 クリスがオペラグラスも使わずに自分たちより詳細を報告したからだろう。

 何故と信じられないの双方がない交ぜになって両者の顔に張り付いていた。


「1段だけのようですが、確かに重箱のようなデザインですね」


 クリスと同じように手をかざしながらフォローするマリア。

 それを見て更にショックを受けているアンネとベリー。

 これがマンガならガーンという書き文字が背後に大きく書かれそうだ。


「その上には小ぶりな水筒もあるわね」


 更にはエリスまで。

 アンネとベリーは真っ白になっていた。

 チーンというお鈴の音が聞こえてきそうな雰囲気すらある。


 だが、すぐに復活した。


「「なんでですかぁ?」」


 2人そろって3姉妹に詰め寄っていた。

 ただし泣きそうな顔をして。


『まあ、気持ちは分からんではないけどな』


 道具に頼ってドヤッていたら手ぶらの3姉妹に上を行かれてしまったのだから。

 3姉妹たちは苦笑することしきりだ。


 そしてエリスが2人の前に手をかざす。


「「あっ!」」


『カラクリが分かったようだな』


 まあ、エリスがネタバレしてるんだから分からない方がおかしいのだが。

 結論から言えばやっていることは単純だ。

 魔法で高性能な望遠鏡を形成したに過ぎない。


 まず、かざした手の周囲に幻影魔法で見通す方向以外の光を遮断。

 更に手の下に水魔法と幻影魔法を交互に展開する。


 水魔法はレンズを形成するのは言うまでもないだろう。

 幻影魔法の方はレンズで拡大した像を転写し補正。

 更にレンズで拡大と繰り返すことでオペラグラスを軽く凌駕する性能を発揮した訳だ。


『一眼レフカメラに装着するようなズームレンズに匹敵する倍率で拡大するか』


 しかも幻影魔法による転写補正が光量不足をものともしない。

 地球の市販デジカメではちょっと考えられないことだ。


『幻影魔法が便利すぎる』


 便利という言葉で片付けても良いものだろうか。

 アンネやベリーを愕然とさせたのも当然だと言える。


 とにかく皆も真似をして新魔法を使い始めた。

 メールで種明かしが拡散されたようだ。


 とりあえず、この魔法はズームと名付けるとしよう。


「あのバスケットは中身が無限に湧き出すね」


 トモさんが言った。


「亜空間倉庫に直結しているんでしょう」


 フェルトが即答した。


「確かにエリスが言うように重箱の上に水筒があるな」


「では、やはり中身はそういうことでしょうか」


「だろうな」


 ツバキとカーラが重箱の中身について話し合っていた。


「お姉ちゃん、何だと思う?」


 リオンが問いかけると──


「弁当だろうな」


 レオーネは躊躇わずに答えた。


「あー、身も蓋もないわねっ」


 そこにツッコミを入れるマイカ。


「ダメだよぉ、マイカちゃん」


 それをミズキがたしなめる。

 マイカがボケ半分でツッコミを入れていることに気付いていない。


「そうは言うが事実じゃ。

 ただし、弁当には蓋も中身もないと困るがの」


 シヅカがフォローをしつつ笑った。

 上手いことを言ったと思っているのだろう。


「ううっ、もう少しボケるべきでしたか」


 しおしおと小さくなっていくレオーネ。


「そこまで言ってないわよ」


「タイミングの問題じゃな」


 マイカとシヅカが顔を見合わせる。


「「なんというボケ殺しっ」」


「充分にボケてオチをつけてるじゃないか」


 俺がツッコミを入れると皆が笑った。

 もちろんレオーネも。


 やがて俺たちのところまでメイド部隊がやって来た。

 もちろん、俺たちも弁当の配布を受ける。


「どうぞお召し上がりください」


 メイド部隊がバスケットから出した黒塗りで平らな箱を受け取った。


「はいよ」


 皆が重箱と呼んでいたものを受け取る。

 確かに重箱っぽいのだが……


「「うわっ、軽ぅーい」」


 そう言って驚いていたのはメリーとリリーの双子たちだ。


「ホントね」


 姉のリーシャも驚いている。

 というより月影の面子は全員が程度の差はあれ、その軽さに目を丸くしていた。


「重箱なのに軽い?」


 手にした重さが予想より軽いせいで首を傾げるノエル。

 もちろん中身があるので羽根のように軽いなんてことはないのだが。


 それでも以前に使った重箱のような手応えのある重量感がないことに驚いている。

 少し考え込んでから──


「魔道具でもない」


 そう言って俺の方を見た。

 何をしたのかと、その目は問いたげだ。


 想像がつかないのだろう。

 最初は軽いのは軽量化や重力系の術式を刻んだのかと思ったようだ。


 が、そうでないのは見れば分かる。

 術式なんて何処にも刻んでいないからな。


 魔道具が放つはずの微かな魔力も感知できないとなれば確実だろう。

 高度な魔道具になれば一目では見分けられないものもあるがね。


 ただ、たかが弁当箱にそこまでするのかといえば話は別だ。

 大勢に配布して最終的には廃棄することを想定しているような代物だしな。


「試験的に使い捨ての弁当箱を作ってみたんだ」


「漆が塗られてるのに?」


 ノエルが不思議そうに聞いてくる。


「塗らないと耐水性も強度もないからね。

 それと、ひとつ勘違いをしているぞ」


 艶のある黒色を見て漆と思ったようだが、それは違うのだよ。


『もうちょっと安っぽい感じに仕上げるべきだったか』


 反省点がさっそく出てしまった。


「勘違い?」


「これは漆じゃない」


 ノエルが目を見開いて驚きを表した。


 いつもより大きく開いていますって感じで、ちょっとレア感がある。


「えっ、違うの?」


「黒漆だと思ってたわよ」


 ミズキやマイカも驚いている。


「あのなぁ……」


 思わず2人をジト目で見てしまう。


「君ら【鑑定】持ってるでしょうが」


「あ、忘れてた……」


「そうだった、そうだった」


 ミズキは呆然とし、マイカはテヘペロである。


「で、何なの?」


 次の瞬間にはこの有様だし。

 マイカだけだがな。


「あのな……」


「だって鑑定して説明読むの面倒くさーい」


「……………」


 俺も面倒くさがりだから気持ちは分からんではないが。

 面と向かって堂々と言われると、微妙にイラッとする。


「これの中身は薄い紙を段ボールのように形成したものだ」


 塗装しない状態だと簡単に潰せるけどね。

 つまり、それくらい軽い訳だ。


「「「「「ええーっ!?」」」」」


 驚きの声を上げる一同。


「もちろん強度なんてないし耐水性もない。

 だから下地用の塗料を塗ってから漆風の塗料でコーティングしてある」


 わざわざ説明しないが、すべて自然に帰る素材である。


「「「「「おおーっ」」」」」


「試作品だから中身が見られない欠点はあるが」


 ここで言葉を切って皆を見渡す。

 が、俺の話を聞いている面子で不服そうにしている者はいない。


「何が入っているかというワクワク感は演出できるのではないかと思っている」


 コクコクと頷く姿があちこちで見られた。

 中には先に蓋を開けている者さえいる。


「あー、フライングー」


「ダメだよー」


「ステイ、ステイ!」


「めっ!」


「食べる時は一緒だよ」


 先に蓋を開けた者は止められてしまっていた。

 俺の近辺にいるのはベリルママや奥さんたち以外は城内組だからだろう。


 それにしてはガンフォールとかが見当たらないって?

 ガンフォールたちは元小国群のドワーフ組の方へ席を割り当てたからな。

 ブルースは同様に元奴隷組の方へ。


 俺1人じゃ全員をフォローできないんでな。

 やろうと思えば【多重思考】と自動人形を使えば可能だけど。


 それをしてしまうと苦言を呈されてしまうのだ。

 自分たちが信用できないのかと。

 特にガンフォールやハマーが口うるさい。


 そんな訳でメールで手伝ってほしい旨をお願いしている。

 とにかく城内組しか居ないような状況では普段の食堂と同じ感覚になってしまうらしい。

 皆で一緒にいただきますをするものだと思い込んでしまっている訳だ。


 普段の教育の賜物とも言えるのだが……


『今日は自由に食べて構わないんだがな』


 メイド部隊も「どうぞお召し上がりください」と手渡す時に言っていたはずなんだが。

 どうやら教育の弊害面が出てしまったようだ。


 皆で一緒に食べなければならないと思い込んでしまっている。

 後で訂正しておく必要がありそうだ。


 とりあえず今は細かい話などスルーでいいはず。


「メイドが食べていいと言ったはずだが?」


 そう俺が言うと、注意していた側の面子が「あっ!」と気付いた顔になった。


『やっぱり』


「みんな気にせず晩御飯の幕の内弁当を楽しんでくれ」


 念のために俺からもオーケーを出しておく。

 これで驚いたまま固まっていた面々も我に返ってくれた。


『やれやれ』


 反省すべき点は多々ありそうだ。


読んでくれてありがとう。

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