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1040 ナマエトイエイ

 シーザーの名前を考えるのは大変だ。

 下手をするとリーダー格のだけじゃなくなる危険性を孕んでいるからな。


 こういう時、エリーゼ様なら間違いなく誰かに丸投げしているだろう。


『俺も丸投げしたいよ』


 そこそこ気に入る程度の名前でないと恐ろしいことになる。

 良すぎると怒濤のリクエスト地獄が始まるはずだからだ。

 そして気に入らない名前は却下されるから問題外。


 何回かは失敗も許されるだろうが、あまり続くと皆に何を言われるか。

 非難地獄が待っている訳だ。


『ということは何かに因むのは危険だな』


 星とか花とか動物だと上限がある。


『だいたい全員分の名前を覚えるとか拷問に等しいっての』


 まあ、今からリクエスト地獄のことを考えても仕方がない。

 考えるべきはリーダーの名前だ。


 過剰な反応を呼び込まないようシンプルに。

 リーダー格のシーザーだからリーザーとか。


『絶対、皆からツッコミが入るな』


 あまりにシンプルすぎてバレバレのネーミングだ。

 下手をすると真面目に考える気があるのかとお叱りを受けかねない。


 だいたい名前っぽくないし。

 それなら縮めてリザにする方が、まだマシだろう。


『……………』


 これはこれで何かが違う。

 リザードマンじゃあるまいし、とか言われそうだ。


 それに何処かで聞いた名前っぽいというのもある。

 別の意味で危険な気がしてならない。


『却下だ、却下!』


 縮め方を変えてリーザならセーフだろうか。

 印象は違う気がする。


 だが、こちらも危険な気がする。

 慇懃無礼で部下には割と寛大なあの方の名前っぽい。

 頭に1文字足すだけだからな。


 元日本人組の誰かが真っ先に気付きそうだ。


『緊急回避ーっ!』


 そもそも悪役の名前に近づけるのは、どうかと思う。

 リーザー系の名前は無しとすべきだろう。


『じゃあ、逆にくっつけてシーダー』


 これもリーザーと同じで名前っぽくない。

 同じパターンで行くとシダとシーダに縮めるのだが。


『シダはないな』


 なんだか地味な植物っぽい。


「シーダ……」


 何故か残った方を無意識に呟いていた。

 自分では候補のひとつにしてもいいかなぐらいの感覚だったのだが。


「ゴロゴロ」


 本人に御機嫌で承認されてしまいましたよ。

 安直すぎやしないかと思っても後の祭りである。


『どうしてこうなった!?』


 そうは思うが本人が気に入ったというなら仕方あるまい。


「いまから、お前の名前はシーダだ」


「ゴロゴロ」


 リーダー格のシーザー改めシーダは御満悦といった表情をしている。


『これ、ヤバくね?』


 厳つい顔が更に怖くなったという意味ではない。

 シーダさん、名前がやたらと気に入った感じなんですよね。

 しかもシーザーたちは記憶の共有をしている訳で……


「ゴロゴロゴロゴロ」


 さっそく要望されてしまいましたよ。

 要望されるという事実については予想通りだったのだけれど。


 そこから先が想定外。

 提案内容は俺には理解不能であった。


 言っている意味は分かる。

 どうしてそういう選択をするのかという気持ちの上での問題だ。


「えー、マジでー……」


 だから返事もちょっとゲンナリしたものになってしまった。

 その提案は本当にどうかと思うのだ。


 ある意味、すごく助かるんだけど。

 名前の由来を考えると違和感が急浮上してくるので複雑な心境だ。


「ハル兄、なんて言ってるの?」


 ノエルが聞いてきた。

 皆も興味があるようだ。


「他の皆は名前の後に数字をつけて呼んでほしいんだと」


「この子がシーダで、他はシーダ1とかシーダ2?」


「そういうこと」


 俺の返事を受けてノエルは少し考え込み、そして頷いた。


「悪くないと思う」


 ノエルさんには好評なようだ。


『由来を知らんからなぁ』


 そう考えると無理からぬこととは言えるのだが。

 それでも名前を考えた俺からすると微妙な気持ちになってしまう。

 全員がリーダーってことになってしまうからな。


『名前の由来だけは明かさないようにしよう』


 俺は密かに誓った。

 残りの面子の名前を考えずに済んで助かるのは事実だからな。

 3桁単位で名前を考えろとか極めつけの嫌がらせだ。


『まあ、ラソル様のお仕置きリクエストにする手はあったか』


 たぶん覚えにくい変な名前ばかり用意して反撃されると思う。

 ベリルママが看過しないだろうけどね。

 それでもノラリクラリと躱し続けて有耶無耶にしそうなんだよな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ひな壇に上る。


「くーくぅ!」


 高いぞぉ! などと言いながら拳を突き上げるローズ。

 無駄にテンションを上げている。


「その分、後ろに下がっておるがな」


 冷静に返すシヅカ。


「ひな壇だから普通だよー」


 俺の膝の上でマリカがツッコミを入れる。

 ただしローズへの追撃にはなっていない。


「ゴロゴロ」


 楽しそうに笑うシーダ。


『うーむ、カオスだ』


 とりあえず放置する。


「ハル兄、皆が集まってきた」


「そうだな」


 ノエルが言うように国民たちが集まりつつある。

 実はスマホのナビで誘導されているのだ。

 各人に割り振られた番号の席があるのだよ。


「ヤホー」


「ハルくん」


 ひな壇を上がってくるマイカとミズキ。

 他の奥さんたちも続いている。


「おーい」


 トモさんもやって来た。

 もちろんフェルトも一緒だ。

 ルディア様がいないけど。


『エヴェさんと一緒に見張りに戻ったかな』


 最上段まで上がってきたトモさんに、そのあたりを聞いてみた。


「そうだね。

 交代の時間だからって言ってたよ」


「私がどうしたのだ?」


「おわっ」


 いきなりルディア様が転送魔法で跳んで来た。

 それもベリルママの席の1段下。

 すなわち俺の斜め前である。


 ひな壇の席に座っている俺と立った状態のルディア様。

 距離がやたら近いったら。


 噂をすれば影がさすとは良く言ったものだが唐突すぎる。

 驚くなと言う方が無理だ。


「脅かさないでくださいよー」


「む、すまぬ」


「だめよー、ルディアちゃん。

 せめて予告するか、エヴェさんみたいに離れた場所に跳ばないと」


「申し訳ありません」


 凜々しい侍然としたルディア様がションボリするのはレアである。

 ちょっと得した気分になった。


「見張りはいいんですか?」


「ああ、問題ない。

 今も監視中だからな」


「え?」


 意味が分からない。

 それを問おうとしたらルディア様が小脇に抱えていた額縁を正面に持ってきた。


「「「「ぶほっ!」」」」


 元日本人組が一斉に吹いた。

 どう見てもそれが遺影だったからだ。

 そして映っているのはラソル様である。


 高級感とシンプルさを兼ね備えたフレームは遺影以外に考えられない。


『なに考えてんだーっ!?』


 昔のようにモノクロではないからお通夜のような雰囲気にはならなかったが。

 意味不明すぎる。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか~」


 写真だと思ったラソル様が動きながら喋った。


「兄者は黙っていろ。

 私は動くな喋るなと言ったはずだが?」


「へ~い」


 不真面目な感じの返事をしつつもラソル様は最初の遺影モードに戻った。


「一時的に閉じこめた訳ですか」


「その通りだ。

 祭りにまったく参加させないのも厳しすぎるかと思ってな」


「甘くないですかー?」


 マイカが不服そうに口を尖らせながら聞いた。


「そうは思うが、せっかくの祭りだ。

 中には兄者を除け者にしたことを気にする者も出そうだったのでな」


『あー、そういうことかー』


 いかに不満を抱いていようと、部分的には同情できるなんてことは充分に考えられる。


 該当する人物に心当たりのある俺はチラリとミズキを見た。

 マイカも見ている。

 見られていることに気付いたミズキは小さく頷いた。


『まあ、しょうがないか』


 そのあたりは個人の性格の問題でもある。

 故に他にも何人かは同じように感じているだろう。


「心の底から楽しめぬのは悔いが残ろう」


「確かにそうですね」


 俺はすべての国民に楽しんでほしくて秋祭りを主催したのだ。

 完璧は無理かもしれない。


 だが、それでも可能な限り皆の不満は減らしたい。

 それにラソル様にも楽しんでもらいたいと思ってるし。

 国民ではないけど身内みたいなものだからね。


 されたことに対して思うところはある。

 けれど、それはそれ、これはこれ。


 これ以上の罰は帰ってからで充分だ。

 少なくとも俺はそう思う。


読んでくれてありがとう。

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