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105 嵐を呼んでみた

改訂版です。

 転送魔法で跳んできたのは荒野のど真ん中だった。

 すぐ近くに街道があるけど他には何もない。

 思ったより地面が柔らかいような気がしたので鑑定してみたら……


[草原跡]


 辺り一帯、通過していった赤イナゴどもにやられたみたいだな。

 街側から見られている気がしたから赤イナゴの後ろ側に回ったんだけど。


 これ、近辺を草食動物が餌場にしてるなら色々と被害が出てくるぞ。

 蝗害の実態を痛感させられた思いだ。


 幸いにも根っこは残っている。

 植生魔法で草原の再生だ。

 両腰のホルスターに入ったガンセイバーを引き抜いて引き金を引いた。

 俺を中心に高速再生させた植物の成長記録のように草花の復活が広がっていく。


「あー、こりゃイタチごっこだな」


 せっかく植生魔法で草原を再生しても進行方向のが食い尽くされては意味がない。

 そんな訳で結界で赤イナゴどもの動きを止めるとしよう。


 再びガンセイバーで魔法を撃つ。

 透明なデッカい虫カゴのイメージで結界魔法を使ったのはいいのだが……


「うわー、気持ち悪ぃ」


 カゴの中にギュウギュウ詰めになった虫って思った以上にグロい。

 しかもケバケバしい赤さが如何にも毒を持ってますって感じでインパクト大だし。

 結界に封じる前の飛び回っている時の方が幾分マシに見える。


 あと、旅行に行ったときに見た佃煮を思い出しましたよ?

 焦げ茶とかが多いけど中には赤っぽいのもあったせいだと思う。

 勧めてくれた地元の人には悪いけど捕まえたりするのと違って食べるのは無理だった。


 アレを思い出して鳥肌立ったわ。

 数十万のゴブリン相手に夜通し戦う方がマシだね。


「ん、何だ?」


 街から向けられていた監視の視線が混乱してるみたいなんだが。

 ああ、結界魔法で赤イナゴの動きがが止まったからだな。

 この状況を利用して避難誘導に力を入れてくれれば助かるのだけど、そう都合良くはいかないか。

 おそらく混乱している間に終わってしまうだろう。


 個人的には身内に被害が出なきゃ何でもいい。

 とはいえ避難中の一般人に死者が出たりすれば寝覚めが悪くなる。


「それじゃ、さっさと終わらせよう」


 まずは植生魔法を被害区域全体に拡大させて……

 何もない場所にいきなり草が生えてくるのはキモいか。

 既にやらかした場所については仕方がない。

 時間は巻き戻せないし。

 ここからは何かカムフラージュが欲しいな。


「召喚魔法で嵐でも呼び寄せるか」


 サクッと召喚。

 ゴロゴロという音と共に黒雲が集まってくる。

 余裕を見て結界より二回りほど規模を大きくしておいた。

 俺のいる場所はもちろん、ブリーズの街の近くまで幅広い範囲で天を覆っていく。


 じきに雨が降り始めた。

 まだ序盤なので滝のようなという表現には一歩及ばない程度ではあるが。


 いずれ豪雨になれば視線が通らなくなるだろう。

 更には結界の中に雷を誘導して派手に赤イナゴどもを燃やせば一石二鳥。

 天変地異の前触れとか言われそうだけど、そこは仕方あるまい。

 ただ、嵐を呼ぶなら仮面ワイザー・フレイムのチョイスは微妙だったな。

 変身する忍者とかの方が良かったか。


 とにかく発動中の植生魔法に介入して一時停止状態にする。

 今更の気もするが嵐に気を取られている間に再生していくのが理想だ。

 これに連動する術式を組み込む。


 発動中の魔法に容易く上書きできるのも【魔導の神髄】スキルだからこそだ。

 【魔導の極み】スキルじゃ熟練度MAXでも不可能です。

 魔法を消滅させるくらいならできるけどね。


 続いて嵐にも手を加える。

 遅延発動だった落雷を任意発動に切り替えた。

 よくよく考えたら結界の形状も変更しないといけなかったのだ。

 結界の変形途中で落雷していたら結界に弾かれて魔力の無駄遣いになってしまう。


 結界を虫かごを模した形から縦長のコップ状に変えて、上から風魔法で押しつけておく。

 赤イナゴは1匹たりとも逃がすものか。


 そして念入りに燃やし尽くす。

 落雷で燃やし始めて炎の竜巻になるようにすれば核であるコアも含めて素材は残らないだろう。

 燃やした後は冷却のために激しい雨を降らせておくのも忘れちゃいけないな。

 術式を書き加えて脳内シミュレートさせてみる。


「………………」


 よし、問題ないな。

 消費魔力も大したことはない。

 もし、これを宿の部屋から遠隔でやろうとしていたら幾何級数的に増大していたはず。

 この距離くらいで魔力が底をつくことはないと思うけど現場に来た方が楽なのは確かだ。


 それとリモートで処理すると現場でやらかすよりドン引きされそうなんだよな。

 ルーリアはともかく月狼の友にまで。

 それなら仮面ワイザー・フレイムに変身して調子に乗っていると思われる方がマシだ。


「では、お別れの時間だ。魔物ども」


 俺は天に向けてガンセイバーの銃口を突き上げ引き金を引いた。

 直後、轟々と耳をつんざき腹に響くような雷の音が周囲を支配していく。

 雷の直撃を受けた赤イナゴなどひとたまりもない。

 必然的に毒性のある体液もまき散らされることになるが結界で止めている。


 激しく降り注ぎ始めた雨音さえかき消す轟音と視界を白く染め上げる閃光は続く。

 直に見ている監視者たちは、しばらく何も見えなくなるはずだ。


 十数発ほど落としたところで火の手が上がった。

 雨の勢いが増しているが消えないように炎の勢いを制御している。

 徐々に大きくすると、やがて渦を巻き始めた。

 火災旋風の実験映像を思い出して再現してみました、はい。

 龍が天空に昇っているようで、ちょっと感動している。


 これで結界の内側に封じられた赤イナゴどもは消し炭すら残さず消え去るだろう。

 もちろん毒の体液も。

 再生させる草花の根は結界の外側なので影響はない。


 外部に影響があるとすれば監視している者たちだろう。

 まぶしさから回復してきたところでシャレにならんくらい巨大な炎の竜巻だからなぁ。

 度肝を抜かれて唖然呆然だ。

 騒ぎ出さないだけマシだと思おう。


 炎の竜巻の激しいダンスも徐々に勢いを失っていく。

 頃合いを見計らって重ね掛けした魔法で一気に消し去った。

 激しく雨も降っているので不自然に見えたとしても誤魔化しがきく範囲だと思う。

 嵐の中で火災旋風を起こした時点で不自然以外の何ものでもないのだけど。


 とにかく目標は燃やし尽くしたので後々に影響することはないだろう。

 が、念のためにガンセイバーの引き金を引いた。

 毒を中和させる光魔法だ。

 結界解除したら周辺が汚染されましたとかシャレにならんし。


 近隣の汚染状況を確認してみたが結界内外含めて大丈夫みたいだな。

 残る問題は結界内の熱気だろう。

 火災旋風の置き土産は豪雨でも簡単には冷えてくれそうにない。


「このまま待ってられないな」


 仕方がないので強制冷却だ。

 熱気を亜空間倉庫に格納したので冷却とは微妙に違うかもしれないが。

 何にせよ結界外の気温と同じになったので再生した草花が燃え出すようなことはない。

 豪雨で地面も濡れているしな。


「さて、帰るとしますかね」


 雨で視界が悪くなっている間に退散しようってことで。

 けど、いきなり転送魔法で戻ると騒がれそうな気がする。

 その流れで赤イナゴどもを片付けたあれこれを説明させられることになると面倒だな。

 帰還する旨を伝えておけば幾分マシかもしれない。


 という訳でローズに連絡を取ることにした。

 多少の距離があるので念話ではなく脳内スマホを使う。


『もしもし、ローズさんや』


『くーぅくっ?』


 なぁーにー? って随分退屈しているんだな。

 殴ったとか切ったとかいう感触が感じられないであろう赤イナゴは興味が湧かないみたいだから無理もないけど。

 呼べば来たかもしれないが、たぶん最初から最後まで見てるだけで終わったと思う。

 バイオレンスな性格をしている割に選り好みをするローズさんである。


『これから帰るから皆に伝えといて』


『くー』


 了解、か。

 テンションの低い事務的な返答に些か不安になってしまうんですがね。

 が、俺が帰ってくることを月狼の友やルーリアに言ってくれれば終わる話なので大丈夫だろう。


 念のため少し間をおいてから跳躍する。

 更に皆が固まっている場所から少し距離を取った。

 宿の部屋が広いからできる芸当だ。


 それでも月狼の友の面々にはビクッと反応されてしまったけど。

 ノエルとルーリアが俺の方を見ただけなのでローズに連絡を入れた意味はあったと思う。


 何にせよ仮面ワイザーのままでいる訳にもいかない。

 俺は変身を解いた。


「ただいまー」


 お帰りの返事がまばらに返ってくる。

 そこから先が続かない。

 質問攻めにあうかと思っていたのだが静かなものだ。

 というより引かれているように見えるのは気のせいだろうか。


『なあ、何があったんだ?』


 念話でローズに話しかける。

 着ぐるみのドルフィンは無口なキャラで通してるから誰も話をしているとは思うまい。


『くーくぅ?』


 何がって? とか聞き返されてしまいましたよ。


『ルーリアとかリーシャたちがドン引きしてるみたいだから聞いてるんだよ』


『くっくぅくくぅくーくうくくぅくーくっくーくーくぅくっ』


 あれだけ派手にやらかして引かれない方がどうかしてるぅ、だってさ。


『それはそうだけどさ、何をどうしたとか聞いてきそうなもんじゃないか』


『くくっくっくぅくーくっくくぅくーくう』


 そういうのはツバキちゃんが解説済み~、だそうだ。

 リアルタイムで説明してたのか。

 ハリーはずっと中継していた訳だから説明役はツバキが引き受けるしかなかったのは想像に難くない。

 貧乏くじを押しつけてしまった訳だ。


 一応、アイコンタクトで詫びておく。

 ツバキは苦笑するだけで済ませてくれた。

 根に持ったりはしていないようで何よりである。


 とりあえず彼女らが座り込んでいる絨毯の上に俺も座った。


「賢者さん、お疲れ様」


「ありがとう」


 労いの言葉をかけてくれたノエルの表情が心持ち柔らかそうに見えた。

 この娘さんにしては凄い笑顔な気がする。

 こちらからも無意識に笑みが漏れるくらいですよ。


 はあー、癒やされますなぁ。


読んでくれてありがとう。

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