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1038 神官ちゃんと月影と

「カルチャーギャップが凄い」


 御褒美後のシーニュさんの感想である。

 ちょっと呆然とした面持ちだ。

 しばらく静かだったのは、そのせいだろう。


「これで普通だ」


 俺の言葉にコクコクと頷くノエルたち。


「こんなん普通やないーっ」


「そうよ、恥ずかしかったんだからっ」


 アニスとレイナは顔を真っ赤にして抗議してきた。

 だが、この場合は退けるのは難しくはない。


「照れ屋さんだなぁ」


 この一言から切り崩しにかかればいいだけだ。


「誰がやねんっ!?」


「何処がよっ!?」


 俺の白々しい感想にすかさず抗議してくる2人である。

 もちろん想定内だ。


『次の手で2人は詰むのだよ、フフフ』


「それとも、もう1回いっとくか?」


 ニッコリ笑って提案した。

 これで王手だ。


「「っ!?」」


 更に顔を赤くした2人は慌てた様子でブルブルと頭を振った。


 が、こんな風に拒絶するのも国民の目が多くあるからこそ。

 人前でなければ反応も違ったことだろう。


 照れつつも拒否らないであろうアニス。

 ツンツンしながらも最終的にはデレるレイナ。


 ただ、それだけでは終わらない。

 他の奥さんたちからもチュー要請が入るからだ。

 それを思うと「ノー」の返事は寂しくもある。


『ちょっと、からかってみるか』


 これも含めて無駄に心配させられた分のお仕置きとさせてもらおう。


 え? レイナと違ってアニスはとばっちりだって?

 そんなことはない。

 せっかち過ぎるのを戒める必要があるからな。


「何だ、嫌なのか」


 ちょっと残念そうな素振りを見せると2人がアワアワする。


「嫌やないけど……

 恥ずかしいやん!」


「そうよ、そうよっ!

 ハルトだけ恥ずかしがらないなんてズルいんだから!」


 実は俺も羞恥心ゲージが跳ね上がる諸刃の剣ではあるのだがね。

 そこは【千両役者】で誤魔化して何でもない風を装っているのだ。


 傍目には一方的にアニスとレイナがダメージを受けている風に見える。

 実際には骨を切らせて骨を断つくらいの痛み分け的な状態なんだが。


『こういうのは、より恥ずかしがった方が負けなのだ』


 たとえ後でフラッシュバックして悶絶することになってもな。

 それを考えると後が怖い気もする。


 はた目には一方的に見える我慢比べがしばし続く。

 2人は思った以上に粘っていた。


『なかなか頑張るじゃないか』


 ジリジリした感覚が己の内側から迫り上がってくる。

 割とシャレにならない恥ずかしさなんですが。

 自業自得ではあるけどね。


「くっ、降参や」


「負けたわよ……」


 2人が先に白旗を揚げてくれたので思ったほどダメージは大きくならずに済んだ。

 盛大に息を吐き出したくなるくらい安堵する。


『今度からお仕置きには自爆攻撃を使うのはよそう』


 つくづく、そう思った。

 諸刃の剣過ぎるからな。


『ただなぁ……』


 こういうのってクセになるというか何というか。

 病み付きと言うと違ってくるんだが。

 そういう感じの止めたくても止められない中毒性のようなものがある。


 何が言いたいかというと、だ。


『たぶん、またやってしまうと思うんだよ』


 ということである。

 学習能力が云々と言われると返す言葉もないけどね。


 でも、おバカな行動をされたりすると、それに付き合いたくなるんだよ。

 これはもう性分としか言い様がない。

 その時は、そういうものとして受け入れるしかないだろう。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 乗り物コーナーも一通りは見て回った。

 既に夕暮れから宵の口へと移り変わろうかという時刻である。


 夕日の赤が徐々に薄まっていく。

 秋祭りの会場も徐々に照明を灯し始めていた。


 照明はオンオフでパッと明るくなるタイプではないので夕日の雰囲気を損なわない。

 周囲の明るさに応じて照明の強さだけでなく色調も変わるようにしているからね。


 そのせいだろうか。

 皆が足を止めてしばし見入っていた。


「幻想的……」


 シーニュが呟いた。


「気に入ってもらえたようで何よりだ」


 ピタリとシーニュの動きが止まった。


「お、どうした?」


「この照明も陛下が?」


『おっ』


 俺の呼び方がヒガ陛下から陛下になっている。

 些細なことだが、ちょっと嬉しくなった。

 シーニュがそれだけ馴染んできたと思えたからだ。


「そうだぞ」


「魔道具職人としても超一流」


 驚きと感動が、ない交ぜになったような表情の神官ちゃんである。


「なんやー、知らんかったんかいな、シーニュはん」


 意外だと言わんばかりに目を見開いてアニスが話し掛けた。


「何が?」


 首を傾げて問い返すシーニュ。


「何がって聞きたいんはこっちやで。

 ここの設備、他の誰かが用意したと思とったん?」


 更に問い返すアニス。

 シーニュはコクコクと頷いた。


 月影の一同が──


「「「「「あー……」」」」」


 と困ったような表情で納得していた。


「そう言えば説明してなかったわね」


 とレイナ。


「「設備の説明はしたけどねっ」」


 メリーとリリーが苦笑する。


「誰が用意したかは言ってないだろう」


 姉のリーシャが指摘した。


「そうですねー」


 ダニエラがそれに同意する。

 既に妙なテンションからは脱している様子だ。


 そして2人の指摘に笑って誤魔化す双子ちゃんたち。


 そんなやり取りを見てシーニュは困惑の色を濃くする。

 頭上には特大の「?」が浮かんでいた。


 それを見たルーリアが──


「すまないな」


 謝りながら軽く頭を下げた。


「気にしていない。

 むしろ感謝している」


 今度はシーニュが頭を下げた。


「どういうことだろうか?」


 感謝の意味が分からずに困ったような顔でルーリアが問う。


「今日は色々と教えてもらった」


「ああ、そういう……」


 納得がいったと頷くルーリア。


「「それこそ気にしなくていいよー」」


「ですねー」


 双子ちゃんたちとダニエラが朗らかな笑みを浮かべる。


「楽しかったで充分よ」


「せやで」


「リーシャの言う通りね」


 リーシャ、アニス、レイナの3人も笑っている。

 案内した側も楽しめていた証拠だ。

 改めて安堵する。


 気を遣わせて楽しめなかったなんてことになっていたら最上級の罪悪感に苛まれていた。

 埋め合わせなんて、そう簡単にできることじゃないし。


 シーニュにも気を遣わせてしまう。

 そうなれば負のスパイラル状態だ。

 それが怖くて、どんな様子だったかは聞けずじまいだった。


『この様子なら聞くまでもないな』


「みんな本当に親切。

 こんなに親切にされたのは久しぶり」


「くぅ~、泣かせること言うやんか」


「泣いてないじゃなーい」


 アニスの言葉にすかさずツッコミを入れるレイナ。


「そこは茶化すとことちゃうで。

 うちは真面目に話してるんやっ」


 応戦するアニス。


「なによぉ」


「なんやねん」


 バチバチと見えない火花を飛び散らし始める2人。

 そこに割り込むシーニュさん。


「おおっ、なんやの?」


「どうしたのよ?」


 驚いて互いに身を引くアニスとレイナ。


「喧嘩、良くない」


「「へ?」」


 アニスもレイナもキョトンとしていた。

 シーニュの言葉を理解するのに、しばし時間を要したからだ。

 自分たちの中では想定していない指摘をされた時の反応そのものである。


 そして理解が及ぶと反応も変わる。


「「アハハハハハハッ」」


 今回は2人そろって笑い出す結果となった。

 訳が分からないと言いたげな表情で両者を見比べるシーニュ。


「あーっ、すまんこっちゃ」


「予想外のことを言われたから」


 笑いの余韻を残しながらもシーニュに謝るアニスとレイナ。


「気にしてない」


「「そう?」」


「怒ってる訳じゃないから」


 なるほどと2人は頷いた。


「でも、不思議」


「「何が?」」


「喧嘩しているようにしか見えなかった」


「「「「「あー……」」」」」


 シーニュの言葉に2人だけでなく皆が苦笑するのであった。


読んでくれてありがとう。

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