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1028 何だったのかと言いたい

 安全確保しつつムニュンのオールレンジ攻撃から脱出する案が浮かばない。


『いいところまで来たと思ったんだが』


 あれこれ考える間に転送魔法を使った脱出を思いついたが微妙だった。

 まったく怪我をさせずにという目標がクリアできないからだ。


 重症ではないんだが怪我は怪我。

 思いついた瞬間は脱線に近いようなことを考えるのも悪くないと思いかけていたんだが。

 所詮、脱線は脱線か。


『いやいやいや、ここで諦めてはいけない』


 せっかく大怪我をさせずに済む方法を見つけたのだ。

 何か応用を利かせられないだろうか。


『頭がごっつんを回避できれば……』


 俺が抜けることで皆がぶつかる。

 ならば皆を転送するというのはどうだろう?


 ぶつからないようにバラバラにすれば、ごっつんは防げそうだ。

 ということで脳内シミュレート。


『ダメだ』


 今度はぶつかる者がいなくなることで転倒する恐れがある。

 押し付ける強さがそのまま支えを失うことで倒れ込むことになるのだ。

 それは俺が抜けるか皆が抜けるかで変わることではない。


『しかも[恍惚]状態がかなり深いからなぁ』


 皆の反応が鈍そうなのだ。

 ごっつんより大きな怪我をしかねない。


 俺が単独で転送してもダメ。

 皆をまとめて別々に転送してもダメ。


『ううむ、ままならん』


 もう少しで何とかなりそうな気がするんだが。

 転ばぬ先の杖とも言うしな。

 事前の準備が万端なら、どうにかなるだろう。


 リアルに転倒防止のために杖を用意してもダメだとは思うが。

 棒状のものなんて逆に危ない。


 危なくないようにするならクッションの類が必要だろう。

 真っ先に思いついたのは救助用のエアマットだ。

 さすがにデカすぎるがな。


『1人ひとつではなく全員で使うことを前提にすれば……』


 やはりダメだ。

 いくら倒れ込む角度を調整してもぶつからないという保証がない。


 そんなことをするくらいならバランスボールを個別に用意した方が遥かにマシだ。

 ただ、あれは反動が大きいのがネックとなる。

 そのことで怪我をしかねない。


『ならばバイク用のエアバッグだ』


 あれこれ考えている間に思い出した。

 俺も日本で使ってたんだよな。


 幸いにして作動させたことは一度もないんだけど。

 そのせいで、すっかり失念していた。


『あー、でも無理か』


 あれはヘルメット着用を前提に作られているからな。

 それ以前にどうやって装着させるのかって話もある。


 最初に気付くべきことだ。

 間抜けにも程がある。


 だが、あれこれ考えたのは無駄ではなかった。


『困ったときこそ魔法じゃないか』


 そこを失念していた。

 よほどボケていたってことだろう。

 ムニュンの威力は後々まで響くらしい。


『恐るべし、ムニュン!』


 とにかく脳内シミュレートで安全確認。

 今度こそ問題はなしだ。


 そんな訳でササッと魔法を使う。

 躊躇う理由は何もないからな。

 むしろ早く抜け出さないと怖い。


 理力魔法で俺の体表面に薄膜を展開しつつ──


『転送魔法だドン!』


 次の瞬間、俺の姿はヤエナミたちから離れた場所にあった。

 人魚組は抱きついたままの格好だ。

 理力魔法で俺の形はキープしたからな。


 とはいえ中身はない。

 ガワも透明だ。

 幻影魔法で俺の姿を投射したりはしない。

 その方が人魚組も変化に気付いてくれるだろうからな。


「「「「「あっ」」」」」


 俺の姿が消えたことに気付いたヤエナミたちの表情が一瞬で変わった。

 トロンとした目付きが普段通りの感じに戻っている。

 まるで酔いから覚めたかのようだ。


 確かめてみたら[恍惚]状態も解除されていた。


『なんじゃ、そりゃーっ!』


 内心で絶叫ツッコミである。

 そんな簡単に解除されるとは夢にも思いませんでしたよ?


 つまり、あのまま放置しても同じ結果になっていた可能性があるってことだよな。

 ビビったり必死で考えたりしたのは無意味ってことじゃないかっ。


 まさに骨折り損である。


『勘弁してくれよー』



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 結局、バンジージャンプをすることはなかった。

 あれだけ勧められていたのが嘘のようだ。


 まあ、ムニュンが勧誘であるならばだが。


 そして人魚組トップチームであるヤエナミたちは別のコーナー目指して移動していった。

 ここでも合流ならずである。


 というよりアタフタしてたからな。


「「「「「すみません、すみません、すみません!」」」」」


 [恍惚]状態が解除されたのは助かったが、これではね。

 酔っ払いがボッタクリの請求書を見せられた直後って感じになってるし。


「分かったから、もう気にするな」


「「「「「ですがっ」」」」」


「別に迷惑だなんて思っちゃいなかったさ」


「「「「「─────っ」」」」」


 にわかには信じられなかったのだろう。

 人魚組の面々が何か言いたげに俺の方をジッと見ている。


 恨みがましいのとは違うが居心地はあまりよろしくない。

 なんというか心の奥まで見通されるんじゃないかって気がするのだ。


「思った以上に積極的なのには驚いたけど」


 故に感じたことを先に白状しておく。

 感触に関しては言及しない方向で。


『あんなのゲロったら軽蔑されかねんからな』


 うちの奥さんたちに知られるのも怖い。

 問答無用でお仕置きされそうだ。

 そういう確信がある。


 俺から要求したことじゃないのに。

 理不尽だよな。

 同意してもらえないかもしれないけどさ。


『ムニュンに罪はないのだよっ!』


 力説することじゃないな。

 共感してくれる同志もいるとは思うけどさ。


 そんなことより人魚組である。

 本音を語ったはずなのに反応は芳しくない。


 よほど自分たちの行動にショックを受けているのだろう。


『まあ、どう考えても理性を失っていたからな』


 そうでなければ酔っ払いなどと評したりはしない。


「俺が驚いたことに対する詫びなら、もう充分に言ってもらったぞ」


 そう言っても納得の表情は見られない。

 露骨に反発もされなかったけど。


『もう一声ってところか』


 とはいえ彼女らを納得させる何かは思いつかない。


『俺にメリットがあると分かれば、あるいは……』


 メリットはあった。

 ムニュンによる至福の時間だ。


『あれは良いものだ』


 ツボにこだわりを見せる何処かの大佐殿のような台詞だ。

 しかしながら、これは言う訳にはいかない。


 他にメリットというと……


『ああ、もっと大事なのがあった』


「俺の方には収穫があったんだぞ」


 ドヤッとばかりに胸を反らせて言ってみる。

 人魚組には怪訝な目を向けられてしまったが……


『くっ、負けるものか』


「国民に慕われていることが分かったからな」


 先程よりドヤ顔を割り増しにして言ってみた。


『当社比3割増しでございます』


 アホなことを考えている場合ではない。

 とにかく、あのやらかいオールレンジ攻撃を受けている状況に嫌悪感はなかった。

 いくら理性のタガが外れた状態だったとはいえ、見境なくあんな真似はしないだろう。


 あれで嫌われていると思うなら相当の天の邪鬼だ。

 もしくは女性恐怖症とか。


 そういう気持ちの部分は人魚組にも分かったのだろう。

 俺の言葉を受けて人魚組から必死な感じが薄れていった。


 しかしながら安堵した雰囲気にはまだ遠い。


「罰を与えんと納得できんか?」


「「「「「っ!」」」」」


 返事らしい者はなかったが、明確な反応があった。

 どうやら罰を受ければ納得するらしい。

 なんと自責的なことか。


 こういう謙虚なところがラソル様にもあればと思う今日この頃である。

 そっちは無駄だとは分かっちゃいるんだがね。

 思うだけならタダだろう?


 とにかく、ちゃんと反省する良い子は嫌いじゃない。

 必要以上に反省して罰を求めるのは感心しないけどな。


『俺としては罰なんて不要だと思うんだがなぁ』


 それで引き下がってくれるなら、それもまた一手ではある。


「いますぐ考えるのは面倒だから後で通達する。

 どのみち今日ではないぞ。

 今日は秋祭りで遊ぶ日だからな。

 これを無視しようという者には重い罰を与えねばならない」


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。


『そんなに緊張されてもなぁ』


 芸人が熱湯風呂の前で「絶対に押すなよ!」と言っているようにしか見えない。


「足の裏を1時間ほどくすぐり続けるとか……」


 彼女らにとっての罰の定番がこれなので言ってみたのだが。


「「「「「─────っ!?」」」」」


 見事に固まってくれた。

 ドルフィーネにとって人化したときの足の裏は敏感な場所なんだそうだ。


「なんだったら3時間に増やそうか?」


「「「「「───────────────っ!?」」」」」


 ブルブルと高速で頭を振る一同。


「だったら今日は罰のことを忘れて遊んでくること」


 そう言うとコクコクと必死な感じで頷いていた。


読んでくれてありがとう。

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