1025 人魚組の様子が……
主催者としてルディア様たちには感謝するばかりだ。
感謝状ものである。
「よく短時間で事態を収拾させられたなと改めて思いましたよ」
「そうね、後で御褒美をあげなくちゃ」
ベリルママはそう言うけど、ルディア様は固辞しそうな気がする。
ぎりぎりで感謝状ってところだろう。
『生真面目な人だからなぁ』
こういうのを普通に受け取るのがアフさんである。
「えっ? 失敗しても取り返せば功績になるよね」
とか言いそうだ。
ちゃっかりしているというか何というか。
西方で商売の神と呼ばれているだけはあると思う。
『さすがは、ちみっこ先生』
こんなことを本人の前で言うと憤慨されそうだけどな。
「ちみっこって言うなぁーっ!」
なんて声が聞こえてきそうである。
『小っさくて可愛いんだけどねぇ』
何が不満なのやら。
で、何となく受け取ってしまうのがリオス様だったり。
「御褒美ですか……
ありがとうございます」
礼を言ってから考え込むんだよな。
「ところで、これは何の御褒美なんですか?」
なんてボケをかましてくれるんだよ。
この一連の流れは俺の想像だけど概ねこんな感じになる気がする。
『のっぽで天然ってキャラが立っているよな』
普通は計算ずくで動いるんじゃないかと勘繰ってしまうところだ。
リオス様に限ってそれはないと断言できるがね。
伊達に豊穣の女神と呼ばれたりはしないのである。
そしてルディア様と同様に固辞しそうなのがフェム様。
俺の中では何故か不機嫌なクラス委員長的なイメージがあるんだよ。
『とすると、ルディア様が生徒会副会長ポジションかな』
え? どうして生徒会長じゃないのかって?
ラソル様がそのポジションだからだよ。
根拠はないけど、そういうイメージなんだよね。
おちゃらけた生徒会長が引っかき回して副会長が収拾させるべく奮闘する感じ。
で、どうにかなったら捕まった生徒会長が副会長にお仕置きされるのがパターン。
なんだかアニメとかで見られそうな気がするんだよな。
異論は認める。
ともかくフェム様だ
ルディア様とは2世と言ってもいいくらい似ている気がする。
外見的な部分はまるで違うんだけど。
どちらも美人さんというくらいしか見た目の上での共通点はない。
似ているのは雰囲気や考え方だ。
2人とも真面目さんだからね。
フェム様は西方では魔法の神ということになっているけど。
そこがフェム様の内面とどう関係しているかは不明だ。
何か謂われがあるとしても調べるのは面倒くさい。
必要なら調べるけど。
「ところで、ハルトくん」
ベリルママに呼びかけられた。
「はい?」
「私達は何処に向かっているのかしら?」
「……………」
出ましたよ。
やはりベリルママはベリルママだ。
どこで天然を繰り出してくるのかサッパリ読めない。
あてどなくブラブラしているのに、いつの間にか目的地があることになっているし。
『どうしてこうなった』
ベリルママがあれこれ考えている間に思考が迷走したからだと思う。
え? どうしてそんなことが言えるのかって?
俺も似たような状態だからだよ。
今の俺って思考が迷走してるだろ。
現場を見て影響が残っていないことを確認して安心しましたよって話の最中なのにさ。
褒美の話が出たことでグダグダになってるし。
ベリルママも同じような状態なんだと思う。
おそらく褒美は何がいいかとか考えていたんじゃないだろうか。
事前に分かる訳じゃないのが困ったところである。
とにかく、こんな感じかなってのは何となく分かってしまうのだ。
『伊達に魂の半分を補ってもらって親子になった訳じゃないってことだろうな』
「もしかして決めてなかったかしら?」
「そんな話は出ませんでしたね」
「あら、やだ」
実にベリルママらしいと思ってしまう。
「いいんじゃないですか?
適当に歩いていれば何かありますよ」
そのためのお祭りなんだし。
「そうね」
返事をしたベリルママがフフフと笑った。
「さんざめく皆を見るだけでも楽しいものね」
「はい」
つくづくそう思う。
色んな場所で皆の笑顔が見られる。
秋祭りを企画した甲斐があったというものだ。
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ベリルママと2人で適当に歩いているうちにバンジージャンプのコーナーへ来た。
「3・2・1、バンジー!」
係の者が合図の掛け声を発する。
その直後、上から1人飛び降りてきた。
もちろん安全装置は装着済みの状態だ。
「ヒャッホ─────ッ!」
なかなか楽しんでいることが感じられる歓声である。
高所恐怖症の人間には信じられない光景だろう。
あっと言う間に地面すれすれまで落下。
ビヨーンとゴムロープの力で制動がかかる。
何度か跳ねるような動きを見せてから完全に止まった。
「あー、面白かったー」
ガチャリと安全装置を外してヒョイと飛び降りる落下者。
そしてゴムロープがシューッと一気に引き上げられていった。
次の面子が安全装置を装着。
係員が確認をしてサムズアップした。
別の係員が更に確認。
そしてサムズアップ。
二重のチェックが完了して飛び込みのゲートが開く。
「3・2・1、バンジー!」
次の面子が飛んだ。
「キャッ─────ッ!」
女の子って感じの歓声だ。
いや、リアルに女の子なんだけどさ。
言いたいのは悲鳴に聞き間違えられるような声じゃないってこと。
その女子が安全装置を外してヒョイと飛び降りた。
「ベリル様、陛下」
俺たちに呼びかけながら真っ直ぐこちらに向かってくるのはヤエナミであった。
「ハーイ」
小さく手を振るベリルママ。
「満喫しているようだな」
俺は普通に声を掛ける。
「はい!」
テンション高めで返事をするヤエナミだ。
いつもと少し雰囲気が違う。
飛んだ直後の興奮がまだまだ残っているみたい。
「バンジージャンプで遊ばれるのですか?」
その問いかけも期待のこもった瞳のオマケ付きである。
「色々と見て回っている最中だ」
「そうなんですかー。
ここは順番待ちが少なくて穴場ですよ」
ヤエナミのめげない営業ぶりに苦笑が漏れた。
見れば、確かにヤエナミの言葉通りの状況だ。
「ほとんどが人魚さんたちのようね」
ベリルママの言う通りでもある。
わずかに妖精組やヒューマンが混じっている程度。
ドワーフは1人もいない。
こういうところに性格というか好みの差が出るんだろう。
『そういや、ハマーたちを掴んで崖から飛び降りたときも割とうるさかったな』
ハマーには食って掛かられたし。
ボルトは壊れ気味になっていた。
種族的に高所恐怖症ってこともないと思うのだが。
さっきのチューブコースターには普通に並んでいたし。
他の絶叫系も忌避されてはいないと思う。
『じゃあ何がダメなんだ?』
単なる偶然か。
それとも何か理由があるのか。
ちょっと気になったのでガンフォールにショートメッセージを送ってみた。
[単純すぎて面白みに欠けるからに決まっとるじゃろ]
納得の返事であった。
ただ落下して終わりではダメらしい。
『面倒くさいな』
この調子では普通のフリーフォールもアウトくさい。
『トルネードフォールにしておいて正解だった』
「どうです、陛下も?」
グイグイとプッシュされる。
いつの間にか腕をホールドされて柔らかいものもグイグイされてますね。
『あー、やらかい』
「そうですね。
是非とも御一緒に」
「は?」
反対側の腕までムニュッと来ましたよ。
「うおっ」
『更にやらかい』
見ればナギノエであった。
こちらも妙なテンションになっている。
気に入ってくれるのはいいのだが、これは想定外だ。
『もしかして状態異常になってないか?』
オフにしていた拡張現実表示をオンにする。
『……………』
2人とも[恍惚]状態であった。
問題なのは魔法によるものではないということだ。
魔法で解除しても、すぐに[恍惚]状態へと戻るだろう。
脳内分泌物がドバドバ出てるはずだからな。
それを先になんとかしないといけない。
とすると解毒の魔法が有効か。
『いや、無駄だな』
仮に脳内分泌物を通常の状態に戻してもバンジージャンプで飛べば再発するだろう。
実に質が悪い。
どうしてこうなった状態である。
酔っ払いに絡まれたようなものだ。
『まあ、泥酔者よりは理性が残ってそうだけど』
読んでくれてありがとう。




