1024 様子を見に行ってみた
どうやら無駄なことを考えていたようだ。
ラソル様が無趣味なのはイタズラが趣味みたいなものだったからだ。
というより完全に趣味だろう。
『………………………………………』
徒労感がハンパない。
自分で勝手に考え込んだことだから誰かに責任追及もできない。
それが更にメンタルダメージを大きくする。
無駄にラソル様に挑んで自滅で敗北した気分だ。
プチ黒歴史になりそうである。
『何やってんだ、俺』
このまま考え続けると敗北感に埋もれてしまいそうだ。
これ以上、ラソル様のことで心理的敗北を続けるなど無駄の極みというもの。
『切り替えよう』
完全に忘れることはできないとは思うがね。
すでにトラウマ化したという自覚があるからな。
だが、今は秋祭りを楽しむことの方が優先される。
「次に行きましょう」
「大丈夫?
なんだかショックを受けたみたいだけど」
ベリルママはこう言っているが、俺がショックを受けた原因はお見通しだろう。
気を遣ってもらっている訳だ。
「問題ありません。
祭りを楽しむ方が大事です」
「そう、分かったわ」
特に追及されることもないようだ。
実にありがたい。
今もノリノリでアニマルカーを疾走させているトモさんたちに手を振る。
向こうも振り返してきた。
どうやら残留するようだ。
『本当に好きだねぇ』
そして2人で歩き出す。
「そんな訳で2人になってしまいましたが」
「たぶん何処かで誰か合流してくるでしょう」
「それは……」
「別に予知している訳じゃないわよ」
どうやら勘繰りすぎであったようだ。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
気を取り直して歩き出す。
「次は何処に行きましょうか?」
歩きながらベリルママが聞いてきた。
「事件現場を見ておきたいです」
気にならない方がおかしいので率直に言ってみた。
祭り気分に水を差す恐れもあるので、ちょっとドキドキだ。
「あー、そうよねぇ」
特に気にした風でもなくベリルママが頷いている。
「じゃあ、そういうことで」
あっさり決まってしまった。
チューブコースターへと向かう。
「あっ、ベリル様だー」
「「「「「ベリル様ー!」」」」」
「はーい、こんにちはー」
ゲームコーナーでも見たような光景だ。
「陛下もいるー」
『も、って何だよ』
まるでオマケである。
まあ、僻んでもしょうがない。
俺の方がレア度は低いんだし。
『それに何処かで聞いたような台詞だと思ったら……』
ちょっと懐かしのアニメを思い出してしまった。
グランダムと同じ会社が製作したリアルロボットアニメ。
少年少女が敵勢力の襲撃を受けたあおりを受けて宇宙船で流されることになるやつ。
タイトルは、宇宙漂着ヴェイハム。
『あれ好きだったんだよなぁ』
最初は逃げたり隠れたりの連続だったけど徐々に成長していく感じでさ。
大人がいない状況で何とか子供たちで協力して問題を解決していくのが面白かった。
タイトルにもなっている人型機動兵器ヴェイハムに初めて乗るまでが一苦労。
シミュレーターを動かすのに四苦八苦してたくらいだ。
身長制限に引っ掛かってシミュレーターが起動しなかったんだよな。
コンピューターの判定を潜り抜けるためにあれこれやったのが可笑しかった。
下駄を履いたり。
着ぐるみを着たり。
二人羽織をしたり。
マネキンを改造してセンサーを誤魔化そうとしたり。
結局、センサーを外してダミーのデータを流して解決していたけど。
『実機に乗るまで1クール以上も使うとか斬新だったよな』
本当なら、それでもあり得ないんだけど当時はリアルだと感じたんだよ。
『で、リアル重視かと思ったらコミカルな場面も多くてさ』
シミュレーターのシーンなんかもそんな感じだった。
それはそれで等身大の少年少女を描くことでリアルを追及していたんだと思う。
お陰で殺伐としたシーンもあるのに重苦しく感じなかった記憶がある。
俺が懐かしく感じた台詞のシーンは物語終盤の名場面のひとつだ。
捕虜を救出するために主人公たちが駆けつける場面はスカッとしたよ。
無双状態だったからね。
ちなみに件の台詞はピンチに陥ったモブのものだ。
主人公機を見つけた後に仲間の機体も見つけてって感じなんだけど。
『そういう意味ではちょっとだけ彷彿させてくれるかな』
ベリルママの後って感じだったし。
『そう考えると嫌な感じはしないか』
「「「「「陛下ー」」」」」
ちゃんと皆も声を掛けてくれるしな。
「おーう」
たとえ、それが気を遣われてのことだとしても。
そのあたりを深く考え込むのは危険である。
泥沼にはまり込むのがオチだからな。
『人の好意は素直に受け取ろう』
「楽しんでるかー?」
「「「「「はーい」」」」」
元気な返事が返ってくる。
この声が聞くことができれば充分だ。
こんな具合に道中は国民から声を掛けられることもしばしばだった。
ただし、話はしても合流しようという面子までは現れなかったけどね。
気後れしたのか気を遣われたのか。
そこは分からないけれど。
前者であるなら、いつかは踏み込んできてほしいものである。
そんなことを考えている間にチューブコースターの行列の前に到着した。
「うわー……」
「すごいわね」
見たこともないような長蛇の列。
いや、日本では見たことあるけどさ。
この秋祭り会場で最長なのは間違いない。
チューブコースターが大盛況である。
「あっ」
最後尾に並んでいた国民が俺たちに気付いた。
古参のヒューマンだ。
バーグラーがらみの面子ってことだな。
「やあ、大変だな」
「いえっ、あのっ」
ちょっと挨拶しただけなんだがアタフタしてしまうようだ。
まあ、予見できたけどな。
バーグラーから来た面子は俺を前にすると未だに焦るのは共通しているから。
ベリルママ補正が入っているから尚更である。
話を続けると少しは落ち着くのが分かっているからいいんだけどさ。
「ここだけに拘っていると他で遊べなくなるぞ」
「えっと、えっと、大丈夫です」
その返事で俺の指摘はあまり意味がないことに気が付いた。
「すまんな。
他は既にいくつか回っていたか」
最後尾に並んでいるのも、来たばかりだからだろう。
「えっと、あのっ、はい」
「乗り物は気に入ってもらえたようだな」
「あの、はい」
返事はこんなだが、しきりに頷いている。
本当に気に入ったのだろう。
こんなに喜んでもらえるのは本当に嬉しいね。
「あのぅ……」
ちょっと考え込んでいたら、向こうから声を掛けられた。
「お、どした?」
「えっと、そのっ、今からだと1時間近く待たないといけないようです」
どうやらアプリで調べてくれたようだ。
「おー、すまんな。
わざわざ調べてくれたのか」
「いえっ、あのっ、はひ」
「乗り物のコーナーは来たばかりだから他も見て回ることにするよ」
「あああああのっ、すみません、すみませんっ」
ブンブンと頭を下げる。
『もしかして追い払ってしまったとか思ってる?』
「大丈夫、心配いらない。
主催者として色々と見て回らないといけないからな」
そう言うと、ブンブンがどうにか止まった。
「気を遣ってくれてありがとう」
「めっ、滅相もありませんっ」
再びブンブンが始まりそうだったので這々の体で逃げたさ。
でないと俺の罪悪感ゲージがフルブーストかましてくれそうだったし。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
どうにか距離を取って一息ついた。
「あの行列で1時間待ちは早いわね」
ベリルママが感心している。
そりゃ、そうだろう。
これが日本の遊園地だったら2時間以上は確実に待たされる列だったからな。
「コースは1本じゃありませんから」
全部で3本ある。
空間魔法を使って外からは1本に見えるようにしてあるけれど。
「ああ、そうだったわね」
失念していたとばかりにポンと手を叩くベリルママである。
相変わらずの天然ぶりだ。
こういうところを見ると本当に神様なのか疑わしく思えたりもするけど。
『ベリルママはベリルママなんだよなぁ』
意味不明かもしれないが、そう思うのだから仕方がない。
まあ、神様にも個性があるってことだ。
新しく神様になろうかって御仁はイタズラ好きだし。
何処かの管理神様は丸投げ魔で人にすぐ仕事を──
『やめておこう……』
自分からフラグを立てに行くのは危険である。
「でも、行列の様子を見る限りは影響は残っていないみたいね」
ベリルママがウンウンと満足げに頷いていた。
「はい、そこは俺も安心しました」
別にルディア様たちのことを疑う訳じゃないんだが。
実際に自分の目で確かめれば納得もできるというものだ。
『これで気兼ねなく見て回れるよ』
肩の荷が下りた気分である。
読んでくれてありがとう。
 




