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1023 もしかして、それが原因?

 大人しいときのラソル様ってどんなだろうと思った。


『まあ、限度はあるよな』


 いつもの5割程度のテンションに抑えられるとか、そんなところだろう。


『いくら何でも5割まではいかないか』


 テンション半減のラソル様なんてラソル様じゃない。


「完全に正反対なの」


「…………………………………………………………………え?」


 半減どころではありませんでしたよ。

 あのラソル様が物静かになるということだろうか。

 ちょっと想像がつかない。


 ルディア様なら、容易く思い浮かぶんだけど。

 そちらを頭の中に思い描いて──


『あんな感じになる?』


 と考えたのだが、どうにも違和感があった。

 たとえ双子でも男女の差があるとか、そういうことではない。


 例えるなら違うパズルのピースを無理やりはめようとするかのような。

 どうやっても合致するはずがないのだ。

 仮に形が偶然一致しても絵柄が全然違う。


『違和感があるどころの話じゃないよな』


 それくらい受け入れがたい。


「既に驚いているみたいね」


「いえ、想像がつかないというか」


「仕方ないわよ。

 ハルトくんはラーくんの光の部分しか知らないんだし」


「……闇の部分があると?」


 恐る恐る聞いていた。


『ラソル様オルタナティブ形態とか……』


 想像がつかない。

 というより想像したくない。


 暴虐の限りを尽くす闇堕ちした姿が一瞬だけ脳裏をかすめた。

 それだけで悪寒が走ったさ。


 無いとは言えないと思ったからだろう。

 物静かな感じよりは想像しやすいせいかもね。


「そういうのじゃないわよ」


 ベリルママが苦笑する。


「ひとことで言うなら縁側で日向ぼっこをするお爺ちゃんかしら」


「ナンデスカ、ソレ?」


 喋りがカタカナになってしまったさ。

 縁側で日向ぼっこをするお爺ちゃんとラソル様と結びつけることができない。


 別々に考えるのであれば容易に想像できるんだが。

 年金暮らしで暇を持て余す好々爺ってところか。


 そこから先が問題である。

 大人しいときのラソル様に近しいと?


『冗談でしょ?』


 そうは思ったが、ベリルママが言うことだ。

 何かの間違いということはない。


『マジかぁ───────────っ!?』


 心の中で絶叫する。

 表面上は【千両役者】を使って平静を装ったがね。

 これほど合致しないイメージもないだろう。


「相当ショックみたいね」


 ベリルママにクスクスと笑われてしまった。

 【千両役者】で誤魔化しても通用しなかったようだ。


「ええ、まあ……」


 実に照れくさい。

 プチ黒歴史とまではいかないが恥ずかしいことに代わりはないからな。


 とにかく恥ずかしさから逃れたくて思考を巡らせる。

 イメージとのギャップを埋めるものが何かないかが主題だ。


『……………』


 そう簡単に埋まる訳がない。

 だからこそ違和感が膨れ上がった。

 何か見落としているような気がするのだ。


 俺には想像できない状態になることがあるラソル様。

 よく知っている、おちゃらけ状態とは正反対だと聞いたが未だに信じられない。


 いや、受け入れられないと言うべきか。


『ん?』


 いま何か引っ掛かるものを感じた。


『何だっけ?』


 思い返してみる。

 落ち着いたラソル様なんて信じられないと考えた。

 この時点では引っ掛かりを感じていない。


 その先だ。

 信じられないのではなく、受け入れられないに訂正した。


『受け入れられない?』


 これだ。

 確信する。


『これが引っ掛かったんだ!』


 問題は「受け入れられない」という言葉がどう引っ掛かったのか。

 俺が大人しいラソル様のイメージを受け入れられないのは当たり前である。


 もしも俺だけでなく当人も受け入れられないのだとしたら?

 カチリと何かがハマったような気がした。


『だってラソル様はおちゃらけてこそラソル様じゃないかっ!』


 内心で力説してしまった。


 大人しいラソル様はラソル様じゃない。

 そんな状態に耐えられないからこそ、忘れた頃に暴発するのだとすればどうだろう?


 お仕置きの内容によっては逆効果ということも考えられる。

 もしもストレスを定期的に発散できれば、どうなる?


 完全には無理でも暴発を抑制できるかもしれない。


『だが、どうやってストレスを発散する?』


 趣味になりそうなものを探そうにも簡単には思いつかない。


 まず確実なのは乗り物だ。

 ただし否定される方で。

 興味がないという話だったからな。


 ルディア様と同じ趣味なら苦労はしなかったのだが。

 その場合はイタズラに情熱を傾けたりはしなかったと思うが。


『他の趣味ねぇ』


 無難なところだと読書だろうか。

 検討するまでもなくダメだと分かる。


『ラソル様が座ってジッとなんてしていられる訳がないって!』


 読書をする以前の問題だ。

 ジグソーパズルなんかもダメだろう。


 ああいう根気が必要なものを好むとは思えない。

 二重の意味で却下だ。


『ならば体を動かす系か』


 そうは思うが、これも何が違う気がするのだ。

 ラソル様に体育会系の雰囲気がまるで感じられないからだと思う。


『サッカーとかラグビーみたいな激しく動く系はどう考えても似合わないだろ?』


 野球もイメージじゃない。


 そりゃそうだろう。

 どれもチーム競技だからだ。


 ラソル様は単独行動を好むからな。

 一丸となって対戦相手に挑むようなガラじゃない。


 単にイタズラ仲間がいないだけなのかもしれないが。


『いても困るけどな……』


 亜神が軒並みイタズラ好きとか笑えない冗談だ。

 そんなのはラソル様だけで充分だ。


 いや、ラソル様にも卒業してもらいたいんだけどな。

 だからこそ頭を悩ませているのだ。


 なんにせよラソル様にイタズラ仲間なんてものはいない。


『意外とぼっち気質を持っていたりしてな』


 リア充っぽい空気を纏っているから、そんな風に思ったことは一度もないんだけど。

 そう考えると──


『もしかして、かまってちゃん?』


 という推測も浮かんできたり。


『誰でもいいから構ってほしくてイタズラをしているとか?』


 そんな寂しがり屋なイメージはラソル様にはない。

 そもそもラソル様が単独行動をするのはイタズラの時だけだろう。

 監視の目をかいくぐって逃走した上で犯行に及ぶのがパターンだ。


 とにかく、どうにかラソル様が興味を持ちそうなものを考えねば。

 そうすればイタズラも……


『やめないだろうなぁ』


 ラソル様と言えばイタズラとは切り離せないが故に。

 心底、楽しんでいるっぽいし。

 どんなにお仕置きされようと諦めないもんな。


 忘れた頃に仕掛けてくる。

 それがラソル様クオリティ。


 ぶっちゃけ、イタズラ以上の発散方法がないのだと思う。

 積極的に趣味になるようなものを探していない可能性は残っているけれど……


 いずれにしてもラソル様の趣味になる何かをこれ以上考えるのは困難な気がする。

 これだけ考えても絞り出せない。


『ラソル様に趣味なんて見つかるのか?』


 皆無と言ってもいいだろう。


『いや、趣味ならあるのか』


 イタズラという傍迷惑な趣味が。

 で、さんざん発散しておいて抜け殻も同然になるとか。


『もしかして出し切るから大人しくなるんじゃないのか?』


 気力すら残っていなければ、そりゃあ大人しくなるだろう。


『何もしていない時のラソル様が静かなのって、そういうこと?』


 だったら想像することもできなくはない。

 今までは、どうあっても浮かんでこなかったのだが。

 染みついたイメージを覆すのが困難だと思っていたが故に。

 見方を変えるだけで、こうも容易になるとは……


『皮肉なものだ』


「ハルトくん、大丈夫?」


 黙り込んでしまった俺を心配してベリルママが声を掛けてくる。


「あ、すみません。

 少し考え込んでしまいました」


「そんなに悩まなくてもいいのよ。

 見慣れれば、そこまで違和感のあるものじゃないから」


 苦笑しながらベリルママが言った。

 これは期待できるだろうか。

 まずは確認だ。


「ラソル様って無趣味なんですよね?」


 イタズラに関してはこの際スルーである。

 もしかしたら何か趣味になりそうなものを思いつくかもしれないと思ったからだ。

 俺よりもベリルママの方がラソル様のことを知っている訳だし。


「そうね」


「それが原因なんじゃないんですか?」


 俺は自分の推理をベリルママに披露した。


「あら?」


 俺の指摘にベリルママが首を傾げる。


『くっ、可愛い』


 じゃなくて、だ。

 この様子だと今までラソル様に趣味がなかったことに気付いていなかったようだ。

 脈ありと見て良さそうか。


 だが、気付いてなかったことに一抹の不安を感じるのも事実。


「そうかもしれないわね」


 あっさり肯定された。


「でも、趣味は見つけられないと思うわよ」


「そうでしょうか?」


 きっと何かあるはずだと思うのだが。


「だって趣味を見つけるよりイタズラを考える方が楽しいってラーくんが言ってたもの」


「……………」


 ぐうの音も出なかったさ。


読んでくれてありがとう。

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