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1018 そこまで見越されていた?

「マスターとして命令する。

 遠慮せずに食べなさい」


 あまり上手い方法とは思わないが、埒が明かないのも事実。

 シーザーたちを戸惑わせる原因を作った人に責任は取ってもらうさ。


「ここまでしなきゃならないなんて、お仕置きフルコース3倍ですよね」


「いや、5倍でも生温い」


 俺の提案にルディア様が上乗せした。

 それを聞いたトモさんたちがブルッと身震いする。


 だが、上には上がいる。


「10倍にするわ」


 ベリルママが宣言した。

 何でもないかのように普通にサックリと。


 だが、それが恐ろしい。

 俺たち全員が震え上がった。

 ルディア様もわずかとはいえ身震いしたほどだ。


 怖いが、やり過ぎだとは思わない。

 どの程度のことかは分からないというのもあるけどな。

 実際に見たことはないし。


 ルディア様の反応を見るに相当のものなんだろうが。

 それはともかくシーザーたちだ。


 1頭だけ残して送り返す方針を伝えねばならない。


「誰か代表を残してほしいんだが、いいか?」


 コテンと一斉に首を傾げるシーザーたち。


「悪い人に騙されないよう人間の常識を身につけてもらおうと思ってな」


 今度は俺たちサイドの面子が一斉に頷く。

 ここで言う悪い人は悪党のことではない。

 悪意はないながらも傍迷惑なことをしてくれる相手のことである。


 さすがにシーザーズも心根の悪しき者を見抜く目は持っているからな。

 妖精種だから、そういうのは敏感だし。


 ただ、子供がイタズラをした時に悪いことをしたと叱る感覚は教えないとダメだ。

 今回の場合は誰が叱る対象であるか分からぬ関係者はシーザーたちくらいなものだろう。

 しっかり悪い人の見分け方を覚えてもらいたい。


 もちろん、ここで言う悪い人はおちゃらけ亜神のことである。

 故に手口を教えるのは難しいから完璧とはいかないがね。


 過去のイタズラがどんなものであったかは説明できる。

 だが、同じイタズラを繰り返す訳じゃないからな。


『裏をかいて同じ手を使ってくる恐れは充分にあるけどさ』


 そのあたりが面倒くさい。

 ラソル様ほど対処が難しい相手はいないだろう。

 イタズラされていると分かっていても振り回されるし。


 簡単に予想できる手ほど油断ができない。

 隠された意図があったり無かったり。


 気付かずに掌の上で踊らされると、この上なく腹が立つ。

 裏が無いときは無いときで、こちらがピリピリし続けるのをからかわれるし。


『完全に読み切るなんて不可能だよな』


 だからこそ、してやられたと悔しい思いをするのである。

 それでもパターンを知っているといないとでは大きく違う。


 違和感を感じることができれば対応できることもあるだろう。

 今回のように何も知らずに翻弄されるがままなんてことはないはずだ。

 たぶん……


「今回、アナタたちを召喚した人は、すっごくイタズラ好きなの」


 ベリルママがそんなことを言うとシーザーたちは目を丸くしていた。


『まあ、気持ちは分かるよ』


 相手の素性が分からなくても気配で感じ取るもんな。

 神様に近い存在であるのは本能的に察知しているはず。


 そんな存在がイタズラ好きとは夢にも思うまい。

 ましてや自分たちが利用されて被害者になったとは考えていないだろう。


「やっぱり被害者っていう認識がないのね」


 フンスと鼻息を荒くするベリルママ。

 怒気の代わりなんだろう。

 殺気めいた怒りの感情は外に出さないのはシーザーたちのことを考えてか。

 できれば俺たちの時にも気を遣ってほしかったと思う。


『あー、かなり根に持ってるなぁ』


 お仕置き10倍設定を決めたのは伊達ではないということだ。

 その反応にシーザーズがションボリする。


 自分たちが良くないことをしたと勘違いしたらしい。

 結果的にはそうだが、騙されたようなものだ。


『というか、完全に騙されているよな』


 シーザーたちに罪はない。


「ああっ、違うの、違うの」


 ベリルママが慌てた様子でアタフタと両手を前に突き出して振っている。

 余裕がないときの仕草が子供っぽくなるんだよな。


 そこに管理神の威厳はない。

 むしろ可愛いくらいだ。


「アナタたちは何も悪くないのよ」


 どうにか誤解を解こうと必死である。


「言ったでしょ、被害者だって」


 その言葉を受けて再び首を傾げるシーザーたち。

 何がどう被害者なのかが理解できないようだ。


『呼ばれて指示に従っただけだからなぁ』


 俺だって事情を知らずに同じ立場になったら、反応は同じになると思う。


「何がどうなってるのかを理解できるよう色々と学習してほしい訳」


 ベリルママの言葉にシーザーたちは目を閉じて固まっている。

 大人しいと思ったら不意に目が開いた。


「「「「「ゴロゴロ」」」」」


 一斉に喉を鳴らす。


「そう……」


 ベリルママはシーザーたちの反応を見て頷いた。


「ありがとう」


 どうやらシーザーズが俺たちの提案を了承してくれたようだ。

 ようだというか、そうなんだよな。


 マスター権限があるから普通に意思疎通できるんだよ。

 意識をリンクの方から外していると分からなくなるけど。


 密かに権限を譲渡された時はデフォルトで外してあったから気付くのが遅れた。

 今頃になって気付くのは間抜けにも程があるがな。


「それじゃあ、誰が残る?」


 俺がそう聞くと前に進み出てくるシーザーがいた。

 周りにいるのより一回り大柄な個体だ。


 上位種と言うほどではないが群れの中では強いのだろう。

 意思の並列化はしても、差がない訳ではないようだ。


 目の前まで来てちょこんとお座りした。

 お行儀は良いようだ。


 まあ、シーザーたちは厳ついが意見に反して大人しいからな。

 前に出てきたシーザーの尻尾がユラユラと揺れていた。

 その上、何かを期待するかのような目で見てくれるんだ、これが。


 何かっていうか、契約を求められているんだけどな。


「俺の守護者になりたいって?」


「「「「「ゴロゴロ」」」」」


 全員で喉を鳴らされた。

 デッカいのと契約すれば全員が契約したのと同じになるらしい。


 ちなみに全員とは、この場にいる3百頭のことではない。

 妖精種シーザー全体を指す。


 その気になれば万単位で呼び出せると思う。

 しかも呼び出すたびに報酬を渡す必要がなくなるのだ。


『破格の条件だな』


 別に魔力を一切食べさせないなんて真似はするつもりもないけれど。


「いいのか?」


 つい、聞いてしまう。


「「「「「ゴロゴロ」」」」」


 躊躇うことなく喉を鳴らす一同。


「なんだか、凄く気に入られたみたいだね」


「本当です」


 トモさんたちが言う通りである。

 これで断ったら、先程のションボリなど比ではなくなるくらい落ち込みそうだ。


『シャレにならんな』


 罪悪感が雪崩になって襲いかかってくるのが容易に想像できた。

 だが、それは想定でしかない。

 この悲劇は避けることのできる未来だ。


 もちろん選ぶのは互いにウィンウィンとなる契約するという選択だ。

 契約しないことで得られるメリットなど何もない。

 躊躇う理由はシーザーたちの数が多すぎて困惑したってだけだからな。


「んじゃ、そういうことで」


 ちゃちゃっと契約。

 すぐに終わった。


 魔方陣やら呪文やらはない。

 誰かに見せたり聞かせたりする必要はないからね。

 風情も何もないが、現実とはそんなものである。


 シーザーたちは何かくすぐったいらしく、前足で顔をこすっている。


「何この可愛い生き物」


 トモさんがそんなことを言いながら笑っていた。

 微笑ましい光景に見えたようだ。


 これが西方だったら、こうはいかないのだが。

 厳つくて魔物に見えてしまう相手がダンジョンの暴走レベルでそろっているからな。


「まあ、気持ちは分かるけどね」


 俺たちにしてみれば、ちょっと大きい猫である。

 可愛い仕草を見せられれば和まない訳がないのだ。


「そうですね」


 フェルトも笑っている。

 そして顔を拭き終わったシーザーたちが報酬の魔力を食べきった。


「「「「「ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ」」」」」


 上機嫌に喉を鳴らす。

 ひとしきり鳴らし終わるとペコリと頭を下げる。

 帰るそうだ。


「もう帰るのか?」


 代表が残るから問題ないんだと。


『あー、そっか。

 契約するとリンクができるからな』


 記憶の共有と均質化がリアルタイムで可能となるのだ。


『契約でシーザーズの習性が補強された訳か』


 もちろん何か別のことをしている時まで記憶の処理ができる訳ではないが。

 そういう場合は後で処理を行わざるを得ない。


 だが、ワイヤレスで実行できるというだけでも大きな利点だろう。

 守護者として契約した場合のリンクは強力だからな。


 たとえ距離が離れていても息をするような感覚で記憶処理ができるだろう。

 今までより負担が少なくなったのは間違いない。


『意外にチャッカリしているな』


 あまり狡いと感じないのは日頃の行いが影響していると思う。

 おちゃらけ亜神だったらボロクソに言われているはずだ。


 いや、これもラソル様の計画の一端のような気がする。

 そう考えると今までのあれこれがオマケに思えてきた。


『ラソル様の本当の目的は俺がシーザーたちと契約することだったんじゃないのか?』


 メリットは大いにある。

 大勢の強力な妖精種を負担なく自在に呼び出せるのだから。


「昇格が内定したからねー。

 大盤振る舞いも当然さ~」


 とか言う姿がありありと想像できた。

 分かってしまった以上は礼を言わねばならない。


『すっごく言いたくないけどな』


 イタズラなしでなら素直に感謝もしたと思うけど。

 後でルディア様に伝言を頼んでおこう。

 お仕置きの始まる直前くらいに伝えてもらうのがいいかな。


読んでくれてありがとう。

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