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1011 フローリングを見ていこう

「浮き輪ということは水上で行うゲームなんですか?」


 フェルトが聞いてきた。


「いやいや、床の上でするものだよ。

 浮き輪と言ってもフローリング専用に調整された魔道具だから」


 歩いて近づくにつれ、見えなかった部分が確認できるようになっていく。


「床の上を浮き輪が滑ってますね」


 ちょっと目を丸くしているフェルト。

 普通の浮き輪は床の上を軽やかに滑ったりはしないからな。


「理力魔法で浮いているのか」


 トモさんはすぐにカラクリを見抜いたけれど。


「ああ、そういうことでしたか」


 フェルトもすぐに納得する。


「そういうことだ」


「あれなら場所を選ばずにできそうだけど」


 トモさんはそう言いながらも首を傾げていた。


「何か問題あるかい?」


「浮き輪は軽いから誰にでもできそうだけど、ちょっと軽すぎないかな」


「見れば分かるよ」


 ちょうど遊んでいる1人が浮き輪を滑らせたところだ。

 スルスルと音もなく進んで徐々に減速していく。


「ほほー、何かそれっぽい動きだね」


 トモさんが感心している。

 だが、それだけでは「見れば分かる」とは言わない。

 滑らせた浮き輪が的の近くにある別の浮き輪に当たる。

 パシーンと音がして少しだけ弾く格好となった。


「おおっ、何か思っていたのと違う。

 随分と重そうな反発の仕方をしたね」


「そういう風に調整してあるんだよ」


「なるほど、浮き輪でカーリングというのも納得したよ」


 実際にフローリングを見たトモさんが頷いている。

 カーリングに近いものだというのは納得してもらえたようだ。

 そうなると、似て非なるものであるという説明も必要だろう。


「とはいえ完全に再現はできてないけどね。

 というより意図的にカーリングとは違うようにしているよ」


「えっ!?」


 意外そうな顔をして振り向かれた。


「道具は専用のフロートだけだから。

 カーリングのようにブラシは使わないんだよ」


 ストーンを滑りやすくしたり方向を調整したりする道具だ。

 俺はブラシと言ったが、ブルームと呼ばれることの方が多いみたい。

 どちらも間違いではないみたいだからトモさんに伝わることを優先した。


「ああ、そうだった。

 誰もデッキブラシもどきは使ってない」


 しきりに頷くトモさん。


「でも、ブラシを使わないからこその利点もある」


「利点かぁ、何だろう?」


 トモさんがシンキングタイムに入ったので少し待ってみる。

 が、そう時間をかけることなくトモさんは頭を振った。


「見当もつかないよ。

 あれって方向の調整とか勢いの加減をするためのものだろう?」


「そうだね」


「使わないならデメリットしか考えられないよ?

 それとも何かすごい秘密でもあるのかな?」


「そんな複雑なことじゃないよ。

 頭数が少なくても遊べるってだけ」


「ああ、そうか!

 ブラシを使う人がいなくても、できるんだ」


「そゆこと。

 誰にでもできて少ない人数でも楽しめるようにしてある」


 そのために基本のルールもカーリングとは違う。

 簡単に終わるようにしないと待っても遊べなくなるし。


「本物のカーリングは2時間以上かかるそうだからね」


 8エンド制でそれくらい。

 10エンド制だと更に半時間追加されるという。

 1プレイ最低2時間はさすがに長い。


『ちょっと気軽に遊ぼうとはなりにくいよな』


 そんな訳でフローリング独自のルールにした訳だ。


「2時間はちょっと……」


 フェルトが引いていた。


「それはさすがに時間がもったいないなぁ」


 トモさんも難色を示している。


 そりゃ、そうだ。

 乗り物コーナーで遊ぶ時間が大幅に削られてしまうからな。


「いやいや、大丈夫だって。

 フローリングは20分程度で終わるようなルールにしてあるよ」


 そう言った途端に2人の顔に書かれていた「無理」という字は消えた。


「そうなんだ」


「それでしたら気軽に遊べますね」


 やる気になったところで悪いんだけど、そういう訳にもいかなかった。


 別の問題がひとつあったのだ。

 先に確認しておけば良かったのだが。


「行列が思った以上に並んでいるのな」


 死角になって見えていなかったために気付くのが遅れた。


「「あー……」」


 残念そうに意気消沈する2人。

 俺も、ここまでになるとは想像だにしなかった。


「すまない。

 先に確認しておくべきだった」


「しょうがないよ」


「そうです」


 トモさんもフェルトも笑って許してくれた。


 が、罪悪感は残る。

 安請け合いはするもんじゃない。


 それと、せっかく確認するためのアプリがあるんだから活用しないと。

 我ながら情けない話である。


「あら、見学できない訳じゃないんでしょう?」


 落ち込んでいる俺を見かねたのかベリルママがそんなことを聞いてくれました。


「それは自由ですが」


「だったら、少し見ていきましょう」


 意外なことにフェルトが提案してきた。


「このゲームは道具さえあれば何処でもできますよね?」


「まあ、そうだな」


 場所さえ確保してしまえば専用の設備は必要ない。


 せいぜいフロートと的が必要になるだけ。

 フロートの数もカーリングより少ないのでお手軽感はある。

 確かにフェルトの言う通り何処でも、そしてすぐに始められるのが利点だ。


「ここで見ておけば遊ぶ時の参考になります。

 後日、城で遊ぶことだってできるじゃないですか」


「いいね」


 フェルトの意見にトモさんも賛同する。

 2人のフォローであるのは間違いない。


 だからこそ無下にはできないんだけどな。

 そんな訳でフローリングの試合を見ていくことになった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ヒューマン対ドワーフのゲームを見学する。


 彼らを選んだことに深い理由はない。

 単にもっとも手前でプレイしていたからだ。


 ちょうどヒューマンが投げるべくコースを確認しているところだったのだが。


「んー」


 トモさんが小さく唸っていた。


「どうしたのさ?」


 プレイヤーの邪魔にならないようヒソヒソ声で聞いてみる。


「なんだか彼は硬くなっていないかい?」


 トモさんが指摘するように聞いてきた。

 もちろん、こちらもヒソヒソ声だ。


「そうですね。

 どうしたんでしょうか?」


 そこにフェルトも参戦する。

 やはり遠慮してヒソヒソ声であった。


 だが、よくよく考えれば声が聞こえないよう遮音結界を使えばいいだけなのだ。

 3人そろって間抜けなことである。


『初っ端にやらかした俺が一番の間抜けだけどな』


 今更だが遮音結界を使った。


「「あ……」」


 トモさんやフェルトもさすがにどういうことか気付いた。

 3人で顔を見合わせてしまう。


 そして赤面することしばし。

 気まずさは薄まりはしなかった。

 むしろ増していくばかりだ。


 故に「それは置いといて」のジェスチャーをすると即座に承認される。


「彼が硬くなってるのは、まあ分からなくはない」


「しょうなのぉ?」


「荻久保さんの物真似は後でね。

 話が脱線するとややこしくなるから」


「あっ、はい、サーセン」


「それで分からなくはないというのは、どういうことでしょうか?」


 フェルトが聞いてきた。


「大した理由じゃないんだ。

 彼はヒューマンとしては古参の口でね」


「もしかしてバーグラーの件ですか?」


 フェルトは察しがいい。

 トモさん夫婦もバーグラーの事件がどういうものかは知っているからな。

 だが、そこまでだ。

 2人とも詳細までは知らない。

 そこでバーグラーで捕らえられていた彼の事情を2人に斯く斯く然々と説明した。


「──ということなんだよね」


 説明が終わった後のトモさんとフェルトの表情は硬かった。

 その内心にあるのは同情と怒りであろう。

 それを表に出すまいとしているのは、よく分かった。


 あえて指摘することでもないだろう。

 逆にそうしてしまうと、抑えているものが噴出しかねない。

 故にスルーだ。


「だから俺がそばにいると緊張するというのはあるだろうな」


 ましてやベリルママも一緒なのだ。

 今となっては土下座まですることはなくなったが。

 それでも緊張しなくなった訳ではないはずだ。


 むしろ緊張するなと言う方が無理難題である。


「ちょっと失敗したかな」


「そのようです」


 トモさん夫婦が顔を引きつらせていた。


「いや、それは俺の責任だから」


 考えなしに見学することを決めてしまったからな。

 だからといって、このタイミングで他所に行くのは彼に失礼だろうし。


 少なくとも勝負がつくまでは見ていくしかないだろう。

 幸いと言うべきか、ゲームは終盤に差し掛かっている。

 ものの数分で決着がつくはずだ。


 そして慎重に投球コースを決めたヒューマンがフロートを投げた。


「「「あっ……」」」


 俺たち3人の声が見事にハモっていた。

 投げた瞬間に失投だと分かったからだ。

 大暴投にこそならなかったものの当てる予定のフロートをかすめて通り過ぎていった。


読んでくれてありがとう。

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