1010 狙い通りなのを見届けたら見回ってみよう
子供組がガンカタファイターを絶賛している。
それを見ていたトモさんが──
「これは家庭用ゲーム機だけじゃなくてゲームセンターも必要になりそうだね」
そんなことを言い出した。
「「「「秋祭り以外でも遊べるようになるのっ!?」」」」
子供組が全力でトモさんに食いついていく。
「お、おう……」
子供組に纏わり付かれて困惑するトモさん。
「家庭用ゲーム機を作るかもって話はハルさんとしたけどな」
「すごいニャ。
何処でも遊べるようになるニャ」
「それは家庭用じゃなくて携帯ゲーム機なの」
ミーニャの勘違いにツッコミを入れるルーシー。
「「秋祭りが終わっても遊べるようになるぅ」」
上機嫌で手を取り合って踊り出すハッピーとチー。
ミーニャやルーシーも釣られて一緒に踊り出す。
そしてシェリーもそこに加わる。
「あ、対戦、終わってたんだ」
トモさんがしまったという顔をする。
決着がつく瞬間を見逃してしまったと言いたいようだ。
「はいです。
勝ちました」
シェリーが達成感に満ちた表情で返事をした。
「次は見逃さない」
続いての対戦ではチーが風と踊るのリーダー、フィズを指名。
やはり同キャラ対戦となった。
今度はリュート対リュート。
フィズは最初から攻めに攻めまくった。
受けに回っては勝ち目がないと考えたのだろう。
間違いではないがチーに上手く捌かれた。
結局、必殺技の使いすぎで弾切れとなりフィズも敗北。
展開的にはシェリーと似た感じになっていたので、これも指導対戦なのだろう。
この2戦で風と踊るの面々はすっかりのめり込んでいた。
子供組が円陣を組んで──
「「「「「計画通り」」」」」
などと呟いていた。
『なんだ、そりゃ』
円陣を組んだのは周りから見られないようにするためだったようだ。
ニヤッと笑ったりしていたのかもしれない。
子供組がそんなことをするのを想像すると寒気がする。
『怖すぎるだろ』
普段が無邪気なだけにな。
一方で風と踊るの面々はワイワイと盛り上がっていた。
「負けると悔しいっすけど、面白いっす」
自分が負けたわけでもないのに残念がるローヌ。
仲間の敗北は自分の敗北ということだろうか。
「負けても面白いってのが凄いっす」
ナーエもだ。
ただ、ちゃんと魅力も見つけ出している。
「負けていられないから特訓あるのみっすよ」
ライネが奮起を仲間に促す。
こんな具合に3人娘は言うまでもない状態だ。
「実戦とは違うからこそ息抜きになるな」
負けてきたばかりのフィズが苦笑しながら言った。
「あれを息抜きと言い張れるとは、いい度胸してるわね」
「なっ!?」
ジニアが嘆息しながらジト目でフィズを見ていた。
かなり呆れているようだ。
お陰でフィズが泡を食っていた。
本人が認めるかどうかの問題なので口出しはしない。
なんにせよ、ガンカタファイターが受け入れられたようでなによりである。
子供組のアピールが巧みだったからだろう。
計画通りと言うだけはある。
末恐ろしいことであるがな。
とにかく、この調子でガンカタファイターのファンを増やしていってくれるだろう。
俺も家庭用への移植を頑張らないといけないな。
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「そろそろ次の場所へ行こうか」
トモさんに提案してみた。
「うちの姉たちはどうするんだい?」
ミズキとマイカのことだ。
「あの2人は、しばらく無理だよ」
マイカがガンカタファイターの勝負にこだわっているからな。
「そうなんだ。
また面子が減るね」
残念そうに呟いた。
なんだかんだ言って仲が良いのである。
「夕飯には戻ってきますよ」
フェルトがフォローしている。
「それもそうか」
すぐに落ち込んだ状態から回復するトモさんであった。
「子供組も来ないだろうなぁ」
「そうなのかい?」
意外だと言わんばかりの目を向けられる。
「かなりガンカタファイターが気に入ったみたいだからね」
「あー、そんな感じだったね」
子供組の状況を思い返しながら頷くトモさん。
「なるほどー。
布教活動に専念する訳かー」
「そゆこと」
「ということはベリル様と我々3人だけになるのかな?」
「そのようですね」
トモさんの疑問にフェルトが答えていた。
「行った先に誰かしらいると思うよ」
ガンフォールたちや子供組にも遭遇したわけだし。
まあ、閑古鳥でない限りは国民がいるから誰かがいるのは間違いないんだけど。
「それだったら、適当に見て回りませんか?」
フェルトが提案してきた。
「どゆこと?」
「まだノエルちゃんたちとは再会してませんし」
「おお、そうだな」
再開とは些か大袈裟な表現である気がしないでもないが。
「いつの間にかはぐれてしまったルディア様たちも何処かにいらっしゃるでしょう」
「あら、そっちは気を利かせて別行動してくれているのよ」
アッケラカンとした様子でベリルママが言った。
「だそうだよ」
「そのようですね」
何故であるのかという理由は聞いてはいけないと思ったのだろう。
イタズラが見つかった子供のような表情でゆっくりと頷くフェルト。
『別にそこまで気を遣ってもらわなくてもいいと思うんだが』
だが、気遣いにケチをつけるのは野暮というものだ。
そのまま受け流しておいた。
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結局、4人でブラブラ歩いている。
一応の目的地を乗り物コーナーとして見ていないゲームコーナーを見て回っている。
「ベリル様ー」
「はーい」
「陛下ー」
「おーう」
時折、こんな風に声を掛けられる程度で同行者が増えたりはしなかった。
「人気があるのかないのか、よく分からないね」
トモさんが苦笑している。
「恐れ多くて声を掛けるだけで精一杯なように見受けられますが」
フェルトの意見が正しいかどうかは分からない。
ベリルママの方は、そうだとは思うが。
『俺の方はどうだろうな』
ベリルママと一緒だと、そのあたりは分からないだろう。
『普段のコミュニケーションが不足しているかなぁ』
元選択ぼっちだった影響か、そういう距離感が掴みづらいんだよな。
とりあえずフェルトの意見をそのまま受けるのが良さそうだ。
「だってさ」
便乗しておけばフォローもしてもらえるだろうし。
「皆が楽しんでくれていれば、それでいいんだよ」
「ハルさんらしいなぁ」
「そうですね」
そう言って笑うトモさん夫婦。
ベリルママも特にコメントを挟んできたりはしないが微笑んでいた。
妙に背中がムズムズして微妙な居心地である。
「さっ、早く行こう」
「慌てなくていいわよ、ハルトくん」
ベリルママにガッチリと腕を掴まれてしまった。
『あー、柔らかい』
じゃなくてっ!
周囲にいる国民たちから生暖かい視線を向けられて、すんごく恥ずかしいんですが。
トモさんやフェルトまで同じような目になっているし。
だが、こうなった以上は逃れられない。
離れようという意志を見せただけでベリルママに泣かれかねないからだ。
そうなっては俺が精神的に死んでしまう。
泣かれそうになるだけでも罪悪感でメンタルがガリガリ削られるというのに。
ここは国民の目が四方八方から降りそそぐ場である。
追加で非難の目が向けられたら……
俺のライフはゼロよ状態になるのは想像に難くない。
『恥ずかしさの海で溺れることになるくらいは、しょうがなかろう』
単に割り切るだけなので恥ずかしさは1ミリも減らないのが辛いところではあるが。
我が友も、さすがに赤面している俺を弄る気はないらしい。
時折スルースキルを発動させていることは気付いていたようだ。
「借りは返したぞ」
と言ったとか言わないとか。
「あっ、あれは何ですか?」
別の方法でフォローしようとしてくれるフェルト。
実にありがたい。
持つべきものは親友とその奥さんってことだな。
とりあえずフェルトの助け船に乗ってみるべく指差す方を見る。
少し先の方で、屈むようにして何かをする国民の姿が見て取れた。
何をしているかは距離があるのと膝上の高さの柵のために確認できない。
仮に確認できても、それが何であるかは分からなかったとは思うが。
「あー、フローリングだな」
制作者である俺はもちろん分かる。
「フローリング?」
トモさんが怪訝な表情をした。
「木の床材がゲームになる……訳ないよね」
「浮き輪、すなわちフロートとカーリングを合わせた造語だよ」
俺の返答にますます困惑の色を濃くするトモさん。
浮き輪とカーリングが結びつかないのだろう。
「カーリングって重い専用の石を滑らせて2チームで得点を競い合う競技だよね」
「そうだよ。
フローリングは石の代わりに浮き輪を使うんだけどね」
読んでくれてありがとう。