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1008 決着、そして対戦は続く

 双方共に不完全な体勢となってしまった。

 リュートは力の入らない状態で突きを出すくらいはできそうだが。


 ただし転倒したことで微妙な間合いになっている。

 このまま剣を突き出してもケーニッヒには届かないだろう。


 そう、剣は。

 だからハッピーは引き金を引いた。

 リュートの拳銃から撃ち出される光球。


 ケーニッヒは動くこともままならない。

 直撃は免れないだろう。


 しかも至近距離と言っていい間合いだ。

 これでまともに必殺技を受けては大ダメージは免れない。


 そして命中。

 ケーニッヒは派手に吹き飛ばされた。

 それだけでノックアウトとはいかなかったが……


「ケーニッヒ選手、ダウーン!」


 倒れ伏してしまった。

 しかもダメージのせいで満足に動けなくなっている。


『麻痺が入ったようだな』


 ああなると完全に無防備だ。

 ダウンしてもカウントは取られない。


 そしてこのゲームは追撃が認められている。

 時間内にノックアウトもあり得る状況だった。


 だが、リュートは起き上がって立ち尽くすのみ。

 操作するハッピーが動かないからだ。

 麻痺した相手に追撃を入れることを嫌ったのだろう。


 実戦であれば甘い判断だと言わざるを得ない。


 が、これは武道大会で戦うという設定のゲームだ。

 フェアプレーを信条とするのもありだと思うし、周りからも受け入れられるだろう。


 やがてフラフラとした足取りでケーニッヒが立ち上がる。

 そこでタイムアップのゴングが鳴った。


「試合終了ぉーっ!」


 レフェリーの宣言によって試合は終わった。

 画面の中の選手たちが挨拶をする。


「勝者、リュート!」


 レフェリーが空手着姿の兄ちゃんであるリュートを指し示す。

 それを受けてリュートが「押忍!」と挨拶した。


 そしてゲームオーバーの文字がスクリーンにデカデカと表示される。

 乱入などのシステムは入れなかったので、これで終わりだ。


 あえてこうした。

 皆が満遍なく遊べるようにした結果である。


『これを家庭用ゲーム機のゲームに落とし込むなら乱入はありだよな』


 トモさんには予定は未定と言ったが、だんだんと作りたくなってきた。

 まあ、秋祭りが終わってからにしよう。

 自分だけで開発するなら【多重思考】でやればいいだけだが。


 できればトモさんたちと相談しながら作ってみたいからね。

 俺が考え事をしている間にハッピーが変身を解除していた。


「はあー、際どかったですぅ」


 溜め息をつきながら脱力する。


「お疲れ様」


 そこへフェルトが声を掛けた。


「あー、お疲れ様ですー」


 見上げながら、フニャッとした笑顔を見せるハッピー。


「ありがとう。

 勉強になったわ」


「そそそそんなっ。

 こちらこそ勉強になったです」


 慌てた様子でペコペコ頭を下げるハッピー。

 その仕草を見ていると微笑ましい気持ちになる。


「そうね」


 フッとフェルトが笑みを浮かべた。


「私は、最後まで油断してはいけない。

 ハッピーちゃんは、最後まで諦めてはいけない。

 どちらも、すごく勉強になったのは間違いないわ」


「はいです!」


 2人はガッチリと握手して、こちらに戻ってきた。


「負けちゃいましたー」


 少しだけ残念そうにしながらも笑顔でトモさんに報告するフェルト。


「残念だったね。

 でも、楽しかっただろ?」


「はいっ」


 いい笑顔だ。

 トモさん夫婦のやり取りを見てマイカとミズキが生暖かい視線を送っている。


「リア充よね」


「リア充だね」


 マイカとミズキがボソッと呟いていた。


「なんだ、イチャイチャしたいならハルさんとすればいいじゃないか」


「「なっ!?」」


 ちょっとからかうつもりがカウンターをもらっている。


「だそうだけど?」


 俺も便乗してみた。


「「なっ!?」」


「な、しか言えなくなってるぞ」


「誰がそうしたのよっ」


 抗議してくるマイカ。

 俺やトモさんが悪いと言わんばかりだ。


「そっちがリア充って言うからだよ」


 トモさんの反撃。


「俺もそう思う」


 俺も援護する。

 しかしながら援護はそれだけではなかった。


「うん、言ったよ」


 ミズキである。


「ちょっ、ミズキ!?」


 思わぬ裏切りに慌てるマイカ。


「だってホントのことじゃない」


「ぐっ」


 マイカは否定できず言葉に詰まっていた。


『身も蓋もないなぁ』


 だが、ミズキは潔い判断をしていると思う。

 からかうのが失敗したら被害が拡大する前に撤収するって訳だ。


「言ってみれば自爆かなぁ」


「ぐぬぬ」


 認めざるを得ないマイカであった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 その後は適当に対戦したり観戦したりだった。


 トモさんは仮面の女双剣士ナナシでミーニャと対戦。

 ミーニャはリュートを使っていた。


 スクリーンに自キャラが登場すると──


「ハッハッハ」


 トモさんが声を当てていた。


「天切る、地切る、人がKILL!」


『何だ、そりゃ!?』


 ぶっ飛んだ台詞をぶっ込んできたな。

 声を裏返らせているのは女性キャラだからなんだろうけど。


「謎の美少女仮面剣士ただいま参上よっ」


「「「「「……………」」」」」


 さすがに誰もついていけなかったようだ。


「ナナシは少女って感じの見た目じゃないでしょうが」


 マイカのツッコミが入った。


 確かにナナシは長い髪の大人の女性だ。

 メリハリのあるボディラインがハッキリと分かる黒い革の服に身を包んでいる。


 仮面は装着しっぱなしなので謎多き人物という点については正しいのだが。

 これは呪われた魔眼を封じるために装着しているので秘密を明かすわけにはいかない。

 そういう設定だ。


 トモさんもツッコミを入れてほしくてやっているだけである。

 設定をねじ曲げる気はないはずだ。

 現にマイカの突っ込みを受けて楽しそうに笑っていたからね。


 で、試合が始まった。

 双剣使いのナナシが素早い動きで翻弄する。

 リュートが迎撃というのが試合の流れであった。


 色々とパターンを変えたりしてギャラリーを湧かせたが、結果はタイムアップでドロー。


「泥仕合ではない。

 ドロー試合だっ」


 終わってからトモさんのオヤジギャグが炸裂した。


『せっかく盛り上がったのに……』


 周囲の体感温度がググッと下がってしまったんですがね?


「おい、笑えっ」


 永浦由一氏の物真似まで引っ張り出してくるし。

 当然ながら、ほぼ無反応。

 マイカが冷笑でミズキと俺が苦笑するだけだ。


「何故だっ、永浦くんの物真似クオリティが低いせいなのかっ」


「元日本人組にしか分からないネタだからだよ」


「うん、知ってた」


『そのボケがしたかっただけなんだな』


 満足したトモさんは大人しくギャラリーに戻った。

 そして続く対戦はマイカとミズキの組み合わせ。


「三節棍の妙技を見るがいいわっ」


 自信満々のマイカ。


「んーっと、頑張るね」


 マイペースなミズキが応じた。


 選んだキャラは女騎士エシャロット。

 リュートやケーニッヒのように癖が少なく扱いやすいのが特長だ。

 パワーは劣るがスピードは上回っている。


 このキャラ選択が勝敗を決した。

 マイカが癖の強いゼンを使いこなせずに敗北したのだ。


 ぶっつけ本番で上級者用のキャラを使うのは感心しない。

 それでも惜敗に持ち込んだのは大したものだとは思うがね。。


「あーっ、負けたぁ!

 もう少しで削りきれたのにぃっ」


 地団駄を踏んで悔しがるマイカ。


「勝っちゃった」


 アッケラカンとした様子のミズキ。


「もう1回っ!」


 両手を合わせて頼み込むマイカ。

 スッとミズキの目が細められた。


「ひうっ」


 一瞬でマイカが震え上がってしまう。

 今の泣きの1回がミズキの逆鱗に触れる少し手前だったことを敏感に察知したが故に。

 さすがは幼馴染みである。


「あっ、いやっ、あのっ……」


 とはいえ何が原因であるかは分かっていないらしく、しどろもどろになっている。

 頭の中が真っ白になってしまったようだ。


「はわわわわ……」


 幼き頃からの付き合いがそうさせるのだと考えられる。

 ミズキを怒らせるということが、どういうことなのか。


 そのせいか、完全にキョドっている。

 おそらくは本能に刻まれているのだろう。

 トラウマってやつだ。


読んでくれてありがとう。

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