1007 勝負の行方は如何に?
何故あの格好かというツッコミは後から来たギャラリーが抱いていたがね。
ヨウセイジャーなんて新規の国民は知らないし。
とはいえ子供組がエンドレスに主題歌で応援していれば──
「何かのアピール?」
「何をアピールするんだよ」
「いや、分かんないけど、なんとなく」
「制限付きでプレイするとかかな」
『それは縛りと言うのだよ』
内心でツッコミを入れる。
「何を制限するんだか。
視界は妨げられないらしいよ、アレ」
中には変身スーツのことを知っている者もいるようだ。
「じゃあ、何だろう?」
「そんなこと言われてもなぁ」
「あえて言うならノリ?」
「「「「「それだ!」」」」」
こんな感じで雰囲気に乗せられて勝手に納得してしまうのであった。
「さあっ、これは大変なことになってきたぞぉ」
見ていれば分かる。
どちらのキャラもノーダメージだからな。
レフェリーが言うまでもないことだ。
が、それが場を盛り上げるために彼に与えた役割である。
「凄すぎっす」
「どちらもまともに当たってないっすよ」
「さすがはライバルキャラ同士っす」
「「いや、それは違う」」
ライネの発言にローヌとナーエがツッコミを入れていた。
確かに違う。
キャラ性能はライバルということで同等でもプレイヤーは違う。
この対戦、どちらか一方が風と踊るの面子だったら、もっと違った展開になっていた。
いや、既に対戦は終わっているだろう。
いくら秋祭りの会場全体に可変結界が展開されていても4倍のレベル差は大きい。
身体能力的に差が少ないだけでは埋めきれないものがある。
2桁レベルしか知らない者にレベル300オーバーの領域など知りようがないからだ。
これもまた経験の差と言うべきだと思う。
別の言い方をするなら引き出しが多い、だろうか。
そんな訳で組み合わしだいでは一方的な展開となって終わっていただろう。
いま互角に勝負が推移しているのはレベル差が少ないハッピーとフェルトだからだ。
ライネにツッコミが入れられるのも当然というもの。
「そう?」
当人はよく分かっていないようだが。
だが、そんなことをずっと気にしている3人娘ではない。
「「「頑張れーっす!」」」
どっちを応援しているのか不明だが試合に集中していた。
漫才トリオには見習ってもらいたいものである。
「ふっ!」
短い息吹のような掛け声と共にフェルトが下段の攻撃を繰り出した。
ケーニッヒがしゃがみ込んで足払いの蹴りを繰り出す。
『ここでパターン変更か』
上段だけの突きの応酬に慣らされた目には──
「「「消えたっす!」」」
3人娘が主張するような見え方をする。
「おーっとケーニッヒ選手、ここで攻撃パターンを変えたぁ」
レフェリーには見えている。
でないとレフェリーとしての意味をなさなくなるからな。
驚きはしても、全キャラの動きに対応できるのがグラサンレフェリーである。
ちなみに単独プレイの時にグラサンレフェリーが最終ボスになったりはしない。
隠しキャラで使えるようになったりもしない。
プロ根性があって目は追いつくが強いわけではない。
それがグラサンレフェリーなのだ。
そしてハッピーはそれ以上である。
「見え見えです」
足払いの間合いから軽いバックステップで離れる。
蹴りがケーニッヒの前を通り過ぎる瞬間を狙ってカウンターの体勢を取るつもりだ。
最古参であるハッピーが決定的な隙を逃すほど甘くない。
「それはどうかしら?」
フェルトが攻撃モーションを途中で止めた。
スクリーン上のケーニッヒも足払いを中止する。
「おおっ、空キャンセルだ」
真っ先に反応したのはトモさんだった。
フェルトが拳銃の引き金を引く。
銃口から光がほとばしり光球が発射された。
「ああっ、ここでケーニッヒ選手が必殺技を使ったぞ」
レフェリーの実況が入る。
「見え見えじゃなかったです」
ハッピーは迎撃しなかった。
弾を温存した訳ではない。
互いの距離と発射のタイミングを瞬時に判断して回避の判断をした。
至近距離での相殺はダメージを受けるからだ。
大きなダメージにはならないだろうが決定的な隙を生むことになる。
残り時間がわずかとなった現状においてはダメージが多い方が不利だ。
戦術の幅が限定されてしまう。
攻撃して自分より多いダメージを入れられなければ判定負けになるからだ。
これが対戦を開始した直後なら駆け引きなどやりようはあるだろう。
が、時間に余裕がなくなりつつある現状において待ちの戦術はない。
多少のフェイントを含む駆け引きはあるとしても。
それは選択肢が狭まる分だけ読みやすくなる。
落ち着いて対処すれば判定に持ち込めるだろう。
そう思わせておいて誘い込んでからの大ダメージ狙いもあり得るが。
そのため罠と分かっても踏み込まねばならない状況になりかねない訳だ。
ならば回避して無傷で切り抜ける方が乗り切りやすい。
ハッピーはそう判断した。
もちろん全力で回避する必要がある。
その時に生まれる隙は更に大きなものとなるだろう。
必殺技を回避しても次の攻撃を捌けるかは分からない。
ダメージを負えば、必殺技を相殺した時と同じ状況になり得る。
袋小路に追い込まれたようなものだ。
「それでもっ」
ハッピーはノーダメージで切り抜けられるかもしれない可能性にかけたようだ。
回避操作をする。
それを受けてリュートがどうにか光球を回避した。
「おおっと、これは見事っ。
リュート選手、どうにか躱したぁ!」
そこへケーニッヒが迫った。
「だが、ケーニッヒ選手は攻撃の手を緩めるつもりはないようだ」
明らかにバランスを崩しているリュートはいいカモである。
反撃に注意しながら突きを繰り出すケーニッヒ。
当てに行くためのものではない。
それが証拠にリュートの動く先を見越した攻撃になっている。
別の言い方をするなら「置きにいく」だけのものだ。
当たっても大きなダメージにはなり得ない。
だが、残り時間を考えると回避せざるを得ない訳で。
「これはケーニッヒ選手の作戦か?
コンパクトな連続攻撃でリュート選手の退路を防いできたぞぉ」
それも狙いのひとつだろう。
「丁寧な攻撃でリュート選手に主導権を渡さなぁーい!」
だが、本当の狙いは別にあった。
バランスを崩している状態での連続回避は立て直しが困難になる。
むしろ更にバランスを崩すことにつながっていた。
それは決定的な隙を作り出すことになるだろう。
だからフェルトは小さく速い攻撃になるよう操作していたのだ。
自分は無理をせず相手に無理をさせるために。
そして回避ができない状況に追い込んでからダメージを与えるつもりなのだ。
『勝ちに行ってるなぁ』
良く言えば慎重。
悪く言えば臆病。
いずれにしても確実を期すための選択だ。
「ケーニッヒ選手、攻撃の回転が上がったぁ」
レフェリーの言う通りだった。
フェルトが連続攻撃の手数を増やす。
その分、命中してもダメージは小さくなるが本人は気にしていないようだ。
「ここに来て勝負に出たか!?」
とはいえ、それが功を奏すとは限らない。
このガンカタファイターのゲームは部分的にリアルな要素も詰め込んでいるからね。
俺が操作した浪人カキタも集中力を切らしたし。
試合時間が長引けばリュートやケーニッヒもそういう状態になりやすい。
特に緊迫した試合展開だと消耗が激しくなる。
他には運動量に応じた反応もするし。
スタミナ切れとか汗をかいたりだとか。
汗や血が目に入って動きが鈍るなんてことも起こりうる訳だ。
「リュート選手、ドンドン追い込まれているぞぉっ。
回避が追いつかなくなってきたか!?
ピンチ、ピンチ、ピンチ、大ピ─────ンチッ!」
レフェリーの実況が再び高いテンションになってきた。
だが、これは仕方あるまい。
対戦は終盤となりギャラリーたちが盛り上がっているからな。
「頑張れっす!」
「負けるなっす!」
「粘るっす!
逃げ切ればドローっす」
3人娘は劣勢のリュートを懸命に応援している。
「「「「ハッピ────────ッ!」」」」
子供組も声を振り絞って応援していた。
「このまま押し切れーっ」
「勝ちは、すぐそこだっ」
「勝てるぞ!」
ケーニッヒの応援をする者たちもいて、とにかくヒートアップしている。
「さあっ、勝負の行方はどうなるーっ!?」
実況が白けさせる訳にはいかないよな。
「もらいました!」
ケーニッヒの連続攻撃で死に体となったリュートに向けて横一線の斬撃が放たれた。
残り時間は秒読みの段階だ。
ここでダメージが入ってしまえば逆転の目はない。
ゲームのキャラクターたちはそこまで高性能ではないからな。
フェルトは勝ちを確信しただろう。
もちろんリュートが攻撃を回避できるような状態ではないからこそなんだが。
だからこそ、それが絶対的な隙となる。
その瞬間ズルリと足を滑らせてしまった。
舞台の上に滴り落ちた汗のせいで。
しっかりと踏み込んだケーニッヒの斬撃は空を切った。
「あーっとぉ、何ということかっ!
勝利を確信していたであろうケーニッヒ選手が空振りぃっ!」
仰け反るように転んだリュートが意図せず回避した形となったのだ。
「しまっ……」
フェルトが驚きつつも、即座に回避操作を行う。
だが、ケーニッヒは動かない。
フェルトが反応できてもケーニッヒはそうではないのだ。
最後の最後で大振りをしたのが裏目に出てしまった。
ケーニッヒは完全に無防備である。
リュートを操るハッピーからすれば絶好の好機であった。
が、リュートも尻餅をつく形で転んでしまっていたのだ。
まともに剣を振るうことはできない。
読んでくれてありがとう。