1004 ハルトの疑問とウィスの疑問
「ハルが天然だって根拠は簡単よ」
ドヤ顔でマイカに言われてしまった。
地味にイラッとする。
「ほうほう、是非とも御教授いただきたいものですなぁ」
「知りたい?」
フフフと不敵に笑うマイカ。
イラッがプラス1された。
「だから、そう言ってる」
「教えてあーげない」
「だあーっ」
絶対にからかわれている。
そう思った。
マイカに聞くのは諦めてミズキに聞こうと思ったら先手を打たれたからな。
「言っちゃダメよ、ミズキ。
少しはハルに考えさせないとダメなんだから」
「うーん、そうかなぁ」
少し悩む素振りを見せたミズキだったが……
「うん、そうだね。
自分で考えないと身に沁みて理解できないだろうし」
「おいぃーっ」
援軍の要請は打診前に封じられてしまった。
これでは本当に自分で考えるしかない。
まるで分からないから聞いているというのに。
『せめてヒントはないのか』
それを聞いたところで却下されるだろうがな。
リア充と言われるようなことに心当たりがないから、そう言われたってのは分かる。
だが、そこまでだ。
「リア充って言われてもなー」
腕を組んで頭の中から絞りだそうと考えてみるが、なぁーんも出てこない。
「うーん」
唸ってみても結果は同じである。
が、思わぬ助け船が背後からやって来た。
「王様が潔かったから」
ウィスだ。
「あ? 潔い? 俺が?」
コクコクと頷きで返事をするウィス。
「冗談だろ?
たらたら言い訳して潔い訳ないじゃないか」
ミズキとマイカが「ダメだ、こりゃ」と言わんばかりの表情になった。
トモさんとフェルトは苦笑している。
どうやら俺の意見の方が少数派みたいだ。
「王様がゲームとはいえ負けを認めるなんて凄いこと」
「「「そうっすよ」」」
3人娘が同意した。
フィズやジニアも頷いている。
「あー、確かに他所の国じゃ非常識なことなんだろうな」
それは分かる。
国王が簡単に頭を下げたり負けを認めたりするのは権威の失墜につながるとか。
そういう類の話だ。
「うちの国じゃ、そういうのは関係ないから」
サラッと流すように言ったつもりだったのに、何故かそうはならない。
「やっぱ王様はすげーっす」
ローヌが再び感動する。
「格好いいっすよ」
ナーエなどは、そんなことを言い出す始末。
『負けて格好いいとか、どういうことよ?』
ホントに訳が分からない。
「器がデカいっす」
ライネも負けず劣らず理解不能なことを言ってくる。
俺自身が器が小さくて恥ずかしいと思っているのに、あり得ないだろう。
『訳が分からん』
俺は混乱するばかりである。
「ハルトくん」
それまで黙って見守っていたベリルママに声を掛けられた。
「はい」
「皆が凄いと思ってくれてるんだから、それでいいじゃない」
「はあ」
つい生返事になってしまった。
それで本当にいいのかと思ってしまうが故に。
些細なこだわりなのかもしれないが。
「うちはうち、他所は他所なんでしょ」
「はい」
「ミズホの常識、西方の非常識なのよね?」
「ええ」
それを言われると反論しづらくなる。
まあ、元から反論する気はなかったが。
受け入れられるかどうかの……
『ああ、さっきのマイカみたいなものだな』
そう思うと俺も往生際が悪いだけなんだろう。
「その顔は自分で気付いたみたいね」
「はい、たぶん……
そういうことなんじゃないかと」
受け入れる度量が欠けていたなど恥ずかしくてしょうがない。
皆が自分の意思で示した意見なのだ。
受け止めねばなるまい。
結果、俺がそのレベルに達していないと内心で悶絶するのは別問題である。
『ちゃんと王様やらないとなぁ』
ミズホ流だけどな。
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俺の敗北から話が変な風になってしまったが、次の対戦だ。
「本当に私がやるんですか?」
不安そうな面持ちのフェルトが操作サークルの中心に立っている。
トモさんの推薦でこんなことになっていた。
「いいから、いいから。
大丈夫だって。
負けたからって怪我をする訳じゃないんだから」
説得するトモさん。
実に楽しそうだ。
ゲーマーが増えるかもしれないからだろう。
増えなくても減りはしないしな。
そして隣のサークルにはハッピーが立っていた。
いや、燃えていた。
「やるですよ!」
古いスポ根アニメのように瞳に炎が宿ったりはしないがね。
とにかく気合いが入っている。
「ハッピーは、やるのです」
よく見れば肩に力が入っているだけだった。
『あらら、フェルトとは別の意味で大丈夫かな』
「緊張しすぎだニャ」
ミーニャが指摘する。
「リラックスなの」
ルーシーがアドバイスするが、それで緊張がほぐれるなら苦労はしない。
「ゲームで向きになりすぎだよ」
シェリーの言葉も聞こえているのかいないのか。
ハッピーは反応しない。
『重症だな』
「ハッピー、忍精チェンジ!」
チーが妙なことを叫んだ。
「え?」
としか言えなかった。
『変身してどうするのさ』
そのツッコミが出そうになったところでハッピーが反応した。
「忍精チェンジ!」
『マジか』
ハッピーが本当に変身してしまいましたよ?
「「「なんなんすか、アレ!」」」
3人娘が騒ぐのも無理はない。
新規国民組は変身ヒーローを知らないし。
おまけに一瞬で変身するからな。
ウィスでさえ呆気にとられていたくらいだ。
だが、すぐに我に返り俺の元に来る。
「あれは何?」
「最近、使ってなかった装備品だな。
一瞬で特殊なスーツを全身に纏うことができる」
「特殊なスーツ?」
「そこらの鎧より遥かに防御力が高い」
「……何故?」
ウィスは短く聞いてきただけだったが、言いたいことは分かる。
「実戦じゃあるまいし装備品を身につけるのは何故かって?」
コクコク頷くウィスである。
「俺にもよく分からんな。
変身はチーのアドバイスではあるが……」
「何か意味がある?」
その問いかけは俺に対するものというより単なる呟きだったようだ。
が、その言葉を耳にしてふと思った。
「そういうことか、なるほど」
困惑した様子のウィスが俺を見る。
勝手に納得していないで教えてくれと、その目が語っていた。
「変身前のハッピーは緊張で入れ込みすぎの状態だったんだよ」
ウィスがコクリと頷く。
あれだけ酷いと背中を見ただけで分かる。
どれだけ酷いかというと、不安そうに振り返っているフェルトとどっこいな感じだ。
「だったら緊張する要素を排除すればいいとチーは考えたんだろうな」
「それで変身?」
ウィスが首を傾げつつ聞いてくる。
よく分からないながらもハッピーの雰囲気が変わったことには気付いていた。
「そういうことだ。
変身スーツで全身が覆われるのが良かったんだろうな」
「でも、何故?」
そこが分からないようだ。
「周囲に漂う雰囲気の遮断かな」
再び首を傾げるウィス。
説明を端折りすぎて意味不明になってしまったか。
「まずは前提条件だが」
前置きして再度の説明を試みる。
「周囲の空気に煽られて緊張していたのは分かるよな?」
頷きで返事をするウィス。
「変身スーツは全身を覆うから閉塞感がある」
コクリ。
「だが、室内にいる時のような守られている感覚もある」
「それが雰囲気の遮断」
ちょっと驚いたような感じでウィスが感心していた。
「そういうこと」
「へー、そうだったんすねー」
そばで聞いていたローヌも感心していた。
「よく分かんないっすけど」
ナーエの台詞にローヌも頷いていてガクッときたけど。
「とにかく凄い勝負が見られるってことっすね」
ライネも同じらしい。
まあ、ウィスに聞かれたから説明したことだ。
3人娘が理解できなかったとしても問題にはならないだろう。
読んでくれてありがとう。