1003 負けを認めたら感動された?
相打ち覚悟でカキタを相手の懐へ飛び込ませた。
「勝負だ、ルーシー!」
「望むところなのっ!」
一か八かでカキタの集中が切れる前に強攻撃。
必殺技にはならないが、通常攻撃でも居合いは強い。
一撃で仕留められなくても大ダメージを与えれば一時的に麻痺させられる。
カキタはそれがやりやすいキャラである。
『麻痺している間に削りきってしまえば勝ちだ』
もちろんカウンターをくらえば、立場は逆になる。
やるかやられるか。
一か八か、そこに賭けた。
こんなことはゲームだからできることだ。
そういうのが、ちょっと楽しい。
普段は訓練といえども絶対にできないことだからな。
ゲームキャラと動きを完全に一致させないのも、そういう理由があったりする。
『さて、吉と出るか凶と出るか?』
俺は回避することなど微塵も考えずにカキタを踏み込ませた。
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □
結論から言うと、あっさり負けた。
相手は脆弱だが回避はトップクラスのジジイ、ゼンである。
それを失念していた訳ではないが、大振りの攻撃は紙一重で躱された。
しかも、居合いを振り切ったところでカキタの集中力が切れてしまったのだ。
回避能力が格段に落ちてしまい、まともに躱すことができなくなった。
後は言うまでもないだろう。
完膚なきまでにボコボコにされてゲームオーバー。
ということで双方共に癖の強いキャラを使っての対戦が終わった。
このガンカタファイターは1本勝負なのでラウンド2はない。
そのぶん回転率は上がるから待たずに済むという利点がある。
「負けちゃったなぁ。
いやぁ、ルーシーは強いわ」
俺はルーシーを称えたのだが。
「そんなことないの」
否定されてしまった。
「冷や冷やしたの。
薄氷を踏む思いだったの」
割と必死な感じの返事だった。
ワタワタして焦っているというか。
いじらしくて可愛いんだが、それで和んでいる訳にはいかない。
『マズったかな』
俺だけ楽しんでルーシーを怖がらせたんじゃな。
すべてが台無しだ。
「そうか?
じゃあ怖かったか?」
ちょっとドキドキしながら聞いてみる。
「ううん、すっごく楽しかったの」
そこは否定された。
それも満面の笑みで。
「それは良かった」
何でもないように返事はしたが、内心ではホッと一安心である。
「みんなー、勝ったよー」
ルーシーが子供組の輪の中へ戻っていく。
「「「「やったね、ルーシー」」」」
俺に勝ったのが嬉しくて全員で喜び合う子供組。
微笑ましい光景である。
「惜しかったわね、ハルトくん」
ベリルママが慰めの声を掛けてくれた。
「いえ、完敗です。
最初の読み合いの時点で負けてましたから」
負けた勝負をあれこれ言っても負け惜しみにしかならないだろう。
故にこれ以上のコメントは控えようと思ったのだが。
「すげーっす」
「あの子、小さいのに強いっすよ」
「最後は陛下をはめたっす」
「コラコラ、はめたって何だ」
咄嗟だったのもあって、つい振り返りながらツッコミを入れていた。
そこまで酷くなかったつもりだ。
集中力が切れて動きが鈍った状態ながらも可能な限り受け続けたからな。
ツッコミを入れた相手が誰だかは分かっている。
3人そろって下っ端風に喋ると言えば風と踊るのローヌ、ナーエ、ライネの3人娘だ。
「いやー、すんませんっす」
後頭部を手でかきながら笑って誤魔化すライネ。
「まったく……」
嘆息と共に吐き出したのは、その言葉のみ。
咄嗟のことだったとはいえ既に自分が小さい奴な反応をしてしまった自覚がある。
これ以上の追及は器が小さすぎるだろう。
「キャラ選択を間違えた」
不意にボソッと告げられた。
「んー? ウィスか」
あの口振りからすると最初から見てた訳ではなかったのは明白。
最初は、ほとんど観客がいなかったしな。
プレイ中にギャラリーが増え始めていたから、その時に来た口だろう。
「相性問題と言いたい訳か」
コクリと頷くウィス。
「そりゃ違うだろ」
俺の否定にウィスが首を傾げた。
「このゲームを作ったのは俺だ。
チェックをしたのも俺。
故に満遍なくキャラを使える」
不得手はない。
「だが、キャラの癖や特徴を把握した上で作戦を考えて挑まれれば今みたいに負ける」
言いながらウィスの様子を確認した。
特に何かを言おうとしているようには見えない。
むしろ、聞き入る状態のままジッと俺の方を見ている。
先を促されているようだ。
「今の勝負は単純に俺が弱かった。
敗因は色々あるだろう。
だが、俺が弱いからそれらを跳ね返せなかった」
誰が何と言おうと紛れもない事実である。
「それだけだ」
言い終わるとウィスがキラキラした目をしていた。
いや、それは他の風と踊るの面子もだ。
『なんだ?』
こんな反応をされるようなことを言ったつもりはないのだが。
「さすがは陛下です」
リーダーのフィズが何故か感激している。
同意するように他の面子が激しく頷いていた。
「は?」
訳が分からない。
「感服しました」
「ええっ?」
『なんでさっ!?』
疑問符が頭の中を埋め尽くしていく。
なるたけ言い訳せずに負けたことを認めただけである。
感激されたり感服される理由がない。
むしろ小さいと言われた方が納得がいく対応しかしていないのだが。
『どうしてこうなった!?』
混乱が拡がっていくばかりである。
「あーあ」
呆れた様子で声を漏らすマイカ。
「分かってないわよ、アレ」
「だよねー」
マイカの言葉にミズキが同意する。
それはもう楽しそうに。
「陛下は相変わらずですね」
フェルトにまで呆れた感じで言われてしまった。
『どういうことぉ!?』
ますます混乱するんですがね。
助けを求めるようにトモさんの方を見たのだが……
「リア充、爆発汁」
無表情でぼそりと言われてしまった。
「爆発汁ってなにさっ?」
どこがリア充なのかサッパリ分からん。
いや、奥さんや婚約者が大勢いるのはリア充だと思うけどさ。
今の状況はそれが強調されたりしてないよね?
「ネットスラングです」
事務的な声で返事された。
無表情は継続中である。
「それは分かってるさ。
そんな言葉を引っ張り出してくる理由っ」
「リア充だからです」
『まだ続けるし……』
「ハルさぁ」
そこへマイカが声を掛けてきた。
呆れた様子のままである。
「おお、どうした」
「どうしたじゃないわよ」
はあっと盛大に溜め息をつかれてしまった。
『何だなんだぁ?』
俺は塩対応でもしたというだろうのか。
それなら風と踊るの面々の反応は説明がつかなくなるのだが。
俺の混乱と困惑は極限に達しようとしていた。
「完全に天然モードが発動しちゃってるじゃない」
それはまさしく青天の霹靂というべき指摘であった。
「なんですとぉ─────っ!?」
反射的に絶叫してしまったさ。
マイカに天然と言われるとは思っていなかったが故の驚愕だったからな。
『俺が天然、天然、天然、天然、天然、天然……』
エンドレスで「天然」という言葉が頭の中を駆け巡る。
鉄仮面なら役所時代に言われていたが、これは初めてだ。
大学時代もマイカたちに言われた覚えはない。
誰彼が天然などという会話を自分がしておいて、この様である。
いざ自分が天然だと指摘されて動揺するとは想定外。
情けないにも程がある。
「何故に天然だと言うのかな?」
動揺している場合じゃない。
マイカの指摘をミズキが肯定している。
フェルトもトモさんもそういう目で見ているのは間違いない。
いくら俺が否定しても認められないのは明らか。
ならば俺が天然であると言う事実を受け入れるしかあるまい。
その上で、どうして天然だと思われたのかを確認しなければならないだろう。
原因が分からなければモード解除すらままならないからな。
俺の質問にミズキと顔を見合わせるマイカ。
やれやれといった感じで肩をすくめて溜め息をつかれてしまった。
自分で気付けないのかと言わんばかりである。
ミズキも苦笑するし、散々と言うほかない。
『ぐぬぬ』
内心を悟られぬように【千両役者】を使うのが精一杯だった。
『まだまだ修行が足らんなぁ……』
読んでくれてありがとう。




