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1001 ガンカタファイトやろうよ

 トモさんがスイッチを入れた叫びは思った以上に周囲に響いていた。


「うおっと……」


 自分の声に驚いてアタフタしてしまうトモさん。


 そんな具合だからゲームの応援をしていたギャラリーの声さえ上回ってしまう。

 プレイヤーはそれどころじゃないが、見物している面々が一斉に振り向く。

 その中には子供組もいた。


「あー、陛下ニャー!」


「ホントだー」


「ホントなのー」


「「来た─────っ!」」


 シュババババッと駆け寄ってきて、あっと言う間に纏わり付かれてしまった。


「あらあら」


 楽しそうにクスクスと笑うベリルママ。


「ハルトくんは小さい子たちに愛されてるわね」


「あの、誤解を招くような言葉は勘弁してください」


 幼女まみれになりながら抗議する。

 台詞だけ聞いているとヤバい気がするのは俺だけではないだろう。

 トモさんが即座に反応しているし。


「お巡りさん、こっちですー」


 さも事案であるかのような言い方は心外である。


「おい、コラ」


 抗議するのも当然と言えるだろう。

 もっとも、別方向から追撃が入ってそれどころじゃなくなってしまうのだが。


「YesロリータNoタッチな紳士がいますよー」


 新しいネーミングでウンウン唸っていたはずのマイカも便乗してきた。


『飽きたんだな』


 これで十中八九なあなあになるだろう。

 ただし、それはゲームのネーミングについてだけだ。


 新たに浮上した問題は別問題である。

 ロリコン呼ばわりは看過できない。


「誰がYLNTな紳士だ」


「Noタッチだったら問題ないんじゃないの?」


 真顔でツッコミを入れてくれるミズキ。

 当人は俺の援護というか擁護をしているつもりなのだろう。

 天然ボケをかましてくれているが。


「あ、でも、今はタッチしてるよね?」


 それどころか迷走が始まりそうな予感がする。


「自分の意思で触るのと、そうでないのでは違うかなぁ?」


 とか言いながら悩み始めてしまった。

 こうなると戦力外である。

 むしろフレンドリファイヤーを誘発しかねない危うさを感じるね。


「あのな……」


 体中の力が抜けてしまいそうなくらいガックリきたさ。


「Noタッチとかタッチとか関係ない」


「えー、そこは重要だと思うけどぉ……」


「それ以前の問題だ。

 何よりもまず俺はロリコンじゃないっての」


 どうにか抗議できた。


「あ、そっか。

 ゴメン、ゴメン」


 珍しくミズキがテヘペロをした。

 悪気がないし、こちらの味方だから怒る訳にもいかない。


「幼女セッター!」


 突如としてトモさんが仕事の声を使ってきた。


「何なんだよ、もう」


 まだまだ人のことをイジる気、満々だ。

 何だか聞き覚えのあるBGMを口ずさんでから──


「幼女の騎士、ジェントルマン・ブレイズ、ここに参上!」


 決め台詞を持ってきた。


「……それを言いたかったんだな」


「ハハハ、嫌だなぁ。

 そんな訳あるじゃないか」


「あるのかよ」


 定番のボケとツッコミである。


「それにしても銀河の騎士レッカマン・ブレイズのネタを持ってくるとはね」


 色々ツッコミどころ満載だけど、やめておく。

 トモさんはともかくマイカを勢いづけることになりかねない。


 ジェントルマンあたりにツッコミを入れようものなら何を言ってくるやら。

 どうもゲームのネーミングでやり込めたのが尾を引いているようだ。

 何とか逆襲したいというのが透けて見える。


「子供組がしがみついているのを見て連想したんだよ」


 両腕両脚、そして背中。

 余すことなくって感じがそう見えたらしい。


『だけどレッカマンは変身って感じだしなぁ』


 どうもイメージと違うのだが。


「どっちかって言うとフルアーマーグランダムって感じじゃないかな」


「あっちはメカじゃないか。

 生身のハルさんから連想するのは、こっちだよ」


 妙なこだわりがあるね。

 それを言うなら増殖装甲グロウワーの方がイメージに合うんだが。

 子供組をネタに絡ませる都合もあるから選択されなかったのは分かるんだけど。


「「「「「ねーねー、陛下もやろーよぉ」」」」」


 幼女ネタなどどうでもいいとばかりに子供組が催促してきた。

 どうでもいいのは俺もなので便乗させてもらう。


「空いてる筐体があればな」


 さほど待つ必要もない状況なのがありがたい。


「「「「「やったーっ!」」」」」


 子供組が大喜びである。

 俺にしがみついたままなので、もみくちゃにされてしまうのは仕方のないところだ。


『身動き取れねー』


 まったくというレベルじゃないが可動範囲は大幅に制限される。

 強引に動こうものなら子供組を振り落としてしまいかねないので自粛中だ。

 不自由でしょうがない。


「早く並ぶのニャー」


 背中に負ぶさっているミーニャは無茶振りをしてくれるし。


 しょうがないので理力魔法で浮いて平行移動する。

 なぜかトモさんが背後に回って同じように理力魔法でスルスルとついて来る。

 更にマイカまでもがトモさんの後ろへ回った。


「「ジェットスラロームアタック!」」


「……好きだね」


 いや、俺もグランダムは好きだけどさ。

 とにかく何処までもネタに走る身内たちである。


『物真似のネタでも増えれば少しは違うのか?』


 かもしれないが、俺にそういう才能はない。

 スキルを取得してまでやることでもないだろうしな。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 いま俺の隣には少し距離を置いてルーシーが立っている。

 互いに操作のためのサークル内に入ったところだ。


 正面の大型スクリーンはキャラ選択の画面になっていた。

 手を上下に動かしてキャラクターを選ぶ。

 左右に動かすとカラー選択だ。


「じゃあ、俺はランダムでっと」


 どのキャラを使うことになるかは始まるまで謎である。


「ルーシーは三節棍使いなの」


 曲者の老人キャラである。


「また、マニアックな」


 全キャラの中で耐久力が最も低いがトリッキーな動きをするため回避能力が高い。

 プレイヤーはキャラクターそのものの動きをする必要がないので操作自体は難しくない。

 ゲームのシステムが介入して画面上のキャラを動かすからだ。


 したがって、このキャラのように自分の動きと大きく異なることになったりもする。

 そのため老人は操作に慣れを必要とする上級者向けのキャラであった。


「双方、キャラクターが選択されました」


 アナウンスが入る。


 武道大会という設定なのでステージの選択などはないのだ。

 スクリーン上に八角形の舞台が描き出された。

 そして選択したキャラが舞台上に上がるデモ映像が流れる。


「1プレイヤー、ゼン」


 アナウンスの紹介に応えるようにスクリーン上の老人が両手を合わせてお辞儀した。


「2プレイヤー、カキタ」


 無精髭を生やした浪人オッサンキャラが正座の状態から立ち上がった。


「どうして正座してるのよ?」


「分かんない」


「外国人が考えそうな間違った侍キャラっぽいと思うよ」


「侍とはああいう感じなんですか」


「「「いやいや、違うから」」」


 背後からそんな会話が聞こえてくる。


 その間にキャラたちは舞台の中央へ進み出る。

 そこには黒いスーツに身を包みサングラスをかけた兄ちゃんがいた。

 手にはマイクを持っている。


 このガンカタファイターのゲームでは彼がアナウンスをする。

 そしてレフェリーでもある。


「両者、握手を」


 レフェリーの呼びかけにルーシーと共に画面の方に向かって手を出した。

 すると画面上のキャラが反応。

 キャラ同士が手を前に出した格好になった。


 その後は、システムが握手の意思があると判断して互いに握手させる。

 これをしないとゲームは始まらない。


 初心者が勝敗にこだわるあまりギスギスした状態に陥らないように考えたことだ。

 こんなので効果があるのは、うちの国民だけだろうがね。

 とはいえ、このゲームを西方に持ち込むつもりはないから問題にはならないはずだ。


「両者、構え」


 キャラクターたちが互いに武器を構えた。


 三節棍を横に真っ直ぐ伸ばす老人。

 この状態で酔っ払いのようにユラユラと体を揺らしている。

 真っ白な頭髪と髭で顔が隠れているために表情は読めない。


 対する浪人は大きく脚を開き、ドッシリと腰を落としている。

 腰に差した刀の鞘を左手で軽く握り、柄に右手の甲を乗せていた。

 右の掌は開かれたままだ。

 手首を返す動作で柄を掴みながら抜刀するためである。


「居合いキャラなんだね」


 背後で観戦するトモさんが言った。


「そうなの?」


 とミズキが聞いたことで俺はゲームとは別の意味で身構えたのだが。


『……………』


 トモさんの物真似は出なかった。

 ゲーム観戦に集中したいから入れてこなかったようだ。


「私には変な構えに見えるわよ。

 あれ意味があるの?

 とてもじゃないけど、素早く抜刀できるようには見えないわね」


 マイカは怪訝さを感じさせる声音で聞いている。


「意味もなく、あんな構えはしないでしょう」


 指摘するフェルト。


「説明しよう!」


 トモさんが声をつくって解説の口火を切った。


「あの構えは素早く抜刀するためのものなんだよ」


 声を作ったのは最初だけだった。

 もしかすると誰かの真似だったのかもしれない。


「えー、嘘だぁ」


 マイカはまるで信じていなかった。

 だが、トモさんは動じない。


「そう思うなら後で確かめるといい。

 普通に抜刀するのと手首を返しながらでは初動が決定的に違うから」


 言いながらトモさんがニヤリと笑った。


読んでくれてありがとう。

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