表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1011/1785

1000 軽率は力なり

 下手な芝居を続けるマイカだが、そんなのに引っ掛かる俺たちではない。


「分かったから名前の変更案は考えておくように」


 こういう場合に有効な手段は相手の手をシカトすることだ。

 ゴリ押しなど、まともに受けるものではない。

 徹底して流してしまえば通用しないのだから。


 後はこちらの要求を押し付けるのみ。

 向こうがその気なら、こちらもその気である。


「言い出しっぺなんだから責任持とうぜ」


「ぬおーっ、面倒くさーい」


 この期に及んで抵抗するマイカ。

 実にしぶとい。


「軽率は力なりって言うだろ」


「何よ、それ。

 そんなの聞いたことないわよっ」


 マイカがツッコミを入れて吠える。


「言うかどうかは知らないね。

 俺にとっても初耳なんだけど、何だいそれ?」


 トモさんが興味を持ったようだ。


「私も初耳かな」


「私も聞いたことがありません」


 ミズキとフェルトが顔を見合わせて確認し合う。


『やぶ蛇だったか』


 蛇足と言うべきかもしれない。


「迂闊な言動をすると責任を取らざるを得なくなるってことだよ」


 簡潔に説明しておく。


「おー、言い得て妙だね」


 トモさんが面白そうに笑っている。


「そうかもしれません」


 フェルトも笑いこそしないものの同意している。


「ホントだ。

 今のマイカちゃんがそうだよね」


「他人事だと思ってーっ」


 ミズキの言葉に抗議するマイカ。


「諦めた方がいいよ」


 すぐに切り返していたけど。


「そんなに面倒ならガンカタファイターの名前で妥協すればいいじゃないか」


「それは嫌っ」


 徹底抗戦するつもりのようだ。

 妙なところで意固地になる我が奥さんである。


『ならば仕方あるまい』


「ベリルママ、お願いします」


 俺はベリルママに頭を下げて解決を依頼した。


「ちょっ!?」


 マイカにとっては想定外の事態だったのだろう。

 完全に泡を食っていた。


 一方でベリルママはというと……


「あら、時代劇の用心棒みたいね」


 などと楽しそうに笑いながら、そんなことを言っていた。


「お母さんに任せて~」


 満面の笑顔で快諾である。

 それを聞いてマイカはギョッと目を見開いていた。


「マイカちゃん」


 ニコニコしたベリルママが呼びかける。


「はい」


 冷や汗でも流しそうな緊張した面持ちで返事をするマイカ。

 ヤバいとかピンチとか色々なことが頭の中を巡っていそうな表情になっている。


「皆に迷惑かけちゃダメでしょ」


 ベリルママが意味ありげにニッコリ微笑んだ。

 威圧感があるというか何というか。


 周りで見ている分には強く感じないのだけど。

 ジッと見られているマイカにしてみれば背筋が冷たくなっているのではないだろうか。

 殺気など微塵も発していないのに恐怖の記憶が呼び起こされているっぽい。


「はひっ」


 返事はしたものの、まともに発音できていない。


「時には妥協も必要よ。

 自分の意見を通したいんだったら引くべきところは引きなさい」


「はひぃっ」


 返事なのか悲鳴なのか分からないが、効果はあったようだ。


「これでいいかしら、ハルトくん」


「ありがとうございました」


「ますます時代劇チックね」


 ベリルママの機嫌が鰻上りである。

 どうやら最近は日本の時代劇に凝っているようだ。


『だけどなぁ……』


 自粛はしたがツッコミが入れたくて仕方なかったさ。

 おそらくベリルママが想像しているのは商人に雇われている浪人ものである。

 どう考えたって悪役だ。


『神様が悪役になりきって喜ぶとかどうよ?』


 まあ、ベリルママからするとごっこ遊びのようなものなのだろう。

 普段は縁遠いからこそ役として割り切って演じるというのはあるのかもしれない。


 それに役になりきっていた訳でもなかった。

 女神であるという自覚がブレーキをかけたのだろう。


 思い描く悪役を頭の中で演じつつ、実際は普段通りの対応をしたといったところか。

 脳内変換の一種と言えるかもね。


『TRPGとかで遊んだら張り切りそうだな』


 プレイヤーなら全力で役になりきりそうだ。

 GMとかレフェリーを任せたら凄く設定に凝る気がする。


『TRPGで遊ぶことになったらどうなることやら……』


 現状では、そんな予定はないがね。


 それはさておき、マイカには決めさせないといけない。


「で、どうするんだ?

 名前は今のままにするか自分で考えるか」


 この2択しか残されていない。

 だとするなら、どちらを選ぶかは想像に難くなかった。


 が、確認は必要なのだ。

 なあなあにして後で言った言わないで揉めるのは勘弁願いたい。


「もちろん考えるわよ!」


 自棄クソの心境なのか妙に威張りながら宣言するマイカ。

 予想通りの返答であった。


「そんなマイカさんに悲報です」


「ちょっ、朗報じゃないんかいっ」


 すかさずツッコミを入れてくれた。


「嘘を言うのは良くないだろ。

 それとも朗報と言っておいて内容が悲報の方が良いか?」


「くっ、その悲報的内容ってのを聞こうじゃないの」


「考えたネーミングは即時採用じゃないってことだ」


「どういうこと?」


 マイカの眉が釣り上がる。

 一生懸命に考えたにもかかわらず採用されないなどと言われたら、そうもなるだろう。

 絶対に不採用という訳じゃないんだが。


「皆に受け入れられなきゃ採用はできないだろ?」


「しょんにゃ~」


 情けない声で絶望を表現するマイカであった。


「まだ不採用と決まった訳じゃないって」


「現時点では不採用が有利じゃん!」


「まだ3人だけだって」


「3人中3人で百%なんだけどっ」


「そうとも言う」


「そうとしか言わないわよ。

 モチベーションガタ落ちよぉ。

 ホント悲報だったわ……」


 ガックリと失意の四つん這いになるマイカ。


「これぞ、言い出しっぺは損をするの法則だね」


 トモさんがそんなことを言いながら合掌する。


「くうううぅぅぅぅぅ~っ」


 まさにその通りの状態に陥ったマイカに言い返す気力は残っていなかった。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 ガンカタファイターのコーナーに同行した面子は極端に少なかった。

 もちろんベリルママや行き先を相談した面子はいる。


 だが、後は妖精組が何人かってくらいしかいないのだ。

 これは予想外であった。


 よほどホームランターゲットが気に入ったのだろう。

 記録更新だけが目的であるなら、そこまで残らなかったと思う。


 それと後から訪れる面子がほとんどいなかったのも影響しているはずだ。

 人気のスポットとは言わないまでも来客数が増えれば皆も遠慮しただろうし。


「見事なまでに面子が激減したね」


 トモさんが感心している。


「寂しくなりました」


 台詞はこんなだがフェルトもトモさんと同じように感心していた。


「いいんじゃないかな。

 少なくとも俺は嬉しいよ。

 それだけ皆が楽しんでくれているってことだから」


 そう言うとベリルママのニコニコ度が何割かアップした。

 俺が嬉しいとベリルママも嬉しいってことなのは分かるが。


『ジッとしていられない感じになるんだよな』


 恥ずかしいのとはまた違う。

 精神的にくすぐったいというか。

 それでいて癒やされる感じだ。

 その心地よさに浸っている間に到着した。


「おー、こっちはそこそこ人の入りがあるね」


 ガンカタファイター専用の建物内に入った後のトモさんの第一声である。


「アプリで確認していたじゃないですか」


 苦笑しつつも指摘するフェルト。


「そうなんだけど、数字で見るのと実際では感覚が違うかな」


「そういうことですか」


 トモさんの説明に納得がいったフェルトが頷いていた。


「それはそうと、ゲーセンの雰囲気が漂っているなぁ」


 嬉しそうに何度も頷いているトモさんである。


「そうなんですか?」


 ゲームセンターを知らないフェルトが首を傾げた。


「うーん、上手く説明できないけど、そうなんだよ」


「そうですかー」


 分かったのか分からないのか判断しづらい返事をしながら周囲を見渡すフェルト。

 その興味深げな様子とは対照的にトモさんは困惑の表情になった。


「ただ、ゲームの方は斬新だね」


「えっ!?」


 トモさんの呟きにフェルトが振り返った。


「格闘ゲームって聞いていたからレバーとかボタンのある筐体を想像してたんだけどね」


 そう言いながら微妙な表情で俺の方を見てくるトモさんである。


「まさか体全体を使って操作するとは思わなかったよ。

 それもリアルタイムで撮影した動きが反映するやつだよね」


 専用機器でリアルタイムに撮影した人の動きを操作に用いるゲーム機を思い出したな。

 おそらくは標準装備で発売された新型。


 手ぶらで操作できるのは楽だけど、それが主流になるとは思えない。

 それでも操作システムに採用したのにはそれなりに理由がある。


「コマンドとか覚えるの面倒いし、初心者でも遊べるようにしたかったんでね」


「なるほど、そういうことかー」


「それと最終的にはゲーム機の方を参考にしたけどアイデアソースは違うんだよ」


「なんだって!?

 それは本当かい?」


 大袈裟な身振り付きで驚いている。


「銀河武術伝Gグランダムと言えば分かるだろ」


「おおっ、アレかぁ!」


 トモさん大興奮である。

 スイッチを入れてしまったかもしれない。


読んでくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下記リンクをクリック(投票)していただけると嬉しいです。

(投票は1人1日1回まで有効)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ