999 ダサいと言われてもな
次の行き先が決まった。
激論の末にということもなく、あっさりと。
「ガンファイターじゃなくてガンカタファイターなのね?」
念を押すような聞き方をしてくるマイカ。
「ああ、ガンカタファイターで合ってる」
「語呂が悪いわね」
「そんなのは百も承知だよ。
分かりやすさを優先したからな」
「そこを何とかするのがセンスの見せ所なんじゃない」
「じゃあ仮称ってことにしておくからネーミングはマイカに任せる」
「えーっ、なんでよぉ!?」
「俺は分かりやすさ優先のこの名前でいいと思ってるからだ」
「ぐっ」
「でも、マイカは違う名前がいいと思ってるんだよな」
「そりゃそーよ」
「だったらダメ出しをした責任を取ってもらうまでだ」
「えー、皆もダサいと思ってるでしょーに」
マイカが不満タラタラで抗議してきた。
同意を求めるように振り向いている。
「実際のゲームを見てみないことには何とも言えないね」
そう答えたのはトモさんだ。
もっともらしいことを言ってはいるが逃げているのは明白だった。
「うーっ」
初っ端から賛同を得られず唸るマイカ。
「私はガンカタがどんなものか知りませんので……」
回答自体を避けるフェルト。
「くぅーっ」
マイカが眉をしかめてサッカー好きのハーフタレントのような唸り方をする。
残念と言いたいらしい。
俺は普通に喋れと言いたい。
「ガンカタって銃と武術を組み合わせた格闘技じゃなかったっけ?」
ミズキも記憶が定かでないのか聞いてくる。
「格闘技っていうか拳銃を使った至近距離での戦闘術かな」
「そうなんだー」
「念のために言っておくとガンカタは本物の格闘技じゃないぞ」
「えっ、そうなの?」
「しょうなのぉ?」
驚くミズキに荻久保清太郎さんの物真似で追随するトモさん。
タイミングが絶妙だから、つい見てしまうんだよな。
誰の物真似か分かっていないフェルトも含めてね。
「記憶に間違いが無ければ洋画が最初かな」
すかさず解説モードに入るトモさん。
『自分に注目を集めるために物真似を使うのか』
なかなか斬新な発想である。
「それとガンカタと言っているけど本当はガン=カタなんだよ」
これを言いたいがために割り込んできたようだ。
「へー」
トモさんの解説にミズキは素直に感心していた。
「そうなんですね」
フェルトも頷いている。
ガン=カタの詳細は理解していないものの、名前の違いは理解したからだろう。
「あ、それは私も知らなかった」
軽い驚きで感心するのはマイカである。
俺の方に視線が集まるのは訂正するかどうかの確認のためだろうな。
「ああ、それね。
意図的にしてることなんだ」
「というと?」
「ガン=カタではなくガンカタにしたのは似て非なるものだからだよ」
「どう違うんだい?」
「銃器以外の武器がメインなんだよ」
「刀とか?」
「そうそう」
他にもあるけど刀が多い。
「でも、ガン=カタでも銃器を使用しないシーンはあるよ」
そのあたりでツッコミを入れられると厳しいものがある。
実はガン=カタのなんたるかを理解していないからガンカタにしたというのもあるのだ。
「一番の違いは銃器の弾数が少ないってことなんだよ」
「弾倉を交換できないってことかな?」
「それもある。
ガン=カタは弾を大量に消費するだろ?」
「そうだね」
「でもガンカタファイターでは使いどころが限定される必殺技の扱いなんだよね」
「よく分からないな」
「最初は刀で戦う格闘ゲームにしようと思ったんだよ」
「あー、日本のゲームでもいくつかあったね」
「参考にはしたけど必殺技がね。
特に飛び道具系のがどうしようもないというか」
「そうなのかい?」
「どう見ても、こっちじゃ魔法だよね」
「そうだね」
「見た目が派手になるよね?」
「言われてみれば、そうかな」
「刀で戦うはずが魔法オンリーになりかねないんだよ」
「あー、あるかもね。
刀じゃなくて杖でいいって言われそうだ」
「そもそも魔法で杖なんて使わないだろ」
西方では杖は必須みたいなことになっているがね。
ミズホ国では使わないのが常識だ。
「アハハ、刀で戦う格闘ゲームが全否定されそうだね」
「だから苦し紛れの設定を用意したんだ。
魔法が使えない結界の中で戦うってことでね」
「ということは銃器は魔法を撃ち出す魔道具なんだね」
「さすがだね、正解だよ。
回数と威力が制限された魔法の武器という設定にしてある」
「ほうほう、苦労してるねー」
そう言いながらもトモさんが苦笑している。
馬鹿にした感じじゃないので特に思うことはない。
設定に無理があるからなのは承知しているし。
むしろ理解のある言葉が聞けて嬉しいくらいだ。
「最初はカタナ&ガンにしようかと思ったんだけど、しっくりこなくてね」
「カタナガンはもっと微妙だね」
それは俺も考えたさ。
あまりのダサさに即ボツにした。
「それで引っ繰り返したんだね」
「そうだよ」
「それでガン&カタナとかガンカタナだと語呂が悪いからガンカタにしたんだ」
いとも簡単に俺の考えたことが読まれてしまった。
いかに俺が単純な人間であるかがバレバレだ。
「本家のカタは武術の型と言われてるけど、こっちは刀が由来なんだね」
「そういうこと」
「なるほどね」
あくまで刀がメインなんだということは理解してもらえたと思う。
武器は刀だけじゃないけど。
「脱線して悪かったね」
「いや、大丈夫。
構わないよ」
「で、ぬわんだっけ?」
『出た!』
トモさんの十八番、岩塚群青さん。
本当に好きだよな。
「ガンカタファイターの名前を変更したいとマイカが言ったのは覚えてるだろ」
「ああ、そうだった、そうだった。
指名したけど本人は不服で俺たちに同意を求めてきたんだったね」
トモさんも思い出したみたいだ。
「そうだね」
「あー、さっきは現物を見ないとって言ったけど撤回するよ」
そのままでいいのか、それともダメ出しされるか。
どちらとでも受け取れる返答に内心ではドキドキしていた。
「そうかい?」
動揺を悟られないよう【千両役者】を使って自然体で応じはしたけど。
「ハルさんの話を聞いた後だと替える必要性を感じないかな。
俺はガンカタファイターって名前で問題ないと思う」
「えーっ」
マイカが唇を尖らせる。
まあ、保留から反対に回り込まれた訳だから無理もない。
「申し訳ありませんが、私も同じ意見です」
そう言ったのはフェルトだ。
「ちょっと、ちょっと!」
マイカが慌てている。
反対が2票に増えたからな。
「ちゃんとどういうゲームか見てからにした方がいいわよ」
「ハルトさんの話を聞いた上で判断しました」
「うぐっ」
「それと少しだけですがガン=カタの動画も確認しました」
俺たちの話をしている間にスマホで見た訳か。
『器用なことをするなぁ』
動画を見ながら俺たちの話に耳を傾けるとか【並列思考】がないと厳しいだろうに。
そんな風に思ったのだが。
何気なく拡張現実の表示設定を弄って確認したら吹きそうになった。
しばらく見ない間に【並列思考】と【高速思考】のスキルが生えてますよ。
『どうりで器用なことができる訳だ』
まあ、ミズキやマイカにも【並列思考】と【高速思考】が生えてたけどね。
それは余談としてだ。
「私もハルくんの話を聞いちゃうと、このままでいいかな」
「ミズキまでーっ」
マイカが情けない声を出しながら崩れ落ちた。
絶望を体現する四つん這い状態である。
「もう何を信じていいのか、分かんないよぉーっ!」
絶叫のオマケ付きだ。
が、それに注目するのは、いま会話をしていた面子とベリルママくらいだ。
他の皆はホームランターゲットに夢中である。
それもそのはず。
魔法でブロックされていたからだ。
聞こえたのは俺たちだけである。
言っとくけど俺がやったんじゃないよ。
マイカに気付かせずにそんな真似をするには相応に集中しないといけない。
【千両役者】と併用すればバレずにできたとは思う。
が、そこまでする気になれなかったのも事実だ。
という訳で、それを為したのはベリルママである。
そちらを見るとイタズラっぽい笑みを浮かべてウィンクされた。
皆が楽しんでいる邪魔をしないように気を遣ってくれたようだ。
マイカにもそこまで考えてほしいものである。
「はいはい、誤魔化したいのはよく分かったから大声出さないように」
「くっ、何故バレた」
「あのなぁ……」
呆れて溜め息が出てしまう。
芝居が下手すぎる。
トモさんなんて残念そうに見ているくらいだ。
本職の人が見て、そう思うってことは才能がないのだろう。
本人は気が付いていないのだろうか。
あるいは気付いていてもゴリ押しする気なのか。
「バレない方がおかしいっての」
「そうだよー。
長い付き合いなんだしさ」
「ううっ、ハルとミズキが苛めるぅ」
泣き真似をするマイカ。
『やれやれ……』
往生際の悪いことだ。
読んでくれてありがとう。