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998 次は何処へ行く?

 そしてブォンと空を切る音がした。

 ボールがバッターボックス後方のネットに当たり地面に落ちる。


「空振った~」


 トモさんが悔しそうに言った。


「まさかアンダースローとは思わなかったよ」


 だが、表情はサバサバしたものである。


「ターゲットに命中したのは5球。

 命中した番号は1・2・5・6・8です。

 なお、重複した命中はありません」


 結果がアナウンスされた。

 早々に上級者判定されてこれならば大したものだと思う。


「おめでとうございます。

 記録が更新されました」


「えっ、こんなので!?」


 トモさんが目を丸くしている。

 姿は見なかったが先客がいたのは分かっていたからな。

 自分が新記録を更新することはないと思っていたのだろう。


「それだけ難易度に幅を持たせているんだよ。

 初心者だとホームランを打つのも困難だからさ」


「あー、なるほど」


 初心者を萎えさせないように配慮したつもりだ。

 そのせいで誰が挑戦してもパーフェクトは著しく困難になっている。


「お疲れ様でした。

 またの御利用をお待ちしております」


 ホームランターゲット終了のアナウンスが入った。

 ブースからトモさんが出てくる。


「お疲れ」


「すまないね」


 軽く挨拶するつもりが謝られてしまった。


『何かあったっけ?』


 ドキドキするが聞いてみないことには始まらない。


「どうしたのさ?」


「いや、割と最初の方から向きになってしまっただろ?」


「そんなことか」


 ちょっと身構えてしまったのが恥ずかしい。


「そうは言うけど、実演する者としては失格だよ。

 柵越えしない球も打つべきだったよね?」


 細かなことまで気にしている。


「いいんじゃないかな。

 充分、実演になっていたと思うよ」


 そう言ってみたのだが。


「しかしなぁ……」


 どうにも煮え切らないトモさんである。


「考えすぎだよ」


「うーん」


「そうですよ。

 ハルトさんの仰る通りです」


 フェルトの援護射撃をもらってしまった。


「そう?」


「そうだよ。

 結構、盛り上がったみたいだし。

 結果オーライでいいじゃないか」


 さっそくブースに入ってプレーを始める者たちが多いからね。


「見なよ」


 遊び始めた皆を見るように促す。


「皆、楽しそうだろ?」


「まあね」


 トモさんが苦笑する。


「宣伝効果はあったってところかな」


「そうなるね」


 スパーン、スパーン、という軟式球独特の快音があちこちから届き始めている。


「おー、皆やるなぁ」


 トモさんが感心している。


「そりゃあ手本が良かったからだろう」


「そんなことは無いと思うけど?」


 謙虚と言うよりは本気で、そう思ってそうな雰囲気がある。


「そんなことが有るんだよ」


「おだてても何も出ないぞ」


 本気で思っているからこそ俺の言葉を素直に信じようとしない。

 とはいえトモさんの発言には苦笑を禁じ得ないのだが。


「む?」


 俺の表情の変化を見てトモさんが怪訝な顔をする。


「どうしたというんだい?」


「何も出ないってトモさんは言うけどさ」


「うむ」


「既に出してもらってるよ。

 おだてるまでもなく、ね」


「何だってぇ!?」


 奇妙なポーズを取って驚くトモさん。

 少しばかりわざとらしく感じるが、サービス精神が旺盛な時の平常運転だ。

 特にツッコミを入れる必要もないだろう。


「いつの間にダダ漏れになっていたんだ!?」


「ダダ漏れって……」


 言うことが大袈裟である。


「そんなんじゃないよ」


 漏れるのは俺の苦笑だ。

 ダダ漏れってレベルじゃないがね。


「攻略情報を提供してもらったと言いたいんだよ」


「どういうことだい?」


 トモさんは自分が提供したものに気付いていないようだ。


 いや、俺の言った「攻略情報」という言葉が良くなかったか。

 具体性に欠けるからな。

 そのせいで小難しく考えてしまったのかもしれない。


「プレイヤーの上手さを判定して難易度を変更するとか。

 ボールのスピードや球種なんかも参考になったんじゃないかな」


「あ、そういうこと」


 少し踏み込んで説明すると、あっさりトーンダウン。

 すぐに納得してくれた。


 となると別のことに目が行く訳で。


「フェルトはここでも遊ばないのかい?」


 トモさんは己の妻に声を掛けることも忘れない。

 というか、これくらいは普通だな。


「はい、お気遣いなく。

 私は見ているだけで充分に楽しいですから」


 ニッコリとトモさんに微笑みを返しながら返事をする。

 それだけではない。


「格好良かったですよ」


 感想のオマケ付きだ。


「え……」


 一瞬、フリーズするトモさん。

 短い言葉を認識するには時間をかけすぎだ。


「そ、そう?」


 自分の奥さんに褒められたトモさんは挙動不審になっていた。


「人をイジるのは得意でも逆は苦手なのね~」


 すかさずマイカがツッコミを入れる。

 実に楽しげに笑みを浮かべながら。

 自分がイジる気、満々だ。


 が、しかし……


「それはマイカちゃんもだよ」


 さらにミズキがツッコミを被せてきた。

 絶妙なタイミングで悪戯っ子の笑みはキャンセルされた。


「ちょっと、ミズキ!?」


 トモさんへのアタックを継続しようとしていたマイカはあっさりと封じられた。


「2人はどうする?」


「トモくんのを見て堪能させてもらったからいいよ」


「右に同じ」


 ミズキもマイカもホームランターゲットはお腹いっぱいみたいだ。


「じゃあ、次は何処へ行く?」


 せっかく遊びに来ているのだ。

 無為に過ごすのは勿体ない。

 次の場所を検討しておくのは時間の有効活用だろう。


 このように皆が遊び終わったらのつもりで提案したのだが。


「皆はどうするのよ?」


 置いてけぼりにするのかと言わんばかりのマイカである。

 考えることがせっかちだ。


「1プレーが終わってから聞けばいいんじゃないかな?」


「あー、そういうこと」


 ミズキが俺の考えを正確に理解してくれていたお陰でマイカも気付いたようだ。


「じゃあ、待つ間に考えようってことね」


「そうだよ」


 2人で話を進めてくれる。

 しまいにはあそこが良いここが良いと、額を合わせて話し始めてしまった。


「取り残されてしまったね」


 トモさんが楽しそうに笑っている。


「笑ってないで呼び戻しましょうよ」


 フェルトがオロオロした感じになっていた。


「いや、放置でいいよ。

 そのうち煮詰まるなり結論を出すなりするだろうから」


「いいんですか?」


「その方が文句を言われずに済んで楽だから」


「はあ……」


「それに俺たちもシンキングタイムに入れば、おあいこだ」


「ハハハ、それは言えているね」


「本当にいいんでしょうか……」


 フェルトには迷いがあるようだ。


「後で意見を集約すればいいだけだって」


 そう言うと、ようやくソワソワした感じが消えた。


『さて、何処に行くかだが』


 俺はリクエストがない。

 なので意見を募る側だ。


「ベリルママは、何かありますか?」


 今までずっとニコニコしながら見ていたベリルママに話を振ってみた。


「あら、ハルトくんったら。

 お母さんに気を遣ってくれるのね」


 ニコニコが5割増しになった。


「私は皆が行きたいところでいいのよ」


 できれば、ひとつだけでも何か言って欲しかったのだが贅沢は言えない。

 こうなることは予測できていたし。


「トモさんは希望があるかい?」


 気を取り直して今度はトモさんに聞いてみる。


「うーん、あまり並ばずに遊べるのがいいかな」


「そうですね」


 夫婦そろって並ばないことが優先事項みたいだ。


「それよりもさ」


「ん、どうかした?」


 トモさんに何か提案があるみたいだ。


「乗り物コーナーへ行くことも考慮に入れるのはどうだろう」


「あー、確かに」


 ゲームコーナーにこだわる理由はないのだ。

 ここに留まり続けて乗り物に乗れなかったなんてこともあるかもしれないし。

 悪くないね。


「じゃあ、混雑具合で候補を抽出してみようか」


「そんなことができるのかい?」


「スマホのアプリがありますよ」


 トモさんの疑問に答えたのはフェルトだった。

 それを聞いて愕然となるトモさん。


「そうだった!」


 施設検索のアプリがあることをすっかり忘れていたようだ。

 まあ、利用率は高くないみたいだから皆も似たようなものなんだろう。


 アピール不足だろうか。

 ちょっと悲しいところである。


読んでくれてありがとう。

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