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994 ホームランターゲットは甘くない?

 トモさんがバットをセンター方向へ向けてポーズを決めた。


「さあっ、来い!

 ドンドン行くぞっ!」


 そして気合いを入れるように吠えた。

 連続成功に気を良くしたのだろう。

 油断しているか否かは、ちょっと分かりづらいところだ。


『気を付けないと知らないよ』


 という言葉は飲み込んでおく。


 決して、この後が面白くなりそうだから黙っている訳じゃないんだよ。

 ノリノリの雰囲気になっているのに水を差すのは、ね。

 油断したから怪我をするなんてこともないんだし。


「目指せ、ホームラン王!」


「「「「「おー」」」」」


 パチパチパチパチパチと拍手が湧いた。

 周囲へのアピールに成功したようだ。


「ところで、ホームラン王って何?」


 ベリーがアンネに聞いている。


「それが謎なのよね」


 アンネも答えられない。


「言われてみれば、よく分からないのよ?」


 首を傾げて、ちょっと困惑気味だ。


「それは私も思ったぞ」


 ツバキが同意した。


「私もです」


 カーラもだ。


「ホームランと王様に何の関係があるのかって」


 唸りそうな顔をして腕組みまでして考え込むカーラ。


「そうそう、それなのよ」


「勢いに乗せられて、つい拍手してしまったけど」


 ABコンビもカーラの疑問に乗ってきた。

 知らなきゃ、そんなものだよな。

 他の皆も似たようなものだ。


 ベリルママと元日本人組以外で訳知り顔でいられる者はほとんどいない。

 リオンとクリスくらいのものだろう。


 あの2人はフォークボールとかも知ってたからな。

 そのあたりも動画で見て知っているみたいだ。


 こうなるとショックを受ける人物がいる。

 トモさんだ。


 皆のやり取りや様子を見て愕然としていた。


「おっのぉぅれぇぇぇっ」


 結果として更に芝居がかった台詞回しになる。


『というか、これ尾安尊人さんの物真似だろう』


 グランダムシリーズでラスボスを演じた時の台詞だ。

 相変わらず特徴を捉えるのが上手い。


「そこで物真似したって意味ないでしょ」


「うん、確かに」


 マイカのツッコミに素に戻るトモさん。


「という訳で、その説明は任せた」


 急に脱線から復帰したと思ったら、これだ。


「ちょっ、丸投げかいっ」


 マイカも再度ツッコミを入れるさ。


「フハハ、そうとも言う」


「そうとしか言わないわよっ」


「私はホームランを打つのに忙しいのだ」


「くっ、上手いこと逃げたわね」


「逃げたのではない。

 私にはホームランを打つという使命があるのだ」


 トモさんは真顔で言ってるけど、おふざけモードだ。

 真面目にふざけるという分かりにくい状態である。


「何が使命よ。

 アンタには説明責任ってものがあるの!」


「そんなものは無い。

 使命があると言っているだろう」


「あるわよっ」


「無い。

 あるのは使命だ」


「とにかく説明しろぉ」


「だから使命があると言っている」


「ぐわぁー、腹立つぅ─────っ!」


 完全な押し問答に、マイカがキレた。

 ダンダンと地団駄を踏んでガルガルと唸り始めた。


「どうどう」


 ミズキが抑えに回ってくれたお陰で唸るだけで済んでいるが。

 ならば俺はトモさんを注意せねば釣り合いが取れないだろう。


 そう思っていたのだが──


「アナタ、やりすぎですよ」


 フェルトが俺より先にたしなめていた。


「うむ、すまぬ」


 愛妻の言葉は素直に受け止めるみたい。

 ちゃんと頭を下げて謝っている。


 マイカも一応は静かになった。

 ピリピリした空気を纏ったままだけどね。

 トモさんが丸投げしたまま説明を始める気配がないからだろう。


『しょうがないなぁ』


 説明するのなんて誰だっていいのに。


「ホームラン王というのは野球というスポーツの称号みたいなものだよ。

 1年を通して行われた試合で最も多くホームランを打った選手がそう呼ばれるんだ」


 結局、俺が説明した。


「「「「「へー」」」」」


 とりあえずは納得してくれたようだ。


「詳しくは動画とかで確認してくれるか」


 皆も頷いてくれた。

 マイカも渋々といった感じだが大人しくなった。


『やれやれだ』


 ドッと疲れた気分である。

 実演プレイはまだ終わっていないんですがね。



 □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



 押し問答があったせいで仕切り直しのような雰囲気になっていた。


『ていうか、漫才かコントの様相を呈していたけどな』


 もちろんカウントは継続している。

 再びトモさんが芝居がかった構えを見せた。


「今宵のバットはぁっ」


 独特の台詞回しと共にダンッと足を踏み出す。


「血にぃっ、飢えてぇっ、おるわぁ~」


 歌舞伎役者のように見得を切ってますよ。


『ここまで大袈裟にやっちゃうとなぁ……』


 普通に喋っておけばイケボで格好いいんだろうけど。

 おふざけモードが継続しているようにしか見えない。

 その上、発言が危険である。


「おいおい……

 物騒なことを言わないでくれよ」


 血に飢えているはないよな。


 ここにローズがいたら、どんな反応をするやら。

 久々に長い鉤爪をシャキーンと伸ばして高笑いとかありそうだ。

 国民になったばかりのシーニュの前でそれをされたりしては敵わんぞ。


『考えたくないなぁ』


 まあ、両者共にここにはいないけどさ。

 シーニュは月影の面子に連れ出されて以降、見かけていないし。

 ローズは毎度のごとく予告なしでフラフラと何処かに行ってしまっているし。


「おっと、これは失礼をば」


 言葉は丁寧だが、表情はふざけている。

 変顔でテヘペロとか誰得だよ。


 後ろの方で何人か「ブハッ」とか吹いてたけど。

 受けたからトモさんの得でいいのかね。


「ホームランに飢えているに訂正しよう」


 ちゃんと訂正もしてくれるんだけど。


「それなら、いいけどさ」


「さあ来いっ」


 トモさんが再び気合いを入れ直して構えた。

 メイドピッチャーがそれに応えるように頷く。


 そして、ゆっくりと投球モーションに入った。

 今まで以上に大きなワインドアップだ。

 ゆったりした動作でありながら威圧感がある。


「フォームが変わったわね」


 気付いたエリスが指摘するように言った。


「更にボールのスピードを上げるつもりでは?」


 レオーネが追随するように推論を口にする。


「なるほど。

 それはありそうね」


 メイドピッチャーがグルンと体を捻ったのを見て同意するエリス。

 打者方向に背中を向けるほどの捻りを加えたフォームでメイドピッチャーが投げる。


「トルネード投法ね」


「懐かしいなぁ」


 マイカとミズキはボールのリリース前に気付いたようだ。


「これ動画で見たことあります」


「私もっ」


 クリスとリオンまで反応するとは思わなかったが。


『へえ、そういうのも見てたとはね』


 感心している間に4球目は結果が出ていた。


「うおーっ、空振ったぁ!」


 悔しそうに吠えるトモさん。

 そう、空振りである。


 ボールにかする音すら聞こえてこなかった。


「仕方ありませんよ。

 急にボールが落ちましたから」


 フェルトが慰めている。


「なんですと!?」


 トモさんが驚愕に目を見開ききっていた。


「目の前から急に消えたと思ったらーっ」


 なんてこった状態で頭を抱えている。

 そして振り返った。


「そういうことだったのかーっ」


 凄く悔しそうに身悶えし始めた。

 妙ちくりんなダンスに見えてしまうんだけど、誰も気にしていない。

 見ている側も騒然としていたからね。


「確かに落ちましたよね」


 レオーネが驚きを隠しきれない様子でエリスに話し掛けていた。

 自分の見たことが間違っていないことを確認したいようだ。


「ええ、急激に変化したわ」


 怪訝な表情を見せるエリス。

 目の前の現実が信じ難いのだろう。


「何をしたのでしょうか?

 重力魔法を使ったようには見えませんでしたが」


 マリアも困惑していた。


「ああ、魔法を使った痕跡は見られない」


「そうね。

 魔法じゃなかったわ」


 レオーネもエリスも半ば呆然としていた。


『油断大敵ってね』

読んでくれてありがとう。

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