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1 夜中に目覚めたら死ぬことになった?

改訂版Ver.2です。

 夜中にふと目を覚ました瞬間に激痛に襲われた。

 金縛りにあったかのように指先ひとつ動かせない。

 止むことのない全身の痛苦が重なり「ああ、俺は死ぬんだな」と直感した。

 そう思ったとたんに痛みと思考が切り離された気がした。


 不思議なものだ。

 耐えがたい痛みが続く中で、それは思考を阻害しないのだから。

 俺は痛みから逃げるように思考の海へと意識を向けた。


 自然と過去の情景が思い返される。

 特に意識した覚えはない。

 死を間際にすると走馬燈のように人生の記憶が駆け巡るというのは本当だったか。


 ただ、俺は走馬燈の実物を見たことがない。

 36才のオッサンにしては物事を知らないというのは恥ずべきことか。

 取り留めのないことを考えてしまうと思考が中断してしまう。

 すると隙を突くように痛みが頭の中を占拠しようと押し寄せてくる。


 しょうがないので、それっぽく人生を振り返ってみることにした。

 少しでも痛みから逃れるために。


 たしか物心が付いたのは幼稚園の頃だった。

 日常生活の何気ないことを断片的に覚えている程度だ。

 そのせいか何の感慨も湧いてこない。

 思考の海に深く潜ることはできそうにない。

 より印象に残る出来事に限定して思い出すことにした。


 インパクトのある最初の記憶は苦い思い出だ。

 小学校低学年の頃のこと。

 両親が交通事故に巻き込まれて他界した。

 たまたま祖父母に預けられていた俺は死なずに済んだ。


 が、両親の亡骸と対面したときに感情の一部が壊れてしまったことを自覚した。

 一言でいうなら動から静。

 何事も少し冷めた目で見るようになった気がする。


 そのせいか、笑わなくなった俺に祖父母も随分と心を痛めたようだ。

 今ならPTSDと診断されるだろうが当時は心療内科も今ほど知られてはいなかったし。

 そんな訳で傷ついた心が癒えることもないまま小学校時代は過ぎていった。


 中学でも俺の本質は似たようなものだったと思う。

 自分以外の人間からは変わったと言われるようになったが、そんなことはない。

 人に気を遣うことを覚えて表面上はマシになったように見せていただけだ。

 そうでもしないと祖父母が参ってしまうと感じたから。


 小学生の頃の抜け殻だった状態を詫びたのも、この頃だ。

 まあ、子供がそんなことを気にしてはいけないと諭されてしまったのだけれど。


 高校の俺は少しだけ変われたのだと思う。

 相変わらず冷めた本質は心の奥底に残したままだったがね。

 だが、それを表に出さぬよう周囲に目配りができるようになった。

 祖父の手ほどきを受けて続けていた囲碁や将棋のお陰だろうか。

 はたまた強くなりたくて入った中学の剣道部で少しは人間的に成長したからか。


 ともかく、高校時代は楽しかったと言えるんじゃないかな。

 バイクの免許を取得したし。

 変わったことをしたくてサバイバルゲーム同好会に入部した。

 中学の剣道部以上にキツかったが充実してもいた。

 部活動は黒歴史でもあるのだが、それもまた思い出だろう。


 それと男子高校生と言えば彼女がどうのという話を耳にする機会が多い。

 彼女はおろか女友達の1人もいなかった俺でさえ何度か聞かされた。

 部活の友人に言わせると密かにモテていたのだそうだが怪しいものである。

 陰のある表情や雰囲気が良かったらしい。

 近寄りがたい雰囲気のせいで誰も声を掛けてこなかったそうだが。

 ただの根暗だろ、それ。


 なんにせよ部活が充実していたせいか学園生活全体までも充実していた記憶がある。

 文化祭に祖父母を招待したら喜んでいたのも忘れ難い。

 こんなことで恩返しになるとは思わなかったが楽しんでくれたのは良かったと思う。

 体育祭ではビデオ撮影に夢中になるあまり目立っていたのが恥ずかしかったけど。

 後で何度も再生しているのを見て何も言わないことにした。


 そして受験シーズンの到来。

 あっさりと東京の大学に進学が決まる。

 4年後の完全な自立を目標にして地元から離れることにした。

 卒業後は祖父母に心配をかけず、なおかつ孝行ができるようにと考えてのことだ。

 一時は高卒での就職も検討した。

 が、それは祖父母の猛反対に合い断念。


 自立の一助になればと車の免許を取得した。

 ただ、そこで少し浮かれてしまったのは若かったと思う。

 免許取得の勢いで中古だがスポーツカーを買った。


 これが失敗だったと悟るのは大学に入学して間もない頃のことだ。

 大学には乗って行かなかったが、何かの拍子に目撃されていたらしい。

 学部の同じ同級生という立場から巧妙に近づいてきた女と俺は付き合い始める。


 だが、そいつは端から二股を掛けていた。

 奴にはスポーツカーに乗っている俺が金持ちのボンボンに見えたのだろう。

 金蔓になると思ったらしい。

 生憎、祖父にお金を借りてバイトで返済する条件で車を買ったに過ぎないのだが。


 何も知らなければ世間知らずな学生だった俺は騙されていたかもしれない。

 しかし、高校時代の唯一の苦い経験として似たような事例を俺は知っていた。

 先輩から付き合っていた女子大生に騙されたという話を聞かされていたのだ。


 故に女がいくら猫を被ろうと俺には通用しなかった。

 人生をリセットさせた先輩から得た教訓をふいにするほど馬鹿じゃない。

 いや、付き合う前に本性を見抜けていないんじゃ馬鹿だな。

 それでも教訓は生かせたと思う。

 付き合い始めてすぐに違和感を感じるようになったのは先輩の話を覚えていたからだ。


 俺は迷うことなく祖父に連絡して興信所を使うことにした。

 金は掛かるが躊躇すべきでないと判断したが故に。

 多大な被害を被る前にけりをつける。

 それが先輩から教わった最大の教訓だ。


 素知らぬ顔で付き合う振りをしている間に相手の本性を暴く証拠は蓄積されていった。

 証拠は溜まるものの、腹黒女と付き合うと精神がガリガリ削られていく。

 バイトの合間に根回しで奔走させられたのもストレスだった。


 俺の財布のガードの堅さに不満を募らせた女に陰で色々と言い触らされていたからな。

 周囲の印象が固定された後じゃ決定的な証拠を出しても逆転は難しい。

 先輩が卒業時に言い残した言葉と、無念を滲ませた後ろ姿は今でも鮮明に思い出せる。


「女に先手を打たれたら手も足も出ない。

 俺は二度と地元には帰らん」


 そう言って姿を消した先輩は実際には帰ってきたけれど。

 が、誰も笑えなかった。

 嘲笑うことはもちろん再会を喜ぶこともできはしなかったからだ。


 彼の両親は泣き崩れ、女子大生や偽証をした連中は糾弾されるに至ったらしい。

 が、失われた先輩の人生は二度と返ってこない。

 女子大生は精神的に追い込まれたのか病んでしまったそうだが自業自得だと俺は思う。


 結局、先輩の両親は名誉毀損で民事訴訟に踏み切ったそうだ。

 結果がどうなったかは俺が大学に進学して地元を離れた後のことなので知らない。

 興味本位で深入りするものでもないだろう。


 ただ、俺はこの件を糧にすることができた。

 油断せず情けもかけず相手を叩き潰せたのは先輩のお陰だ。

 もちろん祖父母のバックアップが無くては、何処かで手詰まりになっていたと思う。

 帰省の折に感謝の言葉と共にそのことを伝えたが笑われてしまった。

 むしろ詐欺に騙されず良くやったと褒められたのには戸惑ったさ。


 なんにせよ経験や援護があるから冷静に行動できた。

 弁護士を介して保護者と裏で交渉し、本人に根回しする隙を与えなかったのは大きい。

 これにより泥仕合を回避。

 最終交渉の場に本人を引っ張り出すだけとなった。


 最初のうちは奴も楽に誤魔化せると高をくくっていたのだろう。

 余裕の表情で冤罪だの濡れ衣だのと言っていた。

 互いに地方出身者だから地元の悪行は知られていないという思い込みがあったようだ。

 それも興信所の調査報告を書面で暴露するまでのこと。

 本当に難関の大学入試を突破した学生かと疑いたくなるほど取り乱してジ・エンド。


 女は自主退学し地元に帰るしかなかった。

 その後、女がどうなったかは知らない。

 知りたいとも思わないが。


 この件が幕引きして俺が思ったことは、ただひとつ。

 教訓をくれた先輩と支援してくれた祖父母への感謝だけだ。


 そこから先の大学生活はやや中学の時の自分に戻ってしまったと思う。

 友だち付き合いも、やや一線を引くような感じになった。


 結局、騒動の後も交流が続いた女子は友達止まりの二人だけ。

 ひとりは件の女とは正反対の地味な感じの娘。

 俺とはアニメやゲームで話が盛り上がったりもした。

 彼女としては薄い付き合いの女子の友達といるより俺の方が落ち着けたようだ。


 それが縁で彼女の幼馴染みとも連むようになった。

 趣味つながりなのでこいつと交流ができたのは自然な流れだったと思う。

 妄想に溺れて我を忘れることもある変人だったがね。


 でも、義理堅く本音で話すので他の連中よりよほど信用できた。

 犬や猫の前では別人に変身してしまうが、それはまあ関係ないか。


 そんなわけで、なぜか3人で意気投合していたと思う。

 ちなみに彼女たちのいずれとも男女としての付き合いはない。

 大学卒業と同時に俺が地方に戻ったからというのもあると思う。


 向こうは2人とも地元民。

 現在では直に会うことはなく年賀状とメール等でしかやりとりしていない。

 以後、36才となった今でも女っ気はないのが現状だ。


 大学卒業後は生まれ育った戌亥市の非常勤職員となった。

 普通に就職していれば結婚も視野に入れたかもしれない。


 だが、就職活動を始めようかという頃、今度は祖父母が交通事故で亡くなった。

 当時はそのことを悲しむ余裕さえなかった。

 両親が健在なら無縁のはずの遺産相続をすることになったからだ。

 資産家だった祖父の遺産は相続税を支払った後でも不労所得の資産など多くが残った。


 放っておいても収入がある状況は金のなる木に見えるらしい。

 これを目当てにした連中が砂糖に群がるアリのように集ってきたのには辟易させられた。

 修羅場としては大学の二股女のときと同レベルだっただろうか。

 当時は社会を知らない若造ということで舐められていたというのもあると思う。

 向こうがその気ならと、こちらも遠慮しなかったけどね。


 祖父と交流のあった人間関係は大幅にカットアウト。

 そのため一部の人間が騒ぎを起こして警察に通報する事態にまで発展した。

 もちろん、その連中には塀の向こう側に行ってもらった。

 俺は敵には容赦しない主義だが過剰な対応をしたとは思っていない。

 自業自得な連中ばかりだったからな。


 この件が切っ掛けで非常勤の試験を受けた。

 社会を知らないままというのもどうかと思ったからだ。

 資産の管理に関しては祖父が懇意にしていた弁護士にお願いした。


 そして現在に至る。

 役所に入ってからはイベントと呼べるものが何もない。

 たまに有休を使って車やバイクで一人旅をしたりする程度だろうか。

 もちろん現地で誰かと交流するということもないから何も起こらない。


 典型的なぼっちだ。

 自分でそうなるようにしていたのだけど。

 プライベートで誰かと会話した記憶がしばらくない。

 人間不信気味とはいえ、さすがに人としてどうかと思う。


 こうして思い返してみれば人との縁が薄い人生だった。

 次はそうならないようにしたいものだ。

 いっそのことアラブの石油王にでもなってハーレムでも目指してみるか。

 生まれを指定できるとは思えないが、妄想するだけなら無料である。


 なんちゃって走馬燈が終わってしまった。

 だが、痛みがない。

 薄っぺらい人生を振り返っている間に痛覚が失われたか。


 飛賀春人、36才。

 もうすぐ死ぬようです。


『いいえ、ハルトさん。

 あなたは死にません。

 私が絶対に死なせません』


 聞き覚えのない若い女性の声が頭の中に響く。


『何者だ?』


 ここは俺の家で住人は俺はひとり。

 夜中に目が覚めてひとしきり痛みに苦しんだと思ったら侵入者?

 訳が分からない。


 泥棒じゃなさそうだが、通りすがりの医者ってこともないだろう。

 考えたくはないがストーカーの方が、まだわかる。


『選択ぼっちにストーカーが食いつくとも思えんがな』


『いいえ、ストーカーではありません』


 またしても頭の中で声が響く。

 しかも否定された。


『じゃあ誰なんだ?』


『間接的な加害者でしょうか』


 いちいち俺の思考に反応してくる。

 死にかけてるし幻聴か?


『幻聴ではありませんよ』


 死の間際の幻聴説を否定してくる謎の女性。


『これは念話です。

 別の言い方をするならテレパシーですね』


 なかなかユニークなことを言ってくる。

 どうやら俺に用があるようだが。


『死を覚悟した人間に何の用があるんだか』


『ですから死なれては困るのです』


 無茶振りもいいところだろう。

 本人が助からないと自覚しているのに。


『責任者、出てこい』


 まあ、出てくるはずもない。


『わかりました。

 そちらにお伺いしましょう』


 次の瞬間、俺はまばゆい光に視界を奪われた。


読んでくれてありがとう。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] すっごい気になるので何とかエンディングまで書いて貰えませんか?途切れるよりはずっといいのでせっかく沢山読んでもこの先分かりませんじゃ切ないです
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