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第四話 底辺の理由

 第四話 底辺の理由


 長いようで短い転生体験が終わり、ジロウは病院のベッドで目を覚ます。

 母親が嬉しそうにしている。世界で一番嫌いな人間から祝福されても全く嬉しくなかった。


 大した怪我もなくジロウはすぐ退院。自宅で休養という名のニート生活が再開する。

「……」

 何か思うでもなく、ただテレビを眺める。そんな日々が続いたある日、気まぐれに見た番組が彼の価値観を変える。


(……発達障碍……? なんぞそれ……)

 その番組は「発達障碍」という障害の一種を取り上げたものだった。

 ジロウは以前、テレビで「分かりにくい障碍が存在する」と紹介されていたことを思い出す。

 聞き覚えがないこの障碍は、前に知った「分かりにくい障碍」なのだろうか。

 テレビの説明を聞いてみる。

『成績はいいのに仕事ができない』

『大事なことがあっても目の前の些細なことが気になってしまう』

『相手の気持ちがわからない、空気が読めないといったコミュニケーションにおける問題がある』

 発達障碍の特徴を聞いていると、まるで自分のことを言い当てているかのように思えてくる。

 そしてジロウは確信する。


 自分は発達障碍だったのだ。努力というのが無意味な、少なくとも「普通」に比べると効果の薄い、悪い意味で選ばれた人間なのだ、と。

 やっと自分の何が悪かったのか。何故、失敗し続けたのか。その答えを得られた気がした。

 光の道が差したようにさえ感じた。


 免許は持っているがペーパードライバーなジロウは車が運転できないので自力で病院に行くことはできない。

 後日、母に頼んで県内最大の病院に連れて行ってもらう。

 そこで三日ほど知能テストを行う。

 そして更に数日後。ジロウが発達障碍か否かの判定が医師より下された。

「えー、タナカ・ジロウさんは、【グレーゾーン】、という判定になりました」

「あ、はい。……?」

 首を傾げるジロウに医師が説明を足す。

 まずグレーゾーンとは、ジロウの場合「疑いが強いが断定はできない」という状態らしい。

 つまり、能力は発達障碍として何の遜色も無いが、発達障碍と認定されない。

 障碍と認定されないので、障碍者用の保険や権利を得ることはできない。

 障碍者と同程度の能力なのに。

 医師曰くジロウの状態は「少なくとも普通ではない」のに。

(………………あァ?)

 意味が分からない。「少なくとも普通ではない」という状態なのに、障碍者相応の扱いを受けられない。

 それどころか社会的には「普通」扱いだ。障碍者ではないのだから。

 グレーゾーンはグレーゾーンで保険や権利などはないか聞いたが、無い、とのこと。


 医師は言った。

「発達障碍は認定が難しい」

「先天的な症状なので幼い頃に発達障碍の特徴が現れている有力な記録があれば認定しやすくなる」

「タナカ・ジロウの場合、そういった幼少期の記録があれば確実に発達障碍認定できる」


 母に頼み、幼稚園、保育園、小学校の頃の通信簿やらを医師に見せる。

 結果、どれも記録として曖昧なので障碍認定には至らなかった。


「………………………………………………はぁ?」

 意味を分かりたくない。

 正直、もうここまでくれば発達障碍なのは確実だろう。

 にも関わらず、障碍扱いされない。「普通」と同じように生きなければならない。

 証拠がないから。

「………………………………………………」

 光の道が閉ざされた。


 障碍者になれれば。

 障碍者認定を受けさえすれば。

 自分には普通と同じ能力を求められずに済むのに。

 今まで、ジロウは精一杯の努力をし続けてきたわけではない。

 だが特別に怠けていたわけでもない。少なくともジロウ自身の感覚としては。

 なのに今まで、「普通」には全く歯が立たなかった。高校に行ってからは顕著になった。

 会話ができない。歩くだけで笑われる。何かすると嗤われる。何もしなくても嗤われる。

 正しいことをすれば罵倒され、他者の真似をすれば罵倒された。

 他の生徒が理解できることをまるで理解できない。教員も他の人間の思考もまるで分らない。

 他の人間に、「何をしてもいい格下の存在」として扱われる。扱われ方は相手の都合、その時その場で変わる。

 ずっとそうだった。幼い頃からそうだった。

 それがようやく報われると思ったのに。


 ジロウよりも不遇な人間はいくらでもいるだろう。

 生まれて数年で死ぬ子供。生まれる前に死ぬ子供。

 犯罪者に支配され続ける者。生まれつき五感を失っている者。挙げればキリがない。

 だがそういった者たちは、健全な社会からは同情を受けられる。「同情を受けて当然」だと思われる。

 だが発達障碍はどうだ。

 見た目ではわからない。テストで特別悪い点を取るわけでもない。なのに「普通と同じこと」ができない。だから差別的扱いを受ける。

 それでも障碍者として認められれば言い訳が立つ。「出来ないのは仕方がない」「発達障碍の扱いを考えて欲しい」と。


 グレーゾーンはそれさえできない。「普通」だから許されない。「普通」ではないのに。

 普通だから、普通の人ができることができなければ努力をしていない、怠けていると思われる。

 だが頑張ってもできない。なぜなら普通ではないから。

「『普通』って何なん…………!!」

 普通が分からない。普通ではないから。だが分からなければならない。普通だから。

 意味を分かりたくなくて叫んだ。


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