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〈聖剣〉と呼ばれるものがある。童話の中において、勇者が用いた伝説の武器である。聖気が宿ったその刀身は決して折れる事はなく、その刃は万物を切り裂く。魔族が最も恐れた、世界最強の武器である。
(これが本当にあの聖剣なのか?)
セドリックは目の前にある錆び付いた剣が、童話の中の銀色に光ると言う聖剣だとは思えなかった。
ここはルノワール王国の僻地、深い森の中にあるこの遺跡。歴代のルノワールの国王しか入ることは許されない。この建物を建てたのは初代ルノワール国王なのだが、その目的は分かっていない。ただこの遺跡には聖剣とされる剣が台座に突き刺さっていた。
「……」
セドリックは台座に突き刺さっている錆び付いた剣を握りしめ……。
秀介はルノワール城の謁見の間にいた。目の前の玉座には、セドリック王が座っている。
「シュウスケ、それはまことか!? 」
魔王と戦う。秀介の申し出に、セドリック王はもろ手を上げて喜んだ。
「ありがとうシュウスケ、恩に着る」
「いえ、……目の前の救えるかもしれない命を、見捨てたくないだけです」
「そうか……シュウスケ、君に渡したいものがある、来てくれ」
セドリックにそう言われ付いていくと、仄暗い地下室についた。部屋の中にはガスパールと、もう一人の姿も見える。ガスパールはもう一人の男とともに、なにやら床に怪しげな紋様を描いている。
「ガスパール、できるか?」
「大丈夫にございます。すこしルーン文字のスペルを手直ししていましたが、すぐにでも発動できます」
「セドリックさん、ここは」
秀介は見覚えがあった。ここは自分がこの世界へ来た場所じゃないのか?
「ああ、シュウスケをここへ呼んだのもこの部屋からだった。シュウスケ、ここのことは内密に願いたい」
「あ、はい、分かりました」
「シュウスケ、この円の中へ入りたまえ」
秀介は何かの紋様が刻まれた円の中に入った。
「セドリックさん、これは何ですか?」
「魔法陣というものだ、この魔法陣は転移魔法陣、この世界のあらゆる場所にいける」
この世界にはそんな便利なものがあるのかと、思った瞬間、魔法陣がまばゆい光を放った。
秀介は周りの風景が一瞬にして変わったことに驚愕した。今まで地下にいたはずだ、しかし今は森に囲まれた遺跡らしき者の前にいる。
「す、すごい」
「こっちだ、シュウスケ」
遺跡は老朽化していて、今にも埋もれそう。ところどころひびが入っており、苔生してい。残地上部分は屋根が付いていない、いや、崩れていったのだろう。残っているのは地下のみである。
セドリックとともに地下へ降りると、広い部屋の中央に台座があるのが見える。台座の上に上がると、今にも朽ちて折れそうな剣が刺さっている。
「何ですか、このボロボロの剣」
「……これはルノワール王国に代々伝わる剣だ、〈聖剣〉と伝えられている」
「聖剣、ですか?……」
秀介の中では聖剣というと、金ぴかに輝いているイメージがあったのだが、秀介は目の前の錆び付いた剣を見て、拍子抜けした。
「シュウスケ、床を見てくれ」
床を見てみると、剣を中心に先ほど見た魔法陣が描かれていた。
「ここができてから推定四千年ほど経っている。だがこの魔法陣はいまだ消えていない。この魔法陣に刻まれているルーン文字は古代ルーン文字と言って、現在使われているそれとは違い、この魔法陣が何の魔法陣なのかは解明されていない……ただ」
「ただ?」
「ただこの剣、絶対に抜けないんだ」
「抜けないって、なぜです?」
「わからん、この魔法陣と関係していると、私は思う。この剣が本当に聖剣だとしたら、この剣を抜いたものが勇者だ」
アーサー王伝説のようだと、秀介は思った。
「ぼ、僕が抜くんですか?」
「左様、君なら抜けるやも知れぬ」
秀介は生唾を飲み込んだ。そして一歩、また一歩と、錆び付いた剣へと歩を進めた。
(抜けるかな、というか折れちゃわないかな)
秀介が剣の柄を掴むと、魔法陣が銀色に光りだした。
「え?」
「おおすごい、シュウスケ!」
秀介は一息に剣を引き抜いた。