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Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
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これが書けて本当によかったと思う。

「銀髪?」

 秀介は聞き返した。銀髪と言えば、エルフに神器をくれと迫ってきた人物と同じだ。この世界では銀髪は珍しくも無い。人違いの可能性も十分あった。しかし、ヴァルの言葉で、秀介は確信した。

「ああ、エルフの民族衣装を着た女を侍らせてた。まあ、本物のエルフじゃないだろうがな」

 やっぱりアリエルさんだ。ここに来ていたのか。秀介は心を躍らせた。

「その人、今どこに居るかわかりますか?」

「だから、マギアネシアだよ。そこに行くってその女としゃべってた。……何だ、あいつに用があるのか?」

「うん。というか、その女の人に用があるんだ」

「一つ忠告しておこう」ヴァルは人差し指を立てて言った「あいつとは戦うな。魔族なんかとは比べ物にならないくらい強かった」

「え? 本当に? というか、魔族と戦ったことあるの?」

「当然だろう。この俺が魔族なんかに後れをとると思うか? 強い強いと聞いていたが、思ったより弱くて拍子抜けだったぜ」

 秀介は目を見開いた。目の前の少年も、自分と同じように魔族と戦っていた。そして、銀髪の男はその少年よりも強い。この世界には、考えられないような猛者が、まだまだいる。そのことに、秀介はなんだか心強く感じた。

 自慢げに言うヴァルに、他のメンバーは苦笑した。

「何言ってるのよ、勝つには勝てたけど、ヴァルったらぎりぎりだったじゃない」

「そうだそうだ、俺たちが手伝おうとしても「こいつは俺一人で倒す」って聞かなくてさ」

「結局最後には疲れちゃって、魔族を倒した後すぐに倒れちゃって」

「大見え切ってた割に、かっこ悪かったぜ」

 仲間からの一斉射撃に、ヴァルはバツが悪そうな顔をしたが、すぐに秀介に向きなおった。

「と、とにかく! あいつとは戦わない方が身のためだぜ? この俺を倒すほどの実力者だ、こう言っちゃなんだが、お前みたいなパッとしない騎士が勝てる相手じゃねえぜ」

 秀介の格好と、エリザベスについているところを見て、秀介を騎士だと思う者は少なくない。ヴァルもその一人だった。しかし、秀介はあまり気にしていなかった。

「今日はありがとう。私たち、これから依頼があるの、これで失礼するわ」

 マティルダはそう言って、銅貨を数枚テーブルに置いた。エリザベスは慌てて抑える。

「いえいえ、お代はお納めください。私がお礼したいのですから、ここは私に」

「そんなわけにはいかないわ、ヴァルもお礼が欲しくて助けたわけじゃないもの」

 マティルダの行動に、男三人は「やめろ」と言いたげに、首を横に振った。

 しかし、エリザベスは毅然として受け取らなかった。

「いえ! 私がお礼したいと言ったらしたいのです。助けられたままというのは、私たちの家訓が許しません」

「え、でも……」

「それなら仕方がないな!」

「そうだ。お嬢さんの顔に泥を塗るわけにはいかないんじゃないかな?」

「うんうん。善を受け取らないのは悪だって、師匠が言ってたぞ」

 男たちは冷や汗を浮かべながら、チャンスとばかりにマティルダを止めた。そんな様子を見て、ヴェラは苦笑している。

(お金無いんだなぁ)

 結局その場はエリザベスが払い、秀介はヴァル達と別れることになった。



 宿に戻る頃には、日は水平線に沈み、辺りは茜色に染まっていた。

 秀介は部屋の窓から、キラキラと光る海を眺め、双翼の盾を磨いていた。翼を象った純白の盾、まるで鳥が羽を閉じているような形だ。

(綺麗だなぁ……羽みたいに軽い)

 秀介は双翼の盾を振り回すが、聖剣のように重さがまったく感じなかった。

(神器、か……)

 まだ双翼の盾を実戦で使っていなかったが、この盾を持っているだけで、言い知れぬ安心感があった。羽の部分を撫でると、不思議と暖かさ、温もりが伝わってくる。 

 しかし、秀介は盾を用いた戦いを知らない。聖剣も、ロングソードとレイピアの二種類しか変形させたことが無いのだ。

 秀介は聖剣を握り、昼間に見たヴァルの剣に似せて変形させて、軽く右手で振るった。レイピアのように突きに特化したような形ではないが、刃の幅は通常の聖剣より薄く短い。

「おお……」

 ヴァルのまねをして、振り回すと、思いのほかしっくりくる。秀介は素振りをし、いつものように鞘に戻そうとした。

「え?」

 剣がぴったりと鞘に納まったのである。さっきまでの刀身の長い幅広の剣とは全く違う。しかし、鞘は聖剣に合わせて形を変え、すっぽりと納めたのだ。

 聖剣の聖気と形に合わせ、自らが形を変える。その他にも、抜刀の際に速力を上げる効果や、重さ軽減などの特殊効果が備わっている。これこそ、ルノワール王国が国を上げて作り上げた、世界最高の鞘なのである。

「ただの豪華な鞘じゃなかったんだなぁ……」


 しばらく鞘で遊んでいると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「エリー」

 ドアを開けると、エリザベスが立っていた。

「ご夕食の時間ですわ。まいりましょう?」

「分った。あのね、セドリックさんからもらった鞘がね……」

 秀介が夢中で話すのを、エリザベスは微笑みを浮かべながら、黙って聞いていた。




 翌日。日がまだ上がる前、秀介は宿の裏にある広場で、剣を振っていた。聖剣ではない。ただの無骨な剣である。単純な動作を、黙々と続ける。縦に、横に、斜めに、あらゆる方向に剣を振る。剣道のような競技のための素振りとは違い、殺人のための、無駄を省いた剣さばきだった。

「ん?」

 秀介がふと上を見上げると、宿の上に、一人の少女が座って海を眺めていた。黒いフリルの付いたドレスを身にまとい、鮮やかなキラキラとした銀髪が、潮風に靡いている。

「マリアちゃん!」

 秀介は駆け出し、壁をよじ登って、彼女に近づいた。彼女の方も秀介に気づいたようで、髪をかき上げながら振り向いた。パッチリした緑色の瞳に、何とも言えない美しさがあった。

「無事だったんだね! 心配してたんだ」

 彼女と出会ったヴィエゴは、魔族の攻撃によって壊滅していた。秀介は生き残ったマリアを見て、嬉しさが込み上げてきた。

「お前、あの時の……生きていたか」

 マリアは無表情のままそう言い、再び海に顔を向けた。

「……海、好きなの?」

 秀介の問いに、マリアは答えなかった。秀介は黙ってマリアの隣に座り、一緒に海を眺めた。

 しばらくした後、マリアは思い出したように口を開いた。

「……この世界は、面白いな」

「え?」

 秀介は横を向き、マリアの横顔を見た。その瞳は、ひどく繊細で、どこまでも澄みわたり、そして奥が見えないほど深かった。

「分らぬことが多い。何故風は吹くのだろうか、何故海は広いのだろうか、何故神は人間を作ったのだろうか、何故私は……生きているのだろうか」

「……なんだか哲学的だね」

 秀介も高校生だ、風が吹く原理や、海ができた経緯は知っている。しかし、マリアが言っているのは全く違うことなんだろうことは、秀介も分かった。

「僕の学校の国語の先生が、哲学に熱心な人でね、いっつも有名な哲学者の言葉を言っていたんだ」

「……は?」

「これはアリストテレスって人が言った言葉なんだけど『人は生まれながらにして知らんことを欲す』だって。最初はよくわかんなかったけど、そうだよね、世界のことを何も知らずに生きることほど、つまらないこと無いよね」

 秀介がそう言って笑いかけると、マリアもつられて少し笑った。

「やはり分らないな」

「今度は何が?」

「お前がだよ」

 マリアは立ち上がり、屋根を飛び降りた。

「おおぉ……」

 歩き始めるマリア、秀介も後に続いた。

 海岸線を二人で歩く。言葉は無く、聴こえるのは波の音と、早朝から漁に出る漁師たちの声だけだった。マリアのドレスが、風に揺られ、秀介はなんだか彼女の存在が、今にも消えてしまいそうに感じた。

「人間は」マリアは唐突に話しだした「あまり他人に興味がないようだ。自分一人のこと、自分の身近な人のことで精いっぱい。でも、お前は違うな。何故お前は私にかまう?」

「迷惑だった?」

「いや、純粋な疑問だ」

 マリアは何の事もなく言った。

「うーん……なんだか、この世界と、この世界の人と、どこか繋がっていたいんだよ」

「繋がる?」

「うん。だって、自分の人生は自分だけの人生で、他の人のものではないけど、自分だけで生きていたらつまらないでしょ?」

「……」

 マリアは立ち止まり、海岸に打ち上げられた流木に腰をかけた。

「隣、いい?」

「……ああ」

 マリアは海を眺めながら、秀介を一瞥もせずに言った。二人の間に、再び静寂が満ちる。

「マリアちゃんはヴィエゴから来たの?」

 居た堪れなくなった秀介は、ありがちな質問をした。しかし、すぐに後悔した。そうだったとしたら、壊滅した故郷のことを思い出させてしまう。

「いや、しかしとてもいいところだ」

 秀介は胸を撫で下ろした。

「何でポルトスに来たの?」

「それは……やらなけてばいけないことがあったからだ」

 それまで無表情だったマリアは、少し俯き、顔が曇った。秀介はそれ以上何も聞けなかった。

 日は少し顔を出し、優しく辺りを照らしていた。

「私は、この世界に生まれ、ある使命を与えられた。皆が期待しているのだ、私が使命を全うするのを……しかし、それで皆が不幸になる」

「え?」

 マリアは秀介に静かに微笑む。

「本当、何故生きているんだろうな、私は……」

 その言葉と共に、マリアは立ち上がり、去っていった。彼女の背中を追うことを、秀介は出来なかった。



 ――――歴史に分岐点が存在するならば、正にこれが、歴史を決定づける瞬間であった。

 しかし、その時彼女があれほど悲しげに笑わなければ、秀介がそこまで彼女に惹かれることも、無かっただろう。

 秀介とマリアンへレスの会話なんですが、実は僕がこの小説を書き始めて、いつか絶対に書きたいなと思っていたシーンなんです。勇者と魔王との恋、それがこの物語の主体となっています。

 秀介の恋心が今後どのような形で物語に影響してくるのか……乞うご期待ですね。


なんだか筆が進まないので、次の話は更新が遅れるかもしれません。ご迷惑おかけします<m(__)m>

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