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すいません!時間に投稿するのを忘れました!<m(__)m>
今回はちょっと長くなってます。
港町ポルトス。一応は小国の一部として属しているが、その国の主都よりも発展しており、南大陸と北大陸の玄関口となっている。
「わあ、海だぁ!」
秀介は、目の前に広がる大洋に、目を輝かせた。この世界にきて、初めての海である。大小様々な船舶が、世界最大の港に停泊している。豪華な客船や漁船、軍艦のようなものまである。
ちょうど漁から帰ってきた漁船が、魚をおろしているところだった。日本人の秀介にとって、その光景はなじみ深いものだった。
「マギネアシアへの船はこっちだ」
レオナールは慣れたように大型な船にむかって歩きだした。
「あれ? レオナールさんは行ったことあるんですか?」
「ああ、昔ね」
船の乗り場には、一人の大柄な男が立っていた。いかにも船乗りといった格好の男である。
「マギネアシアに行きたいんだがね」
レオナールがそう言うと、男はまたかというように、顔をしかめた。
「今は海に魔物が発生する時期なんだ。だからあと三日は船が出せねえ。ったく、今日はこればっかりだぜ」
男は悪態をつき、さっさと行けとぞんざいに手を振った。
「どうしましょうか」
「とりあえず、船が出るまでこの街で待つしかないだろうね」
「それじゃあ、ここで宿を探しましょう」
三人は宿に向かった。例によって、この街で一番上等な宿である。
秀介の部屋は、窓から海を一望できた。大きな鳥が連帯を組み、大空を羽ばたいている様子が、実に壮大だ。
秀介が海に見とれていると、ドアをたたく音が耳に入ってきた。
「シュウスケ様」
「エリー」
ドアを開くと、相も変わらず美しい少女が佇んでいた。
「まだ船まで三日もありますから、少し街を見に行きませんか?」
「うん。行こう!」
「今度は逸れないようにしてくださいね?」
秀介は苦笑した。
「レオナールさんは?」
「レオナールは、古い友人のところへ寄ると言っていました」
「へぇー」
「ですから、今日は私たち二人だけですわ」
エリザベスはそう言って、いたずらに笑って見せた。
ここ、ポルトスの商店街や市場には、当然のように海鮮物が多い。その他にも、真珠や貝殻を扱ったアクセサリー店、貿易によって入ってきた各地の特産品などが並んでいる。
「すごい人が多いね!」
「当然ですわ。ここは各国の窓口ですもの、様々な国籍の方々が集まります」
日本で言うところの池袋か。秀介はそんなことを考えながら、物珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡した。
「ちょっとそこのお二人さん」
声をかけてきたのは一人の若い行商人だった。
「少し見てかないかい?」
「何を売っているんですか?」
秀介がそう聞くと、行商人は脈ありと見たのか、言葉巧みに商品を勧めていった。
「ここは何でも売ってるよ。これなんかどうだい? 魔法書だ。初級魔法が全部のってる。今なら、そうだな……金貨三枚で売ってもいいよ?」
金貨三枚と言われても、秀介は高いかどうかよくわからなかった。実際には、金貨一枚もあれば、一般庶民ならば二月は暮らせるほどの金額である。行商人は、秀介が買わないのを承知で進めてきたのだった。
「すいません。僕、魔法が使えないんです」
「ああ、そうかいそうかい。なら役立つ魔道具を紹介しよう。これなんかどうだろう、簡単に火種が作れる魔道具さ。火の魔法陣が組み込まれていてね、『ここに火を』って唱えるだけで火が点くんだよ」
「へぇー!」
いわばライターであるが、秀介はえらく感心した。レオナールの炎魔法を見慣れている秀介だったが、改めて非戦闘時に魔法を見ていると、凄いように感じてしまうのだ。
「はっはっは、そんなに気に入ってもらえると私も気持ちがいいねぇ。よし、お兄さんにだけこれを銀貨一枚でどうだい?」
秀介はちらりとエリザベスを見た。それはまるで、おもちゃを買ってくれと母にねだる、子供のような目だった。エリザベスは微笑ましそうに笑う。
「シュウスケ様。別にそれを買わなくても火種なら簡単に手に入りますわよ。レオナールが居るんですもの」
「そっか……」
「そうかい。それじゃあ仕方ないね、他に何か……」
「いえ、もっと見て回る予定なので、遠慮しておきますわ。行きましょう」
「う、うん」
エリザベスに手を引かれ、秀介は名残惜しそうに振り返りながら歩きだした。
しばらく商店街を歩いていると、秀介の肩に何かがぶつかり、思わずよろける。
「どこ見て歩いてんだ!」
「す、すいません」
目の前に居たのは、船乗り風のいかつい男だった。
「この俺にぶつかっておいて、それで済まされると思ってんのか!」
男は酒に酔っているようで、腰のサーベルに手をかけ、今にも秀介に襲って来そうだった。
「ま、待って。ごめんなさい!」
「うるしゃい! どいつもこいつも俺をっ、馬鹿にしやぁって!」
男はサーベルを抜き取り、真上から振り下ろした。しかし、秀介は反身になってそれを避け、男は勢い余って転倒した。
「だ、大丈夫ですか?」
秀介は男に駆け寄った。男はふらふらと立ち上がり、サーベルの切っ先を秀介に向けた。
「ぶ、ぶっ殺してやる!」
目の焦点が定まっておらず、男は無茶苦茶にサーベルを振り回す。
その瞬間、男の手からサーベルがすっぽ抜け、エリザベスへと飛んでいった。
「きゃぁああ!」
「エリー!」
しかし、それがエリザベスに当たることは無かった。
キンッという甲高い音がしたかと思うと、サーベルは空中で方向を変え、地面に突き刺さった。
「ったく、昼間っから出来あがってやがる。性質が悪いな」
そこに居たのは、片手に剣を構える、茶髪の少年だった。
「なめやがって!」
男は素手で少年に襲ってくる。少年は剣を鞘に納めたかと思うと、肘で男の眉間を打ち、鳩尾を殴った。
「うぐぅ」
男は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
「そっちのお前も」
「……え、ああ、大丈夫」
少年は肩を回し、満面の笑みを浮かべた。
「やっぱ俺、強いな!」
秀介は茫然とその少年を見た、自分と同じくらいの年齢だが、オンスロートの特訓を受けた自分よりも、おそらく単純な剣の腕や体術では上だろう。今の短い立ち合いで、それが分かった。
「ちょっとヴァル! 何やってるのよ!」
「そうだぞ、もう腹が減って仕方ねぇよ」
「まったく、ブランドンはそれだけだな」
「どうしたのヴァル?」
人込みから出てきたのは、少年の仲間と思わしき、四人の男女だった。
「人助けさ」
少年は得意げに胸を張った。
「人助け?」
一人の気の強そうな少女が、秀介とエリザベスに目を向けた。
「貴方らしいわね、この間凹まされたと思ったら、もう完全復活?」
「マティルダ。あれは油断しただけでな、俺が本気を出せばあんなやつ……」
「はいはい、もういいわ。早く食事に行きましょうよ。貴方のせいでどれだけ待たされたと思ってるの?」
「わかったよ」
少年がバツが悪そうに四人と歩き出したとき、エリザベスが声を上げた。
「皆さん。お昼がまだでしたら、ご一緒しませんこと? 先ほどのお礼もしたいですし」
少年たちはエリザベスの言葉に目を輝かせた。
「い、いいのか?」
少年が探るように言った。
「ええ」
「やったぁ!」
「今までロクなもの食ってなかったからな!」
「やっとまともなものにありつける!」
「ちょっと三人とも、はしゃぎすぎ!」
「ホント猿みたい」
エリザベスはそんな彼らの様子に、微笑みを浮かべ、秀介に向きなおった。
「行きましょうか」
「う、うん」
「俺はヴァル・デュノアイエ。このチームのリーダーで、剣士をしてる」
茶髪の少年はそう言いながら、魚の揚げ物に食らいついていた。ヴァルは背が高く、精悍な顔立ちをしている。腰に携えているのは、片手でも両手でも扱えるごく普通のブロードソードだ。
「私はヴェラ・ファリエール。治癒術師をしてるの」
ヴェラは濃い茶色の髪を肩口まで伸ばしている、大人しい印象の少女だった。
「俺はブランドン・ゴベール。斧とかハンマーとかいろいろ使ってる、まあ重戦士ってやつだな」
大柄な少年は自慢げに力瘤を作って見せた。
「私はマティルダ・ランブラン。魔法使いよ。よろしく」
大人びた長い金髪の少女だ。格好はまるで戦士のようだが、魔石が埋め込まれたロッドを持っていたので、魔法使いと分かる。
「俺は斥候をやってる。本名は明かせないが、許してくんな。まあ……シーフとでも呼んでくれりゃあいい」
シーフは小柄で、あまり存在感が無い少年だった。しかし、秀介は他の四人に準ずる実力があることを悟った。
五人は幼馴染で冒険者パーティを組んでいるらしい。
「シーフはあとから入ってきたんだけどな。これでも俺たちは将来有望なチームって言われてるんだぜ」
ヴァルは自慢げに言った。
「あんたたちは何でこの街に来たんだ?」
「私たちはこれからマギネアシアに行くつもりなんです」
「マギネアシア?」
ヴァル達の顔が曇った。ヴァルは憎々しげな顔をしている。
「どうしたんですの?」
エリザベスがそう問うと、ヴェラが苦笑しながら言った。
「いや、実はヴァルがね……」
「言わなくていい!」
ヴァルがヴェルを睨みつけ、鼻を鳴らす。ヴァルはエールを一気飲みした後、ジョッキをテーブルに叩きつけた。
「あれは油断しただけだと言ったろう」
「ふふ、強がっちゃって。けちょんけちょんだったじゃない」
マティルダが意地悪そうにヴァルの肩を叩いた。
「何かあったんですか?」
今度は秀介が質問した。話の流れからして、ヴァルが誰かに負かされたのだと分かったが、ヴァルに勝てるほどの実力者が他にも居たという事が、秀介の関心を引き付けた。
「実はね」ヴェラが話し始めたが、今度はヴァルが止めることは無かった「一昨日この街の冒険者ギルドで仕事を探していた時、一人の男の人がヴァルを押しどけて来たの。それにヴァルが「順番を守れ」って怒っちゃって、男の人も「何でお前みたいな雑魚に譲らなくちゃいけないんだ」なんて言ったもんだから、ヴァルが剣を抜いちゃったのよ」
「マナーを守らんあいつが悪い」
そう言うヴァルに、他の四人は苦笑した。
「で、そこで決闘になっちゃったんだけど……」
「負けちゃった?」
秀介の言葉に、ヴァルは秀介をキッと睨んだ。
「ヴァルが負けるなんて珍しいよな。俺ぁ見たこと無かったぜ、ヴァルの剣が相手に届かない所なんて」
「ホントだよな。多分ヴァルを殺せるのはあいつだけだろうぜ」
そんなに強かったのか。気づいた時には、秀介は身を乗り出して聞いていた。
「どういう人だったのですか?」
ヴァルは憎々しげに言った。
「人を小馬鹿にしたような態度で、ほんっとに嫌な奴だったよ。あの銀髪野郎」
ついに銀髪の男の情報が! そして秀介の前に、あの子が現れ、秀介の心に変化が訪れる。
次回、「朝焼けの春」※注 サブタイは普通に「10」です(笑)




