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Legend of brave  作者: たいがー
第三章:神器
32/45

「ふむ、なかなか良くなったな」

 とてつもなく重い金属の棒を振り下ろすたび、ブオンといった風切り音が耳に入る。

(やばい、腕が変になりそうだ)

 もう何百回振り続けただろうか、秀介の腕はピクピクと痙攣し、振り下ろすたびにブチブチと筋繊維が壊れる。秀介はこれまで、聖剣の特殊効果によって素早く振りぬくことができたのだが、今持っているのはただの鉄の剣、さらにドワーフの鎧も外され、秀介の体はまさに丸腰なのである。

「剣先が下がってきているぞ! 振り上げをもっと速く! 自分の中心に振り下ろすんだ、曲がってるぞ!」

 持ち上げて、下ろす。持ち上げて、下ろす。この単純な行為を、延々とやらされていた。

 ついに秀介は剣を取りこぼし、地面に膝をついた。

「ちょ、ちょっと休憩させてください」

「だめだ。魔王は待ってくれないぞ。立て、少年!」

「そんなぁ」 

 秀介はよろよろと立ちあがり、弱々しく剣を拾った。

「時間がない、早く始めろ」

「……あの、オンスロートさん」

「何だ」

「エリーが外で待ってるんですけど……」

「大丈夫だ。この空間では時間の流れる速さを吾輩が操ることができる。そうじゃないと三千年も待つことなどできまい? 安心しろ、時間はたっぷりある」

 秀介は呆れてものも言えないという事を初めて実感した。

(さっきと言ってること違うじゃん)

 呆れながらも、秀介は一心不乱に剣を振った。持ち上げて、振り下ろす。いつの間にか手に出来た肉刺が潰れ、血が滲み、秀介の顔は苦痛に歪む。今にでも崩れ落ちそうだ。しかし、オンスロートの視線が、それを許さない。

 すると突然、オンスロートが口を開いた。

「よし、いいだろう」

「は?」

「『治癒(ヒール)』 剣を構えろ、吾輩の攻撃をすべて防ぐのだ」

 掌の痛みがみるみる引いていき、傷がふさがっていく。

「防ぐって、聖剣が無いんじゃどうしようも……」

「それだから聖剣にいいように操られるのだ。まったく、まるで製作者の人格が反映されているような剣だな……」

「何ですって?」

「何でもない。行くぞ!」

 瞬間。背中に悪寒が流れた。目前に迫る剣先、秀介の眼はそれを完璧に視認できたわけではなかった。しかし、一つの確かな感覚が秀介の体を本能的に動かした。それは、明確な死の予感である。

「うわぁあああ!! 」

 的確に心臓の位置を狙ってきたその突きを、秀介は思い切り右に飛び、尻もちをつきつつ避けた。

「どうした。そんなへっぴり腰じゃ、次には死んでるぞ」

「どうしたもこうしたもない! 何で僕を殺そうとするんですか!」

「殺す気が無い殺し合いなどそれはただのじゃれ合いだ。お前は魔族が情けを掛けてくれると思っているのか? 聖剣や鎧のせいで分らなかっただろうが、今まで戦ってきたやつらは、お前を殺そうとしていたんだぞ? ……これじゃあ先が思いやられるな」

 ゾッとした。今まで自分は、殺し合いをしていたのだ。秀介は言い知れぬ恐怖に襲われた。

「恐怖を感じずに戦う者は、時として弱い。真の強者とは、自らの恐怖を乗り越えることのできる者だ」

「でも、怖いのは嫌だ」

「よっぽどの変人でないと恐怖を好く奴はいまい。しかし、恐怖とは生きているうえで避けることができず、そして必要不可欠なものだ。先ほどもお前は、死の恐怖という本能のまま吾輩の剣を避けたのだからな」

 そう言い、オンスロートは剣を構えた。

「立て、お前に必要なのは聖剣や鎧ではない。恐怖をバネにする精神力だ。その丸腰のままで、吾輩の剣を受けるのだ!」

 オンスロートの恫喝を受け、秀介はゆっくりと立ち上がり、鋭いまなざしでオンスロートを見据えながら、重い鉄の剣の切っ先を正面に向けた。心臓はものすごい速さで脈を打ち、足は情けなく震えている。しかし、その瞳には、覚悟を決めた光が宿っていた。

「それでこそ勇者だ」

 オンスロートは嬉しそうに頷いた。



 エリザベスたちは慌てていた。

 『聖樹の迷宮』の最初の試練。その部屋の扉が、まるで秀介以外を拒絶するように閉まり、二人は締め出されてしまったのだ。

「レオナール! どうしましょう! シュウスケ様が、シュウスケ様が!」

「落ち着くんだエリザベス」

「でも、だってシュウスケ様が閉じ込められてしまったのよ!」

「だから落ち着けと言っている。冷静に考えてみなさい。ここ『聖樹の迷宮』は勇者のために作られたものだ。秀介以外が入れないのも意味があるかも知れないだろう?」

「……そうですわね、取り乱しました。ごめんなさい」

 レオナールの言葉を聞いて、エリザベスは冷静になることにした。しかし、やはり不安は拭えない。

「私たち、どうしたらいいのでしょう……」

 エリザベスの顔は不安一色に染まっている。目の前の扉は大きく、そして何らかの魔術が施されているようで、おそらく自力で開くことも、魔法で破壊することもできないだろう。中で秀介がどうなっているかもわからない。エリザベスの中にある不安は、ふくふくと大きくなっていった。

「我々には待つことしかできない。シュウスケ君の無事を祈ろ……っ!」

 再び重苦しい音と共に、巨大な扉が動いた。エリザベスは思わずビクリと身を震わせた。

 部屋の中を覗くと、銀色の鎧に身を包み、煌びやかな剣を片手に持っている、勇者の姿があった。

「シュウスケ様……?」

 エリザベスは秀介へと駆ける。だが、秀介の様子がおかしいことに、すぐに気がついた。

「やけに早かったな。扉が閉まって数分も経ってないじゃないか?」

「シュウスケ様、どうしました?」

 秀介は俯き、黙りこくっていた。

「……何があったのですか?」

 エリザベスはまたも不安になった。このたった数分で、秀介から発せられる雰囲気がガラリと変わっている。いったいどうしたのだろう。

「……エリー」秀介はゆっくりと口を開いた「勇者って、辛いね」

 その声は、心なしか震えているように感じた。

「僕、人を殺したんだ。僕は、人を殺していかなくては、ならないんだ……」

「シュウスケ、様……」

 息がつまり、胸が苦しくなった。この世界とは何も関係のない少年を、自分たちは巻き込んでしまい、こんな苦しい思いをさせているのだ。エリザベスは居た堪れない気持ちになった。

「人を救うためには、人を殺さないといけないなんて、辛いよ……」秀介は絞り出すように言った「でも、僕はやるよ。約束したから。この世界を守るって、あの人とも、君とも」

 振り向いた秀介の顔は、涙に濡れながらも、必死に笑顔を作っていた。

「ああ……ごめんなさい。ごめんなさい……私、本当に……」

 エリザベスは秀介の手を取り、泣いた。心優しいエリザベスにとって、秀介の涙を見るのは、心を引き裂かれるような悲しみに襲われるものだった。

「エリー、泣かないで。僕頑張るから、誰も苦しまないように、誰も悲しまないように、誰も泣かないように、そんなの無理だって言われるかもしれないけど、頑張るから」

 秀介は腕を上げ、エリザベスを撫でた。秀介の手から伝わる暖かさが、体にしみわたるように、溶け込んでいくように、エリザベスの心に入り込んできた。

「……シュウスケ君。何があったか、聞かせてくれるかい?」

 レオナールが申し訳なさそうに聞いた。

「はい、すいません。実は――」

 秀介の話を、エリザベスとレオナールは黙って聞いていた。その話は、信じられないような内容だったが、レオナールにとっては興味深いものだっただろう。

「面白い。時間を操る魔術、いや、時間の進行を操るような魔術だろう。空間を指定して、その中だけ時間の進行を遅らせたり速めたりできるのか。やはりエルフの魔術はすさまじいな」

「レオナール! こんな時にデリカシーが無さすぎです!」

「いいんだよエリー、僕は大丈夫。それより、先に進もう。まだあと二つ、試練が残ってるんだから」

 三人は部屋の奥にある扉を開け、先へと急いだ。


言いたいことはわかります。手抜きだと、端折りやがってと思ってるでしょう。でも! 仕方ないじゃないですか。私の描写力ではこれが限界なんです!これからも温かい目で見守ってください。お願いします。

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