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その日、乾秀介は学校からの帰り道、音楽を聴きながら物思いにふけっていた。
小学校のころ両親をなくした秀介は、叔父叔母に育てられた。
叔父はいつも秀介を気遣ってくれてよく相談にのってもらっていたが、叔母は打って変わって、秀介に冷たく当たる。
優しかった叔父も先日他界してしまい、赤の他人同然の叔母と暮らすことになった。
叔母は醜いものを見るような目で秀介を見てくる、当然だろう、秀介がいなければ遺産は自分だけのものになるのだから。
秀介は叔父が死んでからというもの、自分の部屋に閉じこもるようになった。
自分の部屋で音楽を聴いている時間だけは叔母が思考に入ってくる事はない。アルバイトをして買ったウォークマン十五周年記念モデル、これが秀介の宝物だった。
(社会の追試、憂鬱だ)
新しい総理大臣なんて俺らに関係ないだろ、秀介は内心で毒づく。
(ん?)
秀介の頭に赤い葉が落ちてきた。ふと頭上を見上げると、並木の紅葉は鮮やかに色づいていた。
(もう秋か、……綺麗だなあ)
さっきまでの憂鬱な気分などどこかに消えてしまい、秀介は真っ赤に色づく並木道に魅せられていた。
ずっとここにいたい、叔母のいる家に帰らずに、ずっとこのまま幸せな気分でいたい。そう願った。
(帰りたくないな)
そう思いながらも、再びとぼとぼと歩き出した……そのとき、もうすでに秀介はこの世からいなくなっていた。