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Legend of brave  作者: たいがー
第二章:旅立ち
19/45

5

 外の景色が、馬車の車窓をゆったりと流れていく。延々と広がる若草色の草原を、鹿のような動物が跳ねまわり、青い空には大きな鳥が飛んでいる。

「ねえレオナールさん、僕たちどこへ向かってるんですか?」

「ドワーフの国さ、フィリップが心配だ。それに、人類以外にも被害が出ているかを確認しないといけない」

 秀介たちがルノワール王国をでて、三日が経過していた。途中で見掛ける町や集落はどこも焼け野原と化していた。レオナールの懸念は魔族の攻撃対象にあった。魔王の狙いが世界征服ならば、一番繁栄している人間の他にも、人たる種族に攻撃を仕掛けてもおかしくない。だが、魔王がもしも人間だけを狙っているのだとしたら、他の種族との関係がより重要となってくる。必ずしも世界にいる様々な種族の全てが人間に協力してくれるか分らないからだ。

「どのくらいで着きますかね?」

「そうだな、短く見積もってもあと一か月は掛かるだろうな。旅にトラブルは付き物だと言うし、もう少し掛かるかも知れない」

「い、一か月ですか……」

 秀介にとってみれば、人生で一番長い外泊と言えば中学生の時の修学旅行くらいである。一か月という気の遠くなるような長い日数に、秀介は不安になるのだった。秀介は充電の切れかかったウォークマンを取り出し、イヤホンを耳に入れた。

「シュウスケ様が耳に入れているあれはいったい何なんでしょうか?」

「さあ……、きっと我々の理解の及ぶことのない代物だと思うよ」

 しばらく馬車に揺られていると、ウォークマンの充電が切れた。充電用の乾電池も使い終わり、充電する方法はもう無い。もう二度とあのハスキーな歌声を聴くことができないのだ。

「二人とも、もうすぐヴィエゴに着く。三日も野宿は堪えただろうから宿に泊まろう」

「そうですわね、でも……ヴィエゴも襲撃されているのでは?」

「バーク軍事連合最強の砦が墜ちていたら、洒落にもならないよ」

 要塞都市ヴィエゴ。対ザルダート帝国用に、三か国共同で作られた。難攻不落と言われるバーク軍事連合最強の要塞都市である。総面積三百平方キロメートルの土地を、高さ二十数メートルもの巨大な壁で囲まれており、結界魔法が張り巡らされている。

 ヴィエゴが最強たる所以はそれだけではない。ヴィエゴには数多くの「ギルド」の本部が存在する。ギルドというのは仕事の斡旋を主とする職業組合のことだ。その種類は多岐にわたり、様々な職種のギルドがある。その中でも特に力が強いとされているトレジャーギルド、マジシャンズギルド、マーセナリーギルドの本部が、ヴィエゴにあるのだ。

 トレジャーギルドは、別名ハンターギルドと呼ばれており、一攫千金を夢見る冒険者が一堂に集まる最大のギルドである。所属人数が最も多く、政治などへの影響力も大きい。

 マジシャンズギルドはその名の通り魔法使い、魔術師のギルドである。この世界では、魔法が使える者の存在があらゆる局面において極めて重要であり、その魔法使いを他国へ流出させないために、バーク軍事連合がマジシャンズギルドが発足したのだ。他のギルドは民間の職業組合なのだが、マジシャンズギルドだけが政府の管理下に置かれている。

 そして、ヴィエゴが最強たる所以はやはりマーセナリーギルドにあるだろう。マーセナリーギルドは傭兵の斡旋を行う民間機関であり、百を超える傭兵団が席を置いている。ヴィエゴはこれらのギルドと連携し、ザルダート帝国の攻撃を防いでいるのだ。

「見えてきたぞ、あれが要塞都市ヴィエゴだ!」

 秀介は馬車から顔を出し、前方に聳える巨大な壁に目をやった。

(でかい! 学校の高さくらいあるんじゃないか?)

「ヴィエゴの壁は三重構造になっていて、そのどれもが特殊な材質でできているんだ。ザルダートの兵器でも三つ全部壊すのは無理。たとえ魔族が来たとしても、あそこが墜ちることはないだろうね」

 秀介は声にならない感嘆の息を漏らした。

「ここへは何の用事で?」

 秀介たちは門の前で門兵に止められた。この緊急事態では門の検問はいつも以上に厳しくなるものだが、その門兵も馬車見て、秀介たちがそれなりの地位の人物だと気づいたようで、物腰は柔らかかった。

「ああ、野暮用でね……。そうだ、ここも魔族は来たのかい?」

 レオナールがそう聞くと、その門兵はたちまち顔色を変えた。

「いえ、来ていません。ギルドの連中も他の町や村に行って復興作業の手伝いをしています。魔族どももヴィエゴの前に怖気づいたんでしょう」

「……そうか」

 門を抜けてヴィエゴに入った秀介たちは、宿屋に向かった。

「この世界の宿ってどんなのなんだろう……」

「私も宿に泊まったことはありませんわ。レオナールは?」

「泊まったことくらいありますよ、小さい頃から父にあちこち連れまわされましたから」

「そうなんですか」

 秀介はレオナールが羨ましく思えた。小さい頃は、両親が死んでから親戚中を盥回しにされ、引き取ってくれた叔父も仕事が忙しく、一緒にどこかへ外出したこともなかった。親にどこかに連れて行ってもらったとはしゃぐ同級生の姿を見るたびに、何とも居た堪れない気持ちになるのだ。

「部屋を三つだ」

「かしこまりました。……Sの301~303になります。ごゆっくりと……」

 秀介たちが来たのはヴィエゴ最大の宿、宿というよりホテルといったほうが近いだろう。

「シュウスケ君、これが君の部屋の鍵だ、無くさないように」

「は、はい!」

 豪華に装飾された鍵を渡され、秀介はすっかり委縮してしまっていた。

「それで、これからどうしようか、夕食までに時間もあるし……」

「ではレオナールにこの街を案内してもらいましょう。シュウスケ様と私を」

「え? 僕?」

 秀介は素っ頓狂な声を上げた。

「ええ、シュウスケ様もこの世界で知らない事も多いですし、案内してもらいながらお勉強をしましょう」

「うあ、ちょ」

 満開の笑顔のエリザベスに、半ば強引に連れていかれる秀介であった。



「……どれだけ死んだ?」

「全世界に送り込んだ百人の同胞のうち、死んだのは約十六人ほどです」

 煌びやかで、尚且つ怪しげに装飾されたテーブルを、八人の魔族が囲んでいた。中には岩のような大男や、妖艶な美女、さらには人型を留めていない異形の生物も席についている。その玉座に、この世のものとは思えないほどの膨大な魔力を帯びた魔王が君臨していた。魔王が傍らにいる一人の魔族に問うた。

「ネロ、人間はどれだけ死んだ?」

 ネロは口元に笑みを浮かべた。

「甚大な被害を……いや、御自分の目でお確かめになられては? まだ潰れていない場所もありますし……」

「……まあいい、ここにいても暇なだけだしな、私も体を動かしたい気分だ。人間どもに……」

 

 ――――地獄を見せてやろう。



突然ですが、学校行事というのは大変ですよね。体育祭や合唱コンクール、三送会など色々ありますが、何でこんな時まで練習すんの? って思うことがあります。一番辛いのは放課後練習とかいう地獄。早く帰らせてほしいです。……いや、まあ、何でこんなことを言うかといいますとですね、明日合唱コンクールなんです。がんばります(笑)

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