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Legend of brave  作者: たいがー
第二章:旅立ち
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遅くなってすみません

 ガスパール・カルリエについて語ろう。彼は小さな田舎領地を管理している貧しい貴族の四男に生まれた。長男のように跡取りとして肩身の狭い思いをしていたわけではないが、大人数の兄弟の一人としてあまり両親にかまわれることも無かった。 

 彼が物心が付くころ、彼は兄弟と自分が決定的に違うことに気がついた。兄弟たちは竈で火種が消えないように火の番をしていた。そして息を吹きかけて火を熾すのだ。兄弟たちは態々井戸まで行って水を汲みに行く。手にたくさんの肉刺ができていた。ガスパールは違った。頭で思い浮かべれば火なんて簡単に点く、水なんて幾らでも出せる。そう、ガスパールは魔力があった。いや、正確に言うとガスパールの魔力回廊に流れる魔力が、常人の魔力とかけ離れていたのだ。

 家族はそんなガスパールを気味悪がった。動物には必ず魔力回廊があるが、そのすべてが魔法を使えるわけではない。魔法、魔術を使える人間はごく一部の人間だけだ。

 ガスパールは自分のことを気味悪がる家族のことを軽蔑していた。彼らは自分より劣っている下等生物だ、自分は選ばれた人間なのだ。ガスパールは十三歳の誕生日になると、すぐに家を飛び出した。

 自分の力を世界へ知らしめるために、ガスパールは様々なことをした。あるときは冒険者になり数々の強大な魔物を葬り、またあるときは傭兵となり自分の軍を勝利へと導いた。自分の魔法で面白いように人が死んでいく様は愉快だった。

 そんなある日、十八歳になったガスパールはある王国に傭兵として雇われた。その国では隣国との関係が思わしくなく、近いうちに戦争になるとのことだった。ガスパールが駆り出されたのは大規模な軍の衝突時だった。ガスパールは、計り知れない程強力な広範囲魔法によって、一人で万もの敵兵を葬った。その様子を見た一人の兵士はこう語る。

「御伽噺の中に迷い込んだのかと思った。その姿は正しく、魔導師という言葉が相応しいだろう」

 魔を導く者、魔導師。童話において、勇者側に着いた最も強力な魔術師である。

 その戦闘によって輝かしい勝利を飾ったその国の王は、ガスパールを宮廷に招いた。

「そなたの望みを一つだけ叶えて進ぜよう、そなたの望むものは何だ? 巨万の富でもいい、宮廷魔術師に任じてもいい、我の娘を娶らせてもいいぞ?」

 ガスパールは答えた。

「富も、地位も、美しい女子も要りませぬ。私が望むものは唯一つ……、――――だけでございます」

 ガスパールの答えに、王は言葉を失った。その場にいた者の中で、その意味を詳しく汲み取れる者は、国王ただ一人だったであろう。王は、「その願いは聞いてやれぬが、その代りに宮廷魔術師の地位と、この国が保管している禁書の閲覧を許可しよう」と言った。

 その日から、ガスパールは国内の書物を読み漁り、世界各地の遺跡を渡り歩いた。彼が何を求めているのか、誰もが興味を持ったが、本人に尋ねても帰ってくる言葉は同じであった。

「貴方達には理解できないものです」

 ガスパールは長年旅を続けた。彼の髪はだんだんと白んでいき、彼の顔は一つ一つ皺が刻み込められていった。その国の王は亡くなり、孫であるセドリックという青年が、若くして次期王となっていた。

 ガスパールが五十二歳の時のことである。.バーク山脈のある遺跡を調査しに、山の中を歩いていた時だった。何処からともなく赤子の泣き声が聞こえてきたのだ。茂みの中を覗いてみると、竹で編んだ籠の中に、一人の赤ん坊が寝かせられていた。煩いほどに泣き喚くその赤ん坊から、不思議とガスパールは目が離せなくなっていた。

 いつものガスパールならば、そこで赤子が泣いていようが、気にも留めずに去っていただろう。だがガスパールは、何故かその赤ん坊に魅せられていた。理由ははっきりしていた。その赤ん坊が、ガスパールと同等か、それ以上の魔力を有していたからである。

(すばらしい、まだこんな赤ん坊の時からこれだけの魔力があるのだ、鍛えればそれ以上にもなる。そうなればこの計画もより円滑に進むだろう。この命、そう易々と手放すわけにはいくまい)

 ガスパールは子の赤ん坊を連れ帰り、レオナールと名付け、ありとあらゆる魔法の知識を教えながら育てた。

 レオナールは徐々に頭角を現しはじめた。五歳の誕生日が訪れる前に、上級と呼ばれるような魔法をマスターし、それから三年も経たないうちに一流の魔術師でも難しい魔法陣を完成させたのだ。これにはガスパールも我が目を疑った。そして確信した。歴代最強の魔術師、いや、魔導師に成り得ると。



 目の前で火の手が上がり、ガスパールの意識は現実に引き戻された。

(『幻影の炎(ファントムフレア)』か……、見たことも聞いたことも無い魔法だ。普通の炎魔法とは威力が段違い……厄介ではあるが、その程度の火力では私に火傷一つつけられまい)

 ガスパールは魔族に目を向けた。赤眼で、銀髪の間から山羊の様な角が生えている男。その身から染み出す魔力はどす黒く、最早妖気と言っていいだろう。

「ガスパール、大丈夫か?」

「セドリック様、このようなことを申すのもなんですが、その質問は愚問というものでございます」

「無理をするんじゃない」

「この状況においては、出来ない相談でございますな」

 ガスパールは魔障壁を発動し、魔族の魔法を防ぐ。その瞬間にセドリックは大きく踏み出し、持っているクレイモアを一文字に薙いだ。

「ギャ……!」

 魔族は悲鳴を上げる間もなく息絶えた。

「お前が病を患っているのは承知している」

 ガスパールは静かな微笑みを浮かべ。

「大丈夫に御座います。もし仮に私が死んだとしても、私には優秀な弟子が居りますゆえ」

「……死なれては困るのだがな」

 セドリックは剣を納めた。

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