3
「お待ちしておりました。エリザベス王女、お怪我は?」
爆音の響く中、駐屯地に着いた秀介とエリザベスは、強固な対魔法素材でできた建物に
「ええ、大丈夫です。シュウスケ様が守ってくださいましたの。ところでチャールズお兄様は……?」
「……恐れながらエリザベス王女、チャールズ殿下はただいま行方を眩ませております」
「……そう、ですか」
平然とするように心がけてはいるようだが、やはりショックを隠し切れていないと、秀介は思った。
実際にチャールズが生きている可能性は低いだろう。
「陛下からすぐにでも出発せよとの命令です」
「ですが、街には魔族がいるのですよ? 私は聖女として戦わなくてはなりません」
「姫、ルノワール軍の力を嘗めてもらっては困ります。すでに住民の避難は完了して、魔族も大半は……」
その部屋に耳を劈くような爆音が響いた。近くで魔族の魔法が炸裂したようだ。
「急ぎましょう。ここで議論していては出発するチャンスを潰すことになる」
秀介とエリザベスは、兵士に連れられ馬車へと詰め込まれた。
「御武運をお祈りしております。エリザベス王女」
「あ、まっ……」
馬車は猛スピードで走りだした。
「……エリー」
「仕方ありません、まずこの街を出なければ」
「あの、エリー?」
「大丈夫です。魔族が襲ってきたらまた戦いましょう」
秀介には魔族よりも今、目先の不安があった。
「いや、エリー」
「はい?」
「この馬車って誰が運転してるの?」
「……」
秀介とエリザベスは馬車の後部座席に乗っている。二人とも手綱は握っていない。
「……あ」
その瞬間、馬車のすぐ横で爆発が起き、車体が傾いた。
「魔族!? 」
窓の外を見ると、黒く禍々しいオーラを放ちながら、一人の魔族が近づいてきていた。魔族は不敵な笑みを浮かべ、魔法を唱えた。
「『幻影の炎』」
「キャァ!」
「うわぁ!」
魔族から放たれた炎が、馬車を包む。秀介は死を覚悟した。しかし、いつまでたっても不思議と熱さを感じなかった。
「『妨害魔法』……」
馬車の御者台から、男の声が聞こえた。
「ちっ、糞が!」
魔法を防がれた魔族が悪態をつく。
「この世に害をなす邪悪なる存在よ、その穢れた心と共に散って行け。『大地の大槍』!」
男がそう唱えると、魔族の足元から土の槍が飛び出し、魔族の胸を貫いた。
「うぐぁぁぁ!! 」
地面から突き出す槍に貫かれ、苦しそうにもがいていた魔族は、しばらくするとピタリと動かなくなった。
「ふん、汚らわしいオブジェだな」
秀介は馬車を降りて、御者台を見た。そこには魔族の遺体を冷たく見つめる一人の男の姿があった。
「え、あ、あなたは……」
秀介は彼に見覚えがあった。
「魔法陣の……」
「レオナール!」
後からでてきたエリザベスが、嬉しそうな声を上げた。
「一緒に来てくださるの!? 」
「ええ、怪我はありませんか、王女?」
「大丈夫ですわ、それにしてもその口調どうにかなりませんの?」
「ここはまだマルギザーニャですよ? 陛下になんて言われるか」
「あ、あのう……」
居た堪れなくなった秀介は勇気を振り絞り声をかけた。
「シュウスケ様、この方はレオナール・カルリエ。宮廷魔術師です」
「父の代わりに君たちの旅についていくことになった、よろしく頼む」
「よろしくお願いします。あ、レオナールさんって強いんですね」
「まあ、曲がりなりにも宮廷魔術師だからね、あれくらい倒せないとやっていけないよ。それよりも、早く出発したほうがいい。あの忌々しい魔族が来る前に」
秀介にはレオナールの表情が、どこか不安そうで、暗く影がさしているように感じた。
(……気のせいかな)




