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明治妖怪探偵奇譚  作者: 時雨瑠奈
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第二十二話 ~女性剣士は想いで勝ち取る 後編~

 よけて、と言われてとっさに身を引いたのは正しかった。

桂紫子かつらゆかり安堵あんどしたようにそう思った。

 唐突に鎌鼬かまいたちのような風が吹いて、二人がいままでいた場所の地面が

けたのだ。

 まあ、元々紫子は彼女を信頼していたから、よけないという判断はそも

そもないのだけれど。

 声の主、神無月梓かんなづきあずささんは嬉しそうにこちらに手をぶんぶん振って

いた。

「ゆかりん様、ともちん、元気――っ!」

「あ、ああ。私は元気だ」

 その手から投げられた札のような物が、きらりと光った気がしたけれど

その理由は紫子には分からなかった。

 ただ、彼女は信用出来る。その事だけが分かればよかった。

「梓様! 何故なぜここに……!?」

「細かい事は気にしないの~、ともちんってば」

「い、いや全然細かくないですよ!? ここは紫子様のお家なんですけれ

ど!?」

 梓さんにともえがもっともな事を言うものの、軽くあしらわれてしまって

いた。

 まあ、紫子は別に友人である彼女が勝手に家の敷地内に入っていても気に

はしないけれど。

「話してる場合じゃないでしょ! あんた達は早く退避しなさいっ」

「いや、観音かのんここは私有地だからえらそうにするなんて……」

「はわわわ、な、何なんですかぁこれは!」

「……妖怪が来てる……」

 一気ににぎやかになって来たその場に、完全に巴は苦笑する事しか出来なかっ

た――。



「……梓から見て、どんな感じ?」

 じぃっと亜麻色の髪に青い瞳、装飾過多な黒い洋装を身に纏ったゆめ・クロ

フォードさんがじぃっと梓を見つめた。

 ん~、と梓がのんびりしたような口調で呟く。

「ま、大丈夫でしょ! ちょっとおいたが過ぎる感じがするけど、ここにいる

仲間達なら勝てるよ!」

「いつあたしがあんたの仲間になったのよ!?」

 服神観音はとりかのんさんががうっ、と吠えるようにさけんだ。

本心から嫌がっている訳ではないのは、そのわずかに染まった耳から分かる。

 本当は嬉しいけれど素直になれてはいないようだ。

案栖誠一郎あずまいせいいちろう先生が呆れたような顔になっている。

 なんだか仲が良さそうに見えるが、いつもの二人はどうだっただろうかとつい

思ってしまった。

 比賀谷月穂ひがやつきほさんは、泣きそうに目を潤ませてただ震えている。

「あ、ああああの、梓さん、これは一体――!?」

 事情をよく知らないらしい、というより紫子もよく知らないのだが、わたわた

している彼女につい可愛らしいと思ってしまった。

 これでは取材などとても出来そうにはない。

「つっきー、落ち着いてよ。怖かったら待ってていいからね?」

 いつもならば「つっきーじゃないです!」と怒る余裕さえ月穂さんにはない

ように見える。

 守ってあげたい、という魅力が彼女にはある気がした。

「あぅ~、紫子様は僕のですよ……!」

「な、何故か巴さんににらまれてます!? はわわわわ……」

「巴、落ち着け! 素が出てる素が!」

「つっきーも落ち着いてよ、そんなにおびえなくても大丈夫だってば」

 月穂さんの事を守ってあげたい、と思ったのが巴に勘付かれたようだった。

巴がきっと月穂さんを睨みつけたので、月穂さんがさらに怯える。

 苦笑くしょうしながら紫子は巴をなだめ、梓さんも月穂さんをなだめ始めた。

「……あ」

 そんな時、いきなり月穂さんの動きが止まった。

つっきー!?と声を上げた梓さんが彼女の肩に手を伸ばす。

「いや、嫌ああああっ!」

「いたっ!? つっきー……? どうしたの……?」

「わ、私、私、嫌、嫌……あああああっ!」

 くたっ、となった月穂さんが悲鳴ひめいを上げて倒れた――。



 倒れた月穂さんを、梓さんが抱き起した。

誰もがどうしていいか分からない状況に見えた。

 もちろん、紫子もだが。

「つっき――! つっきーしっかりしてよっ! 嫌だよっ!」

「月穂……大丈夫なの?」

「比賀谷!?」

 巴は試案するように眉をひそめ、いつもは行動的な観音さんでさえも目を泳がせて

いた。

 案栖先生も動揺しているようだ。

「――落ち着いて」

 そんな中、一人だけ冷静だったのは夢さんだった。

くぃっと軽く梓さんの着物の袖をつかんで彼女を制止する。

「梓、心配なのは分かるけれど、今は月穂を心配している場合じゃない。妖怪を大人

しくさせないといけない」

「でも……!」

「来る……!」

 夢さんがきっと顔を上げて飛び出した。

ブレスレットがきらりと青い光を放ち、受け流すように手をさっと振る。

 激しい水流が彼女のすぐ横を流れて行った。

……もしも当たっていたら、ただでは済まなかった。

「夢っち……!」

「行こう、梓」

「ちょっと! あんたらだけで分かりあってるんじゃないわよっ」

「俺も行くよ、生徒だけに戦わせる訳にはいかない」

「ぼ、僕も行きます! ――紫子様、月穂さんを」

「任された」

 夢さんが梓さんの手を取って力強くうなずいた。

と、そこに観音さんの声が飛び、彼女も二人につられたように前に出る。

 案栖先生も同様に前へと飛び出して行き、最後に巴が続いた。

月穂さんを託されたので、紫子は彼女を抱き上げて下がっている事に

する。

 くやしいが、今ここで何が出来る訳でもない。

彼女達に任せた方がいいと思えた。

 巴はこんなにかっこよかっただろうかと紫子は思う。

 今日はいつもとは違う巴をたくさん見れた気がした。

「こっちだ……! 来い……っ!」

 巴が前へと飛び出した。

水流に見える何かは、巴を追いかけるようにそちらへと移動する。

 巴はかなり身軽ではあるけれど、あっちへこっちへ逃げても水はいつまでも

追いかけて行く。

天屯たかみち、こっちだ!」

 ぐいっと力強く巴の手を引っ張りながら、案栖先生が走る。

目を交わし合う二人は、一見恋人のようにも見えるけれど、紫子には男同士の

友情のような物が感じられた。

 巴にも、仲良く出来る男性が出来た事は多分に好ましい。

「ともちん、先生、そっち! 次はあっち!」

 梓さんが案栖先生と巴に指示を出し、どちらに行けばいいのか誘導していた。

その度に、巴達は指示通りに動く。

 梓さんの指示はかなり的確で、すぐ横をすり抜けて行って彼女が言わなけれ

ば危なかった場面も結構あった。

 そんな事を繰り返していくと、水流――というか水流を操っているらしい何者

かは、疲れて来たらしく水の勢いがだんだん弱くなって行っていた。

「――ねぇ、夢。物は相談なんだけど……いいかしら?」

「何……? ようやく弱って来た所なのに」

 と、そんな時観音さんが口を開いた。

出鼻をくじかれたらしい、夢さんは苛立ったように眉をひそめていた。

「あいつ、私にもらえない?」

「ん?」

 もらう、という意味を測り兼ねたように夢さんが首をかしげた。

こんな時であるけれど、きょとん、としている夢さんは少し可愛いらしく見

える。

「どういう意味?」

「言葉通りよ、あたしの下僕げぼくにしたいって思うんだけど、協力してくれる?」

「……ん~……」

 しばしの逡巡しゅんじゅん。に見えた態度を取った後、夢さんは頷いた。

よし、商談成立ね!と観音さんが笑う。

 梓さんが苛立ったように声を投げるも、観音さんは悪びれずに自分の作戦を

実行するつもりのようだった。

「ちょっと何やってるの! 早く早く夢っち、かののんっ!」

「分かってるわよ! 今やるわ……行きなさい、蘇芳すおう!」

 観音さんが光る玉のような物を思いっきり投げた。

それはよく見ると、玉ではなく光だったらしく空中で弾け飛んで中から赤い髪と

金の瞳の角を生やした子供が出て来た――。



「……俺達、走った意味あったのか……?」

「絶対なかったですよねぇ!?」

 案栖先生と巴が口ぐちにそう言っているのが、少し気の毒な気がした。

最初のこの蘇芳なる子供を観音さんが出していたら、二人が走る必要などどこにも

なかったように思える。

 蘇芳と呼ばれた子供はかなり素早いらしく、水流を右へ左へと危うい様子もなく

よけ続けた。

「――もういいわ、どきなさい!」

 観音さんと夢さんが目線を送りあった。

同時に前へと飛び出し、結界術とでもいうのだろうか眩い光が観音さんの手と夢

さんのブレスレットから洩れた。

 淡い水色の結晶のような物が、すっと伸ばした観音さんの手に収まる。

子供みたいにやった!と喜ぶ彼女は、とても可愛らしかった。

 まあ、それを彼女に言おう物なら怒られそうだが。

「はぁ、疲れましたぁ……」

 情けない顔になっている巴の所に紫子は駆け寄った。

月穂さんはまだ目を覚まさないようである。

「お疲れ様、巴」

「ありがとうございますぅ!」

 お疲れ様とただ言っただけなのに、ぱぁっと巴の笑顔が輝く。

その笑顔は、何よりも魅力的に紫子には映ったのだった――。

 久々の次話投稿です! 最近調子があまりよくなく、ようやく

調子が戻って来た感じです。ようやく巴&紫子編が終わり、次回は

梓と月穂の話にしようかなと思っていたりします。

 ようやく蘇芳が活躍出来ました。

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