表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明治妖怪探偵奇譚  作者: 時雨瑠奈
15/23

第十五話 ~魔を祓う少女の目的~

「……で? あんた、何でここに来た

のよ?」

 桜色の着物と袴を着た、神服観音はとりかのんは、

湯気を立てる舞茸の炊き込みご飯に

箸を突っ込みながら聞いた。

 ピンクのリボンで総髪に結われた

黒髪がふわりと揺れる。

「……あなたに、連れて来られた

から……」

「そっちじゃない!」

 黒の装飾過多な洋装を身にまとう、

亜麻色の髪と青い瞳の夢・

クロフォードは、どことなく羨まし

そうに観音の手元を見ながら答える。

 しかし、家に来た事ではなく、

女学校に来た理由を観音は聞いて

いたので、むぅっとなった彼女に

怒られてしまった。

 苦笑しつつ、男性教師である、案栖誠一郎あずまいせいいちろうは、

夢の前にも炊き込みご飯ととん汁、鳥の

照り焼きを置いてやった。

「なんで、いきなりうちの学校に来たのか、

って事をあたしは聞いてるの!」

「――魔を、祓うため」

 夢はそう言い切ると、醤油を基調にした

たれがかかった照り焼きを少しずつ切って

食べ始めた。

 かなり美味しかったのだろう、ゆっくり

食べている。

 誠一郎はなんだか嬉しくなった。

「魔を、祓う……?」

 口をもぐもぐとやって、口の中のご飯を

飲みこんでから観音は口を開いた。

 こくりと頷いて、夢は今度はとん汁の

こんにゃくを頬ぼり、少し癖のある汁を

すする。

 自分も炊き込みご飯ととん汁と鳥の

照り焼きを確保しながら、誠一郎も

口を開いた。

 眠っている御霊たまの分と、未だ

結界に幽閉中の、鮮やかな赤い髪に金色の

瞳の小鬼の分もあるのかこっそり確認

しているが観音は気づいていない。

「魔って、一体何なんだ? 妖怪じゃない、

ような事を観音は言っていたが……」

「あれは妖怪じゃない。悪魔」

 悪魔!?といきなり叫んだのは、観音でも

誠一郎でもなかった。

 首をかしげながら、夢は『喋る猫』を

見つめている。

 どうやら、妖怪の気配とかはよく分から

ないらしい。彼は一見ただの喋る三毛猫に

見えるが、実は猫又という妖怪

であった。

 お昼寝中だったけれど、人の気配を感じて

起きたのかもしれない。

「……猫が、喋ってる……」

『おいらをただの猫と一緒にすんな! おいらは、

由緒ある猫又一族の出なんだぜ?』

 と、猫の姿のままで胸を張る御霊だが、妖怪知識の

ない夢はただ首をかしげただけだった――。



 その後は、御霊の事も詳しく紹介され、観音達はまだ

食事を続けながら、悪魔についての話を夢にされていた。

 御霊もまた、三毛猫の耳と尻尾を持つ少年の姿に

変じて夕食を食べていた。

 ミソや葱が入っている、とん汁だけは除外されて

いるが。

「私は、悪魔を祓うためにここにやって来た。元々、

私の家は退魔師の家系だし、代々悪魔を祓う事を

生業として来た」

 二杯目のとん汁をすすりながら、夢は淡々と語って

行った。

 柔らかく味のしみ込んだお肉と豆腐を美味しそうに

頬ぼっている。さらに二杯目の炊き込みご飯を食べ

ながら、夢はなおも言う。

「……誰かが、悪魔を召喚している……」

「誰かって、誰よ!?」

「分からない。だけど、女学校の誰かなのは確か……。

悪魔の気配は、女学校から感じるから……」

 鳥の照り焼きを頬ぼり、美味しそうにもぐもぐと

咀嚼そしゃく

 あまりに美味しそうに食べるので、嬉しそうに微笑んだ

誠一郎は夢に自分の鳥の照り焼きを譲ってやった。

 夢はそれもぺろりと平らげてしまう。

夢に優しい誠一郎に、観音は思わずむっとなったが、夢と

誠一郎は全く気付いていなかった。

「今まで襲われた奴も、妖怪じゃなくて悪魔の仕業だった

っていうの?」

「直接見ていないから、詳しくは分からないけれど

多分……。痣があると思うから、確かめれば一発で

分かる」

「確かめるって?」

「悪魔の仕業ならば、痣があるはず」

 あっ、と誠一郎と観音は同時に声を上げた。

被害に遭った少女達――村主由梨乃すぐりゆりのと、

梅干野淋漓ほやのりんりの体に黒い痣のような物が

あったと誠一郎は覚えていたし、観音は観音で、

闇の呪術師を自称している、八月一日蛍ほづみほたる

痣を見せられていた。

 誠一郎と観音の様子を見ていた夢は、間違いないかも

しれない、と思いながら武器が隠されている洋装の袖を

ぎゅっ、と握った――。



 その後、買い食いしつつ家に帰る、と告げた夢を、

心配だというので誠一郎と観音は送る事になった。

 悪魔や妖怪ならばあまり心配はないかもしれないが、

見た目がか弱く見える夢は暴漢相手に戦えるかどうか

分からない。

「――あ、かののんと夢っちと新入りの先生じゃん! 

 こんな所でどうしたの――?」

神無月かんなづき!?」

「な、何であんたがここにいるのよ」

「……あずさ、また出た……」

 と、喫茶店の前まで来た時だった。

手をひらひらと振っている人物に気づき、三人と一匹が

足を止める。

 御霊は一応常人には見えないように姿を消していた。

それは、純白の着物に緋色の袴を身にまとった、神無月

梓だった。

 抱きつこうとして来る梓に夢が嫌そうな顔になり、

誠一郎の後ろに退避する。

「何でここにいるの、って、夜食にあいすくりん食べに

来たんだよ~。夕食終わったからね」

「あんた、この近くに住んでるの? この近くに、神社

なんてないはずだけど――」

「へ? あたし、神社住まいじゃないよ。そりゃ実家は

神社だけどね、あたし家出て一人暮らししてるから」

 下宿しているのだと、梓は語った。

実家からはかなり遠いので、女学校から比較的近い

場所に下宿しているらしい。

「こんな時間に出歩いたら、危ないぞ」

「おお~新入りの先生ってば心配してくれてるの? 

 ――大丈夫だよ、護衛がいるから」

「護衛?」

 とはいっても、彼女のそばには誰もいないように

誠一郎には見えた。

 夢と観音もそれは同じなのだろう、彼女達は首を

かしげている。

「お、可愛いね~珍しいじゃない三毛猫の

おすなんて」

 そういえば、三毛猫の雄はなかなか生まれない、

といった事を聞いた事があったっけ、と誠一郎は

思い出す。

 えっ、と観音と夢が息飲む。誠一郎はすっかり

忘れていたのだが、御霊は今姿を見えなくして

いるはずだった。

「あんた、何で、こいつが見えてるのよ?」

「……私にも、見えないのに」

「――見えるよ、だって、私巫女だし。たとえ姿を

隠していたとしても、妖怪は見えるよ」

 こともなげに梓はそう行った。御霊が目を見開き、

巫女だったのかよ、と怯えたように呟いた。

「大丈夫だよ、悪さしてない妖怪祓ったりしない

から。まあ、あの時は悪戯してくれたけどね」

「うげっ!」

 三毛猫の耳と尻尾を生やした御霊は、びくっと

飛び上がった。

 夢は首をかしげていたが、誠一郎は俺が疑われた

時の話か、と遠い目で呟いていた。

「知ってたの……?」

「うん、知ってた。でも、かののんが何かやってる

みたいだったから、邪魔しない方がいいかな、と

思って」

「余計なお世話よ!」

 吠えるように観音が怒鳴った。

花を持たされた事に腹が立ったのか、その顔はひどく

真っ赤だ。

「かののん達にも、紹介しとくね。――あたしの式神」

 梓が式神の符を放り投げると、それはお揃いの

千早を来た双子の少女達へと変じた。

 ちなみに、赤い飾り紐で髪を結わえている方が姉の

千鶴、緑の飾り紐で髪を結わえている方が千早、と

それぞれいう。

「千鶴、千早、あいさつしなさいね」

「千早であります。――どうぞ、お見知りおきを」

「千鶴であります――仲良くしていただけると

嬉しいです」

 ぺこり、と一礼する双子の狛犬姉妹に、観音達も

それぞれあいさつを返した。

 しかし、御霊があいさつしようとすると、千早も

千鶴も嫌そうな顔になる。

「――千鶴に近づくな、であります。破廉恥妖怪」

「ね、姉様! そんなにはっきり言っては……」

「な、なんだとぅ!? 誰が破廉恥妖怪だ!」

 ぎゃんぎゃんと言い合いを始める千早と御霊に、

それぞれの飼い主達は苦笑する事しか出来ない。

 千鶴は一応は姉をたしなめていたが、彼女も

御霊にはあまりいい感情は持っていないよう

だった。

「あ、そういえばさ、あの時の小鬼、元気?」

「あんた、あの時も見てたの!? ――あいつは、

今お仕置きとして結界に閉じ込めてあるけど、

元気よ」

 以前、観音が赤い髪の小鬼を捕まえた事が

あった。その時も梓が見ていたのだと分かり、

観音はきりきりと眉を吊り上げて怒っている。

 実はこっそり誠一郎が食事を与えている

事を観音は知らないのだった。

 でも、一度遊びに行かせてよ、という梓に、

まあ来れば、と言っていたので、彼女を嫌って

いる訳ではないと分かり夢と誠一郎はただ肩を

すくめていた。

 千早と御霊の言い争いは、梓が符に千早を

しまうまで続いたらしい――。


 今回は梓がようやく観音達に

正体を明かしました。ちなみに、

ずっと出てこなかった小鬼が

どうなったかも今回明かされ

ます。夢は重要人物の一人でも

あるので、今回観音達と絡ませて

見ました。

 次回は、番外編を久々に書こう

かなと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ