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明治妖怪探偵奇譚  作者: 時雨瑠奈
13/23

第十三話 ~魔を祓う少女・推参~

 はあぁ、と深いため息をついて、食卓に

突っ伏した少女に、夕飯の献立を考えていた

青年は、自分もため息をつきたくなった。

 しかし、自分は彼女より大人なんだからと

自分に言い聞かせ、教師である男性用の

洋装姿の、案栖誠一郎あずまいせいいちろうは口を開いた。

「……何か、あったのか? 観音?」

「……聞きたい?」

「聞きたい、かな」

『本音は?』

「いや、別に大して聞きたくもない」

「聞きなさいよ! 御霊たま、あんたも

ふざけてるとぶっと飛ばすわよ!?」

 桜色の着物に紫の袴を履き、髪を薄桃色の

リボンで総髪に結わえた、服神観音はとりかのんは、聞こえ

よがしにため息をついた癖に、わざわざ聞いて

来た。

 仕方なしに誠一郎が頷いていると、別の声が

割り込んでくる。

 それは、猫又である三毛猫の御霊だった。

今は猫耳を生やした少年の姿をしているが、

れっきとした妖怪である。

 思わず、彼の声に反応して本音が出てしまう

誠一郎。御霊はおかしそうに笑っていたが、その

後観音の怒鳴り声がその場に響くのだった――。



「……それで? 一体、何があったんだ?」

「うっとうしい女がいるのよ」

 苦笑しつつも再度聞くと、観音はかなり嫌

そうな顔で告げた。

 しかし、心底嫌と言う訳でもないらしく、

耳が少し赤い。

「生徒か?」

「そうよ。他に、あたしが仲良く――じゃ

なくて、そばにいる接点のある奴いない

でしょ」

 一瞬仲良く、と言ってしまったのを誠一郎は

聞き逃さなかった。

 これで、ますます彼は観音が本心からその

相手を嫌っている訳ではないと思う事に

なった。

 ただ愚痴りたかっただけなのかも

しれない。

「それで、その相手の名前は?」

「……神無月梓かんなづきあずさよ」

 ああ、と誠一郎は思った。いつも巫女服を

着ている彼女は、明るくて元気な少女だが、

少々騒がしい部分もある。

 観音に勝手にあだ名をつけているようだし、

観音としては嬉しい反面愚痴りたくもなったの

かもな、と誠一郎は微笑ましい気分になった。

「ちょっと! 聞いてるの、誠一郎!?」

「聞いてるよ――おっと、そろそろ朝ご飯を

食べないとな」

 朝食の支度は、すでに出来ている。

観音はむっとしたようだが、遅刻したら困ると

思ったのか舌打ちしつつ文句は言わなかった。

 今日の朝食は、炊き立てほかほかの白ご飯と、

油揚げと青菜の味噌汁、そして黄色の沢庵と、

甘辛く煮詰めたあんをかけた、肉団子だった。

 なんだか、趣味だったはずの料理が、最近

どんどん向上している気がして誠一郎には

ならない。

 とはいっても、あくまで素人の料理なので

料理人になどなれる訳もなく、彼にとっては

今の所観音と御霊を喜ばす事しか出来て

いないのだが。

 今日は観音に内緒で、未だ結界に幽閉中

である、角を生やした鮮やかな赤い髪と

金の瞳の小鬼にも差し入れしたら彼も

気に入ったようだった――。



 本当に迷惑してるんだからね!?となおも

愚痴ろうとする観音をなだめた後、誠一郎は

職員室へと急いだ。

 今日は、転校生が来る事になっていたのだ。

 職員室に行くと、遅刻はしていないものの、

少し誠一郎が来るのが遅かったからか、先生達は

いなかった。

 代わりにいたのは、肩の辺りで切り揃えられた

亜麻色の髪と、青い瞳が印象的な少女だった。

 黒い装飾過多な洋装を見にまとっている。

本を読んでいたようだが、ふと誠一郎に気付いて

顔を上げた。

「君が、今日来る予定の転校生?」

「……そう……」

 感情がこもらない瞳は硝子玉を、赤みがあまり

差していない白い頬は人形を思わせた。

 亜麻色の髪もどこか舶来品のお人形を思わせ、

喋らなければ人形にしか見えなかったかもしれ

ない、と誠一郎は思わず思ってしまった。

 それほどまでに、少女には感情というものが

感じられなかったのだ。

 声も淡々としていて、あまり抑揚がない。

「え、えっと、名前は?」

「……夢・クロフォード」

 ハーフか、と誠一郎は思った。どう見ても異

国の少女、といった雰囲気の彼女だが、日本人の

血も混じっているのだろう。

「どこから、来たの?」

「アメリカ……でも、日本に住んでた……。小さい

頃に、日本に来た」

「教室、行こうか?」

「……」

(か、会話が続かない――!)

 夢の青い瞳は誠一郎を見ているようで、どこか

違う場所を見ているように感じて何故か誠一郎は

背筋が寒くなった。

 そこには何もないはずだが、彼女には何が見えて

いるのだろう。

 この風変りな少女と、やっていけるのか誠一郎は

早くも不安だった――。



 そのまま教室に向かおうとした誠一郎だが、

出来なかった。

 いきなり夢が立ち止まると、「お腹

空いた……」と言い出して食堂の前から動か

なくなってしまったのだ。

 どうやら、朝食も食べずにここに来たらしい。

料理を作るのが料理長の仕事とはいえど、大体の

生徒は朝食を食べてから女学校に来るのが普通

なので、そんなに朝早い時間に仕込みなど

終わってすらいない。

 料理長の相原太一あいはらたいちは、ぼやく

ように言いながらも、下働きの少年、百鬼悠翔なきりはると

走らせ、洋菓子を買って来させた。

 息を切らせながら戻って来た悠翔の努力も、

誠一郎の困ったような表情も、太一の渋い顔も、悠翔と

共に、わざわざ仕事を中断させてまで洋菓子を選びに

行かされた、夏目真子なつめまこの膨れっ面も、分かって

いるのかいないのか、夢は無表情のままだった。

 くりいむがたっぷりかかった苺入りの洋菓子を、手で

掴むともぐもぐ食べ始める。

 その食べ方は、小動物のように可愛らしいが、動作は

かなりゆっくりしていた。

(じ、授業が……!)

 焦る誠一郎だが、夢は食べる事に夢中で椅子から立ち

上がる気配は欠片もない。

 黄色いくりいむと白いくりいむが一緒に入った焼き

菓子。ちよこれいとがたっぷり入った焼き菓子、果物が

たくさん入った焼き菓子を次々と頬ぼりながら、夢は

「クロフォード! そろそろ教室に……」と言って

来る誠一郎の言葉を聞こえている癖に聞き流

していた――。



 その頃、教室にいる女生徒達は。

いつまで経っても教室に来ない誠一郎に、首を

かしげていた。

「誠ちゃ……案栖先生、遅いですね」

 いつもならばすでに来ているはずの彼は、まだ

姿さえ見せていない。

 もちろん、来るはずの転校生も。萌葱色の着物に

紫の袴を履き、黒髪を右側で結った、松形咲良まつかたさくら

心配そうな顔だった。

「そうだね~。新任の先生遅いよね~」

 白い着物に橙色の袴を着た梓は、小首をかしげ

ながら話していた。

 観音も、何やってるのかしら、あいつと

思っている。

 しばらく悩むように顎に手を当てていたが、咲良は

机の中から紫色の風呂敷に包まれた箱を取り出した。

 風呂敷を解くと、綺麗な朱塗りの箱が出てくる。

それを、観音はむっとなったように睨んでいた。

(――また、あいつ誠一郎に作って来たのね。何よ、

ちょっと料理が美味いからって見せびらかして)

 咲良は一度、誠一郎のためにお弁当を作って来た

事がある。

 だから、てっきり観音は今回も彼のために作った

物だと思い込んでいたのだが、それは違った。

「あの……。私、焼き菓子作って来たんです。皆さん、

食べませんか?」

 咲良は箱を開けると、それを観音達の前に差し出して

来たのである。

 そこには薄く焼き上げられた、丸い小さな焼き菓子が

あった。

 細かく切られた、乾燥された果物が乗った焼き菓子、

ちよこれいととくりいむが入っているらしい焼き菓子、

砕いた木の実が乗せられた焼き菓子などいろいろな

種類があった。

「『クッキー』っていうらしいんです。料理長さんに

聞いて、皆さんと一緒に食べたいと思って、

作ったんです」

 この教室にいる女生徒達は、全員が甘い物が大好き

であった。

 一早く遠慮なく掴み取った梓以外は皆遠慮していたが、

どうぞと言われてそれぞれ選んだ焼き菓子を食べ始めた。

「へぇ~これ、クッキーって言うんだね、さくらん

詳しいね~」

「うわあっ、美味しい!」

「ふん、まあまあの味じゃない」

「と、とっても美味しいですね」

「こんな焼き菓子があるなんて、知りません

でした……。咲良さん! この焼き菓子新聞部で特集

してもいいですか!?」

「うん、美味いな」

「僕――じゃなかった、私も作れるようになりたい

です!」

「とても、美味しいですね……」

「さくさくしてるわね、形もいつも食べる焼き菓子

とは違うし、いろいろな焼き菓子があるのね、

外国って」

「松形さんは、料理が上手なのね」

「美味しい! こんなの、初めて食べたよ~」

 梓、青灰色の上品な着物を着た、青い飾り紐で

黒髪を二つ結びにした、西園寺翠さいおんじみどり

観音、白と桜色の矢絣の着物を着た、髪をまがれいと

と呼ばれる輪っか状に結った、氷名月瞳子ひなつきとうこ

 おかっぱ頭の白と黒の格子模様の着物を着た、

比賀谷月穂ひがやつきほ、朝稽古の後だったらしく、

紺の剣道着を着た、桂紫子かつらゆかり、黄色の

装飾多めの洋装を着た、黒髪を後ろで一つに

結わえた、天屯巴たかみちともえ、橙色と黒の

格子紋様の着物の、黒髪をお下げに結った、

樋口環ひぐちたまき、白い装飾の少ない洋装を

着て、黒髪をお団子に結った、黒葛原汐莉つづはらしおり

銀色の蝶の着物を着た、蝶々の飾りのついた

簪で髪をまとめた、樹神菫こだますみれ、水色の

大人しめな着物を着た、水色のリボンで髪を結い

上げた、勘解由小路神菜かでのこうじかんな

 そして真っ赤なトンボ柄の着物の、八月一日蛍ほずみほたるは、

いつものように『闇の呪術師』化する余裕がないほど、

焼き菓子が美味しかったようだ。

 全員に喜んでもらった咲良はにこにこしながら、

自分も焼き菓子を食べていた。

 意外と、いい奴なんじゃない、と観音は思ったが、

それを言うのもなんだか悔しいというか、気恥ずか

しいので言わなかった。

 焼き菓子はまだまだたくさんあったので、女学生達は

楽しく話しながら焼き菓子を食べ続け、誠一郎と転校生の

少女が来る頃までには箱の中身はすっかり空になって

いたという――。

 



 今回は新キャラの夢が加入です。

作中のキャラはほぼ黒髪黒目なので、

外人キャラは初になりますね。

 私の好みの関係で、淡々とした

口調の子になりました。

 次回本格的に加入します。


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