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明治妖怪探偵奇譚  作者: 時雨瑠奈
10/23

第十話 ~幼馴染少女奮闘!~

 翌日、八月一日蛍ほづみほたるは、何事も

なかったかのように清心女学校へと

戻って来た。

 両親には大事を取って休むように

言われたが、我がままを言って行くと

言い張ったのだという。

「み、皆さん、ご心配をかけてしまって

すみませんでした!」

 さすがに、悪いと思っていたのだろう、

装飾がほとんどない紺の洋装に身を包んだ

蛍は、泣きそうに目をうるるとさせながら

級友達全員に頭を下げた。

 無論、教師である案栖誠一郎あずまいせいいちろうにも。

今日は前髪を髪留めで上げてあるらしく、

いつもは見えない右目も見えていた。

 蛍はぴんぴんしていて、完全に元気に

見える。

 昨日、彼女に垣間見えた狂気の色も

感じられなかった。

「よかった、蛍……。もうっ、心配

かけるんじゃないわよ!」

「ご、ごめん……」

 橙色の小花模様の着物を着た、橙色の

飾り紐で黒髪を二つ結びに結った、

西園寺翠さいおんじみどりに怒られても

蛍は素直に謝っていた。

「でも、昨日の事がまるで夢みたいね……。

あんな事があったなんて、私まだ信じられ

ないわ……」

「夢じゃないわよ!」

 妖怪の事を否定されたと感じたのか、

紫と白の矢絣の着物に海老茶袴を着て、

黒髪を薄桃色のリボンで総髪に結った、

服神観音はとりかのんが、むっとなった

ように翠を睨みつけた。

 蛍も、悲しそうな顔で夢じゃないよ、と

告げる。

「私も、夢だったらよかったのに、って

思った事もあったよ……。でも、翠や

観音さんや、案栖先生や、神無月さんに

いろいろ言ってもらえて嬉しかったから、

夢じゃない方がいいかな」

 蛍の声が聞こえたのか、純白の単衣に

緋の袴を身にまとった、垂らした長い

黒髪の神無月梓かんなづきあずさが、ひら

ひらとこちらに手を振っていた。

 蛍は意を決したような顔で、やや青白い

色の首元をさらけ出しあの事件は夢では

なかったという事を示す。

 そこには、奇妙な黒いアザが出来て

しまっていた。

 ずっと意識があった訳ではなかった

けれど、うっすらと記憶は残っている

のだと蛍は言った。

 皆の声も、ちゃんと聞こえていた、

とも言う。

「このあざ、ね、以前はなかったの。

私がおかしくなって、翠達に呼びかけ

られて正気に返って、それからの記憶は

ないんだけど、起きてから鏡を見て

気付いたの」

 真っ黒いアザは、どこか闇を思い

起こさせるような不気味な物だった。

普段の蛍ならば、このアザをも利用して

「自分は闇の呪術師だ!」などと言い

そうな物だけれど今日はそういう気分

ではないようだ。

 蛍も少し成長したのかな、と翠は

思った。

「でも、このアザってどこか闇の呪術師っ

ぽいよね!」

「……前言撤回」

 やっぱり蛍はいつも通りだ、と翠は

がっくりと肩を落とす。

 しかし、なんだか嫌な気分にはなら

なかった――。



 松形咲良まつかたさくらは、今まで

友達が出来た事がなかった。

 元々気が弱く人見知りなので、あんまり

知らない人達と話したりは出来なかったし、

友と呼べるような相手は誠ちゃんこと誠一郎

しかいなかった。

 でも、それではいけないと思う気持ちも

確かに胸の奥に根付いている。

(今までは、誠ちゃんだけでよかった……。

でも、誠ちゃんに依存しているだけじゃ、

駄目……。それに、私も、皆と仲良く

なりたい)

 蛍さんと翠さん。梓さんと、おかっぱ

頭に紺色の花火模様の着物を着た、

比賀谷月穂ひがやつきほさん。

 そして、最近梓さんと仲がいい観音さんの

ように、自分も仲のいい友達が欲しかった。

(私、頑張ります!)

 誠ちゃんにここは食堂があるから、あまり

お弁当は持って来ない方がいいと言われて

いたので、今日咲良はお弁当を持って

いなかった。

 なので、今日は皆と一緒に食べようと咲良は

思っている。

 午前の授業が終わった後、どきどきとする

胸を必死でなだめながら、咲良は食堂へと

やって来た。

「ちょっと! だから、誰がかののんなん

だって言ってるのよ!? 聞きなさいよ!」

「私も、つっきーじゃないですってばあ!」

 ぎゃんぎゃんと喚くように言葉を発して

いるのは、観音さんと月穂さん。

 梓さんはいつも変わったあだ名ばかり

つけるから、それに反発しているの

かもしれない。

「あ、の……」

 咲良は声をかけようとしたけれど、声が

小さいので気づいてもらえなかった。

 ため息をつきながら、翠さんが口を挟む。

「あんたのあだ名って、本当に変よね、梓」

「酷いよみどりん! いいじゃん、可愛い

じゃない。ね、ほたるっち!」

「えええっ私に振るの!? え、えと、か、

可愛い、かな」

 不満そうな梓さんに視線を移され、蛍さんが

おろおろしながら言った。

 昨日、咲良には何があったか分からないけれど、

蛍さんを追いかけて梓さん達と一緒に行って以来、

翠さんは梓さん達とも仲が良くなったみたい。

 隣の卓にいた、赤と白の矢絣の着物を着た、

まがれいとという輪っか状の形に髪を結った、

氷名月瞳子ひなつきとうこさんは、少し

苦笑しているのかなと咲良は思う。

「わ、私も、悪くないと思います」

「でしょ――っ!」

「……お世辞ですよ、それ」

 今日の昼食である、煮込んだお肉と野菜を

たっぷり詰めた焼き菓子を食べながら、青い

鳥模様の着物を着た、樹神菫こだますみれさんが

突っ込むけれど、皆おかしいわよ!と観音さんが

叫んだのでかき消されてしまった。

「……な。き、聞きなさいよ」

 菫さんはなおも、小鳥の飾りがついた簪で

まとめた髪を揺らしながら言っていたけれど、

やっぱり皆さんには聞こえていないみたいで、

咲良はなんだか彼女が気の毒になる。

 でも、落ち込んだ彼女を上手く慰める方法が

思いつかなかったので、ごめんなさいと思いつつ

さらに一歩梓さん達の所へ。

 頑張れ、咲良。出来る。咲良なら、きっと出来る。

自分に言い聞かせながら、咲良はなおも一歩を

踏み出す。

「……ぅ」

 私も、一緒に食べてもいいですか? そう言う

だけでよかった。きっと、彼女達も拒絶したり

しないだろう。

 でも、咲良はなんだか怖かった。もし、拒絶

されてしまったら、咲良と食べるなんて嫌だって

言われたら、どうしよう。

 咲良はそう考えたら震えが止まらなく

なっていた。

 と、肩を叩かれて咲良は振り返る。

そこにいたのは、白い着物と紫の袴をまとった、

結わずに垂らした黒髪の、桂紫子かつらゆかり様。

 さらに、くりいむ色がかった桃色の洋装を着た、

黒髪を後ろで一つに結わえた、天屯巴たかみちともえさん。

 二人は頑張れ、とでも言うようにただ微笑んで

くれていた。

 茄子紺の着物を着た、同色のリボンで髪を結い

上げた、勘解由小路神菜かでのこうじかんな様が、とん、

と背中を押して行きなさい、と伝えてくれる。 

 黒髪をお下げに結った、橙色の着物の樋口環ひぐちたまきさんも、

白い洋装姿に、黒髪をお団子に結った、黒葛原汐莉つづはらしおりさんも、咲良を馬鹿にしたりしないで応援してくれていた。

(ここに、私の敵は、いない。大丈夫、皆、いい人

だもん)

 すぅ、と咲良は深く息を吸い込んだ。

今度は、ちゃんと言える。ちゃんと、皆に聞いて

欲しい。

「あの! 私も、一緒に食べていいですか!?」

「も、もちろんです。あ、ここの席空いてますから

どうぞ、松形さん」

「おっ、転校生私達と一緒に食べたいのか~? 

 今日から、君はさくらんだ!」

「また変なあだ名つけてるし……。べ、別に空い

てるんだから勝手に座ればいいじゃない」

「今日は焼き菓子ですよ、料理長の料理は本当に

美味しいんです、だから皆さんで食べましょうね」

「もう、神無月さん! 松形さんの許可を得ずに

勝手に変なあだ名つけないでください! わ、私も

松形さんと仲良くしたかったんですよ。一緒に

食べましょう」

「わ、わわわ私でよかったら、一緒に食べま

しょう」

 瞳子さんも、梓さんも、観音さんも、翠さんも、

月穂さんも、蛍さんも、咲良を拒絶なんて

しなかった。

 あだ名をつけてもらえるのも初めてで、さくらんと

呼ばれて咲良は少し嬉しかった。

 そして、誰かと食べるという事がこんなに楽しくて

美味しいなんて咲良は知らなかった。

 咲良の家は両親が忙しくて一緒に食べた事なんて

なかったし、幼い頃はともかく、誠ちゃんも忙しくて

なかなか一緒には食事を取れなくなっていた。

 これからも、一緒に食べていいですか?

咲良の問いに、誰もが了承の返事をしてくれる。

 観音さんだけは真っ赤になりながら「勝手にすれば」、

と咲良から目をそらして言っていたけれど、なんだか

嫌そうではないので一緒に食べてくれるという事なの

だろう。

 彼女達と、もっと仲良くなってお友達になりたい。

いろいろな話を聞きたい。そう思いながら、咲良は

再び勇気を出して彼女達に話しかける。

 なんだか、誠ちゃんもそれを見て笑って

いた――。






 今回は帰って来た蛍のお話と、

咲良が他の女学生達と仲良く

なりたいと頑張るお話になり

ました。蛍は変わったようで

全く変わってません(笑)。

 長くかかっちゃいましたが

ようやく書けました。

 ペースを少しずつ取り戻して

来たような気がします。

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