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明治妖怪探偵奇譚  作者: 時雨瑠奈
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第一話 ~新米教師と女生徒の出会いと着せられた罪~

 ※この作品は雪宮鉄馬さんとのコラボ物です。

雪宮さんの原案を私が文章にしています。

「きゃああっ! 人が、人が倒れてる……!?」

 一人の少女が、昏睡状態で倒れている少女を発見

した。それが全ての始まりだった――。



 短い黒髪に黒い瞳の、いかにも生真面目そうな青

年、案栖誠一郎あずまいせいいちろうは、今にも泣きそうな第一発見者

の少女に話を聞いていた。

 ここは警察署である。この少女が倒れている人を

見たと泣きながら駆け込んで来たのだった。

「君が見た事を話してくれ」

「あの子、あの子、うちの学校の子だったんです……

! 私、お稽古事の帰りで偶然見かけて……!!」

 被害者の名前は村主由梨乃(すぐりゆりの)

第一発見者の名前は氷名月瞳子ひなつきとうこだった。

 瞳子は話しているうちに、大きな瞳からぼろぼろ涙

を零してしまっている。

 俗に「まがれいと」というらしい、輪っか状の髪型

をした彼女は、相当に大人しい少女であるようだ。

 由梨乃はばっさりと切った散切り頭という、女の子

らしからぬ髪型と、不良というべき放校気味の少女で

口調も荒かったというのが調べた情報で分かっている。

 対照的だなとひっそり誠一郎は思った。

赤と白の市松模様の着物に、ぽたぽたと涙を零しなが

ら瞳子はなおも語る。

 着物の下に袴を履く女学生もいるが、どうやら彼女

は着物はそのまま着る性質の女学生なのだろう。

「一体、犯人は誰なんですか!? 村主さんは、確か

に少し規則から外れた所はありましたが、こ、殺すな

んて……」

「――あ、いや死んでないぞ。昏睡状態に陥っただけ

だ」

 瞳子の涙がぴたりと止んだ。

どうやら被害者が死んだと思い込んでいたらしく、大

きな目を見開いている。

「生きているんですか!?」

「ああ。彼女はまだ生きている。ただ、まだ目を覚ま

す気配はないらしい。首に奇妙なアザがあったとの事

だ、が……!?」

 ばしん!といきなり肩を強い力で叩かれ、誠一郎は

思わず倒れそうになって机に手をついた。

 瞳子はびっくりしたのか、またもや目に涙を浮かべ

ている。

 一瞬、百梨乃が死んでいないと分かり嬉しそうにな

ったのだが、突然の闖入者に怯えているようだった。

「誠一郎、お前さ、仏頂面すぎるぜ。お嬢さんが怖が

ってるだろ?」

「蒼汰、お、お前な……」

 彼をあやうく転ばせかけた犯人は、派谷蒼汰(はたちやそうた)だった。

栗色の短い髪と瞳が特徴的な整った顔立ちの男だが、

少し性格は軽い。

 かなりの女好きで、同僚からは「口を開かなければ

そこそこ格好いい奴なのに」などと苦笑される人物な

のだけれど、嫌われてはいないどころか結構好かれて

いた。

 誠一郎も親友と呼べる存在である彼が嫌いではない。

仕事中にちょっかいをかけるのだけはやめて欲しいが。

「……もう話は終わりだ、帰ってもいい。家には連絡

したのか?」

「あの、校長先生が迎えに来てくださるみたいなんで

す。今は、親が仕込みで忙しいので……」

「仕込み?」

「知らないのか、誠一郎。この子の家、『氷名月屋』

だぞ。老舗の団子屋。団子美味いし、店の女の子も皆

可愛いんだよな~。君も、出る事あるの? きっと接

客する姿も可愛いんだろうって思うよ」

「い、忙しい時ならたまに、出ます……」

「止めろ、蒼汰。困っているだろう」

 蒼汰に迫られ、顔を真っ赤にしておろおろしている

瞳子が気の毒になり、誠一郎は彼の腕を掴んで前に引

き戻した。

 途端に瞳子は安堵した顔になる。

ひょっとしたら男性が苦手なのかもしれないと誠一郎

は思った。

「おい、邪魔するなよ誠一郎」

「嫌がってるだろう……」

 と、外の方で馬車の止まるような音が聞こえ、ぱっ

と明るい顔になった瞳子が立ち上がった――。



「――氷名月さん、お待たせ。馬車を呼んでおいたよ。

遅くなってすまなかったね?」

「い、いえ、ありがとうございました校長先生……」

 瞳子を迎えに来た校長――白くなってしまった髪と

白い髭を持つ彼は、とても優しそうな人物だった。

 きっと瞳子にも信頼されているのだろう。

「先に行っていてください、私は彼らに話したい事が

ありますから」

「分かりました、待っていてくださるように言ってお

きますね、御者さんに」

 最後に誠一郎達に頭を下げると、瞳子は校長である、

青天目重央なばためしげひさに一礼してから外へと駆け足で出て行った。

「清心女学校の校長、青天目重央と申します。氷名月

さんがお世話になりました……」

「あ、いえ、辛いのに事件の事を話していただいて助

かりました、お世話になったのはこちらの方です……」

「村主さんは昏睡状態で、まだ目覚めないそうですね」

「はい、残念ながら……」

 女の子がいなくなって興味が薄れたのか、隣にいたは

ずの蒼汰はいなくなっていた。

 なので誠一郎が一人で話を聞く事になる。

「それで、お願いがあるのですが構いませんでしょうか

?」

「はい……。俺――私共に出来る事なら何でも協力いた

します」

「事件の調査をして欲しいのです、もう二度と村主さん

のような人を出さないために……」

 この人は、すごく生徒想いの人なんだな、と誠一郎は

思った。彼の顔は酷く青ざめており、痛みを含んだよう

な顔になっている。

「分かりました、その依頼お受けしたいと思います」

 だから、つい誠一郎はそう行ってしまっていた。

それからはっとなり、独断で受けて大丈夫だったのだろ

うか、という疑問が生じる。

 誠一郎がちらりと上司に視線を向けると、彼はそれが

いい、とばかりに頷ていたので誠一郎は心から安堵し

た――。



 三日後。被害者と第一発見者の通う清心女学校の校門

の前に、洋装をまとった誠一郎の姿があった。

 たまたま英語教諭を資格を持っていた彼が、適任だろ

うと判断されてこの女学校に潜入捜査をする事になった

のだった。 

 蒼汰は女学生達と話したりするなんて羨ましいとか狡

いとか俺もやりたいとか喚いていたが、彼が教師など出

来るはずもなく却下となった。

 教師の資格も持ってはいなかったし。

誠一郎は女学校の教師として通う内に、「妖怪の悪戯」

と呼ばれる不思議な事件が起こる事を生徒や、教師から

知らされる事となった。

 しかし、最初、彼はそれを信用していなかった。

妖怪なんているはずがない。きっと、誰かの見間違いか、

別に犯人がいるのだろうと考え犯人を捜そうと捜査を続

けていた。

 だが、その犯人も由梨乃を昏睡状態に陥られた犯人も

見つける事は出来ず、そうこうする間に三日が過ぎよう

としていた。 

 ある日の三日目の朝。

誠一郎が教室に入って行くと、何故か教室がかなり騒が

しくなっていた。

 女学生達が大声で何か相談をしているようだ。

「わ、私の下着がなくなったの~。誰か知らない!? 

 お気に入りのだったのにぃ~」

「え、えっと、ぼ――、わ、私は、知らないです……」

 一番真っ先に叫んだのは、梅干野淋漓(ほやのりんり)だった。

いつものべつもなしに何か食べていて注意を受けるような

女生徒で、ふっくらとした短い黒髪の少女である。

 桜色の蝶が描かれた着物がよく似合っていた。

視線を向けられた、黒い髪を後ろで一つに結わえた

天屯巴たかみちともえが、犯人でもないだろうにびくっとして視線を泳

がせる。 

 さらに、被害者は続々と出現した。

誠一郎は突然の事件の発生にどうしたらいいのか分からず、

立ち尽くすばかりだ。

「私のも、そういえばなくなっていたな……」

「一体犯人は誰なの!? 私達の下着を取るなんて……」

「ふっ。下着など闇の魔術師である我には些細な事……

あぎゅっ! ――ひ、酷いよ、翠~」

 紫色の袴に白い着物を着た、長い黒髪を結わずに垂らし

た、桂紫子かつらゆかり、杏色の可愛らしい着物と紫の袴を組み合わせ、

桃色の飾り紐で二つ結びにした西園寺翠さいおんじみどりも発言する。

 と、前髪だけが微妙に長い短い黒髪の、八月一日蛍(ほづみほたる)

が、鼻で笑いながら言いかけたけれど、翠に頭を叩かれて

中断されて涙目になっていた。

 前髪で隠された右目は見えなかったが、確かに左目は潤

んでしまっている。

 他の女性ととは違い、紺色の洋装を身にまとっているのが

特徴的だった。

 リボンなどでごてごてと飾り付けられた服装は、着物と

比べてどことなく動きにくそうだ。

 上と下がつながった洋装は、袴に似た下部の部分が少し

長めに見えるし。

 袖も丸っこく膨らんでいて妙な形である。

可愛らしくはあるのだが、ほぼ着物姿の女生徒達の中では

若干蛍は浮いているような印象だった。

 洋装を着ているのは彼女だけではないけれど。

「わたくしの下着もありませんわ……」

「あたしのもなくなってた……」

「私のもなくなってました」

「わ、私のもないみたいです」

 紫色のリボンで結い上げられた美しい黒髪を棚引かせ、

学園一の美少女と名高い女生徒も顔をしかめながら発言し

た。

 彼女の名前は、勘解由小路神菜(かでのこうじかんな)だ。

白い洋装に身を包み、黒髪をお団子に結った黒葛原汐莉(つづはらしおり)

艶やかな黒髪を肩より長く伸ばして花簪でまとめ、黄色と

黒の市松文様の着物を着た樹神菫こだますみれ、黒髪をお下げに結った、

樋口環(ひぐちたまき)も被害に遭った一員のようだ。

 わ、私もなくなりました、と瞳子もかなり小さな声で

発言している。

「おっ、事件? ――つっきー出番だ!!」

「つ、つっきーってよばないでください神無月さん! 

 ――皆さんの目撃証言を聞かせてください」

 と、被害に遭っていないらしい、長い黒髪を腰まで伸

ばし、純白の着物と目に鮮やかな緋の袴を着た、神無月梓かんなづきあずさ

が、おかっぱ頭の黒髪の比賀谷月穂ひがやつきほを前へと押し出した。

 ムッとしたように月穂は梓に抗議してから、帳面を取

り出し証言を取っていく。

 黒縁眼鏡を取り出してかけながら物凄い高速筆記で書

つづっていた――。



 授業を一時中断してくれるように頼むと、月穂は梓と

共に積極的に行動してこの女学校にいる男達を集めさせ

た。

 もちろんここは女学校であり、在籍するのも女生徒ば

かりだ。

 しかし、教師(実際は警察だが)である誠一郎、校長

である重央、そしてもう二人だけ男がいた。

 男とはいっても、一人はまだ少年と言っていい年齢の

子で子供である。

 名前は百鬼悠翔(なきりはると)

八歳の少年で、女学生から可愛がられており学生食堂で

見習いとして働いているらしい。

 もう一人は、無論食堂の料理人であり、悠翔の上司の

青年だった。

 だが、彼は容疑者として外されている。

何故なら、下着がなくなったと騒ぎになった時彼は買い

物に出かけていて留守であり、今しがた帰って来たばか

りなのだ。

 校長がそんな事をするはずがない、もちろん犯人は八

歳の悠翔ではありえないだろうという、月穂の検証の結

果、犯人として疑われたのはなんと誠一郎だった。

「――案栖先生、犯人はあなたですね」

「おお~。新任の先生が犯人か~?」

「ち、違う! 俺はやっていない!!」

「料理人さんは出かけていました。まだ八歳の悠翔君が

下着なんて盗む訳がありません、校長先生もそんな事を

する人ではありません。なら、犯人はあなたしかいない

んですよ!」

「そ、そんなの滅茶苦茶だ、俺はやっていない! 大体、

俺は事件の事は教室に入ってから知ったんだ、俺は犯人

じゃない……」

 女生徒達の冷たい目や、怯えたような目が誠一郎の心

にまるで刃のように突き刺さる。

 校長も擁護をしようとはしたけれど、彼が警察官であ

る事は話す訳にはいかず、来たばかりの教師の誠一郎を

かばい続ける事は出来なかった。

「こんな事をする破廉恥はれんちな人が私達の教師だなんて嫌で

す! 辞めさせてください!!」

 抗議の声がそこらじゅうから飛び交う。

悠翔は悲しげにうつむいているだけで、料理人も彼を疑

っているのか咎めるような視線を向けていた。

 巴も、さっきまでの気弱な姿が嘘のように誠一郎を睨

みつけている。

「本当に、俺は、やっていないんだ……」

 誠一郎がどんなに弁解しようとも、女生徒達の疑いの

目は晴れなかった――。



「なんで、なんでこんな事に……」

 教室を出た誠一郎は、ふらふらとした足取りで校庭ま

でやって来た。

 英国風の白い噴水敷石に座って呟いていると、かつか

つというブーツの音が彼の耳に届いた。

 誠一郎が顔を上げると、先ほどはいなかった総髪の少

女がそこにはいた。

 桃色のリボンで髪を結い、紫と白の矢絣の着物に海老

茶袴を身にまとっている。

 足にはいているのは編み上げたブーツだった。

「お困りのようね……」

「君は……?」

「あら、自分の生徒の名前も知らないの? あたしは

神服観音(はとりかのん)。ここの生徒よ」

「はぁ……困っているよ、いきなり下着泥棒の犯人にさ

れてしまったんだからな、他に犯人がいないってだけで

……」

「あたしが犯人を知っている、って言ったらどうするか

しら?」

 誠一郎は目を見開いた。少女――観音の腕を捕まえよ

うとするが、彼女はするりと身軽にそれを避け、誠一郎

は思わずつんのめって転びそうになる。

「どういう事だ! まさか、君が犯人なのか!?」

「あたしが犯人な訳ないでしょ! ――犯人を知ってい

る、それだけよ」

「知っているなら教えてほしい。このままでは、俺は教

師を解雇されてしまう……」

「図々しいわね、無償で教えてもらおうって言うの? 

 教えてもいいけれど、条件があるわ」

「じょ、条件って何だよ……」

「あんた、あたしの助手になりなさい!」

「助手!?」

「そうよ、あたしここの事件を解決して回ってんの。あん

たもここにはいろいろな事件が多発してるのを知ってるで

しょう? 大小の差はあれど、ね」

「俺に、それを手伝えって事か?」

「そうよ。――嫌ならいいわ。そのまま下着泥棒として捕

縛され、汚名を着せられたままでこの学園からいなくなり

なさいな。あたしは別にあんたがどうなろうと構わない」

「なっ……」

 誠一郎はあまりの言い草に思わず鼻白む。

しかし、観音は涼しい顔だった。本当に、誠一郎が捕まろ

うがいなくなろうが構わないのだろう。

「男ならはっきりしなさい! あたしに協力するの、しな

いの、どっち!」

「わ、分かった……協力するよ」

 事件を解決させずに、さすがに「下着泥棒」として捕ま

ってしまったなんて言ったら上司達にはもう顔合わせも出

来ない。

 誠一郎がため息をつきながら渋々条件を飲むと、観音は

にっこりと可愛らしく微笑んだ――。


 時代物とかって初めてだったので苦戦しましたが、

なんとか書き上げられました。ヒロインと主人公の

出会いまでを書いてます。

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