よっぱらいえびのぼうけん
あるまちの、おかのうえにあるレストランのちゅうぼう。コックさんがあっちへきたり、こっちへきたり。たくさんのおきゃくさんをむかえ、みせじゅうおおいそがしのよるだった。 うでによりをかけてつくったりょうりが、つぎつぎはこばれていく。にくりょうり、さかなりょうり、サラダにきせつのフルーツもりあわせ。
よっぱらいエビは、おさけのはいったボウルによこになったまま、じぶんのでばんをいまか、いまかとまっていた。なかまのエビたちはすっかりよっぱらって、みんなあかいかおをしてねている。
「うーん、ずいぶんよっぱらったなあ。」
ねむけなまこでそとをみると、まんまるのおつきさまがでていた。おつきさまのひかりは、まちやいえやはたけを、あかるくてらしだしている。よっぱらいエビのこきょうはあおいうみ。だからじっと、うすぐらいまちをみつめていった。
「…いいなあ。いちどでいいからまちにいってみたかったなあ。」
すると、それをきいたおつきさまが、そっと、ちいさなこえでよっぱらいエビにいいました。
「すこしだけ、いってきたら?」
うーん、どうしよう。 よっぱらいエビはなやんだ。なかまのエビはみんなじゅくすいしている。コックさんはあいかわらずいそがしそうにはしりまわっている。
「じゃあ、ちょっとだけ。」
よっぱらいエビはコックさんにきづかれないように、こっそりちゅうぼうのまどから、そとへでた。
「…あしもとを、てらしてあげよう。」
おつきさまはそういって、さっきよりももっとあかるくかがやいた。
ヨットト、ヨットト。よっぱらいエビはよっぱらっているから、ふらふらしながらあるきだした。めざすは、まちのまんなかにあるおおきなひろば。たくさんのひととおみせであかるくにぎわっているのを、さっき、ちゅうぼうからみたのだ。
よっぱらいエビがあるいていると、くさむらに、きんいろのまるいものがふたつ。こちらをじっとみつめているみたい。あれは、なんだろう?そうおもいながら、すこしずつちかづいていった。
そのしゅんかん。
「ニャー!」
しろいねこがいっぴき、よっぱらいえびをつかまえようと、とびかかってきた。ふらふらあるいていたよっぱらいエビはかんいっぱつ、みをかわして、あわててにげだした。
「あぶない、あぶない。」
そういうと、おつきさまはいそいでくもをよんで、そのなかにすっぽりはいって、かくれてしまった。まちは、まっくらになった。
なにもみえなくなってしまったから、ねこはくやしそうにくさむらへもどっていった。
「びっくりしたなあ。」
ちいさなこえでそういうと、よっぱらいエビはふたたびあるきだした。おつきさまはくものなかにかくれたままでてこない。まっくらですこしこわかったけれど、このみちはひろばへつづいているはずだ。よっぱらいエビはまっすぐ、すすんでいった。
よっぱらいエビはあるいた。ひろばへむかって、たくさん、あるいた。それなのに、ぜんぜんつかない。みちをまちがえてしまったのかな。そうおもったよっぱらいエビは、すぐそこにたっていた、きでできたいえのドアをたたいた。
「はいはい、だあれ?」
めがねをかけたおばあさんがでてきた。
「すいません、ひろばへいきたいのですが。このみちは、ひろばへつづいていますか?」
「はい、はい。つづいていますよ。わたしもこれから、いくところ。とちゅうまで、いっしょにいきましょう。」
よっぱらいエビはおばあさんといっしょに、ひろばにいくことになりました。
「ほら、ここですよ。」
おばあさんにつれられて、よっぱらいエビはとうとう、ひろばにとうちゃくした。
そのころにはよいがさめて、よっぱらっていないエビになっていた。
ひろばには、たくさんのひと、ひと、ひと。だいどうげいにんがにんぎょうをあやつったり、おおきなビンのうえにのってジャンプしたり。そのほかにもパンやさん、チョコレートやさん、あめやさんがならんでいて、いいにおいがただよっている。よっぱらいエビはおばあさんにおれいをいった。
「どういたしまして。ええと、なにをかうことになっていたかしら。」
そういって、おばあさんはあるいていきました。
おばあさんとわかれたあと、よっぱらいエビはひろばをいっしゅうしてみることにした。なんでもそろってしまうんじゃないかしら、とおもうくらい、たくさんのものがうられている。みんながきめられたばしょにおみせをかまえて、びっしり、しなものをならべていた。
「すごいなあ。はじめてみたよ、こんなの。うみではみられないぞ。」
あっちをみたり、こっちをみたり。よっぱらいエビはおおいそがし。とけいだいのしたまできたとき、おつきさまが、よっぱらいエビにささやいた。
「そろそろ、かえらないと。」
おつきさまがはなしかけたのに、よっぱらいエビはきこえないふりをした。だって、ひろばはとてもたのしいんだもの。もうすこし、あそびたいんだもの。
とけいだいのすぐちかくに、いろとりどりのランプをつるしたさかなやさんがあって、おきゃくさんがたくさんむらがっていた。なつかしい、うみのにおい。よっぱらいエビもちかよっていくと、ちょうど、みちあんないをしてくれたおばあさんがかいものをしていました。いろあざやかなさかなを、ふくろにつめてもらっている。
「おばあさん、さかなをかったの?」
よっぱらいエビがきいた。
「あら、また、あったわね。そうよ、きょうのゆうごはんに、ね。そうそう、エビもくださいな。」
おばあさんはそういって、よっぱらいエビとそっくりのおおきなエビを、さんびきかいました。こおりのうえでよこになっているエビたちと め があって、よっぱらいエビは、きゅうに、なかまのエビたちのことをおもいだした。
レストランのじまんのいっぴん、メインディッシュのよっぱらいエビ。
よっぱらいエビはきゅうに、さびしくなった。ふあんになった。だから、おばあさんにそうだんすることにした。いますぐ、レストランへかえらなければ。おばあさんは、はじめはすこしおどろいて、それでも、なんとかはやくレストランへもどれるよう、いっしょにかんがえてくれた。
「そうだわ!いっしょに、いらっしゃい。」
おばあさんはよっぱらいエビをかごにいれ、いそいでいえにもどった。おつきさまが、はやく、はやく、とささやいています。
「ミイ、ミイや。でておいで。」
おばあさんはろうそくに ひ をともした。ぼんやりとあかるくなったへやのすみで、なにかがうごいている。
「ミャーオ。」
ねこがいっぴき、おばあさんのあしもとへちかよってきた。それをみたよっぱらいエビは、しんぞうが くち からとびだすほどびっくり!くさむらでおそいかかってきた、あの、ねこだ。おばあさんはやさしくだっこしていった。
「ミイや。いいこだから、おつかいをたのまれておくれ。まちのはずれにある、レストランまで、このこをおくっていってくれるね?」
よっぱらいエビは、よいがかんぜんにさめるほど、どきどきした。あかかったからだはもしかして、あおくなっていたかもしれない。ねこは、いまにも、よっぱらいエビをたべてしまいそうだったから。ざらざらした した でなめられるたび、よっぱらいエビはめをぎゅっとつむった。
「さあ、さあ、いっておいで。いそいでね。」
ねこはよっぱらいエビをくわえたまま、はしりだした。はやい、はやい。おつきさまはいままででもっともあかるく、みちをてらしてくれていた。どうか、まにあいますように!よっぱらいエビはなんども、こころのなかでくりかえした。
「ねこさん、ほんとうにありがとう!」
よっぱらいエビがそういったとき、ねこはすでにいなくなっていた。コックさんが、よっぱらいエビのはいったボウルのちかくにきたからだ。なんとかまにあった。あとはいそいでよっぱらうだけ。
「…おきゃくさま、たいへん、おまたせしました。」
「まあ、おいしそうだこと!」
テーブルにいたみんなが、よっぱらいエビたちをのぞきこむ。
「なんだか、このエビだけ、キラキラしてみえるわね。」
「あら、ほんと。」
それをきいて、よっぱらいエビは、はっとした。すぐに、おつきさまをみた。おつきさまはにっこりわらって、キラキラかがやいていた。